バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~   作:アカツキ

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バカ+プール=? ③

 そして週末。オレと紫乃は二人で校門前に向かっていた。

 

「全く。何を準備することがあるのやら」

 

 紫乃の家の前で軽く待たされたオレは疑問をぶつける。

 

「乙女には準備も必要なの。ふふ、これで光正を悩殺(のうさつ)してやるんだから」

脳殺(のうさつ)だと……!」

 

 この女……このプールでオレを殺すつもりか!

 

「……何故か光正がおかしな勘違いをしている気がするんだけど……気のせい?」

「はは、気のせいだよ……お?」

 

 オレの視線の先には既に先に行かせた兄さん。後、姫路さんと秀吉、ムッツリーニがいた。

 

「「バカなぁぁあああっ!」」

 

 そして、兄さんとムッツリーニの絶叫が響き、同時に地面に突っ伏す。何やってんだ?あのバカどもは。

 

「二人してどうしたんだ?」

「光正聞いてよ!秀吉の新しい水着がよりにもよって男物のトランクスタイプなんだよ!」

「当たり前じゃないか」

 

 何言ってんだコイツは。

 

「最近お主らはワシを女として見ておるようじゃからな。ここらで一度ワシが男じゃということを再確認させようと思ったのじゃ」

「酷いよ秀吉!君は僕のことが嫌いなのかい!?」

「………見損なった……!」

「な、なんじゃ!?なぜワシは責められておるんじゃ!?」

「き、気にしなくていいと思いますよ。木下君」

「光正。なんでこんな状況になってるの?」

「いつものことだ。気にするな」

 

 ……やはりこいつらバカだろ。そう、呆れていると、

 

「バカなお兄ちゃん、おはようですっ!」

「わわっ!?」

 

 島田さんの妹の葉月ちゃんが急に兄さんに飛びつき、兄さんが驚いたような声を出す。

 

「もう葉月ってば。アキがびっくりしてるでしょ?」

 

 少し遅れて島田さんがやって来る。

 

「やっぱり葉月ちゃんだ。おはよう」

「えへへー。二週間ぶりですっ」

 

 兄さんの背中で天真爛漫を体現したように笑う葉月ちゃん。

 

「バカなお兄ちゃんは冷たいですっ。酷いですっ。どうして葉月は呼んでくれないんですかっ?」

「あ、うん。ごめんね葉月ちゃん」

 

 呼んだらきっと、君のお姉さんがオレの兄さんを八つ裂きにしていただろう。

 

「家を出る準備をしていたら葉月に見つかっちゃて。どうしてもついてくるって駄々こねてきかないもんだから……」

 

 島田さんが溜息まじりに呟く。

 

「あれ?坂本はまだ来てないの?ウチが最後だと思ったのに」

「ん?あいつのことだしもう来ているだろ?」

「はい、もう来てますよ。今職員室に鍵を借りに行って……あ、丁度戻ってきたみたいです」

 

 姫路さんが説明していると、校舎の方から雄二と霧島さんの姿が見えた。

 

「おはよう。雄二に霧島さん」

「おはよう。翔子。坂本君」

「おう。きちんと遅れずに来たようだな」

「……おはよう」

 

 一応二人に挨拶をしておき、二人も挨拶を返す。

 

「お兄さん、おはようですっ」

 

 葉月ちゃんは大柄な雄二に物怖じもせずに挨拶をする。そう言えば最初あった時も怖がっていた様子がなかったっけ?

 

「ん?チビッ子も来たのか」

「チビッ子じゃないですっ。葉月ですっ!」

「ああ、悪い悪い。よく来たな葉月」

「はいっ」

 

 楽しそうに葉月ちゃんの頭をポンポンと手を置く雄二。意外と子供好き(意味深)で葉月ちゃんの来訪を喜んでいる(意味深)ようだ。

 

「んじゃ、通報するか」

「待て光正。何に対してかは分からないが多分誤解だ」

 

 誤解?雄二がロリ好きってこと?あーでも雄二は霧島さん一筋のツンデレか。

 

「とりあえず、早速着替えるとするか。女子更衣室の鍵は翔子に預けてあるからついていってくれ。着替えたらプールサイドに集合だ」

 

 雄二の言葉通り一旦男女に別れる……しかし、何故か葉月ちゃんがオレたちに付いて来ようとする。一応葉月ちゃんを追い返そうとすると……

 

「こらこら。葉月ちゃんと秀吉は女子更衣室でしょ。霧島さんについていかないとダメだよ」

 

 兄さんが代わりに言う。ん?なんで秀吉も?

 

「えへへ。冗談ですっ」

「ワシは冗談ではないのじゃが……?」

「ほら、遊んでないで行くわよ葉月、木下」

 

 こっちでは島田さんまでもが秀吉を女子扱いしていた。

 

「し、島田!?ついにお主までそんな目でワシをみるように!?嫌じゃ!女子更衣室で着替えるのだけは嫌なのじゃ!」

 

 当然だが、頑なに女子更衣室を拒む秀吉。

 

「あの……。それなら、木下君は一人で別の場所で着替えるっていうのはどうですか?」

 

 そこに姫路さんが手を挙げて提案する。

 

「まぁ、兄さんたちを納得させるには妥当だろ」

「……おかしいと思うのは私だけ?」

 

 大丈夫だ。オレもおかしいと思ってる。

 

「ぬ、ぬぅ……得心行かぬが、この際我慢じゃ……。水着姿を見せればきっと皆もワシのことを見る目が変わるはずじゃ……」

 

 などとブツブツ言いながら、水着の入った鞄を握り締めた。オレの予想だと、何かをやらかしていそうな気がする。

 

「よし。決まったならさっさと行こうぜ。時間が勿体無い」

「うん。そうだね」

「ほーい」

「…………(コクリ)」

 

 こうしてオレたちはそれぞれの更衣室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして二十分後……

 

「やっぱり女子はまだ着替え終わってないか」

「そうみたいだね」

「まぁ気長に待とうよ」

「…………(コクリ)」

 

 トランクスタイプの水着に着替えたオレたち四人はプールサイドで女子たちの到着を待っていた。兄さんとムッツリーニが嬉しそうにしているのが丸分かりだった。まぁ、オレも紫乃のは楽しみだけど。

 

「ムッツリーニ。心の準備はできてる?命に関わるからね?」

「………問題ない。イメージトレーニングを256パターン、昨晩済ませてある」

「一体どんなパターンがあったの?」

「………そして256パターンの出血を確認した」

「致死率100%じゃないか」

 

 どうあってもムッツリーニは助かりそうにない。ムッツリーニ。骨は拾ってやろう。

 

「お、誰か来たぞ」

 

 不意に雄二が呟く。顔を向けると、更衣室の方から小さな人影か見える。スクール水着をきた葉月ちゃんだった。

 

「どどどどどうしよう雄二に光正!?あれってスクール水着だよね!?そんなものを着た小学生と遊んでいたら逮捕されたりしないかな!?」

「………弁護士を呼んで欲しい(ボタボタボタ)」

「警察呼ぼうか?」

「お前ら二人も落ち着け。小学生の水着姿でそこまで取り乱すな。後、光正は警察沙汰にするな」

 

 まぁ、こんなことで呼ばれる警察も可哀想だろうけど。

 

「お兄ちゃんたち、お待たせですっ」

 

 そこに葉月ちゃんが駆け寄ってくる。小学生に不釣合いな胸の膨らみはおそらく、島田さんの胸パットを勝手に使ったとかだろう。だって、オレが恐怖してないんだからな。

 

「懲役は二年程度で済みそうだね」

「………実刑はやむをえない(ボタボタボタ)」

「もう牢屋で生活しろ」

「お前ら冷静なフリしてるだけだろ。光正もこいつらの入る牢屋の気持ちを考えろ」

 

 毎日血で汚れる牢屋……うん。可哀想だ。

 

「こ、こら葉月っ!お姉ちゃんのソレ、勝手に持って行ったらダメでしょ!?返しなさいっ!」

 

 現れたのは、胸元を手で隠している島田さん。なんとなく予想通りだった。

 

「………パット」

「ほぇ?」

 

 ポソリと呟いたムッツリーニの視線を兄さんが追う。そこには、パットが腹にずれた葉月ちゃんの姿。

 

「ん?ってことは、今美波が返しなさいって言ったのは、葉月ちゃんがつけている胸パッ――」

「この一撃に、ウチの全てを賭けるわ……!」

「だ、ダメだよ美波!その一撃は僕の記憶どころか存在まで消し去りかねないから!」

「そうなるとオレに兄貴が居なくなるのか……それもいいかもな」

 

 でもそうすると、姉さん避けがいなくなってしまう。うーん。悩ましいところだ。

 

「うぅぅ……折角用意してしてきたのに……葉月のバカ……」

 

 哀しげに呟く島田さん。オレの隣では島田さんの水着姿を兄さんが眺めていた。

 

「な、何よ。やっぱりこの格好、どこか変なの……?」

「い、いや。そんなことないよ!その、すごく似合っているよ!」

「え……?アキ。それ、本当……?」

「う、うん……。手も脚も胸もバストもほっそりとしていて、すごく綺麗だと脚の親指が踏み抜かれたように痛いぃぃっ!」

 

 島田さんが兄さんの足を踏みつけていた。

 

「今、ウチの胸が小さいって二回言わなかった?」

 

 島田さんが目を吊り上げ兄さんを睨む。うん。オレも確かに聞いたよ。

 

「島田、そう怒るな。明久は口ではああ言っているが、明らかにお前の水着姿を意識してるぞ」

「そうそう。兄さんはさっきから動揺しまくりだよ?」

「ゆ、雄二に光正!何を言ってるのさ!僕は別に動揺してなんか……っ!」

「あ。そ、そうなの……?もう、アキってば。素直にそう言えばいいのに……バカ」

 

 島田さんが小さな声でそんなことを言い出す。そんなこと言ったら……!

 

「美波の胸、小さいね」

「アンタの目を潰すわ。左右均等に、丁寧に」

 

 ほら、自分の口で再び命の危機を迎えているじゃないか。全く……っと、急に視界が真っ暗だ。

 

「だ~れだ♪」

 

 何か前もやったことある流れだな。

 

「貧乳」

「死ね」

「グアァアアアアア!?背中がぁあああ!」

 

 振り返ると紫乃が立っていた。ん?あれって、バンドゥビキニとか言うやつだっけ?黒色の水着でフリルって言うのが胸元に付いてる。……可愛いなぁ。

 

「光正?」

「…………(ぽえ~)」

「ん。光正どうした?」

「…………(ぽえ~)」

「ああ。もしかして、天草の水着姿に見とれているのか?」

「……はっ!い、いや、そんなことあるよ!」

「……それを言うならそんなことないだろ?(にやにや)」

「光正……(ぽっ)」

 

 クッ……オレとしたことが動揺してしまった。だって仕方ないんだ。紫乃が可愛すぎるんだから。

 後に聞いた話だが、紫乃の着ていた水着。正式にはティアードバンドゥビキニと言うらしい。

 

「ふぅ~紫乃」

「なにかな?」

「凄い可愛い」

「ふふっ。ありがと」

 

 ようやく普通の状態に戻ることが出来た。

 すると、更衣室の方から四人目が現れた。霧島さんだ。

 兄さんは霧島さんの水着姿に完全に見入っているようだ。そして、霧島さんは自然な仕草で雄二に歩み寄ってきて……

 

「……雄二。他の子を見ないように」

 

 そのまま流れるような動きで雄二の目を潰した。

 

「ぐああああっ!目が、目がぁ!!」

「凄いわ……坂本の目を潰す仕草まで綺麗なんて……」

「うん……あの姿を見れるのなら、雄二の目なんて惜しくないね……」

「そうだね……」

「はは、光正。震えているけど大丈夫?」

「も、モンダイナイ」

「問題しかないね……」

「そりゃお前らには実害がないからなっ!」

 

 のたうつ雄二が声をあげるが、正直倒れそうだ。服を着た状態でアウトな人が水着でだと?もう、震えが止まらない。

 

「ふぇ……お姉さん、とっても綺麗です……」

 

 ちなみに、霧島さんが着ているのは、白ビキニと水着用のミニスカートを組み合わせたものだ。

 

「……そう言われると、嬉しい……」

 

 葉月ちゃんの言葉に霧島さんが頬を赤めている。

 

「ほらほら雄二。雄二も霧島さんに言うべきことがあるでしょ?」

 

 兄さんは雄二の背中を押す。

 

「翔子」

「……うん」

「ティッシュをくれ。涙が止まらん」

「このバカ雄二!もっと他に言うべきことがあるじゃないか!」

「視界を奪われて他に何を言えと!?」

「まったく、雄二にも困ったもんだよね光正、ムッツリーニ」

「多分兄さんよりはマシだよ」

 

 ムッツリーニはというと、輸血作業に忙しいのか、ほとんど喋らない。兄さんが水を向けるが、一向に反応がないご様子だ。

 

「あ、あれ、ムッツリーニ?」

「どうした?気絶でもしてるのか?」

 

 さっきから明らかにこの男の様子がおかしい。水着の女子たちを前にあのムッツリーニが呆けているとは考えにくい。

 

「………すまない、明久、光正」

 

 辛うじて聞き取れそうな掠れた声で、ムッツリーニが息も絶え絶えに呟く。

 

「え?なに?」

「どうした?」

「……先に、逝く……」

 

 そして突然その場に崩れ落ちた。大量の出血とともに。

 

「む、ムッツリーニ!?ムッツリィニィ――――!」

「誰だ!ムッツリーニをこんな目に合わせたのは!」

 

 倒れるムッツリーニをオレと明久で抱きかかえる。そしてその視点から後ろを見ると、

 

「す、すみません。ちょっと背中の紐を結ぶのに時間がかかっちゃって……」

 

 生物兵器がいた。

 オレは生物兵器を前にダッシュで逃げ、隅で縮こまる。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな」

「光正!しっかりして!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ……紫乃?」

「そうよ。今は落ち着いて……ほら、深呼吸して周りを見渡して」

 

 ふぅー。息を整え周りを見る。兄さんは自分の目に指を突き刺しており、島田さんが混乱したようにドイツ語で何か呪文のような言葉を繰り返す。相変わらずムッツリーニは輸血作業中。そして、

 

「うぅ……やっと翔子に奪われた視界が回復して……」

「……雄二は見ちゃダメ(ブスッ)」

「ぐあぁぁっ!またか!?またなのか!?」

 

 雄二は霧島さんに再び目潰しをされる。いつもの皆だ。

 

「ふわぁ……お姉さんのお胸、凄いです……」

 

 少し離れた場所では、雄二の悲鳴をBGMに葉月ちゃんが驚きの声を上げている。そういやさっき、いつもは冷静な霧島さんも声が震えていたような気がする。

 

「ありがと紫乃。少しは落ち着いた」

「うん。でも顔色が悪いよ?大丈夫?」

「紫乃。傍から離れないで」

「……光正…………//」

 

 ふぅー大丈夫だ。いざとなれば逃げるか兄さんを犠牲にすればいい。そうだ。いつも通り大丈夫だ。

 

「み、皆さん何をしているのでしょうか……?」

 

 この騒動の元凶は自覚がないらしく、姫路さんだけが混乱している。

 

「あはは。なんでもないよ姫路さん。ただ、少しだけ時間をもらえるかな?」

「は、はぁ……」

 

 兄さんはゆっくりと目を開ける。

 

「姫路さん。今日はいい天気だね(ブババババッ)」

「あ、明久君っ!?凄い勢いで鼻血が出てますよ!?」

 

 身体は正直なようだ。格言うオレも一歩ずつ近づくたびに震えが止まらず鳥肌が立つ。

 

「……これって、もう本当に病気じゃ……」

 

 そう思ったら負けだ。

 

「ごめん姫路さん、もう少しだけ待って」

「は、はい。よくわかりませんけど、待ってます」

「ありがとう。助かるよ」

 

 兄さんが鼻を押さえながら上を向く。すると……

 

「た、大変っ!明久君が出血多量で死んじゃいそうですっ!?」

 

 さっきより、出血量が増えてた。変な妄想でもしたのだろうか?

 

「バカなお兄ちゃん、大丈夫ですか?」

「ああ、うん、ありがとう葉月ちゃん」

 

 葉月ちゃんがティッシュを持って兄さんに寄っている。

 

「さて、それじゃ改めて」

 

 姫路さんの水着姿をもう一度視界に入れる兄さん。今度は何とか堪えてるようだ。

 

「あの……明久、君……?」

「…………」

「そ、そんなに変ですか……?」

「へ、変じゃないっ!かなり似合っているよ!」

「本当ですか?」

「本当だともっ!なんなら命を賭けてもいい!」

 

 まぁ、この男が嘘をつけるわけがないだろう。

 

「良かったぁ……ここ一週間、ご飯を抑え目にした甲斐がありましたぁ……」

「瑞希。アンタはやっぱりウチの敵ね……覚えておきなさいよ……!」

 

 我に返った島田さんは姫路さんの胸を親の敵のように睨みつけていた。

 

「う、うぅ……。俺は未だに目が見えないんだが……全員が揃ったのか?」

 

 目を突かれた痛みのせいか、涙をボロボロと流す雄二が目を開けずにこちらを向いた。

 

「秀吉がまだだよ?」

 

 まぁ、秀吉は結局校舎で着替えることになったからここまで来るのに時間がかかるのだろう。

 

「………秀吉はトランクスタイプ……」

 

 輸血が間に合い復活したムッツリーニが寂しそうに一言洩らし、兄さんも同時に哀しそうな表情になる。

 

「光正君は大丈夫ですか?顔色が悪いようですけど……?」

「姫路さん。お願いがあるんだ」

「はい?」

「半径十メートル以内に近づかないでくれ」

「えーっと……多分それは不可能じゃないかと……」

「分かった。五メートルにしてくれ。お願いします」

「ははは、気をつけてはみますね」

 

 ふぅー交渉完了だ。

 

「……まだ、姫路さんと翔子もダメなの?」

「姫路さんはこれでも二メートルより外なら大丈夫になったし、霧島さんも一メートルより外なら大丈夫だが……水着は別だ」

「早く、身近な女子ぐらいは慣れてあげてよ?」

「頑張る」

 

 これでも成長した方だ。そう、成長した方なんだ。

 

「バカなお兄ちゃん。どうしてそんなに哀しそうな顔してるの?」

 

 一方葉月ちゃんが心配そうに兄さんの顔を覗くが、まぁ、心配する必要はない。

 

「心配かけてごめんね葉月ちゃん。ちょっと寂しくなっちゃただけなんだ。気にしないで」

「そうよ葉月。アキのことなんて心配するだけバカらしいから、気にしなくて……」

 

 そんな言葉の途中で、島田さんが絶句していた。なぜ?

 

「待たせてすまぬ。着替えはさほど手間取らんかったのじゃが、いかんせん校舎からプールまでが遠くての」

 

 原因は女物のトランクスタイプの水着を着た秀吉だった。

 

☆●◆▽□♪◎☓(ううん、そんなに待ってないよ秀吉)

「落ち着け明久。ここは地球だぞ」

「せめてオレたちに分かる言語で話そう?」

 

 あれぇ?今日は雄二が常識人に見えるぞぉ?不思議だなぁ。

 

「ど、どうじゃ……?これで少しは男らしく見えるかの……?」

 

 恥ずかしそうに、だが少し見せ付けるように秀吉が兄さんに歩み寄る。

 

「わっお姉ちゃん、とっても可愛いですっ」

「んむ?『可愛い』じゃと?島田妹よ、何を勘違いしておるのか知らんが、ワシは見ての通り男じゃぞ?」

「ふぇ?でも、葉月はその水着、女の子用だと思うです」

「な、なんじゃと!?」

「嘘だろ?今気付いたのか……?」

「き、木下……!アンタ、どこまでウチらの邪魔したら気が済むの……!」

「木下君は卑怯です……!トランクスだなんて私たちを油断させておいて最後の最後に裏切るなんて……!」

 

 基本構成は島田さんと同じようなスポーツタイプ。上は肌に張り付くようなショートタンクトップ。下は普通のパンツ。その上にショートパンツのようなズボンを、一番上のボタンを外した状態で重ねている。うん。疑いようのない歴とした女物だね。

 

「秀吉!やっぱり秀吉は僕らの気持ちを察してくれていたんだね!」

「………永遠の友情と劣情をその水着に誓う」

 

 随分と安い友情だなぁ。

 

「ち、違うのじゃ!ワシは本当に男物を買った筈じゃ!きちんと店員にも『普通のトランクスタイプが欲しい』と言ったのじゃぞ!?」

「多分、その店員さんは勘違いしたんでしょうね……何も知らずに木下君に『トランクスタイプの水着が欲しい』なんて言われたら」

「……そうね。ウチでも間違いなくそんな感じの水着を勧めるわ」

「木下君って。女の子でも通用するよ」

「そ、そうじゃったのか……ワシも少しおかしいとは思ったのじゃ。なにゆえ男物に上があるのじゃろうかと……」

 

 床に手をつきショックを噛み締める秀吉。でも、今回は秀吉にも非があると思う。

 そして、オレたちのそんなやり取りの隣で、霧島さんは雄二に心配そうに声をかけていた。

 

「……雄二。目、大丈夫?」

「ん?ああ。大丈夫だ翔子。だいぶ見えるようになってきた。だが、心配するなら目潰しなんて……」

「……それなら、もう一度 (ブスッ)」

「さ、三度目!?お前俺に何か恨みでもあるのか!?」

「……ここには雄二に見せられないものが多すぎる」

 

 プールに来たというのに、雄二は水に入る前に病院に運ばれそうな勢いだった。

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