#月G日
黒歌に改めて妖術、仙術の事を教えてもらい、使い方を習ったが、やはり上手く使えなかった。
初歩的な事――初歩の初歩である、気の流れを感じる。それすらも上手に出来ない自分が情けない。
小猫は、もうすでに初歩の初歩どころか、気を使って身体能力を底上げする、という技を覚えているのに…。
レーティングゲームは近い。一日も無駄に出来ないのに……。
今日は、徹様が帰って来られた後、リアス・グレモリーから借りてきたディオドラの試合の映像を見た。アーシアも一緒だ。
ディオドラは、思っていたほど強い…とは感じなかった。
黒歌やグレイフィア様と比べると、だが。私や小猫では勝つのは難しいだろうが、徹様や黒歌の相手ではない。そう思う。
彼の配下もそうだ。数は確かに脅威だが、質はそう目を見張るモノではない。
問題は、ディオドラの方がレーティングゲームに慣れている、という事。こちらはレーティングゲーム初心者だ。ルールは頭に叩き込んでいるが、実戦でうまく思い出せるか、と聞かれると不安しかない。初めて、と言うのはそう言うものだと黒歌は言ったが、今度のゲーム…負ける訳にはいかない。
不安で……でも、負けたくないと思う。
もうこれ以上――徹様にご迷惑をお掛けしたくない。
今度こそ、恩返しを……と。そう思ってしまっていた。
けど、徹様は、勝とう、と言って下さった。
頑張って勝とう、と。
徹様だけじゃない。黒歌だけじゃない。小猫やアーシア……そして、私。
……私達皆で勝とうと、言って下さった。
#月H日
……徹様から、天使の『御使い』のカードを賜った。
正直に言うと――凄く、複雑だ。
私は天使に絶望して、堕天使へと堕ちた。
祈りを捧げても救ってくれなかった神を見限り、自身の力で生きる為に堕天使へとなった。
その事に、後悔は無い。
そもそも――私が祈りを捧げている時、神が生きていたのかも怪しいのだし。
それよりも…徹様だ。
徹様から渡された『御使い』のカード。『Q』…クィーンのカード。
『女王』の駒と、『クィーン』のカード。
それを渡されたという事は、つまり……だ。
ディオドラに、私は弱い『女王』だと言われたらしい。その自覚はある。
私は弱い。徹様の『女王』に相応しくない、そう言われても仕方がないと――自覚している。
そして、ディオドラに怒りを向けてくれた友人と主。
徹様は……そんな、弱い私に期待して下さっているのだろうか?
もし自惚れが許されるなら――私は、これからも徹様の『女王』を名乗ってもいいのだろうか?
『女王』の駒を渡された時は、嬉しさだけで胸が一杯だった。
嬉しかった。本当に、どうしようもなく、時間を忘れて駒を眺めてしまうほど――嬉しかったのだ。
そして、その駒が持つ意味を理解して、自分に自信が持てずに、駒を使わず、私は相応しくない、と逃げていたのだと思う。
黒歌と出会って、徹様が黒歌を眷属――『僧侶』にしたいと言われ……それは、とても素敵な事だと思った。
黒歌は、徹様の眷属として相応しい。彼女は強いし、知識も深く――そしてなにより、美しい。
それに比べ、私はどうだ?
弱く、知識も経験も多くない。
……自信が無い。持てない。『僧侶』よりも、『戦車』よりも弱い『女王』など…。
徹様の期待が重い。それにきっと、私は天使に転生しても、すぐに堕天してしまうだろう。
――隠しようがない。
私は……黒歌と同じくらい。多分、黒歌以上に――徹様が好きだ。
救われて、守られて、優しくされて、一緒に居てくれて……そんな男を好きにならない女が居るだろうか?
だから、徹様の期待に応えたい。
弱いけど。それでも応えたい。……もし応える事が出来たなら。徹様の期待されるような『女王』になれたなら――。
いつか、徹様に相応しい『女王』になりたいと思う。黒歌や小猫と共に、徹様と並んで見劣りしない『女王』になりたい――。
だが、今は無理だ。今の私は……相応しくない。
『御使い』のカード。女王のカード。
私は、どうすべきなのだろうか?
力は欲しい。強くなりたい。
次のゲームには、私達だけではなく、グリゼルダ様や紫藤イリナも徹様の配下としてゲームに参加する事になっている。
天界の『御使い』システムは、レーティングゲームを元に作られたシステムらしく、次のゲームではその辺りの実験も兼ねているらしい。
……きっと、建前だ。
徹様の実力を計る事。それと、徹様の存在を冥界に知らせる事。
それが狙いではないか、と黒歌は言っていた。
私も、そう思う。言われて気付いたが、元が頭に付くが堕天使、悪魔、天使を配下にする人間。
それは、異質だ。
あの魔王ルシファーの事だ、徹様を手に入れる為に何かしらの考えがあるのかもしれない。
だからこそ、徹様の存在を、実力を大多数の悪魔に見せつける。
相手は『旧72柱』のアスタロト家。現魔王ベルゼブブを輩出した家系。相手にとって申し分無い。
そう考えると…私たちは必勝を願われているのだろう。
#月I日
――私は、何と愚かなのだろうか。
徹様は強い。
私よりも遥かに強い黒歌をして「次元違いの強さ」と言わしめるほどに――徹様は強い。
だが、徹様は人間だ。傷付けられれば血が出て、痛みを感じる人間なのだ。
……黒歌との訓練を終えて、夕食の買い出しをして家に帰ると…徹様が、一人でディオドラの試合の映像を見られていた。
一人で見ながら――震えておられた。
戦うのが怖い、と。恐怖を照れと恥ずかしさに隠して、笑われていた。
笑顔だったが、表情が引き攣っていた。変な笑顔だった。徹様らしくない…歪んだ笑顔だった。
あんな笑顔だけは、見たくないと思う。もう二度と。
すぐに、黒歌が慰めた。
黒歌は、徹様の笑顔が好きだ、と隠す事無くいつも言っている。
でも――あの時の笑顔は、きっと大嫌いだろう。私も――嫌いだ。
徹様の笑顔は、明るい方が良い。暗い笑顔は似合わない。……見ただけで、胸が締め付けられた。悲しい……悲しかったのかもしれない。そんな顔をさせてしまった事が、どうしようもなく悔しい。悔しくて――今は、自分のバカさ加減に怒りが湧いている。
徹様は強い。けど、どうしようもなく――弱い、人間なのだ。
戦うのが怖い。傷付くのが怖い。……死ぬのが怖い。
不死不滅の人間であっても、痛みは感じる。死ぬのが怖くなくなるわけではない。
……なんという、思い違い。
徹様は、いつもその恐怖と戦いながら――それでも、命を賭けておられたのだ。
私は――情けない。
そんな徹様の事に何も気づかず、ただただ盲信していただけだ……。
その弱さを見せてくれた徹様を、守りたい――守ってあげたい、と思う。
徹様は恥ずかしがられていたが、私達は嬉しかったです。
私も、黒歌も――貴方を守りたいのです、徹様。
どれだけ貴方が強くても、それでも弱い貴方を守りたいです。
そう思う。
次のゲーム……勝たなければならない理由が増えた。負けられない理由が出来た。
部活から帰ってきた小猫が不審がっていた。
けど、徹様は小猫には怖がっていたことを隠そうとされていた。
それを敏感に感じた小猫は、徹様から何かあったのか聞き出そうとしていた。
……私と、黒歌と、徹様の秘密。
徹様が本当は、とても弱い人間なんだという事。
――いつか、小猫にも教えてあげてください、徹様。
とても強くて、でも弱い人――小猫に迫られて、少しだけ顔を赤くしている所は、本当に普通の人間のようで……徹様には戦いなんて似合わない。そう思えた。
#月J日
今日は、グレイフィア様と、セラフォルー様が訪ねてこられた。
なんでも、今度レーティングゲームに参加する新人悪魔を集めてインタビューをし、その映像を冥界のテレビで放送するらしい。
それに、徹様にも参加してほしい、という事だった。
……いくら徹様とはいえ、人間が行ってもいいのだろうか?
他の悪魔から顰蹙を買ったり――とも思ったが、魔王直々の依頼らしい。
――こういう話を聞くと、私の主はとても凄いんだ、と再確認させられる。普段はどこにでも居る、普通の男の子なのに…実はとても凄くて――私など、本当なら傍に控えるどころか、話し、触れる事も出来ない存在なのだ。
しかし、驚いた。
私と黒歌がディオドラから悪く言われた事を、グレイフィア様は知っておられ――その事に、気分を害されていた。良い言い方をするなら……怒ってくださっていた。私と黒歌の為に。
不思議な気分だ。
グレイフィア様との初めての出会いは……あまり良くなかったと思う。
メイドとしての立場を何も理解していなかった私と、魔王の『女王』として来たグレイフィア様。
もてなしなど何も出来ず、見下され、徹様を悪く言われ――どうしてか、メイドとしての仕事を叩きこまれた。
今思うと、本当に私は……どうして、メイドの真似事などしていたのだろう?
……理由は、徹様が喜ぶと…兵藤君にメイド服を渡されたからなのだが。
本当に、何と愚かな事か。
まぁ、だからこそ、今の関係があるのだが。その点では、兵藤君に感謝…か?
礼など言うつもりは無いが。
しかし――ディオドラは冥界でも私達の事……徹様の事を、悪く言っているらしい。
どういうつもりなのだろうか?
そんな事を言っても、アーシアへの心象は良くならないと思うが…。
最後に、少し怒った口調で絶対に勝てと言われた。
私達の為に怒ってくださった事を、徹様とセラフォルー様にからかわれていたようだった。
そんな姿が新鮮で、私も少し楽しんでしまったが。
……言われるまでも無い。
絶対に勝つ。他の誰の為でもなく――徹様の為に。
その為なら……一度は否定した天使の翼を受け入れる事も、出来る。
#月K日
突然の訪問は失礼だと思うが、学園へ行き、アザゼル様を訪ねさせてもらった。
黒歌はオカルト研究部――リアス・グレモリーの眷属の元へ行き、アーシアと小猫を鍛えると言っていた。
私は、アザゼル様を訪ねさせてもらった。
黒歌以外に訓練の手伝いを頼める人が――アザゼル様か、グレイフィア様くらいしか思い浮かばなかったのだ。
……友好関係の狭さが恨めしい。
私は、元だが、堕天使だ。『神の子を見張る者』の一員だ。しかも下っ端だ。
アザゼル様は『神の子を見張る者』の総督……一番偉い方だ。身の程知らずにも程がある。首を刎ねられても文句は言えないと思う。
だが、それでも……私は、縋れる者には、たとえ相手が何者であれ、縋る事に決めた。
そんな事に構っていられるほど、私には余裕が無い。レーティングゲームは、もうすぐなのだから。
訓練は、冥界で行った。アザゼル様が動くとなると、結界を張っても目立ってしまうらしい。
『悪魔の駒』と『御使いのカード』。
徹様から渡された力を使っても、アザゼル様には手も足も出なかった。
『人工神器』も天使の力も合わさってか、今までで一番よく使えたと思う。だが、それでも――どうしようもなかった。
あれが、今の私の限界。
アザゼル様は戦い方を教えながら、私と戦って下さった。
だが、私はその教えをまともに使う前に、何度も気絶させられた。
まだまだだ。
次は、今日教えてもらった事を、実戦で使えるようにならないといけない。
そうしなければ……きっと、アザゼル様から失望されるだろう。
それだけは避けなければならない。
私がどう思われようが、構わない。最低でも、最悪でもいい。だが、徹様が――私などが『女王』だと言う事で悪く思われるのだけは、嫌だ。それだけは――嫌なのだ。
訓練が終わった後、いきなり北欧の主神に話しかけられたのは、本当に驚いた。
驚いても、それなりの反応が出来たのは、グレイフィア様のお蔭だ。本当に、あの方には頭が上がらない。
北欧の主神――オーディン様。
どうして私などに話しかけてきたのかは判らない。
まぁ、会話の内容は挨拶とも言えないような、少し話しただけだったが。
徹様は、テレビ出演の件で、着ていく服などを気にされていた。
……ディオドラ・アスタロトなど、本当に眼中にないのだろう。
戦う事を恐れても、上級悪魔――ディオドラなど、気にもしていないのかもしれない。
#月L日
今日もアザゼル様を尋ねると、グレイフィア様も来ておられた。冥界に連れて行かれた。
……今日は、体中が痛い。
グレイフィア様とアザゼル様を相手にした訓練は、贅沢の極みだろうが……私には荷が重すぎる。
しかもグレイフィア様は、本当に手加減を最低限しかして下さらないのだ。
――今日だけで、何度気絶させられた事か。
それだけ……それだけ、私が弱いのが悪いのだが。
それに――グレイフィア様に、期待されている…のだと、思う。
ディオドラに勝て、と言われた。だから、勝たせるために私を鍛えて下さっている。
……そう前向きにとらえよう。
今日も、訓練の後、オーディン様が話しかけてこられた。
しかも今日は、戦い方も教えて下さった。
光の収束の方法。
槍の使い方。
――光の槍の、効率的な使い方。
そのどれもが高いレベルで、今の私ではうまく使えない技術だ。忘れないように、メモを取っている。
今日教えていただいた事を、一日でも早く使えるようになりたい。
主神オーディン。神槍グングニルの使い手。
そんな方に槍の手ほどきを受けるなど――まるで夢のようだ。
#月M日
今日――ディオドラ・アスタロトと会った。
徹様が冥界の記者たちに質問を受けている時に、私と黒歌に話しかけてきた。
アーシア達も、リアス・グレモリーの眷属としてインタビューを受けている時だったので、あの男が接触したのは、私と黒歌の二人だけだ。
……正直、私はあの男を好きにはなれないだろう。
黒歌など、今にも飛び掛かりそうなほどだった。殺気を向けなかったのは、公の場だから自重したらしい。
あの男は、私と黒歌を見て――徹様を、馬鹿にした。
許さない。許されない事だ。
上級悪魔。しかも『旧72柱』アスタロト家の次期当主。
地位も名誉も名声もあるのだろう。
私達をどれだけ悪く言おうが、構わない。
アーシアとの出会いは聞いている。傷付いたこの男を、アーシアが助けたのだと。
そのせいでアーシアは教会を追われたが、その事を後悔はしていないと笑っていた。
あの男は、アーシアとの出会いは運命だと言った。
運命が、アーシアとディオドラという二人を惹き付けると。
そんなアーシアにこの男が惹かれたというのも、否定はしない。
アーシアの気持ちを知っている。
私はアーシアの友人だから、アーシアを応援するが…あの男の想いを否定するつもりは無い。
だが――徹様は、駄目だ。
私の主を……侮辱した。
それだけは、許すわけにはいかない。
不要に力を見せ、敵すら救うなど――愚かだと、あの男は言った。
徹様は、いまだに一つの命も奪っていない。
一番酷いのはコカビエル……強制的に老化させられた神話にすら語られた堕天使。
それ以外は、テロリストだろうが傷付けずに無力化している。
……それは、優しさだ。
アーシアと同じ、優しさなのだ。
優しさは、強さだ。
私は、それを知っている。アーシアの強さ……私を赦してくれた、心の強さ。
それは、私が目指したい強さの一つだ。
悪魔を救った為に教会を追われた聖女――だが、アーシアはその事を後悔していないと言った。
他人の為に、自分の居場所を失くしたアーシア。
その強さに、ディオドラは惹かれ……救われた。
なら今度戦う相手は、私の主は――きっと、アーシア以上に厄介だ。
徹様は、他人の為どころか、敵の為に命を天秤に載せる事が出来る方だ。
次回は、やっと主人公が知らない戦場の真実(笑)です。
それと、もしかしたら明日は話を投稿できないかもしれません。先に言っておきます。
家に帰ってくるか不明なので、PCを起動しない可能性すらありますw
あさっては、いつも通り投稿しますので、御心配なくw