バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
「で、どうしようか」
「どうするもクソも、店長がこんなじゃ何も出来ないだろ。『本日臨時休業』とでも書いて入り口に貼っておこうぜ」
「ま、仕方ないよね~」
先ほどまで大暴れしていた店長さんは、白目を剥いて倒れている。幸いにも店内の被害は特になかった。しかし、オレたち五人だけでこのまま店を開けるのは正直無理だ。
「バイトはまたの機会じゃな」
店長さんの暴走対策の為、エプロンドレスからギャルソンスタイルに着替えた秀吉が呟く。
「仕方ないな。また他のバイトを探すとするか」
「…………残念」
「無念」
「え?ってことは、バイト代は──」
「出るわけないだろ。働いてないんだから」
「そうそう」
「そ、そっか……。そうだよね……」
雄二の言葉に兄さんは俯いてしまった。まぁ、仕方ない。お金の方……というか、母さんと一度交渉してみるか……面倒だけど致し方なし。
カランコロン
「いらっしゃいませっ」
突然扉が開いた音がして、兄さんが入ってくるお客さんに挨拶をして……ってちょっと待て!
「良かった、あいてるみたい。時間潰す場所なくて困ってたのよね~」
「ほんと、助かったね」
兄さんの言葉を返事と勘違いして、OL風のお客さん二人が店に入って来た。
(おい明久!何勝手に招き入れているんだ!?)
(ご、ごめん!わざとじゃないんだ!ちょっと頭の中でシミュレーションをしていたらタイミングよくお客さんが来ちゃったから……!)
(フルフル。あの人たち怖い……)
(……それを言うなら、暴走した店長の方が怖かっただろうが……)
(アハハ……相変わらず胸のある女性が苦手なことで……)
初対面というか、見知らぬ人だとなお一層ダメである。え?普段はどうしているかって?頑張って避けるかまず、見ないようにするかのどっちかだけど?
(参ったのう。もはや追い返すこともできぬような雰囲気じゃし……)
(…………店長が目を覚ますまで頑張るしかない)
(よ、よし。頑張ってやるか!)
(うぅ……。ごめん……)
今更謝っても遅いよ。別室に寝かせている店長が目覚めるまでオレたち五人がやるしか道はないんだから。
(やれやれ、仕方ないな……。まぁ、メニューを限定したらなんとかなるかもしれないし、できるだけやってみるか。明久と秀吉はウェイター、光正とムッツリーニはキッチンを頼む。俺はドリンク関連を担当する)
(別にメニューを限定する必要もないけど……うん。オッケー)
(了解じゃ)
(…………わかった)
雄二がカウンターに入り、オレとムッツリーニは裏手のキッチンへと姿を消す。そして兄さんと秀吉はウェイターなのでホールに残る。
「ムッツリーニ。食器と調理道具は全部そろってる?」
「…………(コクリ)」
「食材と調味料は?」
「…………こことそこ」
よし。暇だ。別に仕込みをする必要はなさそうだし、兄さんたちの接客の様子でも見るか。
カランコロン
お?お客さんが来たみたい。接客するのは兄さんか。まぁ、失敗はしな――
『いらっチゃッ!』
今、噛んだな。
『『『…………っ!』』』
入店してきた三人のお姉さんが必死に笑いを堪えて俯いているみたいだ。兄さんが顔を赤らめて泣き出しそうな顔になっている。
そして兄さんは気を取り直して、大きく息を吸って――
『──いらっチゃ』
ダッ!
また舌を噛み秀吉のいる方へと逃げ出してしまった。
『あっ!キミ、案内は!?』
『大丈夫だよ!私たち全然笑ってないから!』
『もう一回だけ頑張ってみて!』
お姉さんたちは兄さんに励ましの言葉を送っている。心優しいね~
『な、なんじゃ明久!?なにゆえダッシュで戻ってくるのじゃ!?』
兄さんは逃げちゃダメだと思い、また出入り口にいる客と向かい合う。
『す、すいません。ちょっと気が動転してしまいました……』
兄さんが頭を下げると、お客さんは笑顔で許してくれた。心の広い人で助かったな。
『それでは、こちらのお席へどうぞ』
兄さんは気を取り直してお客さんを窓際のボックス席へと案内させる。その後はメニューとお冷を出して、注文が決まるまで離れて待機した。
『……む。そろそろ注文が決まったようじゃな』
最初に入って来たお客さんの注文の対応をするために、秀吉が近づいていく。
『ご注文はお決まりでしょうか?』
『エスプレッソとレモンティーと季節のシャーベットを二つ下さい』
『畏まりました。エスプレッソとレモンティーと季節のシャーベットをお二つですね。少々お待ち下さい』
メモを取り、秀吉がこちらにくる。
「エスプレッソ一、レモンティー一、シャーベット二じゃ」
「あいよ」
「…………(コクリ)」
「ほーい」
注文を告げられたので、オレと雄二とムッツリーニが動き出す。
「というか、シャーベット?何か作りごたえがないな……まぁいいけど」
「…………これか……もうほとんど完成形」
「確か季節のシャーベットだから……お、あったあったレシピだ。えーっと?季節の果物をカットして乗せる」
「…………今はさくらんぼ」
「オッケー。……って、やっぱり仕事ないんだね」
さくらんぼならカットする必要がない。
「…………どうせ、これから増える」
「それもそっか」
客が増えれば注文が増える。注文が増えれば厨房が忙しくなる。ということは案外、今の時間は貴重かもしれない。
「…………秀吉。完成」
「こっちもだ」
「じゃ、よろしく」
「うむ。任せるのじゃ」
すると、秀吉と入れ替わるようにして、兄さんがやって来る。
「ホットココア、オレンジジュース、ミルクティー、チーズケーキ、ホットケーキ、モンブランを一つずつと、頑張ってを三つ」
「……なんでお前は客に励まされているんだ?」
「…………早速何かあった?」
「……えーっと。頑張ってを三つ……?」
とりあえず、オレたちがシャーベットを作っていた間に何があったんだ?
不思議なことも起きるなぁと思いながら、ムッツリーニと分担しながら手早く作る。
「えーっと、兄さん」
「何?」
作り終えたものを兄さんに渡しながら。
「頑張ってね」
「…………ファイト」
「二人してやめて!僕にそんな目を向けないで!」
「……頑張れよ。明久」
「雄二まで!?これじゃ、まるで僕ができない可哀想な子みたいじゃないか!」
……事実だろ?
そして、時間が流れ、厨房もだんだんと忙しくなってきたころ……
「光正」
「ん?どうした?」
「ミルクの在庫あるか?」
「ミルクの在庫?」
一応確認に行ってみるが……
「在庫はないよ?もしかして切れたの?」
「ああ、どうやら搬入も遅れてるらしいな。秀吉と明久に伝えてくるか」
「いってらっしゃい~」
「というか、清涼祭でも思ったんだが……お前何品同時に作ってんだよ」
「え?クレープ作りながらパンケーキとホットケーキを焼いてモンブランとチーズケーキを作ってるだけだよ?」
「……いろいろと凄いな……お前」
んー?何が凄いのだろうか?
そんなこんなで調理している時……
『雄二、注文――って、あれ?』
雄二が探しものをしている最中に兄さんがやって来る。まぁ、兄さんでもドリンクぐらいは作れるだろ。
『でも、ブレンドってどうやって作るんだろう?』
あー何種類かのコーヒー豆を使って淹れるやつね。ここのブレンドが何豆を使ってるか知らないけど……というか兄さん大丈夫だよね?
『そっか、アイスコーヒーにホットコーヒーをブレンドすればいいんだ。僕って……天才?』
……それはただのぬるいコーヒーだ。
その後そのぬるいコーヒーに客は怒り(ちなみに注文したのは懐かしの坊主先輩らしい)、いざこざが起きた結果、秀吉が着替えることになったそうだ。