とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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主人公って誰だろう?(ぇ


49(堕天使日記 エピローグ)

 

 凸月U日

 

 徹様が学園へ行かれ、黒歌が居ない。

 この家がとても大きく、広く感じた。

 だがそれも、いつも通りだ。黒歌が家に来る前は、いつもそうだった。

 ……だから、広く感じてしまったのか。

 掃除にも身が入らないし、集中できない一日だった。

 私は、きっと私自身が思っている以上に寂しがり屋なのかもしれない。

 そして、依存してしまっているのだろう。この家に。

 

 

 

 凸月V日

 

 明日から、アザゼル様が駒王学園に赴任されるらしい。

 ……おそらく、徹様の監視の為だろう。

 徹様の自由が、目に見えて無くなっていく。それで良いのか、とも思うが、私に出来る事など無い。

 私はただ、この家で徹様の帰りを待ち、家事をこなしていくだけだ。

 それじゃ駄目だ、と思う。

 もう、それだけでは、徹様に頼っているだけでは駄目だ。

 その結果が現状。徹様の自由が失われ、黒歌が居なくなった。

 どうすればいいのか判らない。けど、変わらなければならない。

 

 

 

 凸月W日

 

 今日、アザゼル様から直々に特製の『人工神器』を一つ頂いた。

 『刹那の絶園』。瞬時に防御結界を展開できるらしい。これで身を守れ、という事だろう。

 三大勢力の会談で、あれほど目立つ行動をとった徹様だ、きっとこれから様々な所から狙われる。

 冥界も天界も『神の子を見張る者』も一枚岩ではない。

 切り札足り得る徹様は、どこも欲しがるはずだ。その時、真っ先に狙われるのは私。

 一番弱い私だ。

 黒歌ほど仙術、妖術が得意な訳ではない。

 徹様のように万能とも言えるような時間操作を行えるわけでもない。

 私が出来る事と言えば、戦う事だけだが、それも戦力に数えきれるほど強い訳ではない。

 自分の事だ、自分が一番よく判っている。

 私が一番足を引っ張っている。

 

 

 ……悔しい。

 

 

 腕輪型の『人工神器』。それでもやっと、身を守れるか、といった程度だ。

 徹様が、黒歌を心配していた。怪我をしていないか、事故に巻き込まれていないか。

 私も心配だ。大丈夫だろうか?

 テロリストだとか、関係無い。あの子は徹様の為に薬を用意してくれた。徹様を心配してくれた。

 あの子は徹様の猫。私の家族だ。

 早く帰ってきてほしい。

 黒歌…徹様も私も、貴女を心配してる。どうか無事で。

 

 

 

 凸月%日

 

 『人工神器』を使ってみたが、どうにも使い辛い。というよりも、私が慣れていないだけか。

 そもそも、私が使った事がある『神器』は『聖母の微笑』だけだ。それも数回だけ。感覚も何もかも、違うような気がした。『神器』に慣れるために、もっと使い込まなければならない。

 今日は結界の強度を上げ過ぎて、無駄に魔力を消費しすぎた。お蔭で、気付いたら昼寝をしてしまっていた。

 結界に回す魔力と、適度な強度の維持。まずはこれに慣れなければならない。その次は、結界を維持しながらの戦闘か。……やる事は単純だが、その分それが出来ないという事は、私に才能が無いという事を証明してるのだと思う。

 悔しくもあるし、溜息も自然と洩れてしまうが、立ち止まる暇も時間も勿体無い。

 まずはアザゼル様から頂いた『人工神器』を使いこなす。そこからだ。メイドの仕事よりは得意……だと思いたい。

 ……いつか必ず、黒歌はまた私達の前に現れるはずだ。『禍の団』の一員として。可能性はあるが、確信は無い。だがそれでも、私は私の勘を信じるしかない。黒歌とまた同じ時間を過ごす。徹様と黒歌と三人で。

 

 それと、今日は学園で、アザゼル様からレーティングゲームの説明をされたらしい。

 もうすぐ、学園の夏休みに入る。……何かあるのかもしれない。

 徹様は、どうして悪魔と付き合うのだろう? 普通に生きたいなら、断るべきだと思う。

 そう聞くと、いつものように「巻き込まれたから」と答えられたが。

 ……優しすぎる。徹様は。

 徹様が本気で拒否したら、リアス・グレモリー程度なら何も言えないと思うのだが……。

 

 

 

 凸月$日

 

 買い物の途中でアーシアと、ヴァチカンの聖剣使いと会った。名前はゼノヴィアというらしい。

 アーシアの友人が増える事は良い事だ。私は堕天使だが。聖女と呼ばれた彼女も、今は悪魔だし。

 そのゼノヴィアという聖剣使いも、今は悪魔だ。悪魔が聖剣使いというのは、大丈夫なのだろうか? 聖剣の光は堕天使の光よりも強力だ。自分の身を自分で焼かないのか、と思い聞いてみた。大丈夫らしい。聖剣が持ち主を判別してるのだとか。便利だ。流石伝説に語られるほどの聖剣だと思う。

 しかし、あのゼノヴィア。生活能力が無さすぎる。何でも買えば良いというものではない。必要な物を、必要なだけ、安い時に、買わないとだめなのだ。

 お金は無限ではない。節約は大事だ。

 買い物途中で会ったのも何かの縁という事で、タイムサービスまで付き合ってあげた。素人だった。聖剣使いが聞いて呆れるような立ち回りだった。まぁ、熱意はあったので、今後に期待しよう。

 私も、最初はタイムサービスの勢いには驚いたが、今では慣れたものだ。

 

 

 

 凸月X日

 

 昨日の聖剣使いが、お礼をしたいと訪ねてきた。アーシアも一緒だった。多分付添だろう。

 丁度良かったので、徹様が帰って来られるまでの間、特訓に付き合ってもらう事にした。デタラメだった。いや、私が弱すぎるだけだろうけど。それでもデタラメと書かないと、他に書きようがない。

 結界は張る度に斬り裂かれる、私の光の槍は、より強い聖剣の光に掻き消される。勝負というより、戦える要素が無かった。

 これが今の、リアス・グレモリーの配下の実力。私と戦った時より、数段強くなっている。

 ……彼女たちが強くなっている間、私は家事に専念していたから当然と言えば当然だが。

 また今度、相手をしてくれるとの事。言葉に甘えよう。

 悔しくもあるし、情けなくもある。堕天使が悪魔に頼るなど、あってはならない。

 ……だが、そんな感情を抱くより、まずは強くならなければならない。これ以上、徹様の負担になりたくない。甘えたくない。

 徹様が倒れて、黒歌が居なくなって、アザゼル様から『人工神器』を戴いて……きっと、今強くならなければ、私はずっと今のままのような気がする。

 

 

 

 凸月#日

 

 グレイフィア様が訪ねてこられた。いきなりなのは相変わらずだが、そのまま私を鍛えると言って連れ去られた。

 この場所が何処かは判らないが、人間界ではないと思う。先ほどまでベオウルフ様に付き合ってもらい、倒れる……気絶するまで戦わされた。

 少し寝たからか、頭がすっきりしている。まず覚えなければならない事も、身をもって教えられた。

 英雄・ベオウルフ様。魔王ルシファーの『兵士』。そして、魔王の『女王』であるグレイフィア様。

 戦い方を学ぶには、これ以上にない相手だ。

 

 

 

 凸月Y日

 

 アザゼル様が訪ねてこられた。私の様子を見て、笑いに来たらしい。厭らしい性格だ。でも、私の事を気に掛けて下さっているというのが判った。ありがたい。

 ベオウルフ様に完膚なきまでに叩き潰されると、勝敗の言い訳すら浮かばない。私の実力不足だ。もっと強くならなければならない。私は、徹様の『女王』なのだから。徹様の信頼を裏切れない。『兵士』に負ける『女王』に、どれほどの意味があるというのか…。

 『人工神器』の使い方には、少し慣れた。それに、『神器』との違いも、なんとなく理解した。

 『神器』よりも燃費が悪く、精度も、強度も悪い。だが、私のような弱い堕天使でも使える。

 それが『人工神器』。今の私では、長時間使えない。連続使用も魔力を一気に消費してしまう。

 使うなら要所だけ。必殺の時だけ。本当の切り札として使わなければならない。

 魔力の上限を上げる方法など、戦いを繰り返すか、訓練を繰り返すしかないので、しばらくはこの戦い方になりそうだ。

 武器ではないのが救いか。

 戦闘中、ずっと『人工神器』を展開し続けるなど、10分ももたないだろう。

 

 アザゼル様から、私は足手まとい、もしくは人質になると言われた。

 その通りだと思う。私は弱い。徹様の周りに居る、誰よりも。

 誰に言われなくても、私が一番よく理解している。

 それでも、お傍に居たい。徹様に救われた命だから、徹様の為に使いたい。

 ……不思議なものだと思う。

 敵対していた。殺した事もある。

 だというのに、今は主人と従者。徹様の為に生きたい、と考えてしまっている。

 強くなりたい。自分の身を守る為ではない。徹様の為に。足手纏いにならないくらい、強く。

 そう言うと、アザゼル様から笑われた。しょうがない。自分でもどうしようもない考えだと判る。不相応な思いだと判っている。

 けど、黒歌のように素直に自分を表現できない私は、こうやって行動するしかないのだ。

 

 午後からの特訓も、気絶するまで続けられた。

 でも、それでいい。

 弱い私が強くなるためには、これくらいじゃないと駄目だ。

 『禍の団』が次に現れるのは、明日なのかもしれない。その時、後悔したくない。後悔しない為に。

 

 

 

 凸月Z日

 

 グレイフィア様が急の仕事で帰られる事になった。ベオウルフ様もだ。

 なので、このいきなり始まった特訓は一旦の終わりとなった。結局、ベオウルフ様には一度も勝つ事が出来なかった。

 不思議なもので、気絶するまで続けられた特訓なのに、あまり体にガタがきていない。

 もしかしたら、気絶している間にマッサージか回復の魔法でもしてもらったのかもしれない。

 ……本当に、グレイフィア様には頭が上がらない。

 

 徹様から「おかえり」と言われた。いつもとは逆なので、新鮮だ。

 しかし「ただいま」と言うのは、少し恥ずかしい。この場所が、私の帰るべき場所だと思っていても、口にするのは恥ずかしいのだ。黒歌の気持ちが、判った。帰るべき家があるのは、嬉しい。

 だから黒歌には、早く帰ってきてほしい。

 寂しがり屋のこの家の飼い猫は、今はどうしてるのだろうか?

 寂しくて泣いてないといいが……。

 

 

 

 凸月=日

 

 家に埃が溜まっていた。……私が居ない間、掃除をしてなかったから当然か。

 けど、少し嬉しかった。この家の掃除は、私の仕事だ。私が居ないと駄目だ…………いや、そんな事は無いかもしれないけど。うん。恥ずかしい。

 久しぶりの掃除は楽しかった。

 特訓の感覚も、忘れないようにしたい。

 一人で訓練したが、どうにも物足りない。

 

 

 

 凸月ー日

 

 駒王学園の授業が終わる時間に、徹様には内緒で二年生の教室へお邪魔した。服装は普通でだ。

 メイド服は目立ち過ぎる。私服もだが。

 ゼノヴィアに訓練の相手をお願いするためだ。快く引き受けてくれた。アーシアもだ。

 リアス・グレモリーに気付かれるとアレなので、訓練の場所は学園から離れた空き地に結界を張って行った。

 相変わらず勝てなかったが、勝負にはなった……と思う。

 ゼノヴィアは聖剣を使ってなかったが。それでも、グレイフィア様との特訓で少しだけ強くなれた事を実感できた。

 まだまだだが、まずは一歩前進したと思う。

 また今度、相手をお願いすると、良い訓練になると言ってくれた。社交辞令でも、そう言われると嬉しい。

 アーシアは、良い友人に恵まれている。羨ましい。でも、あの子の性格ならそれもそうか、とも思う。良い子だ。本当に……心からそう思える。

 

 

 

 凸月三日

 

 今日は一日平和だった。

 最近ゴタゴタしてたから、余計にそう思った。

 明日も、明後日も、こんな一日だと嬉しい。平和、平穏、それが一番だ。

 

 

 

 凸月☆日

 

 徹様に、いつまで家に居るのか、と聞かれた。 アザゼル様が居るのだから、堕天使として戻るのか、と。

 私は、どうするべきなのだろう? あの場では咄嗟に帰りたくないと答えてしまった。

 『神の子を見張る者』に、もう未練は無い。たった数ヶ月だけど、私の帰るべき場所は、徹様が居る場所だ。それだけは、胸を張って言える。

 そう言うと、私が好きなだけ居ていいと言って下さった。

 ……甘えているんだと判っている。足手纏いだと言う事も。自分が弱いとも。

 それでも、徹様の傍から離れたくない。離れる事を、想像したくもない。

 もっとお役にたちたい。

 救われたから。守られたから。

 そしてなにより、徹様のどうしようもないほどの優しさが、私は好きだと思う。

 黒歌と同じだ。

 どれだけ言葉で言い訳しようが、結局……優しくされたから、好きになっている。

 徹様が、その黒歌を心配していた。野良に戻ったのかな、と悲しそうにされていた。

 そんな事は無い。それだけは、絶対に無いのだと言えた。

 あの寂しがり屋が、徹様から優しくされたと幸せそうに語っていた女が、もう野良に戻れるものか。

 だから、いつでも戻って来られるようにしておこう、という話をした。

 今はそれでいい。

 あの子はいつか、絶対、徹様の前に現れる。戻ってくる。

 その時は、徹様の『僧侶』として、これだけ心配させられた分、たくさん働いてもらおう

 

 

 もっと頑張ろう。

 メイドとしても、『女王』としても。

 徹様の配下の管理をするのは『女王』の役目だ。

 ……グレイフィア様には、本当に頭が上がらない。

 

 




まぁ、主人公は上代徹だが、ヒーローはレイナーレ(違

一応、徹の配下は私の脳内で決まってます。誰とは言いません。想像しててください。
それと、配下=ヒロインじゃないので、その辺りはご容赦を。
5、6巻辺りで結構増えると思う……思う。

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