バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~   作:アカツキ

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舞台は整った

「……えーっと。光正……いつから起きていたの?」

 

 しばらく硬直していた彼女が口を開く。いつから起きていたといわれましても……

 

「『ねぇ光正。』ってところからかな?」

「……それって全部じゃない……」

 

 おっと、するとオレはタイミングよく起きたことになるな。我ながら凄いタイミングだ。

 目の前には両手で手を覆い隠した紫乃が耳まで真っ赤にして座っている。どうしよう凄い可愛い。

 

「でもまさか、寝ていて、無抵抗な人間に対してキスしてくるとは……なかなかやりますなぁ。紫乃さん」

「言わないで。これ以上は恥ずかしくて死にそう……」

「しくしく。オレのファーストキスだったのに……」

 

 嘘では無い。少なくともオレが覚えている限り初めてだから。ただ、ファーストキスとか正直気にしたことがないが。

 

「えーっと。私も初めてだから……おあいこで……」

「そうなるわけないじゃん」

「ですよねー」

 

 明らかに落胆している紫乃。もしかして、嫌われたとでも誤解しているのかな?このままだと、逃げだしそうだな……誤解したまま。

 

「紫乃。ちょっといい?」

 

 まだそこまで体力が回復していないがそんなこと関係ない。気力と気力で立ち上がる。

 

「え?な、なに……?」

 

 彼女は告白してきた。まぁ、寝ているオレに対してだが。それでも、答えぐらいは返そう。……いい機会だしね。

 

「紫乃」

「……はい」

「オレもお前のことが好きだ。大好きだ」

「え……?」

 

 嘘偽りのない本当の気持ちだ。

 

「オレと付き合ってくれ」

「……はい!喜んで」

 

 そして、今度はオレから、紫乃にキスをする。

 

「光正……」

「紫乃……」

 

 正面から彼女の顔を改めて見る。やっぱり可愛い……あぁ、全身から力が抜けて……

 

「って、光正!?大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ。問題ない」

「問題しかないですよ!?ほら、横になってください!」

 

 支えられながら改めてベッドに横になる。

 

「悪いね……」

「こんな調子で決勝戦大丈夫ですか……?」

「気合で治す」

「まさかの精神論!?」

「多分、三十分あれば回復出来るはず……ということでおやすみ……」

「全く……おやすみ光正」

 

 こうして、オレと紫乃は晴れてカップルとなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと。行こうか光正」

「そうだね。雄二、オレ達は抜けるけど大丈夫?」

「大丈夫じゃなくても行かないとマズイだろうが」

 

 あの後本当に三十分ぐらいで回復させ、手伝いをするためにFクラスに戻ってきたが……結局オレは一時間。兄さんは三十分くらいしか手伝っていない。

 兄さんは雄二やクラスメートの計らいで寝かせてくれたそうだ。まぁ、オレも元はと言えば雄二のおかげか。なんだかんだ言いつつもこのクラスの人は優しい。もっと普段からこの優しさを見たいよ……

 

「決勝戦なんだから気合入れなさいよ」

「後で私たちも応援に行きますね」

 

 島田さんと姫路さんから声がかかる。昨日に引き続いてチャイナ姿の二人組。二日目の売り上げが好調なのも、彼女たちのおかげであろう。

 

「ここまで来たんじゃ。抜かるでないぞ?」

「相手は腐っても格上。いろんな意味で油断大敵だぞ」

「…………優勝」

「分かってる。試召戦争の時みたいなヘマはしないよ」

「油断も慢心もない。ただ全力で叩きのめすだけだ。じゃ、行ってくる」

 

 秀吉、雄二、ムッツリーニの三人が突き出した手に軽く拳をあてて、オレと兄さんは会場に向かって歩きだす。

 

「決勝戦を前に最後の妨害がくるかもしれないって思ってたけど、何もなかったね」

「小細工が通用しないと諦めたんじゃない?それか、オレたちの居場所が分からなかったか」

「そっか。屋上も保健室も普通は人来ないもんね」

 

 屋上は放送機器を使う人、保健室はけが人が来る場所で、この清涼祭中はいつもいない人がさらにいない。というか、保健室も先生いなかった気がするんだけど……まぁいいか。

 

「喫茶店の方は秀吉とムッツリーニが違法品にしか見えないスタンガン常備で警備しているし」

「砦として、あの雄二もいるんだ。大抵の連中は逃げ帰っていくね」

 

 ……というかあのスタンガン。服の上からでも通電するって言っていたけど……やっぱりアウトだろ。

 

「よその心配はいらない。ただ、勝つだけ」

「そうだね」

 

 それっきり特に会話もせず、黙々と会場に進んでいく。

 

「へぇ~観客多いね」

「流石は決勝戦だね」

 

 まぁ、特に何も思わないけど。

 

「吉井君たち。入場が始まりますので急いで下さい」

 

 オレたちの姿を見つけた係員の先生が手招きしている。うんうん。こうして係員まで用意されているということはやはり、決勝戦は違うみたいだね。

 

『さて皆様。長らくお待たせ致しました!これより試験召喚システムによる召喚大会の決勝戦を行います!』

 

 聞こえてくるアナウンスの声は今まで聞いた事のない声だった。もしかするとプロを雇ったのかもしれない。まぁ、世間の注目を集めている大会だからね。可能性として充分に考えられる。

 

『出場選手の入場です!』

「さ、入場してください」

 

 係員に軽く背中を押される。

 オレと兄さんは頷きあって、観衆の前に歩み出て行った。

 

『二年Fクラス所属・吉井明久君と、同じくFクラス所属・吉井光正君です!皆様拍手でお迎え下さい!』

 

 盛大な拍手が雨のように降ってくる。そう言えばこの観衆の中に姫路の父親がいるのかな?まあ決勝戦だからいるとは思うけど……お、紫乃発見~応援に来てくれたんだ。

 

『なんと、決勝戦に進んだのは、二年生の最下級であるFクラスの生徒コンビです!これはFクラスが最下級という認識を改める必要があるかもしれません!』

 

 おぉ。あの司会者は中々良いことを言ってくれる。そうすれば何処かにいるであろう姫路のお父さんには好印象だからね。

 まあ、もちろんそれだけじゃなく、『試験召喚システムのおかげで、最低クラスの生徒もやる気を出して学力を上げている』と言うPRも含まれているだろうけど。

 

『そして対する選手は、三年Aクラス所属・夏川俊平君と、同じくAクラス所属・常村勇作君です!皆様、こちらも拍手でお迎え下さい!』

 

 コールを受けてオレたちの前に姿を現したのは、昨日、散々迷惑をかけてくれた例の常夏コンビだ。同姓同名の二人組の線も考えていたけどどうやら違ったみたい。実に残念だ。

 

『出場選手が少ない三年生ですか、それでもきっちりと決勝戦に食い込んできました。さてさて、最年長の意地を見せることができるでしょうか!』

 

 同様に拍手を受けながら、常夏コンビはゆっくりとオレたちの前にやってきた。

 

『それではルールを簡単に説明します。試験召喚獣とはテストの点数に比例した──』

 

 アナウンスでルール説明が入る。まぁ、知っていることだし、無視しよう。

 

「やっほー先輩たち。もう子供の悪戯はネタ切れですかー?」

 

 口火を切ったのはオレだ。いや、待っていて時間を取られるのも無駄だしね。

 

「お前らが公衆の面前で恥をかかないように、という優しい配慮しだったんだがな。Fクラス程度のオツムじゃあ理解できなかったか?」

 

 うーん。Fクラス程度のオツムと言われましても……実力だけならAクラスレベルなんだけどなぁ。オレと姫路さんは。あ、後は雄二もかな?

 

「残念ですが、先輩。貴方の言葉はAクラス所属でも理解出来ないですよ?まずは日本語を……いえ、人語を覚えてから出直してください。サル山の坊主大将さん?」

「て、テメェ、先輩に向かって……!」

 

 先輩?だからどうした。

 

「先輩。一つ聞きたいことがあります」

「ぁんだ?」

「教頭先生に協力している理由は何ですか」

 

 兄さんが共謀した理由を聞いた。そういえば、それはオレも聞きたい。

 

「……そうかい。事情は理解してるってコトかい」

「大体は。それでどうなんですか?」

「進学だよ。うまくやれば推薦状を書いてくれるらしいからな。そうすりゃ受験勉強とはおさらばだ」

「そうですか。そっちの──常村先輩も同じ理由ですか?」

「まぁな」

「……そうですか」

 

 呆れた。そんなことの為に営業妨害をするとか……何考えてるんだろう。

 

「本当は小細工なんて要らなかったんだよな。Aクラスの俺たちとFクラスのお前らじゃ、そもそもの実力が違い過ぎる」

 

 おっと。この先輩たちはどうやら一回戦を見ていないらしい。まぁ、丁度いいけどさ。

 

「そうですか。それなのに態々ご苦労なことですね。そんなにオレと兄さんが怖かったんですか?」

「ハッ!言ってろ!お前等の勝ち方なんて、相手の性格や弱味につけこんだ騙し討ちだろうが。俺たち相手じゃ何も出来ないだろ!」

 

 まぁ、あの坊主先輩の台詞には確かに一理あるように思える。オレたちが今まで勝てたのは、相手の事を知っていたというのも大きい。その点では今回の対戦相手には今までの戦法が一切通じない。

 

『それでは試合に入りましょう!選手の皆さん、どうぞ!』

 

 長かった説明がやっと終わって、審判役の先生がオレ達の間に立つ。

 

「「「「試獣召喚(サモン)」」」」

 

 掛け声をあげ、それそれが召喚獣を喚び出す。

 常夏コンビの召喚獣の装備はオーソドックスな剣と鎧。高得点者の召喚獣らしく、質はかなり良さそうな物に見える。

 

 

『Aクラス 常村勇作&夏川俊平 

 日本史  209点&197点』

 

 

 なるほど。確かにAクラスに所属しているだけのことはあるね。点数はかなりのものと言える。ここまでの得点があるとすれば、あの召喚獣もただの見掛け倒しではなくかなりの強さを持っている筈。

 どうやら本当に見た目とは裏腹に勉強が多少は出来るみたいだ。

 

「どうした?俺たちの点数見て腰が引けたか?」

「Fクラスじゃお目にかかれないような点数だからな。無理もないな」

 

 常夏コンビがディスプレイを示し、オレたちに自慢してくる。

 というか、これだけの実力があるなら、受験に充分通用すると思うんだが。

 後、兄さんは怒ってるかもしれない……いや、確実に怒っている。『できることをしようとせずに、僕たちの人生で一度しかない高校二年生の学園祭を壊そうとした』『僕の大切な人たちに取り返しのつかないような酷いことをしようとした』という理由でね。

 

「ホラ、観客の皆様に見せてみろよ。お前らの貧相な点数をよ」

「夏川。あまり苛めるなよ。どうせすぐに晒されるんだぜ?」

 

 ククッとモヒカンの趣味の悪い笑い方が聞こえた。

 ねぇ、兄さん。オレも同感だよ。

 こんな奴らの為にすべてを奪われるのはバカげているよな?

 

「……前に」

「ぁん?」

「前に、クラスの子が言っていた」

「なんだ?晒し者にされた時の逃げ方でも教えてくれたのか?」

 

 ギャハハハ、と笑い声を出す坊主先輩。

 

「『好きな人の為なら頑張れる』って」

 

 ……それって、姫路さんが言っていたことじゃないか。まぁ、オレも――

 

「ハァ?コイツ何言ってんだか」

「──僕も最近、心からそう思った」

 

 ――オレも心の底からそう思うけどな。

 

 

『Fクラス 吉井明久&吉井光正 

 日本史  166点&231点』

 

 

「「なっ!?」」

 

 点数が表示されたディスプレイを見て、常夏コンビが驚愕の声をあげる。ほぉ……ここまで上げたか。

 

「アンタ等は小細工無しの実力勝負でブッ倒してやる!」

「覚悟して置けよ?先輩方?」

 

 召喚獣が獲物を構える。

 舞台は整った。見せてやろう。オレたちFクラスの力をな!

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