バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
皆様のおかげです。また、評価を下さった
シンキ様
ありがとうございます。
「ああ……。よく来てくれたね……。今日一日宜しく頼むよ……」
「は、はい。宜しくお願いします」
アルバイト当日の土曜日。開店一時間前に集合したオレ達五人を、店長さんは今にも倒れそうなほどの弱々しい姿で迎えた。……大丈夫か?この人。
(ねぇ。この店長さん、本当に大丈夫なのかな?)
(多分大丈夫じゃない)
(むぅ……。何かきっかけがあればスグにでも富士の樹海に向かいそうなほどに弱っておるのう)
秀吉の感想は何か当たってる気がする。押せば倒れて天に召されそうだ。
(これは噂なんだが……この店長、奥さんと娘に逃げられたらしい)
雄二が一際声を潜めながら言う。なるほど、奥さんと娘さんがいないから人手が足りなくなっているのか。つまりこの日雇いのバイトは、帰って来てくれるまでの繋ぎである。
(あれ?でも、前に来たときはバイトの女の子も何人かいたはずだけど……)
(その連中がどうしたのかは知らないな。ここにいないってことは何かあったんだろ)
あんな状態の店長と一緒に仕事をするのが嫌になって辞めた……とオレは推測する。うん。店長があの状態なら一緒に働きたくない。
「それじゃあこれ、君たちの制服……。サイズが合わなかったら言ってね……」
店長がオレたち全員に畳まれていた制服を渡すが……。
「「「「サイズが合いません」」」」
渡された瞬間、オレと兄さんと雄二とムッツリーニの声が綺麗に重なった。
「性別が合いませぬ」
一方秀吉の方は、何故かウェイトレスの制服を渡されていたようだ。
「あれ……?おかしいな……。きちんと目測したつもりだけど……」
店長が首を傾げている。でも、どう見ても合ってないんだよなぁ……特に雄二。
「そうかな……。でも、坂本君と黒髪の方の吉井君はSで、もう片方の吉井君はMで、土屋君はエロ──じゃなくてLに見えたんだけど……」
この店長、意外と侮れない。オレたちの性癖を見ただけで見抜くとは……!この観察眼は一体!?
「…………エロなどに興味は無い」
「「「なにぃっ!」」」
ムッツリーニの今世紀最大の嘘に、オレと兄さんと雄二の声がハモった。
「ムッツリーニ。さすがにそれはない」
「そうだよムッツリーニ。いくらなんでもそのウソはないよ」
「そうだぞムッツリーニ。ウソは人を騙せる範囲でつくものだ」
「…………!!(プンプン)」
否定するムッツリーニ。しかし、オレたちの前では無意味に等しい。やれやれだ全く……
「まぁ、それは置いといて僕のサイズは多分Lだから、ムッツリーニと交換しますね」
背の高い雄二と一緒にいる兄さんは小さく見られがちだが、一応平均より背が高い。ついでにオレよりも。
「…………Mなら丁度いい」
兄さんとムッツリーニは持っている制服を取り替える。
「店長。俺はきっとLLになるので、交換してもらえますか?」
「オレも多分Mで行けると思うので、交換して下さい」
オレと雄二は交換する相手がいないので、店長に制服を手渡す。
「そっか……そうだよね……。うっかりして制服と性癖を間違えちゃったよ……」
なんて豪快な間違いだ。尊敬に値するよ。
「じゃから、ワシのは性別が合わぬと言っておるのに……」
ロッカー室はそこまで広くないようなので、まずはオレと兄さん、ムッツリーニの三人が着替える。
「なんだか学園祭の時みたいだね」
「…………喫茶店に縁がある」
「ほんとだねぇ~」
ロッカーの中に自分の荷物を置き、二人と話ながら着替える。
ここの店の制服は、黒のズボンとYシャツに同じく黒のベストを重ねた一般的なギャルソンスタイル。それとズボンの上に前掛けのような黒のエプロンをかけ、首元に小さなネクタイを付けて完成。
「お待たせ、二人とも」
「やっほー」
「…………待たせた」
ロッカー室からオレたちは出てきた。すると、雄二と秀吉はオレたちの姿を見て楽しそうに笑う。
「ははっ。意外と似合うもんだな。それっぽいじゃないか」
「なかなかの男前じゃぞ、三人とも」
「そ、そうかな……?」
「ありがと~」
「…………照れ臭い」
雄二と秀吉の台詞に恥ずかしそうな顔をする兄さんとムッツリーニ。
本物の喫茶店の制服。ちょっと気取った感じで恥ずかしいが、まぁ、これはこれだ。
「では、ワシらも着替えるとするかの」
「そうだな」
感想を述べた雄二たちは、制服を手にロッカー室へと入って行った。
さぁ、働くかと思った、その時、
「バカ雄二!何を堂々と秀吉と一緒に着替えようとしているのさ!」
「…………万死に値する……っ!」
向こうがドアを閉めて鍵を掛けた瞬間、兄さんたちがこじ開けようとしていた。
『お前らは何を言っているんだ。一緒に着替えも何も、男同士なんだから全然問題ないだろうが』
全くだ。何か問題あるのか?
「雄二!それはあくまで戸籍上の話だよ!」
『待つのじゃ明久!事実でもワシは男じゃぞ!?』
戸籍上って何だよ?
『あー、わかったわかった。着替えが終わったら話を聞いてやるから、今は落ち着け二人とも』
面倒くさそうに答える雄二。
「雄二!どうしても考えを改めないのなら」
『あん?突入はするなよ?ドアの弁償なんて冗談じゃないからな』
「突入はやめてよ?後々面倒になるんだから」
弁償代がバイト代から引かれるなんて冗談じゃない。下手すりゃマイナスだ。
「霧島さんにこの状況を包み隠さず暴露する!」
それがどうしたの?そう思ってると……
ガチャッ
「俺は廊下で着替えよう」
雄二が出てきた。
「よしよし。それじゃ、僕らは店長のところに行こうか」
「…………(コクリ)」
「ほーい」
というか、本当に雄二が出て来る必要はあったのか?だって、秀吉って男だよ?
「それにしても、本物の喫茶店か……。学園祭ともちょっと違って新鮮だよね」
「…………面白い」
「喫茶店はあまりバイトしたことないんだよなぁ……」
まぁでも、こういう経験も悪くないか。
「ムッツリーニと光正はキッチン担当?」
「…………面接の時にはそう言っておいた」
「ああ。オレにはホール担当は無理だ」
「アハハ……ある意味命がかかってるもんね……」
万一にも、姫路さん級が来た日にはオレは逃げだしたくなる。
そんなこんなでオレたち三人は店長の待つホールの中に足を踏み入れる。
「…………(ぼー……っ)」
店長さんは椅子に座って口から魂を吐き出していた。
「て、店長。大丈夫ですか?」
「ん……。ああ、大丈夫、大丈夫さ……。こうやってボク一人でも立派に店を切り盛りしていたら、きっと二人も帰ってきてくれるさ……」
どうやら、店長は現実と空想の区別が曖昧になっているみたいだ。
(ねえ二人とも。やっぱりあの店長ヤバくない?)
(うん。帰りたくなってきた)
(…………危険かもしれない)
小声で話すオレたち三人。
(だよね。ちょっと確認してみようか?)
(確認?)
(…………どうやって?)
(軽い日常会話をしてみるよ)
兄さんは店長に近づき始める。日常会話?どんな会話をするつもりだろうか。
「あの、店長」
「……ん?ああ、なんだい……?」
「今日は良い天気ですね」
……そんな定番過ぎる会話じゃ一言で終わってしまうんじゃないか?
「ああ……。そうだね……。お父さんってウザいよね……」
会話になっていない。
「えーっと……、お客さん一杯来るといいですね」
兄さんも流石に店長の返答には付いて行けずに話題を変更した。確かに店についての話なら無視は出来ないはずだ。
「ボクの可愛い可愛い娘はね……、一歳になるまでは『お父さん大好き!』が口癖だったんだよ……」
「店長。それは記憶の捏造です」
もうダメかもしれない……。
(どうしよう光正、ムッツリーニ。全然会話になっていないんだけど)
(会話って難しいね……)
(…………娘の話は?)
(なるほど。それなら反応があるかもね)
確かにムッツリーニの言うとおり店長さんは娘の事ばかりを呟いているから、その話題ならきっと会話をしてくれるはずだ。
「あの……」
「うん……。うん……?」
「店長の娘さんってどんな──」
「五秒やる。神への祈りを済ませろ」
一瞬だった。一瞬で店長さんは兄さんの首にナイフを押し当てた。
「ま、待って下さい店長!って言うかそのナイフどこから出したんですか!?」
「て、店長さん!?」
「あ、ああ、ごめんね……。そういえば君はアルバイトに来てくれた子だったよね……。ボクの可愛い可愛い天使に手を出すクソ野郎じゃないもんね……」
「そ、そうですよ。嫌だなぁ」
「あはは……。ごめんね……」
店長は笑いながら懐にナイフを戻す。……この人要危険人物だ。
(光正、ムッツリーニ。この店長はセーフ?アウト?)
(どこがセーフに見える?)
(…………チェンジ)
アウト三つ。妥当な判断だ。
というか、今日一日この店長さんと仕事するの?給料倍にして生命保険かけてもらわないとやっていけないよ……。
「むぅ……。やはりワシだけ別の制服というのは……」
「諦めろ秀吉。これも仕事だ」
「……確かにこれも給金のうち。諦めるかの……」
後ろから秀吉と雄二の声が聞こえて来た。
「あ、二人とも。結構時間がかかって──っ!?」
兄さんが秀吉たちのいる方へと振り向いた瞬間に大きく目を見開く。
一応オレも見るが、そこには上背のある雄二のよく似合ったギャルソン姿と、
「すまぬ。この服は存外複雑な作りでのう。着付けに難儀しておったのじゃ」
秀吉は困ったようにヒラヒラのエプロンドレスの裾を摘んでいた。うん。兄さんが驚いている原因は秀吉で間違いない。
「ひ、秀吉。その……、凄く似合って──」
秀吉の格好を褒めようとする兄さん。しかし……
「ディア・マイ・ドウタァアアアアア──ッッッ!!」
その姿を見るなり、店長は両手を大きく広げて怪鳥のように秀吉に飛びかかった。
「な、なにごとじゃ!?」
「て、店長!?何をトチ狂っているんですか!?」
「落ち着いてください店長!何を考えてるんですか!?」
「ディア・マイ・ドウタァアアアアア──ッッッ!!」
ダメだ!言葉が通じない!
「仕方ない!雄二、迎撃を!」
「了か──ダメだ、あたらねぇ!なんて動きだ!?」
「ムッツリーニ!店長にスタンガン!」
「…………目標が絞れない……!」
「光正!何とかして!」
「指示が大雑把すぎんだよ!というか当たんねぇ!」
雄二とムッツリーニとオレの攻撃を簡単に避けるとは……!というか残像を伴うかのような動きはなんだ!人間じゃないのか!?
「秀吉っ!」
「な、なんじゃ!?」
「店長の動きを止める!『父親に勝手に日記を読まれた思春期の女の子』の台詞を大声で叫ぶんだ!」
「よ、よくわからんが了解じゃ!」
本当によく分かんねぇ!
『……お父さんなんて、大っっっキライ!!!!』
役者になった秀吉がたっぷりと嫌悪や怒りの込められた台詞を言う。娘(偽)にこんなこと言われたら、流石の店長も動揺して動きが止まる筈……。
「そうかっ!それじゃあ今夜はお父さんと一緒にお風呂に入ろうっ!」
全然効果がないじゃん!というか、会話のキャッチボールがおかしいだろ!どこをどう繋いだらお父さんと一緒にお風呂に入るなんて選択肢が出てくるんだよ!
「こうなったら実力行使しかない!秀吉は下がって急いで服を着替えて!光正、雄二、ムッツリーニ!全力で行くよ!」
「雄二、兄さん!オレと三人であの
「「「「了解っ!」」」」
「ディア・マイ・ドウタァアアアアア──ッッッ!!」
最大出力のスタンガンを四回押しつけて、店長を床に沈ませた。
…………もう人間じゃねぇ……というか、バイト代の代わりに討伐報酬をください。