バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
誘拐騒ぎも解決して、喫茶店の一日目も終了したFクラスの教室。そこにはオレと雄二、兄さんの三人が残っていた。
「お前ら。そろそろ来る時間だぞ」
テーブルで読書をしていると雄二がそう言いだした。
「?来るって、誰が」
「誰を呼んだんだ?」
「ババァだ」
ババァ……あー学園長ね。
「学園長がわざわざここに来るの?」
「本当に?」
「俺が呼び出した。さっき廊下で会った時に、『話を聞かせろ』ってな」
「話ねぇ……ダメだよ雄二。一応相手は目上の人なんだから、用事があるならこっちから行かないと」
「そうだよ。相手はオレたちより歳が遥かに上なんだよ?用事があるならオレたちが動かないと」
「用事もクソも……この一連の妨害はあのババァに原因があるはずだからな。事情を説明させないと気が済まん」
「ババァに原因が――えぇぇっ!?」
雄二が当然のように告げた言葉に兄さんが驚きの声をあげる。
まぁ、オレも今回の事件の黒幕は教頭だと思うが、その原因が学園長にある……少なくとも今回の事件の一端は学園長の責任だと思っている。
「あ、あのババァ!僕らに何か隠してたのか!」
「……やれやれ。わざわざ来てやったのに、随分な挨拶だねぇ、ガキどもが」
声と同時に教室の扉が開く。
「来たかババァ」
「久し振りババァ」
「でたな諸悪の根源め!」
「おやおや、いつの間にかアタシが黒幕扱いされてないかい?」
学園長はあくまで自分は被害者ですといった様子で肩をすくめる。
「黒幕ではないだろうが、俺たちに話すべきことを話してないのは充分な裏切りだと思うがな」
「同意」
「……ふむ……。やれやれ。賢しいヤツらだと思っていけど、まさかアタシの考えに気づくとは思ってなかったよ」
「最初に取引を持ち掛けられた時からおかしいとは思っていた。あの話だったら、オレたちに頼む必要性がない。もっと高得点を叩き出せる優勝候補を使えばいいから」
「あ、そういえばそうだね。優勝者に後から事情を話して譲ってもらうとかの手段を取れたはずだし」
「そうだ。わざわざ俺たちを擁立するなんて、効率が悪すぎる」
つまり、効率が悪くてもオレたちを擁立する必要があったということだ。
「話を引き受けていた教頭の手前おおっぴらに妨害することができない、とかは考えなかったのかい?」
「それなら教室の補修に関して渋ったりなんかしないはずだ。教育方針なんてものの前にまず生徒の健康状態が重要なはずだからな。教育者側、ましてや学園の長が反対するなんてありえない」
「率直に言えば、オレたちを召喚大会に出場させる為にわざと渋った。そうでしょ?」
「そういうことになるな」
ようやく兄さんも少しずつこのロジックが分かり始めたようだ。
「明久。あの時、俺がババァに一つの提案をしたのを覚えているか?」
「提案?えーっと」
「科目を決めさせろってヤツかい。なるほどね。アレでアタシを試したワケかい」
「ほんと、ちゃっかりしているよね」
ババァの筋書きに乗ったと見せかけて実は手を打っておく。うん。狡猾で合理的だ。
「ああ。めぼしい参加者全員に同じような提案をしている可能性を考えてな。もしそうだとしたら、俺たちだけが有利になるような話には乗ってこない。だが、ババァは提案を呑んだ」
「提案を呑んだということは、他の人たちじゃなくてオレたちが優勝しないとババァは困る」
「他にも学園祭の喫茶店ごときで悪質な営業妨害が出た。そして、俺らの邪魔をしてくる連中が姫路たちを連れ出したりしたのが決定的だった。ただの嫌がらせならここまではしない」
確かに。今思うとムッツリーニが盗聴器を取りつけていなかったら取り返しのつかないことになっていただろう。…………盗聴器を取りつけたことは問題だけど。
「そうかい。向こうはそこまで手段を選ばなかったか……すまなかったね」
と、突然ババァが頭を下げてくる。えぇ!?あのババァがぁ!?
「アンタらの……特に兄の方の点数だったら集中力を乱す程度で勝手に潰れるだろうと最初は考えてたんだろうけど……決勝まで進まれて焦ったんだろうね」
もしかすると、このババァ。オレたちが思っているよりいい人かもしれない。
「まぁ、敵もオレたちを甘く見過ぎだ。オレと雄二が策をしっかり考えればこんな大会ぐらい問題なく決勝まで進める」
「……あれ?結構問題の連続だったような……」
それは言わないお約束だ。
「さて、こちらのタネ明かしはこれで終わりだ。今度はそっちの番だ」
「はぁ……。アタシの無能を晒すような話だから、できれば伏せておきたかったんだけどね……」
「どうせ、オレたちはここまで関わらされたんだ。話して下さいよ。全部」
だから誰にも公言しないで欲しい。そんな前置きをして、学園長はオレたちに真相を明かした。
「アタシの目的は如月ハイランドのペアチケットなんかじゃないのさ」
だろうな。予想通りだ。
「ペアチケットじゃない!?どういうことですか!?」
「アタシにとっちゃあ企業の企みなんかどうでもいいんだよ。アタシの目的はもう一つの賞品なのさ」
「もう一つ……『白金の腕輪』だな」
「あの特殊能力がつくとかいうやつだろ」
白金の腕輪は二つある。一つはテスト点数を二分して二体の召喚獣を同時に召喚することのできる腕輪。もう一つは教師の代わりに立会人になって召喚フィールドを作ることのできる腕輪。こっちは使用者の点数に応じてフィールドの範囲が変化し、科目はランダムに選択されるらしい。
「そうさ。その腕輪をアンタらに勝ち取って貰いたかったのさ」
「僕らが勝ち取る?回収して欲しいじゃないわけじゃなくて?」
「あのな……。回収が目的なら俺たちに依頼する必要ないだろう?そもそも、回収なんて真似は極力避けたいだろうし、な」
雄二が学園長を揶揄するように話を振る。
「坂本といい吉井弟といいよく頭が回るねぇ……。そうさ。できれば回収なんて真似はしたくない。新技術の革新は使って見せてナンボだからね。デモンストレーションもなしに回収したら、新技術の存在自体を疑われることになる」
なるほど。できればということは最悪の場合はそれも考慮していたんだろう。
「それで、何でその『白金の腕輪』を手に入れるのが僕らじゃないとダメなんですか?」
「……欠陥があったからさ」
苦々しく顔をしかめる学園長。
「で?その欠陥はオレたちなら問題ないのか?」
「そうさ。アンタたちが使うんなら暴走は起こらずに済む……って言いたいんだけどね。不具合は入出力が一定水準を超えた時だけだからね。他の生徒には頼めなかったのさ」
「なるほどな。得点の高い優勝候補を使えないわけだ」
雄二が苦笑いする。
「えっと、つまり……?」
「アンタらみたいな『優勝の可能性のある低得点者』ってのが一番都合が良かったってわけさ」
「よくわからないけど、とりあえず褒められてるってことでいいのかな?」
「いや、お前らはバカだと言われているんだ」
「なんだとババァ!」
本当に兄さんはバカだ。よく今のを褒められていると捉えられるね。
「二つある腕輪のうち片方の召喚フィールド作成用はある程度まで耐えられるんだけどねぇ……もう片方の同時召喚用は、現状だと平均点程度で暴走するからそっちは吉井兄専用にと」
「雄二、これは褒められていると取っていいだよね?」
何故?
「いや、バカにされてる。物凄い勢いで」
「なんだとババァ」
「いい加減自分で気づけ!」
流石に雄二が怒鳴る。
「ん?でもババァ。さっきオレたちが使うなら暴走が起きなくて済むって言ったけど本当か?」
「正直言って、吉井弟。アンタは白金の腕輪を使えないさね。だから、明日は決勝以外の科目の総合点数をそこの兄と同じくらいまで調整してくれさね」
「ん。分かった」
「まぁ、それでもアンタに持たせておくにはいろんな意味で危険な代物だが」
うーん。となると明日の朝、数学と化学と物理辺りを0点にして、ちょこちょこ修正かけるか……。よし。もし白金の腕輪を手に入れたら雄二にあげよう。
「話を総合すると、俺たちの邪魔をしてくるのは学園長の失脚を狙っている立場の人間……他校の経営者とその内通者といったところだな」
「雄二、そうやって僕を会話から置き去りにするのはやめて欲しいな?」
「いいかい兄さん。オレたちの邪魔をするってことは、腕輪の暴走を阻止されたら困るってことでしょ?そんな学園の失態をよしとするヤツなんて、この文月学園に生徒を取られた他校の経営者の可能性が高い。違う?」
オレの説明を聞いてようやく納得したようだ。やれやれだ。
「ご名答。身内の恥を晒すみたいだけど、隠しておくわけにもいかないからね。恐らく一連の手引きは教頭の竹原によるものだね。近隣の私立校に出入りしていたなんて話も聞くし、まず間違いないさね」
「それじゃ、僕らの邪魔をしてきた常夏コンビとか、例のチンピラとかは」
「教頭の差し金だろうな。協力している理由はわからんが」
「まぁ、どうせ買収されたとかくだらない理由だろ」
そうでなければ協力する理由が見当たらない。
「あのさ、コレって――かなりまずい話じゃない?」
「一言で言えば、文月学園の存続問題だな」
試召戦争と試験召喚システムは、その特異な教育方針と制度で存在自体の是非が問われている。そんな状態で暴走などという問題が起きれば、学園そのものの存在意義も問われるだろう。
「あ、でも。いざとなったら優勝者に事情を話して回収したら――」
「残念ながらそうもいかない。決勝戦の対戦相手を知っているか?」
雄二がズボンのポケットから小さな冊子を取り出す。書き込まれているトーナメント表を追ってくとオレと兄さんの相手は、
「常夏コンビ……」
「あの二人は教頭サイドの人間。堂々とお客さんたちの前で暴走を起こすだろう」
「つまり、回収の交渉の余地はない」
「悪いが、あんたたちにはなんとしても優勝してもらうしかないんだよ」
学園長の表情も硬い。事態はすでに深刻になってしまっている。
「まさかこんなことになっているとはな」
雄二までそんなことを言い出す。オレもここまでの事態に発展しているとは微塵も思っていなかった。
「学園長、質問です」
「なんだい?」
そんな中、兄さんがいきなり学園長に質問をする。
「腕輪の暴走って、総合科目で平均点にいかなければ起らないんですか?」
「そうさ。一つや二つの科目が高得点でも、その程度なら暴走は起きないよ」
「そうですか。それは良かった」
なるほどねぇ。理解したよ。
「二人とも。聞きたいことは聞けたし、今日はもう帰ろう」
「そうだな。帰ってやることもあるし――明日も早いしな」
「うんうん。もうここにいる意味もないしね」
「それじゃ、アタシは学園長室に戻るから……アンタたち。明日は頼んだよ」
「はい」
こうして学園祭初日は幕を閉じた。