バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
学園祭の出し物を決める為のアンケートに御協力ください。
『喫茶店を経営する場合、制服はどんなものが良いですか?』
姫路瑞希の答え
『家庭用の可愛いエプロン』
教師のコメント
いかにも学園祭らしいですね。コストもかからないですし、良い考えです。
吉井光正の答え
『興味ない』
教師のコメント
質問に答える努力をしましょう。
土屋康太の答え
『スカートは膝上15センチ、胸元はエプロンドレスの様に若干の強調をしながらも品を保つ。色は白を基調とした薄い青が望ましい。トレイは輝く銀で照り返しが得られる位のものを用意し、裏にはロゴを入れる。靴は5センチ程度のヒールを……』
教師のコメント
裏面にまでびっしりと書き込まなくても。
吉井明久の答え
『ブラジャー』
教師のコメント
ブレザーの間違いだと信じています。
昨日までいろんなことがあった。Fクラスの方の準備をしたり、Aクラスの方の料理を仕上げたり、三途の河へ行ったり本当にいろいろとあった。
そして清涼祭初日の朝。
「いつもはただのバカに見えるけど、坂本の統率力は凄いわね」
「ホント、いつもはただのバカなのにね」
オレたちの教室はいつもの小汚い感じから、中華風の喫茶店に姿を変えていた。ただし、店名が『ヨーロピアン』ということにはあまり触れてほしくない。
「このテーブルなんて、パッと見は本物と区別がつかないよ」
教室内に到る所に設置されている綺麗そうなテーブル。実はこのテーブル、オレたちの教室にあったみかん箱だったりする。巧く積み重ねて綺麗なクロスをかけることによって、汚い箱から立派なテーブルに変身したと言う訳である。
「あ、それは木下君と光正君が作ってくれたんですよ。どこからか綺麗なクロスを持って来て、こう手際よくテキパキと」
尊敬の眼差しで秀吉とオレを見てくる姫路さん。でも姫路さんも裁縫は普通にできていたと思うけど。
「でも、秀吉が演劇部で使ってる小道具を用意してくれたから出来たんだよ。オレがやったのは修繕だけだよ」
「謙遜するでない。お主のおかげで、見かけはそれなりの物になったがの。じゃが、その分、クロスを捲るとこの通りじゃ」
秀吉がクロスを捲ると、その先には積み重ねたみかん箱が見えた。わーお。
「これを見られたら店の評判はガタ落ちね」
確かにそうだ。こんなみすぼらしいみか箱が机に使っているのを見られてしまったら、この店のイメージダウンは確実だ。
「きっと大丈夫だよ。こんな所まで見ないだろうし、見たとしてもその人の胸の内にしまっておいて貰えるさ」
「そうですね。わざわざクロスを剥がしてアピールするような人はいませんよ、きっと」
「まぁ、もしそんな事をする奴がいたら、営業妨害が目的でやってるとしか思えないからな」
いたらつまみだすか……でも、それだけじゃ足りないしなぁ……どうしようか。
「室内の装飾も綺麗だし、これならうまくいくよね?」
多分、上手く行くはず……後は料理と接待か。
「…………飲茶も完璧」
「おわっ」
突然、後ろからムッツリーニの声が聞こえると明久が驚いた。相変わらず存在感を消すのが巧い。オレも見習いたいよ。
「ムッツリーニ、厨房の方もオーケー?」
「…………味見用」
ムッツリーニはそう答えながら、木のお盆を差し出す。その上には陶器のティーセットと胡麻団子が載っていた。
「わぁ……。美味しそう……」
「土屋、これウチ等が食べちゃって良いの?」
「…………(コクリ)」
「では、遠慮なく頂こうかの」
姫路さん、島田さん、秀吉の三人が手を伸ばし、作りたての温かい胡麻団子を勢いよく頬張る。
「お、美味しいです!」
「本当!表面はカリカリで中はモチモチで食感も良いし!」
「甘すぎない所も良いのう」
どうやら、大絶賛のようだ。よかったよかった。
「お茶も美味しいです。幸せ……」
「本当ね~……」
すると、姫路さんと島田さんの目がトロンと垂れていた。トリップ状態って奴かな?
「それじゃ、僕も貰おうかな」
「んじゃ、ついでにオレも」
「…………(コクコク)」
オレと兄さんが胡麻団子を味見しようとすると、ムッツリーニが残った一つずつを差し出す。
楊枝がなかったので手でつまんで軽く一口を頬張った。
「「ふむふむ。表面はゴリゴリでありながら中はネバネバ。辛すぎる味わいがとっても――んゴバっ」」
この時、オレはまた意識が飛んでいった。
『あ、それは姫路が作った物じゃな』
『…………!(グイグイ!)』
『む、ムッツリーニ!どうしてそんなに怯えた様子で胡麻団子を僕の口に押し込もうとするの!?無理だよ!食べられないよ!』
ムッツリーニが怯えた様子で兄さんの口に胡麻団子(兄さんの食べかけ)を押し込もうとしているのをオレは教室の天井から見ていた。
あれー不思議だな。いつもなら三途の河が見えるのに今日は意識だけが空に飛んでいる見たいだ。幽体離脱って奴かな?あれ?向こうの方に河が見える。なるほど。この教室から外へ出ると河へ行けるのか。あれ?じゃあ、自分の体のところに行けば復活できるんじゃね?なんて器用なのだろうか。
『うーっす。戻って来たぞー』
そんな時に雄二が戻って来たのが見えた。
『あ、雄二。おかえり』
『ん?何だ、美味そうじゃないか。どれどれ』
雄二は躊躇い無く兄さんの食べかけの
『……たいした男じゃ』
『雄二。キミは今、最高に輝いているよ』
『?お前等が何を言っているのかは分からんが……。ふむふむ。表面はゴリゴリでありながら中はネバネバ。甘すぎず、辛すぎる味わいがとっても………んゴバっ』
兄さんやオレと同じ感想を言いながら倒れる雄二であった。
『あー、雄二。とっても美味しかったよね?』
床に倒れ伏した雄二に兄さんが何か目で訴えていた……が、目が合っていないから伝わったか怪しい。
『ふっ。何の問題も無い』
え?伝わったの?
『あの川を渡れば良いんだろう?』
問題しかねぇよバカ野郎!
そう言って窓の外の河を見ると川岸にはいつものおっちゃんと赤髪のゴリラ……雄二がいた。
『ゆ、雄二!その川はダメだ!渡ったら戻れなくなっちゃう!』
ッチ、行くしかねぇのかよ!ダッシュ(空に浮いているのでダッシュのつもり)で雄二のもとに向かう。窓の外に出たらいつも通り足が地面に着いたが関係ねぇ。
「六万だと?バカを言え。普通渡し賃は六文と相場は決まって……」
「ドロップキーック!」
「光正?急にどうし……ゴフッ」
雄二を蹴り飛ばし現世に送り返す。今頃向こうで雄二の意識は戻っただろう。
「やれやれお主も無茶苦茶じゃな。蹴り飛ばして現世に送り返すとか今まで聞いたこともない」
「悪いな。あいつはここを通るにはまだ早いんだよ」
「お主もじゃがな。いつも通りの道を辿れば帰れるぞ」
「そうか。ありがとうな。雄二を引き留めてくれて。感謝するよおっちゃん」
「礼には及ばん。さっさと帰るがよい」
「へいへい」
こうしてオレはいつもの道を歩き始めた。
「はっ!」
「ほら、雄二って余計な脂肪が付いていないでしょう?そう言う身体って、筋が攣りやすいんだよ。美波もよく攣るから分かるとぐべぁっ!」
「……俺が手を下すまでもなかったな」
オレが復活してそうそうに兄さんが島田さんの拳を受けていた。うん。これぞいつも通りの光景だ。
「あ、光正おかえり」
「おう。ただいま兄さん」
「こいつから死の淵から帰ってきた感じがしねぇんだが……」
「…………家に帰ってきたみたい」
「慣れって怖いんだなぁ」
失敬な。オレはただ一週間に八回ぐらい臨死体験しているせいで復活しても驚かないだけだ。
「ところで、雄二は何処に行っておったのじゃ?」
「三途の河」
「そうじゃなくて、ここに来る前じゃ」
ああ、てっきりあの団子食って何処に行ったかを聞いているかと勘違いしてしまったよ。
「ああ、ちょっと話し合いにな」
雄二にしては珍しく歯切れの悪い返事。
恐らく学園長室に行って、例の試験科目の指定をしてきたのだろう。まぁ、フェアな事じゃないから正直には話せず、適当に誤魔化したに違いない。
「そうですか~。それはお疲れ様でした」
人を全然疑わない姫路さんが雄二の言葉を信じて笑みを贈る。まぁ、今やってることは最終的に姫路さんの為になることだと思うんだけどな。
「いやいや、気にするな。それより、喫茶店はいつでも行けるな?」
「バッチリじゃ」
「…………お茶と飲茶は完璧」
「よし。とりあえず、喫茶店は俺と秀吉、ムッツリーニに任せろ。光正と明久は召喚大会の一回戦を済ませてきてくれ」
そう言って秀吉とムッツリーニの肩を叩く。
「オッケー。なるべくさっさと片付けてきてクラスの方を手伝うよ」
「サクッと片付けられるなよ」
「まぁ、何とかなるでしょ」
これでサクッと片付けられた日には目も当てられないだろう。
(ムッツリーニ。ちょっといい?頼みがある)
(…………なんだ?光正)
(昼頃までに用意してほしいものがある報酬は兄さんの所有する成人向けの本)
(…………引き受けよう)
(ありがとう。昼頃までに―――――――を用意してほしいんだ)
(…………分かった。やってみる)
「あれ?アンタたちも召喚大会に出るの?」
確認するように兄さんを見る島田さん。
「え?あ、うん。色々あってね」
兄さんは適当に言葉を濁している。学園長が『チケットの裏事情については誰にも話すな』と口止めされているので言えないのだ。さすがに約束は守るらしい。だがオレと雄二にしてみれば別の事情があるだろうと考えている。
「もしかして、賞品が目的とか……?」
島田さんが探るような視線を兄さんに刺している。
確かに賞品が目的だ。そういえばチケットじゃない方の白金の腕輪。あれって、優勝者が表彰式の時にデモンストレーションするんだっけ?確か、召喚獣を二体同時に出せるタイプと先生の代わりに立会人になれるタイプ。
ん?確か学園長は、優勝者からの譲渡は禁止だっけ?でも、チケットを最終的に学園長の手に渡るようにするには、別にそれでも問題はないはず。
……認めた科目変更……優勝者……腕輪……デモンストレーション……まさか……学園長の狙いって……
「う~ん、一応そう言う事になるかな」
簡単にそう答えてまたはぐらかしている。
「……誰と行くつもり?」
「ほぇ?」
「吉井君。私も知りたいです。誰と行こうと思っていたんですか?」
「だ、誰と行くって言われても……」
……オレが思考に耽っていた最中に島田さんと姫路さんが目を細めて戦闘モードに突入していた。
いや、何となく分かるよ。うん。ペアチケットで誰と行くつもりかを聞いていたんだよね?
「明久は俺と行くつもりなんだ」
いきなり雄二が変な事を言った。え?コイツは一体何を言ってるの?雄二の言葉に三人が目を丸くしているし。いや、オレもだけどさ。
「え?坂本とペアチケットで、『幸せになりに』行くの……?」
え?マジで?
「俺は何度も断っているんだがな」
雄二の方はまた可笑しな事を言っていた。あーそういうことか。なるほどね。理解したよ。
「そうそう。雄二は何度も断っているのに兄さんが強引に……」
「誤解を深めないで!」
「さっきも(間接)キスしているのを目撃してしまったし……」
「「えぇ!?」」
「こ、光正!何を言い出すんさ急に!」
事実。嘘はついていない。
「アキ、アンタやっぱり、木下より坂本の方が……」
「ちょっと待って! その『やっぱり』って言葉は凄く引っ掛かる!」
「吉井君。男の子なんですから、出来れば女の子に興味を持った方が……」
「それが出来れば明久だって苦労はしてないさ」
「弟としても本当にそう思うよ。兄さんはもっと、女子に興味を持つべきだと思う!」
「雄二に光正!もっともらしくそんな事を言わないで!全然フォローになっていないから!」
だって、フォローしているつもりないもん。
「っと、そろそろ時間だよ。行くよ兄さん」
「……くっ!と、とにかく、誤解だからね!雄二も余計な誤解を広めないように」
「善処する」
「そこは約束しろよ!」
オレは雄二につっかかりそうになっている兄さんを引きずって教室を後にする。