とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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17(堕天使日記)

 

 △月S日

 

 朝起きると、まず洗濯から始まる。

 顔を洗い、身嗜みを整え、洗濯、朝食の準備。

 そうしていると徹様が起きてこられ、揃って朝食を摂る。

 最近は、朝食を食べ終わる頃に、何を思ってかリアス・グレモリーと兵藤君が家に寄るようになった。

 毎朝、兵藤君と一緒にランニングをしているようだ。

 『赤龍帝の篭手』を効率良く使うには、所有者の基礎能力を上げるのが手っ取り早いとは思う。

 だが、何故この家に寄るのかは理解に苦しむ。

 息も絶え絶えな兵藤君と、余裕のあるリアス・グレモリーに牛乳を差し出すのも慣れたものだ。

 流石に、この状態の兵藤君を放っておくのも気が咎める。

 それに、懐が小さい、と思われるのも癪だ。

 悪魔らしくない――もっとスマートに訓練が出来ないものか。

 今日の晩御飯に、肉料理に挑戦してみた。

 アーシアに教えてもらった通りに作ったのだが、焦げが目立つ出来になってしまった。

 ここ一ヶ月で、私に料理の才能が無い事は理解した。

 だが、簡単な料理くらいはマトモに作れるようになりたい。

 ……美味しい、と言ってもらえたが、内心ではどう思われているか不安だ。

 

 

 

 

 △月D日

 

 よくも毎日、走ってばかりの訓練を続けられるものだ、と少しばかり呆れてしまう。

 魔力で肉体を強化するなりすればいいのに、と。

 取り敢えず、徹様の言いつけで買い溜めしておいた牛乳を出す事にした。

 何をやっているのだか。

 

 

 

 △月¥日

 

 夕食の準備をしようとしていたら、徹様がリアス・グレモリーを召還していた。

 久しぶりの召喚だったが、目的は夕食の準備だ。

 ……私の料理の腕が上達しない事に、失望されたのだろうか…?

 リアス・グレモリーの料理の腕も、私よりは上だった。

 というよりも、とても美味しかった。

 くやしい。

 リアス・グレモリーは「料理なんかの為に呼ぶな」と怒っていたが。

 

 

 

 △月F日

 

 今日は珍しく、アーシアが兵藤君と走ってきた。

 あまりにも疲れた様子だったので、慌てて飲み物を差し出すと煽るように飲んでいた。

 まったく…アーシアがこんなになるまで走るなんて、兵藤君は何を考えているのか。

 何も考えていなかったんだろう、と牛乳を差し出した。

 はぁ……徹様が居なかったら、水でも出している所だ。

 アーシアの息が落ち着くまで休んでいくように兵藤君へ伝え、冷たいジュースをもう一杯差し出した。

 そろそろ牛乳が底を突きそうだったので、家の掃除が終わった後買出しに出た。

 徹様が学園へ行かれている間は家に居るか、外出をしても食材の買い出し程度だ。

 何か趣味でも見つけようか、とも思うが、あまり良い案が思い浮かばない。

 ……こうやって考えるのも、少しは余裕が出てきた証拠だろうか?

 

 

 

  

 △月G日

 

 こうやって考えると、徹様は悪魔との付き合いが多い。

 リアス・グレモリーの眷属は、学園で徹様とどう接しているのだろうか?

 聞いてみたくもあったが、聞くのを躊躇ってしまいもする。

 徹様は、悪魔が好きだから、悪魔との付き合いが多いのだろうか? だが、私は堕天使だ。

 徹様がどうして私を救ったのか、その答えを私はまだ知らない。

 戯れか、そういう性格なのか、何か理由があったのか。

 一ヶ月、この奇妙な生活を続けた。

 そして、一ヶ月、何も変わっていない。

 私はこの一ヶ月、何をしていたのだろうか?

 ……ふとそう考えると、ため息が漏れそうになる。

 私は何も成長していないように思えた。

 

 

 

 △月H日

 

 徹様がお風呂へ入られると同時に、招かれざる客が来た。

 『銀髪の殲滅女王』グレイフィア・ルキフグス。

 上級悪魔の中でも別格とも言える悪魔――魔王ルシファーの『女王』。

 断りも無い、突然の訪問に反応すらできず、ただ茫然と侵入を許してしまった。

 相手も、私など意に介していないようで、誰かを探すように周囲を見渡す。

 ――探しているのは、徹様だ。

 その答えは正しかったようで、すぐに徹様の事を私に聞いてきた。

 油断どころか、敵意すら向けてこない――いくら私が堕天使とはいえ、力量に差があり過ぎるから当然と言えば当然だが。

 身構える事すらできず、だが徹様の事を話す事も出来ず、寿命が縮む思いで時間が過ぎていく。

 どれほどの時間が過ぎただろうか?

 『女王』から、客に茶も出さないのか、と怒られた。

 ……突然侵入してくる者を、客とは言わないと思う。

 だが、機嫌を損ねるのも嫌なので、言われたとおりに紅茶を用意する。この家にある、一番良い茶葉だ。

 淹れ方が悪かったようで、それでも怒られた。

 ……なんだというのだ、この悪魔は。

 最後には、メイドがこれでは、徹様の器も知れる、と。

 ――殺したい。

 探していたのは、リアス・グレモリーだったようだ。

 彼女がこの家に来るはずも――無いとは言えないか。

 グレイフィア・ルキフグスが去ったあと、徹様が驚いた、と笑われていた。

 ……私を心配してくださっているのは明白だった。それが嬉しくもあり、苦しくもあった。

 メイドがこれでは、徹様の器が知れる――それは、私が最も怖れている事だ。

 『女王』グレイフィアの評価。それは、私の一ヶ月の評価だ。

 

 

 

 △月J日

 

 徹様に相応しいメイドとは何だろうか?

 私は職業メイドではないのだが、だからと言ってこの立場を半端にするつもりは無い。

 料理の腕、家事、戦う力……そのどれもが、中途半端だ。

 料理が上手な訳ではない。

 家事が得意な訳ではない。

 戦う力が強いわけではない。

 ……どうして徹様は、私を救ったのだろうか?

 私など手元に置かずにいれば、悪魔と良好な関係を築けたかもしれないのに。

 日中、掃除もせずにその事ばかりを考えてしまった。

 徹様の器。それは、私などでは測れるものではない。

 だが、徹様の傍に居るのは私なのだ。

 私が、徹様を測る目安でもあるのだ。

 ……一月前の日記を読みなおした。

 

 

 私は上代徹の庇護下にあるのだ。そんな私がこれでは、上代徹の器も低く見られてしまうのだ。

 それでは私も面白くない。

 

 

 あれから一ヶ月。私は、何も変わってはいなかった。

 この家を出ようと思った。

 だが、徹様が『好きなだけ居てもいい』と言って下さった。

 ……頑張っていたつもりだが、私はずっと甘えていたのか。

 徹様が学園から帰ってくると、サーゼクスさんから『レーティングゲーム』の審判を頼まれた、との事。

 魔王、サーゼクス・ルシファー。

 私の主は、魔王から頼み事をされるほどの立場なのだ。

 ――驚くな、という方が無理だ。

 私は、自分が恥ずかしい。

 

 

 

 

 △月K日

 

 朝起きると、『女王』グレイフィアがリビングに居た。

 第一声は遅い、だった。たったそれだけで、心臓を鷲掴みにされた様な悪寒が奔った。

 呆然としていると、仕事の流れを説明された。

 家事全般、朝食の準備に、主人の起こし方、従者の控え方。 

 あまりにいきなりの事に思考が追い付かず、為すがままになってしまった。

 引っ張られるように慣れた家の中を移動しながら、言われるままに家事をこなしていく。

 そうしていると、徹様が起きてこられる時間になった。

 説明されたとおりの手順でお茶を淹れ、徹様に差し出す。

 控える場所は、徹様の斜め後ろだ。

 言われたとおりに動くと、『女王』は少しだけ満足そうに頷いていた。

 ……だが、堕天使の私が悪魔の言いなりになっている現状に、悔しさしか湧いてこない。

 しかも、私には能面の様な顔を向けるくせに、徹様には時折笑顔を見せていた。

 その後は『レーティングゲーム』の説明と、詳細な打ち合わせをして、ようやく『女王』から解放された。

 ……言いたい事は判る。

 魔王の『女王』もまた、徹様を信頼しているのだ。

 だから、徹様のメイドをしている私に、最低限の仕事を教えた。

 ――徹様が、私の所為で低く見られないように。

 今日教えてもらった事はメモに書き残しておく。

 悔しくはあるが――私はまだ、学ぶ事ばかりなのは事実だからだ。

 

 

 

 

 




職業メイドなレイナーレさん。
そんなレイナーレさんが大好きです
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