続いた……続いちゃった…………
「なんなんだよ……」
城戸真司は思わず呟いた。
「なんなんだよ、これぇ……」
城戸は思う。もし自分以外の誰かが同じ目にあったとしても、自分と同じ言葉を呟くだろうと。
「ッ!なんなんだーー!!」
「ピキピキピキピキ……」
全身灰色のスーツに体を覆われた人間、城戸真司は、何度呟いても変わらない現実を前に、現実逃避気味に目の前の蜘蛛型の化け物に向かって叫んだのだった。
――――――――――
事の起こりはこれより一時間前、城戸が行方不明者の自宅を調査しているときだ。その行方不明者の部屋は何かがおかしかった。カーテンがぴっちりと閉じられているのはともかく、鏡になりそうなものは片っ端から毛布や新聞紙などで覆われていたのだ。城戸は少しでも手掛かりになりそうなものはないかと片っ端から部屋を調べた。そして見つけたのだ。見たこともないような漆黒のカードデッキを……。
吸い寄せられるようにカードデッキを手に取り中身を確認してみるが、やはり中に入っていたのは見たこともないカードだらけだった。何かの手掛かりになるかもしれないと、城戸はそのカードデッキを持ち出した。その直後からだ。耳鳴りにも似た妙な直感が騒ぎだしたのは。
直感に従い周りを見渡した城戸が見つけたのは……ガラスの中で城戸を狙っているように見える…………
そこからは必死だった。日頃ほとんど動かさない筋肉を使って逃げ回った。そしてようやく龍を撒いたと思ったところで今度はガラスに吸い込まれた。目の回るような景色が続き、気づけば灰色のスーツを纏っていたのだ。さらに目の前に蜘蛛型の化け物。
(神様は本格的に俺を殺したくなったのかなぁ!?)
心の中で絶叫するも、現実が変わってくれるわけではなく……。城戸はさらに逃げ続けるのであった。
――――――――――
逃げても逃げても状況は変わらない。そもそも相手が蜘蛛型ということでそのデカイ図体に似合わず移動が速いのだ。加えてこの状況に混乱している城戸の頭では逃げきることが不可能であるのは当然のことだった。2分もしない内に、城戸は化け物に追い付かれ吹き飛ばされていた。
(カハッ……畜生……ミイラとりがミイラになるってこういうことかよ…………)
城戸が諦めかけたその時だった。城戸と同じように黒いスーツを纏った人間が蜘蛛を吹き飛ばしたのは。
「……は?」
「…………フッ!」
黒いスーツの人間――仮面ライダーナイトは更に混乱を加速させる城戸の前で的確に相手の戦闘力を剥ぎ取っていく。
城戸はその戦いをぼんやりと観察していた。よく見ると先ほど拾ったカードを機械に入れて戦っているようだった。試しにカードを引き出し腕の機械に入れてみる。
『SWORD VENT』
電子音でカード名が呼ばれるのと同時、空から一振りの剣が降ってきて地面に突き刺さった。
「……………………」
こうして剣を召喚してはみたが、正直なところ、城戸はこの剣を振るう気はなかった。ここまで逃げてばかりで疲れていたのもあるし、目の前の戦闘の邪魔になることを悟ってというのもある。
……………………ただ、
『FINAL VENT』
城戸が思考している内にナイトは飛翔斬をモンスターに当て、蜘蛛のモンスターは倒された。しかし、間を置かずに漆黒の龍が二人を追いかけてくる。
城戸は男の声に従い鏡の世界を脱出する。
……………………ただ、『ああして人を守るために戦うことができれば、少しは世界に貢献できるだろうか』という想いだけは、城戸の頭に浮かんだまま、消えることはなかった。
――――――――
鏡の世界を脱出した城戸は、助けてくれた二人組――秋山蓮と神崎優衣に連れられ喫茶店花鶏に来ていた。
そこで城戸が聞いたのは行方不明事件の真相ともいえる事実だった。
ミラーワールドとモンスター、そして仮面ライダー。
鏡の中の世界――ミラーワールドにはモンスターが生息し、モンスターは現実世界の人をエサとしていること。そして人は、カードデッキを用いることで仮面ライダーとしてミラーワールドに行き来することができること。ライダーはモンスターと契約し、そのモンスターの力を借りることができること。
城戸が聞いた話は、とても信じられることのできる話ではなかった。……普通ならば。しかし、城戸は既に信じるしかないほどの体験をしてしまった後だった。城戸は否応なしに理解させられた。一連の行方不明者達はモンスターに捕食された人達なのだと。
「じゃあ、このデッキでモンスターと契約すればライダーに……」
「やめておけ。一度ライダーになった者は引き返せない。そのまま死ぬだけだぞ」
「でも蓮!この人モンスターに狙われてるんだよ!?」
「あの龍は俺が倒す。それでいいだろ?」
どうやらモンスターは一度狙った獲物をしつこく狙う習性があるらしい。
「このカードを使えばモンスターを封印することができるから」
そう言って優衣から手渡されたのはカードデッキに入っていた一枚のカード。上部には『SEAL』と書かれている。城戸はデッキと共にそのカードを受け取った。
同時に、秋山が立ち上がる。
「もう一度言っておくが、あの龍は俺が倒す。邪魔はするなよ」
「蓮!ちょっと!……………もー!」
秋山は最後に城戸に忠告するとそのまま外に出ていった。カードを使って封印するということはおそらく封印されたモンスターを倒すことはできなくなるのだろう。そして『邪魔はするな』。すなわち『
「蓮はあんなこと言ったけど、危険になったら迷わず使っていいからね。………………それと、これは確認なんだけど、ジャーナリストっていってたよね」
「え?うん、まぁ見習いだけど」
「神崎士郎って名前、聞いたことある?」
「…………神崎……士郎?」
城戸はその名前を知らなかった。名字からして家族や親戚の類だろうか。もしかしたら行方不明者リストの中に名前があったかもしれないが、あいにくそれ以上の情報を城戸は持ち合わせていない。
「そう」
元々ダメ元だったのだろうが、優衣は落胆を隠しきれていなかった。
「今日はいろいろ助けてもらったし、一応調べてみるよ」
「……うん。ありがと。くれぐれも気をつけてね」
優衣との会話を切り上げて、城戸は花鶏を出る。
モンスターの存在を知った城戸にとって、世界は不気味なほどに、鏡の世界への入り口で溢れていた。
――――――――――
自宅であるアパートに帰った城戸は、念のため鏡になりそうなものを全て新聞紙で覆い――自分が行方不明者と同じ行動をとることになるとは思わなかった――ベッドに寝転びながらカードデッキを眺めていた。
「(仮面ライダー……か…………)」
城戸はなんとなくデッキの中から封印のカードを取り出してみた。紫色の空間がまるで中心に向かって吸い込まれるように渦を巻いている。
「そういえば、ライダーはモンスターと契約するって言ってたよな……」
デッキの中には『SEAL』の他に武器が描かれたカードが何枚か入っていたが、一枚だけ、『SEAL』とは対になるようにデザインされているカードがある。白い光が溢れているかのようなシンプルなデザイン。こちらは『CONTRACT』と書かれている。
このカードがモンスターとの契約のカードなのだろう。
……今、城戸の前にはいくつかの選択肢がある。一つはあの黒い龍を秋山が倒すのを待つ、もしくは『SEAL』のカードで封印して何事もなかったかのように日常に戻る道。一つはモンスターと契約し、人を守るためにライダーとなって命尽きるまで戦い抜く道。普通の人なら日常に戻ることを選ぶだろうし、正義感の強い人なら戦う道を選ぶのかもしれない。
しかし、城戸はこのどちらでもない。他人の為に簡単に命を賭けることができるほど正義感は強くなく、かといって普通の人とは言いきれないほどに、この体は病に侵食されている。
自分から死のうとは思わないが、残り少ない人生を他人の為に使えるのならば、それも悪くないとも思える。
自分か、他人か。
それは、城戸がいつも心の中で天秤の秤に賭けてきた事柄だった。
………………答えは出ない。
「………………散歩でもしてくるか」
既に陽は落ちているが、夜空を見上げて風にあたれば気分転換になって頭の整理もできるだろうと考え、城戸はデッキを持って外に出ることにした。
ライダーとしての直感が働くまで、後少し。
原作よりも城戸くんが賢い+体力が少ないので「折れたぁ!?」は没収されました。