バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
「明久に光正よ。教室に早く戻ってきてくれんかの?」
一回戦が終わった後、校庭の特設ステージに秀吉が走ってきた。ん?何かあったのか?
「あれ?喫茶店で何かあったの?」
「うむ。少々面倒な客がおっての。すまぬが話は歩きながらで頼む」
ん?面倒な客だと?
「雄二は?こういう面倒な客には雄二が対応するのが一番だろ」
「確かにそうなんじゃが、先ほどから姿が見えなくてのう……」
まさか、こんな時に鬼ごっこをしているんじゃ……
「……ってあれ雄二じゃない?おーい!」
「ん?明久に光正、秀吉か。どうした?」
「どうしたもこうしたも。今、面倒な客が来ているらしいんだよ」
「面倒な客だと?営業妨害か?」
「あはは。まさかそんな……」
「雄二の言ったとおりじゃ」
営業妨害か……仕掛けるのが早いな。
「相手は?どこのどいつか分かるか?」
「うちの学校の三年じゃな」
まさか、三年生とは……
「まぁ、雄二が始末して来てくれ。オレは暴力で解決するのは苦手なんだ」
「はぁ。明久はともかく光正は腕っ節は強そうに見えるんだがな……まぁいい」
Fクラス教室前。ここまで声が響いている。どうやら、本当に妨害をしているらしいな。それも相当鬱陶しいぐらいにだ。
「ちょっくら始末してくるか」
首をコキコキと鳴らしながら教室の扉に手をかける雄二。
「マジできたねぇ机だな!これで食い物扱っていいのかよ!」
雄二が扉を開けるなり例の先輩の罵声が聞こえてくる。
どうやら、クロスを剥がし文句を言っているようだ。
そして、周りのお客さんもそれにつられ、食べる手が止まり、全体的に空気が重い。
「こりゃ、ちょっと面倒なことになってるな……」
「雄二、早くなんとかしないと経営に響くよ」
「そうだな……。秀吉、ちょっと来てくれ」
「?なんじゃ?」
雄二が秀吉に耳打ちをする。秀吉に頼むという事は演劇用の小道具関係なのだろうか?
「了解じゃ。すぐに戻る」
そう言い残して、教室内のクラスメイト数名に声をかけて秀吉は去っていった。
「明久。お前はあの小悪党どもの特徴をよく覚えとけ」
雄二は兄さんに指示を出し、クレーマーに近付いていく。
「?よくわかんないけど、了解」
この二人、特徴は坊主とモヒカンか……兄さんでも覚えやすい特徴だ。
さて、この妨害をどう見るべきか。こいつらのただのやんちゃな悪戯か。それとも……
「まったく、責任者はいないのか!このクラスの代表ゴペッ!」
「私が代表の坂本雄二です。何かご不満な点でも御座いましたか?」
模範的な責任者を思わせるような物腰の雄二。ただ残念な点を挙げるとするなら、話かける前に客を殴り飛ばしたことぐらいだ。
「不満も何も、今連れが殴り飛ばされたんだが……」
殴られていない方のソフトモヒカンが驚いている。無理もないだろう。いきなり連れが殴られたら驚くのは普通の反応だ。
「これは私のモットーの『パンチから始まる交渉術』に対する冒瀆ですか?」
それは交渉術じゃない。
「ふ、ふざけんなよこの野郎……!なにが交渉術ふぎゃあっ!」
「そして『キックでつなぐ交渉術』です。最後には『プロレス技で締める交渉術』が待っていますので」
「わ、わかった!こちらはこの夏川を交渉に出そう!俺は何もしないから交渉は不要だぞ!」
「ちょ、ちょっと待てや常村!お前、俺を売ろうと言うのか!?」
なんだろう。仲間に売られそうになって慌てる夏川と呼ばれた坊主と仲間を売る常村と呼ばれたモヒカン。この二人の友情は兄さんと雄二を思わせるよ。
「それで常夏コンビとらや。まだ交渉を続けるのか?」
あ、雄二の仮面が外れた。やっぱり慇懃な態度はあんまり継続しないみたいだ。
「い、いや、もう充分だ。退散させてもらう」
常村(モヒカン)先輩が雄二から剣呑な雰囲気を感じ取って撤退を選ぶ。賢明な判断だ。
「そうか。それなら――」
大きく頷いた後、夏川(ボウズ)先輩の腰を抱え込む雄二。
「おいっ!俺はもう何にもしてないよな!?どうしてそんな大技をげぶるぁっ!」
「――これにて交渉は終了だ」
バックドロップを決めて平然と立ち上がる。うん、交渉の余地なし……と。
「お、覚えてほべがぁっ!」
「おっと、先輩。まさか、大々的な営業妨害をし、加えて無銭飲食で逃げるおつもりですか?」
廊下に飛び出たタイミングでモヒカンを蹴り飛ばす。
「無銭飲食だと!?俺たちは何も頼んでないぞ!」
マジかこいつら。本当に妨害じゃねぇか。
「それにこんな店で食う気は起きねぇだろ!」
あ、言っちゃいけないこと言った。
『確かに。これじゃ、食っていく気はしないな』
『折角美味しそうだったんだけどね』
『食ったら腹壊しそうだからなぁ』
クロスの中を目の当たりにし、音を立てて一人目が立つ。あれは……竹原教頭?
一人目が立つと、次々と客が席を立ってしまう。集団心理だ。このままでは悪評は間違いなく学校中に広まるだろう。
「ほら!周りのお客さんも同じことを思っているようだぜ!」
勝ち誇ったような顔をする常夏コンビの常のほう。あー面倒だなこいつら。
「失礼しました。こちらの手違いでテーブルの到着が遅れたので、暫定的にこのような物を使ってしまいました。ですが、たった今本物のテーブルが到着しましたのでご安心下さい」
お、ナイスタイミング。雄二が頭を下げ、その後ろには秀吉や男子数名がまともなテーブルを運んでいる。
なるほど。あれは演劇部で使ってる大道具のテーブルだな、こうすれば客の前で衛生面を改善した姿を見せられるってことか。
「だそうだが?これでいいだろ?さぁ、金を払って貰おうか」
「だから!俺たちは何も頼んでないって!」
「この注文書を見ろ」
パンチ 1回 500
キック 1回 500
バックドロップ 1回 1000
交渉セット割引 -500
―――――――――――――――――――――
合計 1500円
「――っておいこら!これは料理じゃねぇだろ!」
「おいオレは金を払えって言ったんだ。さっさと払えよ。まさかあの一連の交渉がタダだと思ってるのか?もう一回やるぞ」
ただし、次は雄二でなくオレがやるが。
「不当だ!弁護士を呼べ!」
「お前ら雄二のフルコースを
「食うと喰うは漢字がちげぇよ!」
「知るか。早くしないと鉄人を呼ぶぞ」
「ググッ……これでいいか?」
お、きっかりお金を出してくれる。お釣りのやり取りがなくてよかった。というか鉄人の名前って脅しに使えるんだなぁ……。
「お会計ありがとうございます。またのご来店を心からお待ちしておりません」
「「もう来るかよ!こんな店!」」
さて、教室に入るか。
「姫路に島田か。その様子だと勝ったみたいだな」
あれ?いつの間にか島田さんと姫路さんのペアが戻ってきている。
「一応ね。それより、喫茶店は大丈夫なの?」
あっ……そういえばさっきの騒動で客は減ったな。ついでに悪評も流れるだろうし。
「このまま何も妨害がなければ問題ないな」
どうやら、雄二はこの先の妨害を危篤しているようだな。
「あの、持ってくるテーブルは足りるんですか?」
どうやら、テーブルを入れ替える方針にしたらしいな。まぁ、妥当なところだろう。
「ああ、それか。そうだな……明久、光正。二回戦まであとどのくらい時間がある?」
オレと兄さんは時計を見て確認する。
「僕らは小一時間ってとこかな」
「そうだな」
「そうか、あまり時間ないし……ちゃっちゃと行くか。二人共、ついて来い」
うーん。どこに行くつもりだろうか?
「ウチらは手伝わなくていいの?」
指名を受けなかった島田さんが雄二に尋ねる。
「島田と姫路は喫茶店でウェイトレスをやってくれ。落ちた評判を取り戻す為に、笑顔で愛想よく、な」
「はいっ!頑張ります」
どうやら姫路さんはやる気充分のようだった。
「それよりも雄二。どこに行くんだよ」
呼び止めると、雄二は口の端を吊り上げて、
「テーブルの調達だ」
悪そうな笑みで答えた。うわー嫌な予感がするなぁ。