原作で語られましたっけ?
○月:日
リアスさまから、面白い話が届いた。
バアル家から受け継いだ『滅びの力』で滅ぼした堕天使を、人間が蘇らせたとの事。
その事をサーゼクス様に伝えると、随分と楽しそうに笑っていた。
最近は魔王ルシファーとしての仕事に追われていて、そんな表情を見たのは随分と久しぶりのような気がする。
そのまま、私にその人間の事を調べるようにと言うと、また難しい顔に戻ったが。
人間に興味は無いが、『滅びの力』で滅ぼした相手を蘇らせた、と言うのには少しばかり興味が湧いた。
それに、人間一人を調べるなど、私にとっては仕事とも言えないものだ。
……ご褒美が欲しいな。
△月V日
上代徹、と言うのがその人間の名前だ。
何処にでもいる、普通の学生。未知の『神器』使い。
恐らく、能力は蘇生系。もしくは時間操作か、運命変革か…それとも平行世界への干渉か。
そのどれにしても、人間が持つには過ぎた力だ。
サーゼクス様は、報告が終わると、珍しく少しだけ困ったような顔をしていた。
どう扱うか、決めかねているのだろう。
そもそも、それだけの『神器』ならどの勢力も喉から手が出るほど欲しがるはずだ。
ミリキャスもまだ幼いのだし……戦争になどならなければいいが。
△月#日
あの人間が『神器』を見せた。懐中時計の『神器』だ。
恐らく、時間操作の類――面倒な能力だ。
確か、リアス様の配下にも似たような能力を持つ『僧侶』が居たはず。
まぁ、あの吸血鬼は能力を十全に使いこなせていなかったはずだが。
そう考えると、吸血鬼以上には適性があるのか…こう書くと、不思議な人間だ。
その事をサーゼクス様に報告すると、一度会ってみたい、などと言っていた。
しかも、私に会えるように手伝ってほしい、と。
魔王としての仕事があるだろうに……その仕事よりも、一人の人間を優先しようとしていた。
ミリキャスに会うのも我慢して仕事をしているくせに。
その仕事よりも一人の人間を優先しようとした。
その場では諌めたが、頭が冷えると溜息しか出てこない。
……私は、その人間に嫉妬しているのだろう。
私達よりも、彼の胸の内を占めたその人間に。
△月S日
堕天使を傍に置きながら、悪魔であるリアスさまとも友好関係のある人間。
調べれば調べるほど、その人間の歪さが判る。
あの人間はどの勢力寄りなのだろうか? 天使か、堕天使か、悪魔か。
その事を伝えると、判りやすいほどにサーゼクス様は嬉しさを全身で表していた。
悪く言えば子供っぽく、だが。
それが、私が愛した彼の本当の姿だから困る。
本当に欲しいものならどんな事をしてでも手に入れてきた彼の姿に――。
笑い、溜息を吐き、諦めるしかない。
上代徹。彼の人間は、私と同じだ。この魔王に手に入れられる運命なのだ。
手に入れられた――奪われた私にしか判らないだろうが。
サーゼクスは、必ず上代徹を手に入れる、という確信がある。
だからこそ、私は上代徹を好きにはなれそうにない。
あの人間は、私の一番大好きな人を魅了したから。
△月G日
サーゼクス様が、上代徹の事を御義父様と御義母様に伝えた。
『神器』の事は伏せられていたが、魔王が人間の事を親に伝えるなんて……。
お二人も驚いたようだった。それはそうだろう、久し振りに会ったら、いきなり人間の事を話されたのだ。
私が同じ立場でも驚く自信がある。
しかも、会いたいから協力してくれと……だったらまず、仕事を終わらせて、私達との時間を作ってほしいものだ。
ミリキャスだって会いたがっているし――私だって、我慢しているのだから。
私だって、仕事ではなくプライベートで、静かな場所で、書類が無い場所で、誰の目にもとまらない場所で、出来ればミリキャスも抜きにして二人っきりで……二人だけの時間を過ごしたいと思ってる。
そんな思いを我慢してるのに、仕事を放って……一人の人間に会いたい?
そんな事、誰が許すものか。
△月H日
『レーティングゲーム』でリアス様とライザー様を戦わせるのは判る。
悪魔らしく、力で決着を付けさせる気なのだろう。
それは判るが――その場に上代徹を招くのは理解に苦しむ。
いくら非公式のゲームとはいえ、『レーティングゲーム』は悪魔の正式な試合だ。
その場に人間を招くなど……。
どうせ、上代徹の『神器』を見る為だろう。理解に苦しむが、判りやすくもある。
まったく……。
その為にダシにされるリアス様とライザー様が不憫でならない。
私も少し怒ったので、紅茶を思いっきり濃くして、レモンを大量に入れてみた。
それでも顔色一つ変えず、美味しいと言われた。
別に、そんな紅茶を褒められても嬉しくもなんともない。
何処から情報を得たのか、リアス様が行動に出た。
それほどライザー様との婚約は嫌か……まぁ、私なら相手を完膚なきまでに潰して婚約の話自体を反故にすると思う。
まぁ、そんな事よりも、妙な気を起こさないうちに探す事にした。
候補としては三つ。
『騎士』木場祐斗か、『兵士』兵藤一誠……それか、上代徹。
ついでだったので、上代徹の家に行くことにした。
最初に会ったのは、メイド服を着込んだ女。レイナーレとかいう、下級堕天使だ。
こちらを警戒しているのか、茶も出さないメイドに苛々してしまった。
こんなのが上代徹のメイドか。
この程度の者を傍に置いているのか。
……これでは、上代徹と言う存在の器の程度も知れるというものだ。
紅茶の淹れ方も、まるでなっていない。これでは茶葉の良さを生かし切れていない。
大人気無いにも程があるが、溜息が出てしまった。
こんなメイドを傍に置くのか、上代徹。
魔王ルシファー……サーゼクス様の心を占めたお前は、その程度でしかないのか。
落胆。私がこの家に住む者に抱いた感情は、ただそれだけだ。
一方的な感情だとは判っているが、どうしようもない。
……私の大好きな人の心を乱した存在がこの程度の者を傍に置くなど、認められない。
△月J日
リアス様の本拠地になる、駒王学園旧校舎のオカルト研究部部室。
そこでリアス様とライザー様、そして上代徹の顔合わせをした。
サーゼクス様の言葉が無ければ、今は上代徹の顔を見たくなかった。
リアス様もライザー様も些細な事で苛々しているしで、私も苛々してしまった。
ああ、今思うと本当に大人気無い。メイド失格だ。
二人を放っておいたら、上代徹からさっさと収めろとばかりの視線を向けられた。
私の素性は教えていないが、どうやらこの人間は外見で人を判断するような人間ではないらしい。
それとも、私の事はもう調べている、と言う事かもしれない。
少なくとも、あのメイドよりは頭が回り、度胸もある、という事か
サーゼクスの心を占めるのなら、その程度は当たり前だが。
だとすると、尚の事面白くない。
――あのメイドの立ち位置は、私に良く似ている。
主の最も近くに居る存在。
その存在があの程度では、主すら低く見られてしまうという事を、全く理解していない。
苛々する。
メイドが、従者が、主の格を下げるなど、あってはならない事だ。
△月K日
朝、上代徹の家へ行った。
問題のメイドを扱き上げる為だ。
私が家へ向かうと、まだ誰も起きていなかった。遅い、遅すぎる。
結局、あのメイドが起きてきたのは私よりも一時間近くも遅かった。
しかも、仕事も雑だ。よくもこれで、上代徹の従者だなどと……。
掃除、洗濯、調理、そのどれもが最低だ。
先日の姿を見る限り、控え方も最悪だろう。
その一つ一つを説明しながら、この駄目メイドがどれほどできるか確認した。
そのどれもが最低の最悪。これでは従者ではなくその辺のお手伝いレベル……いや、給金を貰うのもおこがましいボランティアだ。
だが、言われた事をメモしていたのは悪くない。上達しようという意思が感じられた。
自身が劣っていると理解しているのだろう。
そういう所だけは好感が持てた。そういう所だけだが。
上代徹に『レーティングゲーム』の説明をし、日時を教えた。
そして、出来るならばリアス様の手助けを、と。
私も女だ。叶うなら、同じ女として、リアス様にも好きになった男性と結ばれて欲しいと思う。
そう伝えると、一般人代表の俺に何をしろと? だと。
呆れるしかない。
魔王の心を占める人間が、一般人だと……本気で言っているのか? と。
だが、ああ、とも思う。
異質な『神器』を持ちながら、それでも人間であり続けようとするのは、こういう事なのかもしれない。
最後の一線を譲らない『人間』が、不覚にも可愛く思えた。
堕天使を傍に置きながら、悪魔と親交を深め、それでも人間であり続けようとする人間。
それが、魔王ルシファー……サーゼクスの心を占めた人間の姿。
その姿には、少しだけ好感が持てた。
予想以上に長くなりそうだったので、次回で完結だと思います。
グレイフィアさんは、プライベート(二人っきり)ではサーゼクスと呼び捨てにしてそうなイメージがある
皆さんはどうでしょうか?