バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
『お待たせいたしました!これより準決勝を開始したいと思います!』
オレたちが到着すると審判を務める先生のアナウンスが流れた。どうやら時間ギリギリだったらしい。
『出場選手の入場です!』
さてと……
「行くぞ!」
「おうっ!」
拳をぶつけ合い、入場し、お客さんの前に立つ。向かい側からは対戦相手の霧島さんと木下さんがやってきた。
「まさか、Fクラス生徒がここまで残るとは正直予想外だわ」
木下さんが疑問とも侮蔑とも取れそうな言葉を発す。まぁ、確かにそれは思ったけどね。
「予想外ねぇ。まぁ、頭が足りていなかったということで」
「へぇ。言ってくれるじゃない。でも不思議ね」
「何が?」
「もしFクラスから優勝者を本気で出そうと考えるなら、姫路さんと光正君。この二人がペアで来られたらかなり優勝の可能性があったと思うのだけど」
まぁ、一理あるね。少なくとも島田さんより点数的には上だし……でもそれやると本来の目的が達成されなくなるんだよな……。
「そこは雄二に聞いてくれ。何でもオレたちは雄二に参加するように言われたからな」
「坂本君が?」
「ああ、優勝商品が狙いらしい」
「本人は?彼が出ればいいじゃない」
「生憎、Fクラスの喫茶店を経営するのに雄二の力は必要不可欠でね。こうして、大会に出る余裕があまりないんだよ」
「ふ~ん」
木下さんは納得したような感じになる。まぁ、嘘はついていない。
「光正。雄二が言っていた作戦って?」
「ああ。木下さんと秀吉を入れ替える作戦」
「ということは今目の前にいるのは秀吉か!さすが秀吉。光正と話しているのを見ても本物としか思えない。――――頼んだよ秀吉!」
「ふふっ」
「秀吉。木下さんの演技はいいから、早く僕らと――」
「秀吉?秀吉ってあのゴミのこと?」
木下さんがステージ脇の一角を指す。そこにあったのは……
「ひ、秀吉!?どうしてそんな姿に!」
ボロボロにされ、しかも手足を縛られた秀吉の姿だった。
「何故だ!雄二の作戦は完璧だったはず!」
「……雄二の考えていることぐらい、私にはお見通し」
幼なじみってすっげぇ……。
「ま、匿名の情報提供と……」
そういいながら木下さんは指をさす。
「彼の情報提供のお陰かな?」
「身近なところに裏切り者がぁ!?」
兄さんが驚くのも無理はない。その裏切り者はとても近くにいる存在だったのだ。そう、とても近くに……。
「やだなぁ兄さん。オレはフェアにやりたいだけだよ」
まっ、その裏切り者ってオレなんだけどね。
「そもそも気付こうよ兄さん。オレが平然と木下さんと会話していたことに」
雄二の作戦を知らないなら迂闊に動き作戦が相手にばれるのはよくないし、知っているなら秀吉にボロを出させないために入れ替わる木下さんと話すのは得策では無い。まぁ、考えが及ばなかったということで、雄二の考えた策は半分失敗だね。主にオレの裏切りのせいでもあるけど。
「……すまぬ雄二。ドジを踏んだ」
倒れていた秀吉が起き上がり、申し訳なさそうに唇をかむ。
まぁ、裏切るつもりなら秀吉を事前に止めとけって話だが、こっちの方が面白そうだと思ったということで。
「…………!!(パシャパシャパシャパシャ!)」
「ムッツリーニ!いつの間に!?」
そして、カメラを構えたムッツリーニがオレたちの前に現れる。
「
「兄さん。本音が混ざってるよ」
本当に兄さんは嘘のつけない人だと思う。
「…………了解」
小さく頷くとムッツリーニは秀吉の縄を解いた。
「おとなしくギブアップしてくれると嬉しいな。弱いものいじめは好きじゃないし」
「アハハ、そっちこそギブアップしてくれるとオレたちが喜ぶよ。……それにギブアップしてくれたら霧島さんにメリットがあるしね」
「……何?」
お、喰いついた。さてと……
「ムッツリーニ。頼んでおいたものを!」
「…………(さっ)」
「霧島さん!これを見るんだ!」
「なっ!光正それは……!」
「こうせえええええぇぇぇぇっ!」
隣にいる兄さんも驚く。フフフ、無理もない。ん?今観客席の方からゴリラの鳴き声がしたような……気のせいか。
「……ムッツリーニ。何でそんなの作っちゃったの?需要が無さすぎるよ」
「…………俺は仕事人。報酬さえ受け取れれば、頼まれた仕事はしっかりこなす」
「か、かっこいい……ん?でも、光正は何を報酬に用意したの?」
「ん?あぁ、兄さん所有する成人向けの本」
「ちょっと待つんだ!何勝手に人のシークレット本を報酬にしているのさ!」
「報酬は明日渡そう」
「…………分かった」
「分からなくていいから!」
まぁ、報酬はしっかりと渡さないとね。
「これが欲しければ降参するんだ!」
「……雄二の写真集……欲しいかも…………私の雄二コレクションが増える」
雄二コレクションって何だ?何故だろう。触れてはいけない気がする……。
「だ、代表!?」
そう。オレが頼んでおいたものは雄二の写真集だ。決して、女装ものでは無い。ムッツリーニが手際よくやってくれたおかげで綺麗な一冊が出来た。
「では、少し中を見てみますか?」
「……(こくこく)」
オレは霧島さんの元に届けに行く。すると……
「お前は何を考えていやがる!光正!」
息を切らし、大声で叫ぶ赤ゴリラ。もとい雄二がオレと入れ替わるようにして壇上に立つ。やれやれ……
『秀吉と木下さんを入れ替えても無駄だよ。絶対にどこかでボロが出る。だったら降参させた方がいい』
霧島さんに写真集を軽く見せている間、オレはアイコンタクトで雄二と会話する。
『分かった。降参させるという案はいい。ただな……何で俺の写真集が作られているんだよ!』
『霧島さんを釣るため』
『バカ野郎!その俺の黒歴史となりかねない本を寄越せ!』
『へいへい』
「……あっ」
「ごめんね霧島さん。……これ以上は降参してからだよ」
そう言い残し、もとの自分の位置まで戻る。
さて、これで彼女の頭に降参という二文字が選択肢として刻まれたはずだ。さぁ、ダメ押そう。
『雄二。オレの指示通り
『ッチ。どんな手でも使えって言ったのは俺だ。分かったいいだろう』
フフフ。さぁ、ゲーム開始だ。……念のため秀吉を呼んでおこう。
〈翔子、俺の話を聞いてくれ〉
「翔子、俺の話を聞いてくれ」
〈俺はどうしてもこいつらを優勝させたい〉
「俺はどうしてもこいつらを優勝させたい」
〈もし、こいつらが優勝できたら俺はお前にプロポーズする〉
「もし、こいつらが優勝できたら俺はお前にプロポ――」
〈愛している、翔子〉
「――って誰が言うかボケェ!」
「兄さん!」
「オッケー……くたばれ」
「くぺっ!?」
兄さんが優しく?後ろから雄二の頸動脈を押さえる。よし……
「秀吉、頼む」
「分かったのじゃ」
ここで秀吉の出番。声真似で止めを刺す!
「だからここは譲ってほしい。そしたら必ず優勝させる!そして、この2人が優勝したら結婚しよう」
ちょっと意味が分からないが、最後だ。
「愛してる、翔子」
「……雄二。私も愛してる……」
攻略完了。というか、指示していない台詞が追加されていたような……気のせいか。
「ま、待て……。俺は愛してなど――」
「兄さん」
「うん」
「――こぺっ!?」
素直になれない奴だ。仕方ないから首をひねって静かにさせてあげたよ。……兄さんが。
「ふはははは!これで最強の敵は封じ込めた!残るは君だけだ、木下優子さん!」
「ひ、卑怯な……」
霧島さんが雄二の亡骸に抱き着いて、胸元に顔を埋めている。雄二の手足が力なく垂れ下がってるのは気のせいであろう。
「でも、負けるわけにはいかない!行くよ――
「ふふっ。それはどうかな?この勝負科目が保健体育だったことを恨むんだね!」
これは雄二に考えていた残りの半分だが……まぁ、生かせるものは生かす。どれだけだ。
「「いくよっ!
「…………試獣召喚」
オレと兄さんの言葉が重なり、その後、静かに呼ぶ声がした。出現する召喚獣は二体。片方はオレの召喚獣だが、もう片方はたとえAクラスの木下さんでも太刀打ちできない強さを持った――
「え!?片方、土屋君の……!」
ムッツリーニの召喚獣である。これは雄二の考えた秘策『代理召喚(バれない反則は高等技術)』である。ただし、この秘策には欠点がある。それは時間が経つとバレてしまう点だ。まぁ、そんな欠点は……
「…………加速」
「ほ、本当に卑怯――きゃぁっ!」
初撃から腕輪の能力を駆使して沈めるので大した問題ではない。
『Aクラス 木下優子&霧島翔子
保健体育 321点&UNKNOWN
VS
Fクラス 吉井光正&土屋康太
保健体育 341点&511点 』
「よしっ!僕と光正の勝利だ!」
正確にはオレとムッツリーニのな。
『……ただいまの勝負ですが――』
あっ、やべっ。物言いがつきそうだ。
「霧島さん。オレたちの勝ちでいいよね?」
「……それは」
「翔子愛してる(秀吉)」
「……私たちの負け」
霧島さんも認めてくれたし、これで正式な勝利だ。文句の言いようがない。
『……わかりました。吉井双子ペアの勝利です!』
勝ち名乗りを受け、オレたちは手を挙げ観客に向き直る……が、観客たちはオレたちを冷めた目で見ていた。まぁ、そうだよな。召喚獣の大会なのに召喚獣出てきたの一瞬だし。
「はい、霧島さん。約束のもの」
「……ありがとう」
「それじゃ、僕らはこれで」
とりあえず、ペコッっと一礼。罵声が聞こえてくる前に教室へ撤退しよう。
「光正。なかなかの読みじゃったな」
「まぁね。でも兄さんとムッツリーニの代理召喚も成功して良かったよ」
「…………作戦勝ち」
「僕ら四人のチームワークの勝利だね」
これで残るは決勝だ。さて、気合を入れ直すか……。
「ところで、雄二をあのままにしておいて良いのか?」
「え?別にいいんじゃない?」
「何か問題あった?」
「そうか。二人が言うのであれば良いのじゃが」
「まぁまぁ。それはこの清涼祭で話せなかった分ということで」
「そうそう。それに雄二もたまには素直になるべきだと――」
「霧島が雄二に一服盛って持ち帰ろうとしておったので心配になっての」
「き、霧島さん!雄二には店の経営があるからクスリは許して!」
「雄二はまだ必要不可欠な存在なんだ!頼むから今は勘弁してくれ!」
引き返したオレたちが見たのは、虚ろな目をしてタキシードに着替えている雄二の姿だった。