バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~   作:アカツキ

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ハイドラ砲台様

ありがとうございます!


バイトしよう ④

 カランコロン

 

「はい、いらっしゃいませー」

 

 秀吉が着替えに行ってるので、僕がお客さんを迎えに出る。すると、そのお客さんはこちらの顔を見るなり明るく微笑んだ。

 

「こんにちは、明久君。遊びに来ちゃいました」

「え?姫路さん?」

「やってるわね、アキ。へぇ~。結構似合ってるじゃない」

「あれ?美波まで?」

 

 予想外だ。こんな休日にたまたまクラスメートが僕が働いているところに来るなんて。

 

「ほらほら、店員さん。ぼーっとしてないで席まで案内してくれない?」

 

 ニヤニヤと美波が僕に手を振って見せる。

 

「そ、それじゃ。えっと、何名様ですか」

 

 けど、いくら相手が友達でも今はお客さん。きちんと接客しないと。

 

「五人です」

「え?五人?」

 

 え?五人?目の前には姫路さんと美波しかいないみたいだけど、後三人は誰だろう?

 

「一人はちょっと遅れているわ。それと、残りの二人は」

 

 美波が言いながら指で店の奥を指す。

 

『……雄二。妻への隠し事は浮気の始まり』

『なんだ!?いる筈のない翔子の声が聞こえるぞ!?呪いか!?』

 

 Aクラス代表の霧島さんがいつの間にか雄二の真後ろに立っていた。そして、

 

『…………(ぽー)』

『…………』

『…………かっこいい……』

 

 Aクラスの天草さんが厨房を……その中に居る光正を見つめて頬を赤く染めていた。

 

「明久君たちがバイトをしているって教えてくれたの、霧島さんと天草さんなんですよ」

「あ、そうなんだ」

 

 ここで『霧島さんと天草さんにも誰にも話していないはず』なんて言うのは野暮だろう。恋する乙女たちの行動力ってことにしておこう。

 

「とにかく、こちらへどうぞ」

「「はーい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅーせっせと作るのも大変だなぁ。

 

「ムッツリーニ。そっちは?」

「…………間もなく完成」

「オッケー」

 

 ん?そういえば、さっきから視線を感じるけど?そう思って厨房の戸の方を見ると。

 

「…………(じー)」

 

 紫乃がこちらを見ていた。何でいるの?とか聞いても無駄な気がする。

 

「悪いムッツリーニ。少し厨房から離れるわ」

「…………分かった」

 

 オレは戸のほうまで近づいて、

 

「…………(じー)」

「…………(ひょい)」

 

 首ねっこを掴んで持ち上げる。

 

「……あ、光正偶然だね」

「偶然で厨房の前で会えるか。客として来ているんだろ?連れは?」

「えーっと、姫路さんと島田さんに霧島さんと……」

「よし、席まで運ぶから大人しくしてろ」

「はーい」

 

 全く……あれ?オレって紫乃に今日ここでバイトって伝えたっけ?用事があるとは言ったけど……

 

「あ、光正君」

「へぇ~光正も似合ってるじゃない」

「……紫乃おかえり」

「どうもありがとうね。ほら、ここに座る」

「……はーい」

「全く……兄さん。注文は決まってるの?」

「いや、まだみたい」

「そっか」

 

 なら、後は兄さんに任せておくか。ん?このテーブル……四人テーブルに二人席を組み合わせて六人まで座れるようになってる。後一人か二人って誰だ?

 

「光正注文」

「オレじゃなくて、兄さんに言えよ。まぁ、いいけどさ。何?」

「光正を食べたい」

「断る」

「えーじゃあ、光正が欲しい」

「はいはい。オレも紫乃が欲しいよ」

「……ッチ」

「ん?兄さん舌打ちした?」

「ウウン。ナンデモナイヨー」

 

 絶対舌打ちしただろ。

 

『すみませーん。注文いいですか?』

 

 おっと、秀吉もいないし、兄さんがここの相手をするとなると。

 

「オレが行ってくるしかないのか」

「光正!?大丈夫なの!?相手は女性だよ!」

「大袈裟だなぁ紫乃。一分だ。一分なら耐えられる」

「本当に?」

「……やっぱり三十秒かも」

 

 くっ……見たところ女子大生か。しかも二人だと?さすがにキツい。だが、バイトだ。仮面を付けるんだ。演技をしろ。

 

「はい。ご注文をお伺いします」

「えっと、ショートケーキとホットケーキを一つずつください」

「かしこまりました」

 

 よし、さっさとオーダーを伝えて厨房に戻ろう。

 

「ちょっと待って」

「はい。何でしょう?」

 

 早く戻らせて!そうしないとオレが死んじゃう!

 

「君ってここの新人さん?」

「いえ、日雇いのバイトです」

「そうなんだ。君みたいな子がここのアルバイトになったら私、常連になるのになぁ」

「あ、それ分かる。ねぇ、ここでは働かないの?」

「今日は友人の付き添いでバイトしていますので、ここで働くかはちょっと……」

 

 誰か助けて!早くオレは戻りたいんだ!そうだ!兄さんなら何とかしてくれるかも!

一縷の望みにかけて、目の前の女性陣に見えないようにハンドサインを送る。が……

 

『え?二人じゃなかったんですか?そ、そうですか。それなら…』

『も、もちろんじゃない。ね、アキ?』

『う、うん。もちろんだよ!雄二も入れた四人で来たのさっ』

 

 ゴキン 

 

『……吉井。残りの一人は、誰?』

『も、もう一人はあの人よね、アキっ』

『そ、そう!あの人だよ、えっと……えっと……高橋先生と一緒に来たのさっ』

 

 ゴキッゴキン

 

『ふぬぁぁっ!?手首の関節が一度ハメられてまた外された!?』

『だからどうしてアンタはそうやって頭の悪いウソしかつけないのよっ!高橋先生と一緒に来るわけないでしょ!?』

『え!?え!?やっぱりウソなんですか!?そうなると美波ちゃんと二人できたんですか!?』

 

 気付けよこのバカ野郎!というか何の話してんだよ!

 

「じゃあさ、アドレス交換しようよ」

「君とはもっと話したいしさ」

「只今仕事中ですので……」

 

 よし、次だ。Help me Yuji!

 

『……A helish gate has opened. Compensate the crime with your death. Are you ready,Yuji?』

『な、なんだ!?どうして翔子がいきなり戦闘態勢になっているんだ!?」

 

 そんな事しているよりもさっさとオレに気付けよ!頼むから救いの手を差し伸べてくれ!

 

『…………(ゴオオオォォォォ!)』

 

 そして紫乃!頼むからその殺気と嫉妬の炎を消してくれ!

 ……というか、何故バイトで三人の命がかかってるんだ?意味が分からん。

 

「君ってさぁ。彼女とかいるの?」

「実は学校でモテてるんじゃない?」

 

 ハッ!この流れは……行ける!

 

「そうなんですよ。彼女持ちなのでね。これ以上貴女方のような女性と話していると彼女が嫉妬しちゃうので、これで失礼しますね」

 

 すでに嫉妬の炎が上がってることに関してはスルーしよう。

 というか、胸の部分差し引いても紫乃の方が絶対に可愛い!内面も外見も!

 

 カランコロン

 

 やっとの思いで女性客を振り切った後、誰かが店内に入ってくる。

 

『ごめんね、遅れちゃった──って、皆何をしているの……?』

 

 入店してきたのは、木下優子さん。秀吉の双子のお姉さんだ。

 

『……優子』

 

 でも、珍しい組み合わせだなぁ。っと。

 

「ムッツリーニ、注文表」

「…………了解」

「ちょっと休む。震えが止まらん……」

 

 でもオレには無関係。働きたいが……今は迷惑をかけそうなので休む。

 

『代表に島田さん、ちょっとは落ち着きなさい。お店で暴れるなんて良くないわよ?』

 

 何故か、雄二と兄さんに罰を与えようとする霧島さんと島田さんに注意する木下さん。

 

『……でも、雄二が』

『アキのバカが』

『言い訳しないの。他のお客さんに迷惑でしょう?』

『……わかった』

『確かにその通りね……』

 

 木下さんの台詞が聞いて動きを止めたような感じの二人。

 

『うむうむ。姉上も良いことを言うのう』

『そうだね秀吉。お姉さんのおかげで助かった──って、その格好はどうしたの』

 

 厨房から顔を覗かせてみると、いつの間にか兄さん達の近くにいる秀吉。……ただ、何故か最初のウエイトレスの制服で。

 

『うむ。それがじゃな、サイズの合う替えの制服が見つからんかったので、こっちで代用しておるのじゃ』

 

 なるほど……って納得していいのか?

 

『まぁ、いいんじゃない?お客さんもウェイトレス姿の方が嬉しいだろうし』

 

 そういう問題か?

 

『そういうものかのう?』

『そういうもんだよ』

 

 いや違うだろ。

 

『秀吉、ちょ~~~~っといいかしら?』

 

 すると、木下さんが兄さんたちの前にやってきた。

 

『んむ?なんじゃ、姉上?』

 

 木下さんにがっしりと手首を掴まれた秀吉が小さく首を傾げる。

 

『いいからいいから。吉井君、このお店ってトイレはどこにあるの?』

『え?向こうの奥だけど』

『そう。ありがとう』

 

 兄さんがトイレのある場所を指すと、木下さんは秀吉の腕を掴んでトイレの方へと歩き出した。 

 

『あ、そうそう。代表と島田さん』

 

 そして、一言。

 

『さっきの台詞、撤回するね。他のお客さんに迷惑でも、気に入らないものは気に入らないもの。存分にやっちゃいましょ♪』

 

 そしてバタン、とトイレのドアが閉まる音が聞こえてた。

 

『姉上、どうしたのじゃ?何故ワシの腕を掴むのじゃ?』

『アンタ、どうしてそんな短いスカートで動き回っているのかしら?前にアタシ言わなかったっけ。アンタが余計なことをするとアタシまでそういう目で見られるからやめろ、って』

『はっはっは。何を言っておるのじゃ。姉上は家におる時は殆ど下着姿で生活をしておるではないか。今更体裁を取り繕わんでも──あ、姉上っ!ちがっ!その関節はそっちには曲がらなっ──!』

 

 トイレから不穏な会話と聞こえてはいけない音が聞こえた。

 

『……雄二。許可が下りた。高橋先生とのデートのこと、全部聞かせてもらう』

『なんのことだ!?それと聞かせろと言いながら聞く耳持たないように見えるのは気のせいか!?』

 

 再び雄二を尋問しようとする霧島さん。

 

『あ、あの、明久君!さっきの話ですけど、本当は美波ちゃんと二人きりだったんじゃ……!』

『ちちち違うのよ瑞希!アキはバカだから記憶が違っているだけで……!』

『あがぁっ!美波、落ち着いてまずは僕の腕を解放して!このままだと僕の腕に関節が一つ増えちゃう!』

 

 そして、迫る姫路さん、間接技をかける島田さん、やられる兄さん。

 阿鼻叫喚となっている状況に、

 

『き、君たち!お客様の前で何をしているんだ!』

 

 鋭い叱咤が店内に響き渡った。

 

『て、店長……?』

『まったく、人が倒れている間に何をしているんだ君たちは。店をあけてしまったことはともかく、お客様の前でこんな真似をしているなんて、何を考えているんだ!』

 

 おお、ここまで大声で聞こえてくる正論だ。

 

「…………光正。料理完成した」

「分かった……あれ?オレが運ぶしかないのか?」

「…………(コクリ)」

 

 オレは料理を運ぶ。すると、

 

「お客様、大変失礼致しました。どうぞお気になさらずにごゆっくりと──」

 

 店長が頭を下げて客にフォローを入れていた。ふぅ。これで店に平穏が戻る……そう思っていると、

 

 カランコロン

 

 直後、カウベルの音が甲高い音をあげた。見てみると、母娘と思しき二人組が店内に入ってきた。

 

「どう、お父さん。少しは反省した?」

 

 店長に告げるのは、ドリルのような髪型をしている見覚えのある女子。

 ん?お父さん?……もしかしてあの子が例の店長の娘?

 

「注文のショートケーキとホットケーキです」

「ありがとうね」

「いえいえ」

 

 ふぅ。これで近づかなくて済む。

 

「み、美春……!?ディア・マイ・エンジェル……!」

 

 店長の動きが止まる。今にも泣き出さんばかりの表情だ。

 

「店長、良かったですね。娘さんと奥さん、帰ってきてくれたじゃないですか」

「吉井君……。ありがとう……!」

 

 兄さんが店長に言葉をかけると、店長は兄さんに礼を言う。まあ取り敢えず事態が収拾出来たようだからいっか。

 

「美春……。もう、どこにも行かないで──」

 

 涙を流しながらよろよろと娘さんに近付く店長。対する娘さんも、ゆっくりと店長に歩み寄って――

 

「ああっ!美波お姉さまじゃないですか!さては美春に逢いに来てくれたんですね!?そうならそうと言ってくだされば、美春もベッドを用意してお待ちしていましたのに!」

「み、美春!?ここってアンタの家だったの!?」

 

 その途中で娘さんは進路を変更して思いっきり島田さんに抱きついた。

 

「…………み……は、る……?」

「て、店長……?」

 

 その様子を見て店長の動きが止まる。凄く黒いオーラが店長の背中に見える気がするんだが。あれは紫乃の放つ殺気よりも一段と黒い。

 

「…………キサマが」

 

 地獄の底から響くような、低く、小さい、店長の囁き声。

 

「キサマが、娘を誑かす女かあぁっ!!」

 

 そして動きが一気に急加速した。あの動きムッツリーニの召喚獣並みかな?

 あと、娘を誑かす女っていまいち意味が分かりかねないんだけど……

 

「て、店長!落ち着いてください!店長が落ち着いてくれないと、また皆が暴れ出しちゃいます!それと『娘を誑かす女』って言葉はどこかおかしいということに気付いてください!」

「ディア・マイ・ドウタァアアアアア──ッッッ!!」

 

 説得失敗。全然止まる気配がない。

 

『……雄二。処刑、再開』

『だから何を言っているんだ!?お前はどうして俺が処刑されなきゃぐぁああっ!』

 

『秀吉、まだ気を失わないでね?ここからが本番なんだから』

『あ、姉上!ちがっ!その関節もそっちには曲がらな……っ!』

 

「明久君っ!まださっきの質問に答えてもらっていません!美波ちゃんとデートしたんですか!?」

「お姉さまとデート!?この腐った豚野郎が!?許せません!八つ裂きです!」

「ディア・マイ・ドウタァアアアアア──ッッッ!!」

「ち、違うのよおじさん!ウチは美春じゃなくてアキと──」

「み、美波!僕を巻き込まないでよ!って、どうして店長が僕に襲いかかってくるの!?誰か、助け──っ」

 

 ………………よし。

 

「ムッツリーニ。オレは急用思い出して帰るから。もし、バイト代でたら兄さんに渡しといて」

「…………分かった」

「じゃあ、そう言うことで」

 

 着替えを一瞬で終わらせ、自分の荷物を更衣室から取り出す。そして……

 

「帰ろ?紫乃」

「うん」

 

 一人取り残された紫乃を回収して帰還する。

 こうして、この地獄からオレは脱出したのだ。

 

「光正。あの女の人たちよりも私のこと好き?」

「当たり前じゃないか。比べるまでもないよ」

「えへへ~やっぱり、光正は光正だね~」

「何言ってんだが」

「ねぇ、せっかくだからこのままデートしない?」

「よし。じゃあ行くか」

 

 その日の夜、ようやく母さんに電話が繋がった兄さんは今日の端末を説明し、何とか仕送りを得るのであった。

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