バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~   作:アカツキ

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ラブレター事件

 晴れ渡る空。澄んだ空気。暖かな日差し。そして……

 

「今日もいい天気ですね」

 

 隣にいる悪魔。うんうん。最高の朝であろう……

 

「……って、ちょっと待て。なんで紫乃が隣にいるんだよ!」

「いいじゃないですか。私が一緒に登校したかっただけです」

 

 あ、納得。

 

「まぁ、いいけどさ」

「光正もいいことがあったじゃないですか。ほらほら、朝からこんな美少女と一緒に登校できるのですよ」

 

 ない胸を張り、手をその胸に当てている紫乃。いかにも自分が美少女だと言いたげなご様子だ。

 

「…………美少女じゃなくて微少女の間違い……」

「おっと、光正。私のどこが微妙か言ってもらおうか」

 

 今のを微少女と正確にとらえたのは褒めよう。

 

「微妙な少女じゃなくて、微かな少女のほうだけどな」

「分かりました光正。そこを動かないで下さい。一発殴って差し上げますから」

「それはごめんだね!」

「あ、待て!逃げるなぁー!」

 

 こうして、朝のランニングが始まった。

 学校に入る時、兄さんが観察処分者の仕事をしていた。

 珍しく朝早くに学校に来たと思ったらこれか……哀れなり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チクチクチク。

 

「工藤」「はい」「久保」「はい」

 

 チャイムと同時に兄さんが教室に駆け込んできた。きっと、HRギリギリまで鉄人に雑用をさせられてたのだろう。哀れなり。

 

「近藤」「はい」「斉藤」「はい」

 

 淡々と進む毎朝の恒例の気だるい出席確認。静かな教室にのどかなひとときが流れている。そして今日もいつもと変わらない一日が――――

 

「坂本」

「…………明久がラブレターを貰ったようだ」

『殺せぇぇっ!!』

 

 雄二の一言で日常は壊れた。

 

「ゆ、雄二!いきなりなんてこと言い出すのさ!」

 

 慌てて雄二に駆け寄る兄さん。明らかに小声だったのにクラスのほとんどの人が聞き逃さなかったようだ。格言うオレもばっちり聞いていたけど。

 

『どういうことだ!?吉井弟はまだ分かるが、吉井兄がそんな物貰うなんて!』

『それなら俺達だって貰ってもおかしくないはずだ!自分の席の近くを探してみろ!』

『ダメだ!腐りかけのパンと食べかけのパンしか出てこない!』

 

 よく出てきたな!?

 

『もっとよく探せ!』

『……出てきたっ!未開封のパンだ!』

『お前は何を探しているんだ!?』

 

 全くだ。

 怒号が飛び交う教室内。予想通りクラスの全員の妬みに狂う光景が展開されていた。

 

「お前らっ!静かにしろ!」

 

 鉄人の一喝でクラスに静寂が舞い戻る。

 

「それでは出欠確認を続けるぞ」

 

 え?続けるの?

 

「手塚」「吉井コロス」「藤堂」「吉井コロス」「戸沢」「吉井コロス」

 

 返事が『吉井コロス』になっていた。

 

「皆落ち着くんだ!なぜだか返事が『吉井コロス』に変わっているよ!」

「だから『吉井兄コロス』に変えろ!」

「そこじゃないでしょ!?」

「吉井兄、静かにしろ!」

「先生、ここで注意すべき相手は僕じゃないでしょう!?このままだとクラスの皆は僕に殴る蹴るの暴行を加えてしまいますよ!」

「新田」「吉井兄コロス」「布田」「吉井兄マジ殺す」「根岸」「吉井兄ブチ殺す」

 

 なるほどね。まぁ、文言が少し変わったからよしとしよう。

 

「よし。遅刻欠席はなしだな。今日も一日勉学に励むように」

「待って先生!行かないで!可愛い生徒を見殺しにしないで!」

 

 保身の為だろうか。兄さんは必死になって鉄人を呼び止める。

 

「吉井兄。間違えるなよ」

 

 鉄人が扉に手をかけたまま告げる。間違いとは何の事だろうか?

 

「お前は不細工だ」

 

 そう言う事か。納得だ。

 

「不細工とは言われるとは思わなかったよバカ!」

「授業は真面目に受けるように」

「先生待って!せんせーい!」

 

 兄さんの叫びも空しく、鉄人は教室を出て行く。この教室で暴動が発生するのはもう誰にも止められない。

 

「アキ、ちょ~っと話を聞かせてもらえる」

 

 真っ先に兄さんの肩を掴んだのは島田さんだ。

 

「あ、あはは……美波、顔が怖いよ」

「手紙を貰ったの?誰からなの?どんな手紙なの?」

 

 兄さんを質問攻めにする島田さん。心なしかポニーテールが角に見えてくる。

 

「あー、えっと、そのー」

「いいからおとなしく指の骨を――じゃなくて、手紙を見せなさい」

 

 断れば兄さんの指は次世代の人の持つ指になるだろうな。

 

「あの、吉井君」

 

 そこに現れたのは姫路さん。

 

「その……できれば、ですけど……私にも手紙を見せて欲しいです……」

 

 あの姫路さんまでもが兄さんの貰った手紙を見たがっている。

 

「その……ごめん」

 

 珍しく姫路さんの頼みを断る兄さん。

 

「でも、でも……」

 

 しかし、姫路さんはそれでもしつこく食い下がる。

 

「いくら姫路さんの頼みでも、コレばっかりは」

「でも、私は吉井君に酷いことをしたくないんです!」

「ちょっと待って!姫路さんまで僕に暴力を加えることが前提なの!?」

 

 姫路さんもすっかりFクラスの一員に相応しくなっていたようだ。

 

「皆、ちょっと落ち着け」

 

 そんな中、雄二が教卓を叩く。一応言うけどお前が元凶だからな?

 

「今問題なのは明久の手紙を見ることじゃない」

 

 雄二がクラスの連中に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。あの暴徒とかしてそうなFクラスに言い聞かせられるあたり雄二の手腕が良いのがうかがえる。

 

「問題は、明久をどうグロテスクに殺すかだ」

「前提条件が間違ってんだよ!」

 

 全くである。

 

「そうだ!光正なら味方してくれるよね!?」

「今、自分の座布団作るのに忙しい」

 

 裁縫>兄さんの命

 

「あんまりだよ!この人でなしが!」

 

 荷物を持って兄さんが教室から逃走した。

 

『逃がすなぁっ!追撃隊を組織しろ!』

『手紙を奪え!吉井兄を殺せ!』

『サーチ&デス!』

「そこはせめてデストロイで!」

 

 廊下まで響きそうな声を上げるFクラスの面々。気がつけば教室に残されたのはオレと秀吉だけになった。

 

「これは一時間目の先生に何と説明すればよいのか……」

「さぁ?別にいいんじゃない?」

「それにしてもお主はマイペースじゃのう。明久の件があっても手先が乱れておらぬ」

「いつものことじゃないか。Fクラスが暴動を起こすのは」

「……いつものことで済ませてよいのかのう……」

 

 その後一時間目が始まった。すぐに、ムッツリーニが戻ってきたが残りの四十七人は戻ってくる気配無し。鉄人の意向により、秀吉とムッツリーニはEクラス、オレはAクラスで今日一日過ごすことになった。

 

 

 

 

 

「えーFクラスが暴動を起こし、クラスの実に94%の人が授業をボイコットしたため、今日一日Aクラスで過ごすことになりました」

「……歓迎する。吉井弟」

「そこのソファーに座るといいよ。なんなら、私の席でも……」

「わぁーい。ソファーだ~」

「人の話を聞いて!」

 

 ……というか、やっぱり、Aクラスって凄いね。この来客用のソファーとオレたちのミカン箱を入れ替えて欲しいよ……そう思いながら、今日も一日が過ぎてゆく……

 ちなみに、兄さんの話によれば、あの後、ラブレターは姫路さんが細切れにし、雄二が燃やして灰にしたそうだ。


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