バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
兄さんはオレ、秀吉、島田さんに雄二発見後、企画に引きずり出す作戦を与えた後、そのまま体育館にある女子更衣室へ向かった。
決して覗きではない。雄二発見のために向かったのだ。他意はない…………はず。
オレの役目といえば、簡単に言うなら逃げ道の確保だ。
『見つけたぞ!二人とも逃がすか!』
遠くで聞こえる鉄人の声。窓の外を見ると全力でダッシュする二人の人影と追いかける人影が。
言うまでもなくダッシュしている人影は兄さんと雄二。追いかけているのは鉄人だ。……というか本当にいたんだな……
「こっちだ!」
オレは二階の目の前の窓を全開にして、兄さんと雄二に呼びかける。
「はっ!そう言うことかよ!……明久!」
雄二が先行して、手を組んで立ち止まる。
「オーケー!」
雄二が作ってくれた踏み台に足をかけ、一気に飛びあがる。タイミングと雄二の腕力、兄さんの跳躍力で難なく二階の窓から入れる兄さん。
「くっ!このバカ共!こういう時だけ無駄に運動神経と悪知恵を発揮するとは!」
「雄二!捕まれ!」
兄さんが無事に入れたのを確認し、すかさず手に持っていたロープを垂らす。鉄人が何か言ったって?そんなの無視だ無視。
「あらよっと!」
雄二が壁を蹴って跳び、空中でロープを掴む。
『よいしょおっ!』
その瞬間に一本釣りの要領でオレと兄さんで引き上げる。本当にこういう時の連係プレーだけは凄いんだよなぁ……オレたち。
『吉井兄!坂本!明日は逃がさんぞ!』
どうやら鉄人一人の力では二階の窓へ来ることは出来ないらしい。……いや、出来たら超怖いんですけど。後、オレは逃走を手伝っただけなので無罪のよう――
『後、吉井弟!貴様も逃走を補助したことに罰を受けてもらう!覚悟しろ!』
――ではなかった。
いやねぇ。この二人が何したかは想像がついているよ。うん。そのうえで逃走を手伝ったんだから……って、あれ?もしかしなくともオレって共犯者?
「はぁ……またいらない悪評が増えていく……」
「全くだ。オレなんて、お前らの逃走を手伝っただけなのに」
「俺の方こそいい迷惑だ。お前が来なければこんなことにはならなかったのに」
雄二が自分に非はないと言っている。
「そもそも雄二が女子更衣室に隠れていたのが悪いんじゃないか」
「そーだそーだ。お前が普通の教室とかに隠れていればこんな逃走劇なかったんだぞ」
「し、仕方ないだろ!相手はあの翔子だぞ!普通の教室なんかで逃げ切れるか!」
何故だろう。彼女なら男子更衣室程度なら簡単に入っていきそうな気がする。
「ところで、どうしてそんなに必死に逃げているの?」
「そういえば。別に逃げる必要なくない?」
「……ちょっと、家に呼ばれてな……」
それのどこが問題だろう?オレはつい先日、紫乃にお呼ばれしたけど問題なかったし。そういえば、紫乃の部屋には結局行ってない……って、何であいつの部屋に興味が出てきたんだろうオレは。
「なんで呼ばれたのさ」
「……………………家族に紹介したいそうだ」
「…………まだ付き合ってるわけじゃないんだよね?」
「…………さすが、霧島財閥の御令嬢は違うね」
何故だろう。これ以上は雄二を見ていられない。
「おい光正。お前現実をみろよ。お前と付き合ってるヤツは天草グループの御令嬢だろうが」
「え?オレと紫乃は付き合ってないけど?」
「……そうなのか?」
「当たり前じゃないか。というか、そもそもオレ、紫乃のこと好きじゃないしな。可愛くて、頭もよくて、運動神経もそこそこ。変な気を使わず話せて、怒らせると怖いけど普段は優しくて、頼りになる。何だかんだで信頼していて、何より一緒にいると凄い楽しい紫乃のことなんてオレが好きだと思ってるわけ…………あれぇ?ど、どうしよう雄二!オレ、実は紫乃のことがかなり好きかもしれない!」
「「もう告白しに行けよ!そして付きあえよ!」」
「いやいや、告白しても振られるのがオチでしょ」
「「…………不憫だなぁ……」」
全く……まぁ、オレはこの距離感が今はいいと思ってる。よし。これで解決。(何がだよ!)
「コホン。さて雄二。キミに朗報です」
「いきなり何だ?嫌な知らせだったら殺すぞ」
やべぇ。こいつ本気だ。
「…………こ、こちらの携帯をどうぞ」
携帯電話を取り出して島田さんの番号を呼びだして電話をかける。
「まったく、何の真似だ?」
雄二は携帯電話を受け取り、耳に当てた。
『もしもし?坂本?』
「島田か。何の真似だ?」
『ちょっと待って。今替わるから』
「替わる?誰と――おい。もしもし?」
向こうの携帯電話が誰かに渡された雰囲気が伝わってくる。
『……雄二。今どこ』
「人違いです」
プツッ
凄い……!咄嗟に『人違いです』なんて言える人間はそうはいないだろう。
「コロス」
そして片言の日本語が怖い。言ってることも怖い。
「とりあえず。落ち着けって」
「そうだよ。お願いを聞いてくれたら悪いようにしないからさ」
「お願い?ふん。学園祭の喫茶店のことか」
こういう時に雄二が実は賢いことを思い知らされる。
「やれやれ、そんな回りくどい事しなくても、明久が『大好きな姫路さんの為に頑張りたいんだ!協力して下さい!』と言えば、面倒だが引き受けてやるというのに」
「な!?べ、別にそんなことは一言も……!」
「あーはいはい。話は分かった。協力してやるよ」
「とりあえず、礼は言っておく。ありがとな」
「気にするな。そんなことより、島田と翔子は親しかったのか?」
あーそこ気になるよね。あのAクラス戦でしかあまり関わりというかそう言うの無いもんね。
「聞いても怒らない?」
「バーカ。どうせ引き受けたんだ。今更怒ってどうすんだ」
うん。これは兄さんを騙して本当のことを探ろうとしているな。よし、Fクラスに戻ろう!
『それじゃ、教えて上げよう。実は電話の向こうにいたのは、霧島さんの声真似をした秀吉で』
『目をつぶって歯を喰いしばれ』
さらば兄さん。安らかに眠れ。
「そうか。姫路の転校か……」
その後、無事?Fクラスの教室に戻ったオレたち三人と島田さんと秀吉。
「そうなると、喫茶店の成功だけでは不十分だ」
雄二は教室内を見渡し、そう告げた。うん。オレもある程度予想は出来ていたよ。
「不十分?どうして?」
「姫路の親が転校を勧めた要因は恐らく三つ」
そういい、雄二は指を三本立てて見せた。
「まず一つ目。ござとみかん箱という貧相な設備。快適な学習環境ではない、という面だな。これは喫茶店が成功した利益でなんとかなるだろう」
そういいながら指を一本引っ込める。
「二つ目は、老朽化した教室。これは健康に害のある学習環境という面だ」
「一つ目は道具で、二つ目は教室自体ってこと?」
「なるほど。こっちは学園祭の喫茶店とかその程度の利益で何とかなるものでもないし、そもそも学校側の協力が必要不可欠。オレたちだけじゃどうしようもないな」
「そして最後の三つ目。レベルの低いクラスメイト。つまり姫路の成長を促すことのできない学習環境だ」
確かに雄二の言うとおり、部活動とかでも、能力を伸ばすために実力の近いもの同士を競わせる事はよくやること。しかしこのFクラスではそんな相手は望めないし、一番可能性が高いのはオレだが、一部の教科では大差をつけて負けている。
「参ったね。随分と問題だらけだ」
「そうじゃな。一つ目だけならともかく、二つ目と三つ目は難しいのう」
「というか、問題じゃないものを探す方が難しい」
「確かに、探すのも解決するのも難しいが、少なくとも俺が挙げた三つの問題はまだ何とかなる。三つ目の方は既に姫路と島田で対策を練っているんだろう?」
そうなの?
「この前、瑞希に頼まれちゃったからね。『どうしても転校したくないから協力して下さい』って。召喚大会なんて見せ物にされるだけみたいで嫌だけど、あそこまで必死に頼まれたら、ね?」
召喚大会?あぁ、あの清涼祭で行われる大会のことか。確かタッグマッチのトーナメント形式だっけ?
「翔子が参加するようなら優勝は難しいが、アイツはこういった行事には無関心だしな。姫路と島田の優勝は充分ありえるだろう」
「まぁ、姫路さんはこの学年の二位。島田さんも数学はある程度あるし、優勝も狙えるでしょ」
オレも雄二の意見に賛成する。確かに霧島さんが参加するとなるとパートナーもAクラスの生徒だろう。そうなると教科によっては姫路さんたちでも勝てる見込みはゼロに近くなる。
「本当なら姫路抜きでFクラスの生徒が優勝するのが望ましいけどな」
「さすがに、そんな贅沢は言えないだろ」
「それに姫路と島田が優勝したら、喫茶店の宣伝にもなるし一石二鳥じゃな」
確かに、我らがFクラスは古臭くて汚れた旧校舎にあるから、これによる宣伝の効果はある程度は見込めるはずだ。
「で、坂本。それはそうと、二つ目の問題はどうするの?」
二つ目の問題の教室の改修。これはオレたちだけでどうにかなる問題じゃない。
「どうするも何も、学園長に直訴したらいいだけだろ?」
雄二は当然のように言ってのける。あぁ、そうすればいいのか。脅す必要はないのね。
「それだけ?僕らが学園長に言ったくらいで何とかしてくれるかな?」
「あのな。ここは曲がりなりにも教育機関だぞ?いくら方針とは言え、生徒の健康に害を及ぼすような状態であるなら、改善要求は当然の権利だ」
「確かに。いくらFクラスといえども、この教室は改善する必要はあるだろう」
健康に害をきたすレベルなら尚更だ。
「それなら、早速学園長に会いに行こうよ」
「思い立ったら吉日。さて、学園長室に乗り込みますか」
「そうだな。学園長室に乗り込むか。秀吉と島田は学園祭の準備計画でも考えておいてくれ。それと、鉄人が来たら俺達は帰ったと伝えてくれ。」
「うむ。了解じゃ。鉄人と、ついでに霧島翔子にも見かけたらそう伝えておこう」
と、微笑む秀吉。霧島さんの名前を出されて、雄二は言葉に詰まっていた。
「アキ、しっかりやってきなさいよ」
「オッケー。任せといてよ」
島田さんの声援も受け、オレたちは教室をあとにする。