バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
「光正。その……一緒に帰ろ?」
玄関に行くと紫乃が待っていた。後ろには兄さんと雄二がいていつもならいじられたり嫉妬されたりしていたが、今日の二人はそんな事する余裕がない。まぁ、オレも本当は一分一秒が惜しいが……
「じゃあ、帰るか」
……オレにはここまで待っていてくれた紫乃に対し、そんな断るという残酷な答えを与えることができなかった。別に待っていたのは本人の勝手だからオレには関係ないし断っても気に病む必要はない……気に病む必要はないんだが……
「兄さん。食材買って帰るから遅くなる。夕食は三人分でいいな?」
「うん。分かった」
「悪いな光正」
「気にするな」
兄さんと雄二は足早に家を目指す。そりゃそうだ。時間は有限なんだ。後十何時間で兄さんの日本史をどこまで引き上げられるか。これが決勝の鍵となるのだから。
「じゃあ、帰るか……」
「うん…………手繋いでいい?」
「いいよ」
「ありがとう」
今日の紫乃の手は前繋いだ時よりもどこか儚げで弱弱しく感じた。
歩き始めて十数分ぐらい経っただろうか。
「ちょっと、そこの公園で休憩しない?」
「分かった」
ちょうど小さな公園があったので休憩がてらベンチに腰掛ける。
「悪かった紫乃。お前を巻き込んでしまって……」
「え……?」
「不良に連れてかれた件。オレがもっと警戒すべきだった」
オレが営業妨害に関してもっと重く受け止めていたら?もっとあらゆる可能性を考慮して対処していれば?紫乃が巻き込まれることも紫乃に……いや、彼女たちに怖い思いをさせなかった。これは完全にオレのミスだ。対処を怠った。相手を軽視した。それゆえに起きてしまったものだ。
「こ、光正は悪くないよ……それにほら。私は気にしていないし……」
「嘘だ」
「え……?」
「本当はすごく怖かった。今も怖い。でも、オレに心配させたら明日の決勝戦にも迷惑かもしれないし、オレにも迷惑がかかるかもしれない。だから、気持ちを抑えている……違う?」
「そ、そんなこと……」
「オレは知っている。紫乃は普段は強く見えても実は弱いことも。自分より他人を優先させてしまうことがあるのも。でもさ、今ぐらいは感情をさらけ出してもいいんじゃないか?」
そう今ぐらいは。少なくとも、この事が本当に意味で気にしなくてもいいようにするには必要なことだ。
「うぅ……ほ、本当は怖かったし、今も怖い……」
やはりか。
「ほら、胸を貸してやるから……思う存分泣いてくれ」
そう言って抱き寄せる。
「こ、光正……うわああぁぁぁぁぁん」
「ごめんね光正。あんなに泣いちゃって」
「いや、気にしなくていい」
どれぐらい経っただろうか。かなりの時間紫乃は泣き続けた。……まぁ、オレの制服の前が涙で濡れたんだけど気にしない方向で。
「制服汚れちゃったね」
「ん?ああ、俺が何とかするからいいよ別に」
「脱いで」
「はい?」
いま彼女は何と言ったのだろうか。オレには理解できない。
「私が洗っておくから脱いで」
「えぇーっと。新手の追いはぎ?」
こういう時はなんて言えばいいんだっけ?あぁ……
「きゃーこの変態ードスケベー貧乳ー(棒)」
「ちょっと待って。明らかに最後に貧乳はいらないでしょ!」
「あはは。まぁ、制服のことは気にするな」
「制服は今はおいといて、何。さっきのは弱った私に対する追撃?」
「お、それも楽しそうだね。でも今はいいや」
さすがに今はマズい気がする。本当の意味で彼女を壊しかねない。
「ねぇ、光正。もし私に何かあったらまた助けてくれる?」
そんなの決まっているじゃないか。
「もちろんだ。何度でも助ける」
たとえ自分を犠牲にしようとも。
「ふふ、でもどうして?」
「ん?」
「どうして、私を助けてくれるの?」
どうしてってそんなの…………あれ?どうしてだろ?紫乃のことが好きだから?いや、それでは理由が安直過ぎるし……あれれ?何でだろう?そもそも助ける理由なんてあったっけ?いや特に今回の場合は聞いた瞬間一瞬で思考も吹っ飛んだけど……あれ?何で思考が吹っ飛ぶ程にキレたんだ?え?どうして……?
「ふふ。相変わらずの光正で安心した。答え、いつか見つかるといいね」
「いや、そもそも答えがあるのか分からないんですけど……」
「そこら辺も含めて考えるのは大切だよ」
「えぇ……」
これは難題だ。理由なんてないんじゃないかな……?
「ありがとう。家まで送ってくれて」
「ああ、明日の朝も迎えに来るよ」
「ふふ。これから毎日迎え来てくれると嬉しいけどなぁ~」
「いいよ。毎日迎えに行ってやる。ただし、オレの時間に合わせろよ?」
「うん。じゃあまた明日!」
……ってあれ?何でオレ毎日迎えに行く的な発言をしたんだ?クソ面倒なはずなのに……
「まぁ、今は明日の決勝戦だな」
オレはスーパーの袋を抱え、紫乃の家を後にした。いつ食材を買ったんだ!って?そんなのアイツが泣き止んだ後に決まってるじゃないか。
家にて……
「二人ともご飯だよ~」
夕食が出来たので二人を呼ぶ。二人というのはもちろん雄二と兄さんである。雄二は一旦家に帰ってから荷物をまとめてオレたちの家に来た。雄二も兄さんに対し思うところがあったのだろう。
「悪い。先食べててくれ」
「後、五分……」
「冷めても知らないよー」
というわけなので、
「いただきまーす」
え?二人を待たないのかって?ああやって言う時は自分がいつ食べれるか分からなくなるパターンなので、先に食べておくのが賢明だ……と。
「風呂準備もするか」
お湯をためるのに時間がかかる以上、いつでも入れるように準備するのは大事だ。思い立ったら即行動。風呂入れてくるか……
「あれ?五分じゃないの?」
風呂にお湯を入れ始めて、食事のテーブルに戻ってくると兄さんと雄二がいつの間にか食べ始めていた。
「さすがに腹減ってな。集中が持たなかった」
「そう」
兄さんは無言で食べ続ける。
「それにしても兄さんの集中力は凄いよね」
「ああ。見ていて思うのだが……こいつ普段から勉強していればもっと賢くなってたんじゃないのか?」
「普段から勉強できないのが兄さんだから」
普段から勉強していればもう少しマシになっていたのだと思うと、ちょっと頭を抱えたくなる。
「ここ数日で日本史はある程度伸びているはずだ。ここで最後の仕上げがどこまで出来るかだが……」
「ああ。昨日までと同様、前半は雄二。後半はオレがやる」
「とりあえず、俺は限られた時間で徹底してやるから、残りは頼むぞ」
「ああ」
補足だが雄二を交えての勉強会は今日が初めてじゃない。清涼祭の大会に出場が決まってからのここ数日。特に日本史を重点にやってきた。お陰でオレも雄二も兄さんも寝不足な日々が続いているが、明日の決勝戦は学園の存亡がかかっている以上そんなことも言えない。
「ごちそうさま」
一応兄さんの為に栄養バランスをいつもよりよく考えて夕食は作っている。別に縁起を担ぐ気もないので豚カツとかそう言うのは度外視して作った。
「オレもごちそうさま。さて、格ゲーやるか」
「……お前はそれが練習になると思っているのか?」
「まぁ、召喚獣の操作というか、立ちまわり方を考えるにはオレは格ゲーが今のところやりやすいと思うけど……あーもし、白金の腕輪を手に入れたらあれか。それでフィールド貼って操作練習すればいいのか」
格ゲーでもいいけど、それはあくまで参考程度にしか考えていない。あまりその感覚でやり過ぎると相手がゲーマーだった時に簡単に読まれてしまう。うん。やはり、実戦こそが一番の練習だね。
「んじゃ、やりますか」
「本番は明日だしな」
オレたちの夜はまだまだ長いようだ。全ての決着は明日つける。その思いを秘め、ゲームに向かった。