□月O日
こんな僕を、まだ仲間だと言ってくれたイッセー君と小猫ちゃん。
僕の過去を聞いて、泣いてくれた匙君。
一人では前に進めない僕は、きっと弱いんだろう。
そんな僕を、みんなはどう思うだろう?
皆が生かしてくれた僕は、皆と一緒に生きるべきだと思う。
皆とだけ、生きるべきなのかもしれない。
でも――僕の為に、悲しんでくれたんだ。
皆の為に悲しんで、怒ってくれた。
だから、少しだけでもいい。僕の仲間を信じてほしい。
皆の為に泣いてくれた僕の仲間を、信じてほしい。
僕は必ず、聖剣を破壊する。
仲間と一緒にだ。
……でも、沢山の人の前で、おっぱい談義を始めるのは勘弁してほしいな。
□月P日
今日もイッセー君達と一緒に聖剣を探した。
あの神父とは出会えなかったし、痕跡も見つけられなかった。
成果の無い時間が過ぎていく。
……まだ、あの神父は町に居るだろうか?
居るだろう。あの神父は、悪魔を、エクソシストを――命を奪う事だけを考えている。
その両方が揃うこの街は、絶好の狩場のはずだ。
□月Q日
見つけた。ついに見つけた。バルパー・ガリレイ。
僕の、僕達の運命を、未来を、地獄に変えた張本人。
エクスカリバーを探してあの神父を追って数日。
ようやく会った神父は、僕の魔剣では相手をするには厳しいと思えるほどの力を手に入れていた。
それは聖剣の補正か、それともそれだけの技量を持つに至ったのかは判らない。
イッセー君と小猫ちゃん、それと匙君の四人がかり。それでも互角。いや、僅かに押せる程度。
それほどの相手だった。
……追い詰めたんだ。壊せたんだ。聖剣を。エクスカリバーを。
だというのに――現れた。倒すべき敵。殺すべき存在。
バルパー・ガリレイ。聖剣計画という下らないモノで、僕達を殺した男。
その後、二人の聖剣使いとも合流したけど、結局逃げられた。
早く追い、見つけ、殺さないと――。
今度こそ逃がさない。
今度こそ、殺してやる。
僕の魔剣で。僕達の殺意で。
――もう二度と、僕達のような子供が作られないように。
□月R日
聖剣と堕天使の気配を感じた場所は、駒王学園だった。
すぐに向かうと、二匹のケルベロスと戦う部長たちが居た。
それに、もう一人の聖剣使い――ゼノヴィア。
そして、少し離れた位置に上代先輩と、レイナーレも。
フリード・セルゼンとバルパー・ガリレイ。そして堕天使の幹部、コカビエル。
倒すべき敵がすべて揃っていた。僕が合流するのとケルベロスをせん滅するのはほぼ同時。
そのすぐ後、イッセー君の補助で力を増した部長の一撃が、油断したコカビエルを捉えた。
僕が見た事も無い、圧倒的な一撃。だが、その一撃も、堕天使の幹部には届かなかった。
アレが、前大戦を生き残った堕天使。アレが、聖書に記されるほどの、古から存在する者。
そのコカビエルが部長の一撃を悦んでいた。戦いを、強者との戦いを、心底から喜んでいた。その様は、まさに戦闘狂。いや、戦争狂というべきか。部長を、魔王ルシファーの妹を殺す事を目的とする堕天使。それが、僕達が敵対する存在だった。
部長の一撃を防いだ実力は本物だろう。無意識に、魔剣を握る手が震えた。
それと同時に、フリード・セルゼンのもつ四本の聖剣が合わさった。
七つに分かれた聖剣のうちの四本が、あの狂った神父の手の中にある。目の前に、僕達を殺したバルパーが居る。聖剣を得るために、ためだけに、多くの命を奪った外道。聖なる因子? そんなモノ、下らない。そんな下らないモノの為に、皆が死んだ? 許せるはずがない。許していいはずがない。
倒すべき物が、倒すべき存在の手の中にある。殺したい存在が、殺さなければならない者が目の前に居る。
そのたった一つの目的が、僕の中の恐怖を抑えてくれる。
バルパーの手の中に、皆の魂があった。
きっと、その時の事を、僕は一生忘れない。
確かに聞いたんだ。皆の声を。祈りを。想いを。……暖かな歌を。
気付いたら、手の中にあった。聖剣でも、魔剣でもない。その両方の剣が。
――生きたかった。
――ただ、生きたかった。
――信じた神を捨てても…悪魔に堕ちても。
――それでも生きたかったんだ。
ありがとう、皆。僕はこれから、仲間と一緒に生きていくよ。
でも、家族を忘れる訳じゃない。
絶対忘れない。
僕を生かしてくれた。僕を守ってくれた。僕を信じてくれたみんなを、絶対忘れない。
僕が得た力は、『禁手』と呼ばれるものだ。
一握りの『神器使い』が至れる極地。
四本程度の聖剣なら凌駕出来るほどの聖魔剣。それが僕の『禁手・双覇の聖魔剣』
それにしても、ゼノヴィアがデュランダルの使い手だとは驚いたな。
彼女の本来の得物は、エクスカリバーではなかった。
デュランダルと聖魔剣で、僕はようやく、聖剣を超える事が出来た。みんなを傷付け、奪った聖剣を。
――結局、バルパー・ガリレイは殺せなかったけど。それでも、僕の復讐はここで一つの終わりを迎えた。
残るは堕天使幹部のコカビエル。
死戦。コレに挑むには、死を覚悟する必要があると思えた。
少なくとも、この場のほとんど……一人を除いては。
この場で死力を尽くしたのは僕達だけ。
レイナーレと彼だけは、傍観者に徹していた。
いや、この戦いに加わる意志が感じられなかった。
あと数分でこの街が滅ぶ。この堕天使の言葉は絶対のはずなのに。
それでも、上代徹は戦いに参加せず、ただただ傍観していた。
その上代徹を守るように立つレイナーレは、中級程度の堕天使だ。どう足掻いてもコカビエルのような幹部クラスに敵うはずがない。
僕達が生き残るには、彼に頼るしかなかった。
だが、彼はどれだけ僕達が追い詰められても、動かなかった。
――コカビエルが、神の死を口にするまでは。
――そして、戦いの余波で、レイナーレが傷つくまでは。
いや、大事なのはきっと後者だ。その瞬間、確かに僕は、僕達は、この場の全員が、彼に恐怖した。
魔王ルシファーとレヴィアタンから『悪魔の駒』を譲り受けた唯一の人間。
唯一この場で、古から生きる堕天使に対抗できる人間。
彼は、何者なのか?
これは、あの場に居た全員の意志だろう。
上代先輩を庇い、レイナーレが傷を負った。致命的な傷だ。堕天使でも、すぐに死に至るような傷。即死、もしくは消滅しなかったのが奇跡とも言える傷。
だが、その傷は瞬きをするよりも短い時間で完治した。
アーシアさんの『聖母の微笑』よりも、もっと高度な治療術。
『神器』による時間の巻き戻し。
それが彼の――上代先輩の能力。絶対の……上に立つ側の能力。
あ、と誰かが言った。
それはイッセー君だったのか、部長だったのか――僕だったのかもしれない。でも、今はもう誰の声だったのかなんて覚えていない。些細な事だ。誰もが、そういったとしても不思議じゃない。もしかしたら、その場の全員が口にしたのかもしれない。
ただ、それだけだった。その一言。その一文字。それに、すべてが集約されていた。
上代徹の家族に手を出した。
……上代徹が本気で怒った。
コカビエルが光の槍を構える動作が、どうしようもなく無駄に感じた。遅い、遅すぎる。
彼が『神器』を使うのに、動作も、意志の動きも、詠唱も必要無い。
最初に、コカビエルが作った光の槍が消えた。霧散した。堕天使幹部の圧倒的な魔力が消失した。次に、宙に浮く事が出来なくなり、黒翼の堕天使は地に堕ちた。異変はまだ終わらなかった。その次は黒髪が白に染まり、十枚の黒翼から羽が抜け落ちる。腕が細く干乾び、血管が浮くほどまで朽ちた。最後には喋る事も出来ないほどまでに――老いた。地に伏せたまま、痙攣するだけの皮と骨だけのモノが出来上がった。
目を疑う光景だった。
堕天使の寿命はいくつかなんて、僕は知らない。でも、神話に語られるほどの堕天使であるコカビエルなら、千年単位で生きているはずだ。もしかしたら、それ以上。その堕天使が老いた。戦えないほどに、喋れないほどに、動けないほどに。
いったいこの堕天使は、この数分、もしくは十数分で何百、何千、何万年の時間を過ごしたのか――。
それが、上代徹の怒り。
魔王に認められた人間。
時間の支配に特化した存在。
この前の、僕達の喧嘩の時の怒りなんて、怒りとも呼べない苛立ちだ。
おそらく、彼なら時間を停めて、コカビエルが認識する前に殺せたはずだ。
だが、それをしなかった。
――時間を停めず、意識をしっかりさせたまま、老いていく自分を自覚させた。
それは、どれほどの恐怖だろうか?
僕には、想像もつかない――。それが、上代先輩の怒り。
その後、コカビエルは白龍皇が回収していった。
……正直、回収に来た白龍皇も相当警戒していたように感じた。
それはそうだ。
上代先輩という存在は、次元が違い過ぎる。
何故彼が人間なのか、それすら不思議に思えるほどに。
□月T日
今日も、上代先輩は学園を休んでいる。
コカビエルの件から数日経つが、どうやらずっと眠っているらしい。
上代先輩の家に行ったアーシアさんが、レイナーレから聞いてきていた。
……何も無ければいいけど。
あれほどの能力を行使したのだ。体に不調が出ない方がおかしい。
□月V日
上代先輩は、酷く眠そうな顔をしていた。
ここ数日学園を休んでいたが、数日寝込んでいたらしい。部活の皆が酷く心配していた事を伝えると、困ったような表情を浮かべていた。心配されるのは苦手なのだろうか? そんな気がする。
確かに彼の存在は異常だが、命の恩人であることに変わりは無い。心配するのは当然です、と伝えると余計に困った顔をしていた。
……あれほどの能力を酷使したんだ、無理が出たんだろう。
先日、命を助けてくれた事のお礼を言うと、俺は何もしていない、と。
謙虚な人だな、と思う。
でも、それがこの人らしいのかもしれない。
それと、コカビエルと戦っていた際、どうして戦いに参加してもらえなかったのか聞いてみた。
先輩が加勢してくれれば、先輩も無茶をせずに済んだはずなのだ。
――いや、俺に頼るなよ。お前たちが戦えよ。
それが、先輩の答え。
ああ、確かに。僕達は上代先輩に頼り過ぎていたのだろう。
言われて、気付いた。
……強くなりたいな。もっと強く。
誰にも頼らず、倒すべき敵を倒せるくらいに……強く。
主人公の日記 □月R日 8行
騎士日記 □月R日 83行
気にするような差じゃないな
ちなみに主人公は、動きを目で追うこともできず、ボケーと眺めてます。