とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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付かず離れず。
そんな距離感。


87(総督日記 エピローグ)

 #月O日

 

 上代徹を殺したオーフィス。

 そして、オーフィスから殺されても蘇った上代徹。

 さて――どちらがよりバケモノなのかね?

 ま、そんな意味の無い問答はどうでもいいか。

 ディオドラ・アスタロト。

 レーティングゲームの後は酷く怯えていたが、少しだけ話が出来た。

 何故、敵対していたサーゼクスに命乞いをしてまで助けを求めたのか。

 ――上代徹に消されそうになった、か。

 

 

 

 そのままの意味か、それとも……俺が思っている通りか――俺が思っている以上か。

 消される。殺される。そんな事を恐れるような覚悟じゃないよな、旧魔王派は。

 サーゼクスの『滅びの力』。アレも、相手を跡形も無く消滅させる力だ。それに近い物か?

 ……そんな事を今更恐れないよな、旧魔王派が。

 なら――存在を消されようとした。

 この世界。この歴史。ソレから消されようとしたのか?

 そんな事が可能なのか? いや、可能なのかもしれない。

 『時間』を本当の意味で操り、支配しているなら。

 過去の改変。

 だがそんな事――人間に可能なのか? たとえ、どれだけ強力な『神器』を持っていたとしても。

 ……可能なのだろうな。事実、それをしようとした。

 千の上級悪魔の生命力を奪って。それが――上代徹の『禁手』。

 まぁ、それが正しいのかは判らない。今はまだ、俺達の推測でしかない。

 まだジジイにも、天界にも教えていない。

 それどころか、サーゼクス以外の魔王にも『神の子を見張る者』の幹部連中にすら教えていない。

 俺とサーゼクスだけ知っている情報。

 ――重過ぎんだろ…。

 

 まぁ、ともかく。これで旧魔王派の戦力は相当数が削られたはずだ。

 しばらくは黙るだろう。

 まだ厄介なのが残っているが――ま、姿を見せてない奴まで気にしても疲れるだけか。

 

 

 

 #月P日

 

 ディオドラの小僧は、『地獄の最下層』に封印する事になった。

 それすらも奴は、喜んで受け入れた。

 一緒に捕まっていた連中からは裏切り者と罵られながら、それでも…喜んで、永遠に封印される事を選んだ。

 

 ――消えるよりマシだ。

 

 俺には判らねぇな。

 消えるっていうのは、そんなに怖い事か?

 ……そんなの、消されそうになったヤツにしか判らないか。

 そのディオドラも、もう封印された。

 上代徹の本質を隠す為に。

 ――仲間を傷付けただけで存在を消そうとするバケモノの情報なんざ、誰にも知らせられるかよ。

 手に入れるために戦争するか、殺す為に戦争するか、『王』に仕立てあげて戦争するか、利用しようとして失敗するかのどれかだろ。

 ならいっそ、今のままどっちつかずの立場で寿命を迎えてもらった方が良い。

 ……寿命があるかは判らないが。

 できれば、普通の人間みたいに百年くらい生きて、さっさとくたばってほしい、ってのが俺の意見だな。

 サーゼクスの奴は、今までみたいに接するようだ。

 いきなり距離を置いても警戒されるだろうしな、良い判断だ。

 それに、悪魔や堕天使、天使に良い印象を持たれれば、それだけ安心も出来る。

 問題はオーフィスだ。

 何故奴は、上代徹を殺した?

 上代徹がディオドラにしようとした事は、オーフィスが動かなければならないほど危険な事なのだろうか?

 そこを知りたい。

 ディオドラを消そうとした。

 はたして、それだけだったのか?

 

 

 

 #月Q日

 

 上代徹が目を覚ました。

 ――早すぎる。

 今まで、上代徹が『神器』を使った後倒れたら、一週間以上の時間を眠っていた。

 だが、今回はたったの二日だ。

 上級悪魔の生命力を奪った影響かもしれないから何とも言えないが、もし上代徹が『神器』に慣れてきてるのなら、これから先は、最悪『神器』を使い放題に成るのかもな。

 頭が痛ぇ……いつからあの男を普通の人間だと錯覚していた?

 時間を操る、堕天使幹部を老衰させる、二天龍や龍神に干渉する……死者を蘇らせる。

 立派なバケモノじゃねぇか。しかも、とびっきりの。

 今となっては、封印するのも難しいだろう。

 サーゼクスたち現魔王、セラフの連中、堕天使幹部。

 時間を停められたら、俺達には為す術がない。

 まったく、とんだバケモノを残してくれたもんだ、聖書の神は。

 それとも――そのバケモノが必要だったのか。

 

 

 

 #月S日

 

 あの馬鹿、目を覚ましたが、今度は熱を出して寝込んだらしい。

 ホント、身体が弱いな。

 あの男の傍にリアスの『戦車』が居るのは好都合だ。情報が手に入りやすい。

 それにレイナーレ。あの男にいちばん近い存在。

 一応まだ、俺の事を総督として扱ってるから、俺の命令には従うかもしれん。こっちは切り札だが。

 操るのは無理だろうが、どうにかこっちの思い通りに動かせるかもしれん。

 まぁ、動かすといってもそれなりの関係を築いていきたいだけだが。

 敵対する気はねぇ。対等――そんな関係だな。

 ――しかし、不思議でもある。

 それだけの力がありながら、上代徹は人間であり続けようとしている。

 日常を続けて、普通を演じている。

 あの男ほどの力があれば、それは不可能だと判っているだろうに……。

 哀れだな。

 上代徹。お前が平穏を得たいなら、お前以外の全てを黙らせるしかない。

 それを選ばないなら、お前は一生平穏には至れない。

 堕天使が、悪魔が、天使が、神どもが、死神どもが、ドラゴンどもが、化け物どもが――お前に干渉し続ける。

 

 

 

 #月T日

 

 今日、あの男が登校してきた。

 結局、何も変わっていない。

 ――あの男は、ただの一生徒として復帰した。

 俺は教師として、あの男は生徒として。

 レーティングゲーム前と変わらない関係だ。

 胃が痛ぇ。

 

 ……しかし、『神器』の能力の代償が記憶か。

 昏倒と記憶。

 代償としては軽すぎるな。

 その二つを差し引いても、まだ『神器』の能力の方が強力過ぎる。

 

 

 

 #月V日

 

 勘弁してほしい。

 なんでこの町にオーフィスが来てるんだよ……確実に上代徹が狙いだろうがな。

 それ以外に、あのバケモノの興味を惹くバケモノは居ない。

 まぁ、すぐに気配は消えたが……一体なんだったんだ?

 ったく……ほんと、退屈させてくれない奴だな、上代徹。

 もう少し楽をさせろや――サーゼクスの奴は、あの男とどう付き合うつもりなんだろうな?

 どうしてか、やけに気に入ってるからな。本当に、どうしてか。

 あんなの、手に余るなんてもんじゃねぇぞ。

 

 

 

 #月W日

 

 そういえば、イッセーのヤツ、冥界で人気らしい。

 ヒーロー物の、何とかって特撮はイッセーをモデルにして作られてるんだとか。

 そのグッズを、上代徹に配ってた。サーゼクス…というか、グレイフィアが。

 物で釣る気だろうか?

 まぁ、それもアリなのかもしれんなぁ。

 俺も何か送るか? この前は『人工神器』だったしな。食い物か?

 

 

 

 #月X日

 

 ホント、能天気というかマイペースというか…グレイフィア、怒ると皺が増えるぞ。

 言ったら俺ですら本気で殺されそうだから言わなかったが。

 サーゼクスの馬鹿、「おっぱいドラゴン」なんて特撮に掛かりっきりだった。

 上代徹はどうした、お前。

 なんでも、何を成すにも金が必要なんだと……その辺りはどこも変わんねぇよな、うん。俺も金が欲しい。ねーちゃんと遊ぶ以外にも、色々と入用なのだ。

 まぁ、いいんだけどな。別に、怒ってないみたいだし。

 少なくとも、学園では普通だ。

 あの時――ディオドラを消そうとした時の歪さは感じられないしな。

 いったい何者なんだろうな、あの男。

 サーゼクスも判らないと言っていたが……あれだけ強力な『神器』を誰も知らないなんて異常過ぎるだろ。

 今までどうして気にしなかったのか――もしかしたら、そうやって気にならなかったのも上代徹の能力なのかもな。

 ……そこまでいったら、強力なんてレベルじゃねぇぞ。万能すぎるだろ。

 

 

 

 #月Z日

 

 あー、あー……若いのは良いねぇ。

 体育祭でキスして告白して、もう片方はテントの下でイチャついて……爆発すればいいのにな。

 きっとそうすれば、世界の半分は幸せだな。

 レイナーレも、上手く上代徹と付き合ってるみたいだしな。

 まぁ、しばらくは上代徹の身辺はレイナーレ任せだな。

 下手に俺が近づいても失敗するだろうし。というよりも、今は近付きたくない。

 怖いか?

 どうだろうな――怖いと言うよりも、不気味だ。

 『禍の団』を誘い出す為の餌にした。

 その事を怒っていないのか? おかしいだろ。

 普通ならキレるだろ……だから、不気味だ。

 記憶を失くしてるからって、俺らがした事は聞いてる筈だ。

 それでも許すってんなら――アイツ、どっか狂ってるぞ。

 騙された様なもんだ。

 それを許すなんて、間違ってる。

 

 

 

 #月”日

 

 ったく。今日は変な奴に絡まれた。

 多分、『禍の団』――英雄派と呼ばれてる一派。

 さっそく動き始めたか。

 旧魔王派が黙ったから、次は英雄派…『禍の団』も忙しいな。

 こっちも上代徹の事で頭が痛いってのに――溜息しか出ねぇ。

 

 

 

 #月$日

 

 ヴァーリの奴らが町に来ていた。

 なんでも、上代徹に会いに来たんだと。

 ……少しも隠さねぇよな、アイツら。楽だからいいけど。

 オーフィスが上代徹に興味を持っている、か。

 判っちゃいたが、頭が痛いどころか、気持ち悪くなってくるな。

 ホント、あの男はどちら側なんだろうな。

 あー……酒が美味ぇ。

 

 

 

 #月い日

 

 上代徹は、もうレーティングゲームには参加しないそうだ。

 ま、そりゃそうだよな。

 それにしても、サーゼクスのヤツに文句の一つも言わないとはな……やっぱアイツ、どっかおかしい。

 俺なら、半日は嫌味を言い続けるがな。

 ――人間がするゲームじゃない、か。

 そうだな。

 ……あの男は、きっとどこまでいっても『人間』でいたいんだろうな。

 どうしてそこまで人間に拘るのかは理解に苦しむが、あの男にとって『人間』は特別なんだろう。

 ま、それならそれで好都合だ。

 人間らしく、百年程度生きて、さっさと死んでくれる事を願おう。

 

 

 ……神が不在の今、何に願うと言うのか。北欧の田舎ジジイにか?

 

 

 

 #月ほ日

 

 レイナーレやら黒猫やら白猫やら連れて、上代徹がデートをしていた。

 俺は飲み屋のねーちゃんと待ち合わせをしていた。

 ……羨ましくなんかなかったんだからな?

 けっ。

 俺だって、本気になれば彼女の二人や三人くらい、簡単なんだよ。

 あー……酒がクソ不味ぃ。

 

 

 

 #月と日

 

 そろそろ修学旅行の時期だ。

 俺も引率で付いて行く事になっている。

 喜ばしい事だ。一時的とはいえ、上代徹から離れられる。

 最近、アイツの事ばかり考えて、胃が痛い。

 イッセー達は能天気なもんだ……まぁ、知らぬが仏、って言葉もあるくらいだしな。

 俺もディオドラの事を知らなかったら、イッセー達と同じみたいな感じだったのかもな。

 ……存在を消す力か。

 本当にそれだけだろうか?

 時間操作、生命力の略奪、存在を消す。

 それすらも、『神器』の能力の一部でしかないのだとしたら……。

 考えたくねぇな。

 そんな存在、正しく『神』の力だ。

 人間でありながら神の力を持つ、か。

 どっかの漫画の中の存在だな、そりゃ。

 身に過ぎた力は身を滅ぼすぜ、上代徹。……だから、アイツは『人間』なのかもなぁ。

 

 

 

 #月ち日

 

 英雄派の連中が、上代徹に手を出した。

 まぁ、軽くあしらわれたみたいだったが。

 そんなもんだろ、『禁手』にも至っていない『神器使い』なんざ。

 しかしあの男、ますます人間離れしてきたな。

 『禁手』には至っていないとはいえ、それなりの『神器使い』を適当にあしらって、倒れなかった。

 コカビエル辺りがちょっかい出した時くらいなら、多分倒れてたんじゃないか?

 ……肉体が人間離れしてきたのか、それとも『神器』が上代徹に合わせてきたのか。

 調べたいね、本当に。

 手の届かないモノほど美しく映る。だからこそ俺は堕天したというのに……まったく進歩していない。

 天使の座を捨てた。

 次は命でも天秤にかけるのかもな。

 

 

 

 #月り日

 

 冥界の事情は知った事ではないが、悪魔の一部が上代徹を危険視しているらしい。

 当たり前だな。

 上級悪魔千人を難なく倒すほどの人間だ、危険視しない方がおかしい。

 むしろ、そんな事をしたうえで当たり前に接している上代徹が異常なのだ。

 だが、だからといってちょっかいを出されて変に敵対でもしてしまったら目も当てられない。

 一応、冥界の方はサーゼクスを筆頭に、現魔王が抑えるらしい。

 そのうえで、もしもの時はイッセー達に動くように指示していた。

 ま、妥当な線だな。

 悪魔が動いたら、悪魔が対処する。

 下手に堕天使や天使が動いたら、それはそれで問題になる。

 一応、サーゼクスの奴もマトモに動いていたんだな、と少し感心した。

 「おっぱいドラゴン」なんてのを作ってたから、少し心配してた。スマン。

 

 しかし、ドライグが「勝てない」と明言するとは驚いた。

 あのドラゴンが、だ。

 ……驚いたというか、複雑だな。

 ドラゴンが人間に勝てないと言うなんて――な。

 

 

 

 




まぁ実際、上級悪魔千体を瞬殺したら誰だって怖がると思う。

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