バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
Aクラスへの宣戦布告。
これはFクラスにとって現実味の乏しい提案である。
オレですら、この提案は無謀という言葉が似合うと思っている。
『勝てるわけがない』
『これ以上設備が落とされるのは嫌だ』
『姫路さんがいたら何もいらない』
案の定と言うべきかクラスメイトからは否定の言葉が出てくる。
さすがにバカのFクラスであっても、Aクラスとの差が絶望的であることは理解しているようだ。
「そんなことはない。必ず勝てる。いや、俺が勝たせてみせる」
反対意見が多い中雄二は宣言する。その表情には自信が溢れていた。
「ふーん。根拠は?」
オレはそう聞く。こういう時は否定的な意見を述べるだけじゃダメだ。根拠の有無。そして、その根拠が本当に正しいか。これを確認する必要がある。
「根拠ならあるさ。このクラスには試験召喚戦争で勝つことのできる要素が揃っている。今からそれを説明してやる」
勝つことのできる要素……か。相手はAクラス。ある程度強いカードじゃなければ根拠にならないけど……
「おい、康太。畳に顔をつけて姫路のスカートを覗いてないで前に来い」
「…………!!(ブンブン)」
「は、はわっ」
必死になって顔と手を左右に振って否定のポーズを取る。さすがと言うべきか?堂々と恥も外聞もなく女子のスカートの中を除く人間がここに存在している。うちの手鏡から必死に覗こうとしていた時期のあった兄さんと雲泥の差だ。
「土屋康太、こいつがあの有名な
「…………!!(ブンブン)」
土屋康太という名前はそこまで有名じゃない。しかし、ムッツリーニという名前はこの学年なら誰でも知っている。もはや、共通認識だ。男子には畏怖と畏敬を、女子には軽蔑を以って挙げられる名だ。
『ムッツリーニ……だと?』
『馬鹿な、ヤツが……?』
『だが見ろ。あそこまで明らかな覗きの証拠を未だに隠そうとしているぞ……』
『まさにムッツリの名に恥じない姿だ』
さすがムッツリーニだ。自分の下心丸出し行動を今だ隠そうとしている。しかも堂々とだ。
「???」
ちなみに姫路さんの頭には疑問符が浮かんでいるが……って、ちょっと待って。何でムッツリーニが戦力になるか言ってなくない!?
そう思う中雄二の話は続く。
「姫路とそこの吉井弟は説明するまでもない。皆もその力は良く知っているはずだ。うちの二大戦力だ。期待している」
二大戦力ねぇ……これで、ムッツリーニがどういう戦力か説明するのをカットしやがった。ついでにオレたちも。
『そうだ。俺たちには姫路さんがいる』
『それに、賢い方の吉井もいるんだ』
『この二人ならAクラスにも負けていない』
『姫路さんさえいれば何もいらない』
おい誰だ。さっきから、場違いなことを言い続けている奴は。
「木下秀吉だっている」
秀吉は学力では名前を聞かない。ただ、他のことで有名だ。演劇部のホープだとかまぁ、いろいろと。
『おお……!』
『アイツ確か、木下優子の……』
「当然俺も全力を尽くす」
『確かになんだかやってくれそうだな』
『あいつって、小学校の頃は神童とか呼ばれてなかったか?』
『もしかしてうちのクラスにはAクラスレベルが三人も……!』
さすが雄二。誘導が上手い。
今上がった5人は誰一人として学力のことも、召喚獣のことも言ってない。それなのに、こんなにも勝てるかもと思わせ、士気を上げるとは……場を支配する力がこのFクラスの中で群を抜いている。
さぁ、このクラスの士気を上げた今、次は誰の名前を出す?
「それに吉井明久だっている」
そして士気は一気に下がった。
「ちょっと雄二!どうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ!」
『誰だそいつ?』
『さぁ?賢い方の吉井は知っているけど』
なるほど。うちの兄さんはオチ扱いか。
「知らねぇなら教えてやる。こいつはバカな方の吉井で文月学園初の
『それってバカの代名詞じゃねぇのか?』
「ああ、バカの代名詞だ」
「肯定するなバカ雄二!」
ここで観察処分者いうものを説明しよう。
観察処分者とは、成績不良、学習意欲に欠け、学生生活を営む上で問題のある生徒に課せられる処分の事だ。
まぁ、仕事といえば教師の雑用係で、力仕事とかそういった雑用を行う。普通の召喚獣は物に触れる事は出来ない。しかし、観察処分者の召喚獣は特例として物に触れる特別製だそうだ。
これだけ聞いたら羨ましいと思うかもしれない。
しかしそんな甘い処分では無いのだ。
理由としてまず、召喚獣というのは教師の立会いがないと喚び出せない。
これは、オレら普通の召喚獣もそうだし、兄さんの特別仕様の召喚獣でもそうだ。
つまり、自分が使いたい時に使えない。使えるのは教師の監視がある時だけでそこに自由なんてものは存在しない。
次に召喚獣の負担の一部が操る本人にフィードバックするから。
オレらの召喚獣は戦ってダメージを受ければ点数が減る。しかし、召喚者本人にダメージが来るわけでは無い。だから、自分の召喚獣がどれだけダメージを受けても、またどれだけ酷使しても、痛みや疲労がフィードバックすることは無い(ただし、召喚獣を操る集中力による疲労は別)。
しかし、兄さんの召喚獣がもし、戦争でダメージを受けたら、その一部が兄さんの身体にも返ってくるのだ。
自分の為には使えない上に疲労や痛みを感じる。まぁ、罰にはふさわしいか。だからこそ、ペナルティであり、バカの代名詞であろう。
『おいおい。《観察処分者》って事は、試召戦争で召喚獣がやられると本人も苦しいって事だろ?』
『だよな、それならおいそれと召喚出来ないヤツが一人いるってことだよな』
血気盛んで喧嘩をフッかけるタイプならこんなこと関係なしに喜々として戦場へはせ参じるが、生憎うちの兄さんはそんなタイプでは無い。
「気にするな。どうせ、いてもいなくても同じような雑魚だ」
「雄二、そこは僕をフォローする台詞を言うべきところだよね?」
「とにかくだ。俺たちの力の証明として、まずDクラスを征服してみようと思う」
大胆にスルーしたなー
「皆、この境遇は大いに不満だろう?」
『当然だ!』
「ならば全員筆ペンを執れ!出陣の準備だ!」
『おおーーっ!!』
「俺たちに必要なのは、卓袱台ではない!Aクラスのシステムデスクだ!」
『うおおーーっ!!』
「お、おー……」
戦うのは面白そうだけど……あんまり、いい気がしないな……
だって、Aクラスに勝ってしまったら彼女がこの教室を使うことになってしまう。それだけは嫌だ。……って、何であいつの心配しているんだろう?
「明久にはDクラスへの宣戦布告の使者へとなって貰う。無事大役を果たせ!」
雄二が兄さんにそんな事を言っているが……
「下位勢力の宣戦布告の使者って大抵酷い目に遭うよね?」
どうやら小学生と同レベルの脳みそを持つ兄さんでも、それぐらい分かっているみたい。
「大丈夫だ。奴らがお前に危害を加える事はない。騙されたと思って行ってみろ」
「本当に?」
「もちろんだ。俺を誰だと思っている」
極悪非道、自分の作戦のためなら友人をも平然と騙し、捨て駒にする男。
「大丈夫だ。俺を信じろ。俺は友人を騙すような真似はしない」
雄二のどこを見て信じろと?これで信じるほど兄さんはバカでは無い――
「わかったよ。それなら使者は僕がやるよ」
――と信じていたオレがバカでした。これだから、うちのバカは……
「ああ、頼んだぞ」
雄二がそう言うと兄さんは誇らしげな表情のまま、我らがFクラスのクラスメートの歓声と拍手に送りだされ、教室を出て行った。
「で?お前は止めなくてもよかったのか?光正」
「別に。行くという決断を下したのも、騙されて行ったのも兄さんの自己責任。オレには関係ない」
「やっぱり、分からねぇ。何でお前程の男が明久を兄さん呼びなのかが」
「とか言いつつ実際、分かってるんでしょ?兄さんを兄さんと呼ぶだけの価値があの人にはあるということを。だから、Aクラスに勝つための戦力として名を上げたんでしょ?」
「さぁな。さて、作戦でも考えようか。お前も手伝え光正」
「はいはい。雄二代表?」
その後、ボロボロになって、兄さんが帰ってきたのは言うまでもない。