バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
「では、自己紹介でも始めましょうか」
自己紹介。する必要があるのか本当に分からない。有名な奴(いい意味でも悪い意味でも)は名前を覚えられやすいし、目立たない影のような存在は名前を覚えられにくい。
オレはある程度猫を被って一年生の時過ごしていたからそう覚えられはしてないだろう。まぁ、今年は猫を被る気なんて、さらさらねぇけど。
「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる」
おっと、秀吉もいたのか。秀吉も去年、兄さんと同じクラスの友で、兄さん経由である程度仲良くなった記憶がある。秀吉も双子で弟という立場から、オレとは気の合うかもしれない。もっとも、秀吉の双子の姉はAクラスの上位でうちの兄さんとは天と地ほどの差があるけど。
「…………土屋康太」
うん。また、オレの友達だ。彼も去年兄さんと同じクラスで後は言わずもがな。というか、オレの兄さん経由の友達全員このクラスにいるじゃん(別に一年生のとき、ボッチだったわけでは無い)。うん。それにしても、相変わらず無口だ。うーん。個性に溢れた友達が多いな。
「島田美波です。海外育ちで、日本語での会話は出来るけど読み書きが苦手です」
ふーん。所謂帰国子女ってやつかな?もしかして、兄さんが言っていたドイツからの帰国子女ってもしかして、島田さんのこと?あーそういえば、兄さん。何故かこの学校入った最初の方フランス語を勉強していたっけ?いや、ドイツ育ちなのに何故フランス語?
「――趣味は吉井明久を殴ることです☆」
おっと、聞き逃せない言葉が聞こえたぞ。何かすっごい兄さんの天敵と成りゆる人だな。まぁ、オレはブラコンじゃないから『兄さんに暴力を振るうなんて許さない!』とか言うつもりもない。
「――コホン。えーっと、吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んで下さいね♪」
『ダァァーーリィーーン!!』
「――失礼。忘れて下さい。とにかくよろしくお願い致します」
おっと、あのバカな奴がアホなことやらかしやがった。非常に不愉快なんだけど。あんな野太い声でダーリンなんて聞きたくねぇ。あぁ、耳に残りそうだ。っと……
「吉井光正。そこの吉井明久の双子の弟。区別するため気軽に光正って呼んでください。以上」
平凡な自己紹介。しかし、吉井明久の双子の弟という言葉だけで、場が戦慄……するわけがなかった。よかった、みんな一様にスルーしてくれたようだ。
ガラッ
「あの、遅れて、すいま、せん……」
『えっ?』
あー彼女が来たか。まぁ、このクラスに配属って知っていたけどさ。
「丁度よかったです。今自己紹介しているところなので姫路さんもお願いします」
「は、はい!あ、あの姫路瑞希といいます。よろしくお願いします……」
「はいっ!質問です!」
え?自己紹介って、質問ありだったの?そのシステム初めて知ったんだけど。
「何でここにいるんですか?」
彼女……姫路瑞希は成績が凄い。入学して最初のテストで学年二位を記録(ちなみに、オレは四位で五位と一点差だった)。その後も上位一桁以内に常に名を残すほどだ。
普通なら疑問があるだろう。なんせ、Aクラスにいるはずの彼女が最下層のFクラスにいるのだから。
「そ、その……試験中に高熱を出してしまいまして……」
うん。知ってる。姫路さんが途中退席で0点になったということは。
『そう言えば、俺も熱(の問題)が出たせいでこのクラスに……』
『ああ、化学だろ?あれは難しかったな』
『俺は弟が事故に遭ったって聞いて心配で実力が出しきれなくてな』
『黙れ一人っ子』
『前の晩彼女が寝かせてくれなくて』
『今年一番の大嘘をありがとう』
おっと。これは想像以上のバカばっかだ。
そんな中姫路さんは逃げるように雄二の隣……って、オレの後ろかよ。その席についた。
雄二、姫路さん後兄さんの三人で会話を始めるが興味がない。……って思っていた時期もありました。
「おい明久。声を殺してざめざめと泣くな」
何故か、兄さんが泣く事態が発生。まぁ、理由は分かってるけどさ。
オレもさすがに唯一好きになってくれたり興味を持ってくれた子が男だったら泣く自信あるし。
「そこの人たち、静かにしてくださいね」
どうやら、後ろの三人の会話がヒートアップし、先生のところまで聞かれたようだ。
そのせいで、パンパン、と軽く教卓を叩いて先生が警告してきたのだ。
「あ、すいませ――」
バキィッ、バラバラバラ……
……何という事でしょう。教卓が一瞬にしてゴミクズに早変わりです。
「えー替えを用意してきます。少し待っていて下さい」
先生が出ていってすぐ、何故か兄さんと雄二も廊下に出ていく。まぁ、気にも留めないが。
「あの、光正君……ですよね?」
おっと、気付かれてしまったようだ。いや、前にいるから気付くなって方が無理な話か。
「振り分け試験のときはありがとうございました」
「お礼なら兄さんに言ってくれ。オレは何もしていない。ただ、振り分け試験が面倒で途中退席しようとした時にタイミングが被っただけだ」
そうオレは何もしていない。だから、お礼を言われる筋合いはない。
「ふふ、相変わらず器用なくせにそういうところは不器用ですね。そういう不器用な優しさを持っているあたり、さすが双子ですね。もちろん、吉井君にも感謝してますよ。それで光正君……」
あの兄さんなら姫路さんに感謝されたって、街中を走り回りそうだ。うん。面白そうだけど絶対に兄弟と思われたくないな。
「何で私と距離を取ろうとしてるんですか!?」
あはは…………ばれたか。
「……そ、そんなことない。というか、いい加減兄さんのことも名前で呼んでやれよ。吉井君なんて他人行儀だろ?」
「そ、それは……恥ずかしいと言いますか……」
「お、光正も姫路と知り合いだったのか?」
「あ、雄二か」
どうやら、雄二と兄さんが帰ってきたようだ。
「まぁね。というか、何話していた?」
「ああ、ちょっと面白いことをな。まぁ、後で分かるさ」
このいやらしい笑みは……うん。間違いなく何かやらかすぞ……
「坂本君、キミが自己紹介最後の一人です」
「了解」
あれから、先生戻ってきて気付いたら自己紹介も雄二の番まで回っていた。
そして、ゆっくりと教壇に向かっていくがその姿にいつものふざけた雰囲気は見当たらない。そして、教壇に立ち、振り向く。
「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも、好きなように呼んでくれ」
いつもなら、ここでふざけた発言をする者が居るだろう。しかし、彼の姿を纏う雰囲気を見て口を開く者は誰もいなかった。
「赤ゴリラ~」
ただ一人。オレを除いては。
「はっ倒すぞ」
「好きなようにって言ったのに?」
「赤ゴリラは却下だ」
「へいへい」
全く……好きなように呼んでくれって言ったのに。
「さて、皆に一つ問いたい」
我らがFクラスの代表は、ゆっくりと全員の目を見るように告げる。
間の取り方が上手い。そのせいで、全員の視線を自分に誘導している。
そして雄二はそれを確認したうえで、各所に視線を散らす。
かび臭い教室。
古く汚れた座布団。
薄汚れた卓袱台。
「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが――」
一呼吸置き、静かに告げる。
「――不満はないか?」
『大ありじゃぁっ!!』
我ら二年Fクラス魂の叫びだ。
「だろう?俺だってこの現状は大いに不満だ。代表として問題意識を抱いている」
『そうだそうだ!』
『いくら学費が安いからってあんまりだ!改善を要求する!』
『そもそもAクラスだって同じ学費だろ?』
まぁ、不満は抱いてないって言ったら嘘になるけどさ……でも、Aクラスへ行けるチャンスはみんな平等にあったよね?
「みんなの意見はもっともだ。そこでこれは代表としての提案なのだが――」
あれ?これはまさか……
「――FクラスはAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う」
ですよねー。オレたちの代表は戦争の引き金をひいたのだった。