バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
「では、両名準備は良いですか?」
午前十時、Aクラス会場。
この場所でここ数日の戦争でお世話になっている、Aクラスの担任かつ学年主任の高橋先生がそう口にする。
「ああ」
「……問題ない」
今回の戦争の立会人である高橋先生がそう告げると両クラスの代表のが了承する。
会場がAクラスの理由は至ってシンプル。誰もFクラスで一騎打ちをしたくないからだ。
「それでは一人目の方、どうぞ」
「アタシから行くよっ。科目はランダムでいいわ」
向こうの一番手は木下さんだ。
「よし、明久行ってこい」
「え?僕なの?」
対してこちらは兄さんだ。
「大丈夫だ。俺はお前を信じている」
何故か自信満々にそう言う雄二。
そして字面どうりに受け取って堂々と出ていく兄さん。
「おい、雄二。この試合って……」
「ああ、察しの通り捨て試合だ」
これで一敗と。
「ふぅ……やれやれ、僕に本気を出せってことか。仕方がない……僕もランダムで受けてあげよう」
早く行け。そして負けろ。
『おい、吉井兄って実は凄いヤツなのか?』
『いや、そんな話は聞いたことないが』
『でも、アイツの弟は凄いからワンチャンスあるかも……』
『いつものジョークだろ?』
まぁ、いつものジョークというか……何というか……
「吉井君?あなた、まさか……」
対戦相手の木下さんが兄さんを見て何かに気付いたかのように戦く。木下さん。大丈夫だよ。どの教科でかかってもあなたが勝つんだから。
「あれ、気づいた?ご名答。今までの僕はぜんぜん本気を出しちゃあいない」
戦闘の為に袖をまくり、手首を振る。何故、軽い準備体操が必要だし?
「それじゃ、あなたは……」
「そうさ。君の想像通りだよ今まで隠してたけど、実は僕――」
大きく息を吸って、この場に居る皆に告げる。
「――左利きなんだ」
一回黙れ。
『Aクラス 木下優子
数学 376点
VS
Fクラス 吉井明久
数学 62点』
予想通りの秒殺だった。
「アキのバカ!テストの点数に利き腕は関係ないでしょうが!」
「み、美波!フィードバックで痛んでるのに、更に殴るのは勘弁して!」
余談だが、兄さんと島田さんはそれぞれ、『美波』と『アキ』って呼ぶことになった。
理由としては、Bクラスとの試召戦争で兄さんが島田さんを偽物扱いした事を許す措置だとか何とか。まぁ、当人たちの問題だしオレには関係ないからいいよね。
「よし。勝負はここからだ」
「ちょっと待った雄二!アンタ僕をぜんぜん信頼してなかったでしょう!」
「信頼?何ソレ?食えんの?」
安心しろ。オレも兄さんが勝つとは微塵も信じていない。むしろ、負ける方に信じていたよ。
「では、二人目の方どうぞ」
「………(スック)」
ここでムッツリーニが立ち上がる。雄二は貴重な科目選択権の一つをムッツリーニに渡した。
彼は総合科目の点数のうち実に80%を保健体育で占めているのだ。保健体育での勝負ならAクラスにさえ負けていないだろう。
「じゃ、ボクが行こうかな」
Aクラスからは色の薄い髪をショートにした女子が現れた。このボーイッシュな少女……誰だろう?
「一年の終わりに転入してきた工藤愛子です。よろしくね」
「教科は何にしますか?」
「……保健体育」
ムッツリーニの唯一にして、オレや姫路さんを凌駕する最大の武器が選ばれる。
Bクラス戦後に聞いた話だが、実はあそこでオレが何もせずBクラス戦が続行していた場合。ムッツリーニに根本の首を獲らせるつもりだったようだ。もっとも、オレがその前に首を獲ったからムッツリーニの実力は見せられなかったけど。
「土屋君だっけ?随分と保健体育が得意みたいだね?」
そんな中工藤さんがムッツリーニに絡んでいる。凄く余裕の態度で。
「でも、ボクだってかなり得意なんだよ?……君とは違って、実技で、ね♪」
……何故だろう。どっちの意味かすぐに分かってしまった自分がいる。
「そっちのキミ、吉井明久君だっけ?勉強苦手そうだし保健体育で良かったらボクが教えてあげようか?もちろん実技で」
「フッ。望むところ――」
「アキには永遠にそんな機会なんて来ないから、保健体育の勉強なんて要らないのよ!」
「そうです!永遠に必要ありません!」
いや、実技云々はともかく、生きていくうえでの知識として重要な部分もあると思うぞ?
「…………」
「島田に姫路。明久が死ぬほど哀しそうな顔をしているんだが」
雄二は思わず呟く。
何故だろう?今日の兄さんは雄二に捨て駒に使われボロボロにされた挙句、こうして、精神的にもボロボロにされて行く。久しぶりに悲しい子を見た気がする。
…………と。オレが兄さんに同情していると……
「じゃあ、そっちの紫乃のお気に入りの……吉井光正君だよね?」
今度は工藤さんがオレに話を振ってきた。
「あ、愛子!?」
珍しく、紫乃も動揺中だ。うん、久しぶりに動揺しているところを見た気がする。動揺している姿も可愛い……って、いきなり何を考えているんだオレは!バカじゃねぇのか!
「君も君のお兄さんと同じで勉強できなさそうだね。ボクと保健体育の勉強でもしない?もちろん実技でね♪」
「だが断る」
一瞬魅力的な提案にも思えたが拒否させてもらった。なぜなら……
「し、紫乃。何かドス黒いものが出ているから!ちょっと落ち着いて!後、その笑顔怖いから!」
「え?私何かした?(ニッコリ)」
「いやいや、怖いから!今の紫乃凄く怖いから!」
ドス黒いもの……殺気と言われるものをだし、笑顔で立つ鬼……いや、魔王がそこにいたからだ。あの木下さんでもここまで取り乱すほどの存在がいたのだ。もしも、考えるそぶりを見せれば一瞬で地獄へ連れていくだろう。くわばらくわばら。というか動揺から一瞬で魔王になれるって稀有な才能だねぇ。
「そろそろ召喚を開始してください」
高橋女史がそう言うと紫乃からドス黒いオーラが消える。
あ、あぶねぇ……これ以上はオレが耐えきれなかっただろう。
「はーい。
「…………
二人がそう言うと、足元から二人に似た召喚獣がそれぞれ武器を持って現れる。
ムッツリーニの召喚獣は忍者の様な格好をしていて、両手に小太刀を持ち二刀流だ。
腕には腕輪があるので点数は少なくとも400点はある事がわかる。
そして、対する工藤さんの召喚獣は……
「なんだあの巨大な斧は!?」
セーラ服の格好をした召喚獣で見るからに破壊力のありそうな巨大な斧。これはマズイ。オマケに例の腕輪も装備している。
「実践派と理論派、どっちが強いか見せてあげるよ」
工藤さんが艶っぽく笑いかけると同時に、腕輪が光り召喚獣が動く。大斧に雷光をまとわせて襲い掛かる。なるほど。速攻でケリをつけるつもりか。
「それじゃ、バイバイ。ムッツリーニくん」
そして豪腕で斧を振るう。喰らったら間違いなく一撃で死ぬだろう。
しかし……
「ムッツリーニっ!」
「…………加速」
喰らったらの話だが。
「……え?」
戸惑う工藤さん。そして既にムッツリーニの召喚獣は敵の射程外にいた。
「…………加速、終了」
ムッツリーニが呟く。次の瞬間、工藤さんの召喚獣が全身から血を噴出して倒れた。
あの一瞬で複数回斬りつけるとか……並の所業じゃねぇな。
『Fクラス 土屋康太
保健体育 572点
VS
Aクラス 工藤愛子
保健体育 446点』
572点!?オレの得意科目ですら、500行くか行かないかの瀬戸際なのに!?
「す、凄い!下手をすると僕の総合科目並の点数だ!」
そして兄さんの点数の低さに驚いた!今まで何をしていたんだ?
「そ、そんな……!この、ボクが……!」
工藤さんがショックで床に膝をつく。
でも今ので理論派の方が実践派より強いのが証明されたか。
これで一勝一敗。勝負はまだまだ分からない。