バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
「明久。一体何があったのじゃ?」
教室に戻った兄さんに、秀吉が声をかけた。
「遂に頭逝かれた?」
「べ、別になんでもないよ。あははっ」
兄さんは何でもないように振舞っている。だが、朝から意味もなく屋上(推定)で叫ぶ程うちの兄さんはおかしくなかったはずだ。…………多分。
「ウソばっかり。さっき窓から妙な叫び声が聞こえてきたし、何か隠してるでしょ?」
「あ、美波。おはよう」
秀吉の陰から島田さんが現れて兄さんに問い詰める。
「おはようアキ。それで、何を隠しているのかしら?まさか……」
島田さんの目がいつもより更に釣りあがる。あと一歩で攻撃態勢だ。
「やだなぁ美波。本当に何も隠してなんか」
「まさか、またラブレターを貰ったなんて言わないわよね?」
「島田さん。もう少し言葉に気をつけたら?」
「そうだよ。ラブレターという単語に反応して皆が僕に向かってカッターを構えている」
島田さんの台詞にクラスメイトが、いつでも兄さんを殺せる準備をしていた。迷いがないあたりさすがと言うべきか何と言うべきか。
「皆、カッターはまだ早いわ。落ち着きなさい。だいたい、どう考えてもアキがラブレターなんてもらえるわけないでしょう?隠しているのは別の物に決まっているわ」
まぁ、そりゃそうか。
「ふふん!そのまさかさ!今朝僕の靴箱にラブレターが」
バカか。そんな言い方したら……
ドスッ!(カッターが畳に刺さる音)
殺されるだろうが。安いプライドなんてその辺に捨てておくか野良犬に食わせておけ。
「次は耳よ」
「心の底からごめんなさい」
「それじゃ、正直に答えなさい。何を隠しているの?」
「はい。実は僕が隠していたのは、きょ──」
島田さんは兄さんを詰問すると、兄さんは白状しようとするが途中で止まった。……きょ?
「きょ、きょ……」
「『きょ』何よ?」
きょ……きょ……あ、脅迫状か。
「きょ、競泳用水着愛好会の勧誘文!」
おかしすぎる返答が来た。うん。これは脅迫状(確定)だな。
「ほ、本当なの、アキ?」
なんとこの兄さんの嘘に引っ掛かる人がいた。
というか、それって昨日兄さんが見ていたテレビ番組からだよね?阿呆なの?
「勿論本当さっ!」
引っ掛かっている島田さんに無理矢理信用させるように力強く断言している。でも、オレと秀吉が引っかかっていないんだ。無意味に等しい。
「そ、それにしては捨てる素振りがなかったけど……。もしかして、入会する気なの?」
「ま、まぁね!前から興味があったからね!」
「そ、そうだったの。初耳だわ……」
おそらく言った本人も初耳だ。
「でも、よりによって普通の水着じゃなくて競泳用だなんて……。一体どのへんに興味を持ったの?」
「そ、それは……」
「うん」
「――密着具合」
変態だ。
「島田。わかっておるとは思うのじゃが一応言っておくと、今のも全部明久の嘘じゃからな?明久にそんな趣味があるわけなかろう?」
「そうそう。そんな趣味があるなら兄さんは毎日プールに通っている」
決して泳ぐためとは言っていない。
「えぇっ!?凄いリアルなウソだったから危うく騙されるところだったじゃない!」
どこが?
「傷ついた!今の一言で僕は毎晩枕を涙で濡らすほどに傷ついた!」
「自分で枕カバー洗えよ」
「心配するのそこぉ!?」
「これが最後よ。今度こそ正直に言いなさい。何があったの?」
恐らくここで言い訳しようものなら肉体的な死を迎えるだろう。
「実は、今朝僕宛てに脅迫状が届いていたんだ」
予想的中。
「あ、なんだ。良かったぁ……」
そして何故か島田さんは胸を撫で下ろしていた。クラスメイトが脅迫状を送られたと言うのに何故安心してるんだろうか?
「して、その脅迫状にはなんて書いてあったのじゃ?」
「そうそう。文面は?」
「これには『あなたの傍にいる異性にこれ以上近付かないこと』って書いてあるんだ」
兄さんが手紙を出して内容を読むと、オレと秀吉はすぐ考え始める。
「ふむ。その文面から察するに、手紙の主は明久の近くにおる異性に対してなんらかの強い気持ちを抱いておるな」
「なるほどね。脅迫状を送った人は兄さんに嫉妬してる。つまり──」
「うん。手紙の主はこのクラスのたった二人の異性、つまり姫路さんか秀吉に好意を寄せているヤツだってことがわかるね」
「明久。金属バットを取りに行った島田が戻ってこないうちに逃げるのじゃ」
「オレし~らね」
この後兄さんがどうなろうと自業自得だな。
「え?僕の推理どこか間違ってた?」
「どこが間違ってたと思う?」
「だって、光正には脅迫状届いてないんでしょ?ということはうちのクラスの中で誰か女子と交流のある男子全員に送ったわけでは無い。で、僕が光正より親しい異性って言ったら姫路さんと秀吉。ほら、完璧な推理でしょ」
どこが完璧だ。
「後は光正を脅迫しようものなら脅迫した側の命がいくつあっても足りないから、僕だけって線もあるかな」
ああ。オレを脅迫しようものなら生まれたことを骨の髄まで後悔させてやる。
「ところで何をネタに脅迫を受けておるのじゃ?」
「あ、そういえばまだ知らないや。なになに、『この忠告を聞き入れない場合、同封されている写真を公表します』か。写真って、こっちの封筒に入っているやつかな?」
兄さんは脅迫状を読みながら、もう一つの封筒を取り出す。封筒の中身を出した兄さんにオレと秀吉も一緒に見ると、中身は三枚の写真だった。
一枚目の写真に写っていたのは――メイド姿の兄さん。
「この前の学園祭の服装じゃな」
「い、いつの間に撮影なんて……」
「物好きもいるんだね」
男の女装を盗撮なんて、普通はしないだろう。
「こうして改めて見ると、やはり似合っておるのう」
「まぁ、言えてるね。汚くはない」
「それ、全然嬉しくないよ……」
兄さんは溜息を吐いて、オレと秀吉に二枚目の写真を見せないように隠しながら見ている。
「…………」
「明久。どうしたのじゃ?」
「……トランクスだからセーフ、トランクスだからセーフ、トランクスだから……」
「あ、明久!?自我が崩壊するほどの物が写っておったのか!?」
「遂に壊れたか?」
おかしな事を言ってる兄さんはオレと秀吉を無視して、三枚目の写真を見ると――
「もういやぁぁぁっっ!」
――発狂した。
「何じゃ!?一体何が写っておったのじゃ!?」
「見ないで!こんなに汚れた僕の写真を見ないでぇっ!」
「大丈夫だよ兄さん。兄さんはもともと穢れてるから」
「それはそれで酷くない!?」
「とりあえず、落ち着いてよ。皆が見てるよ?」
と言うか秀吉の言うとおり、一体何が写っていたんだろう?まぁ後で見るか。
「はぁ、はぁ、はぁ……。恐ろしい威力だった……。これは僕を死に追い詰める為の卑劣な計略と言っても過言じゃない……」
「考えすぎではないかのう。メイド服くらい、人間一度は着るものじゃ」
「それは嘘だろ」
秀吉が頭の可笑しいことを言っていると、
「明久君、光正君、木下君。おはようございます」
後ろから姫路さんが挨拶をしてきた。
「この声は──やっぱり姫路さんか。おはよう」
「おはよ~」
「姫路か。おはよう。今朝は遅かったんじゃな」
「はい。途中で忘れ物に気がついて一度家に帰ったので、ギリギリになっちゃいました」
まぁ、兄さんにとっては、姫路さんは心安らぐ存在だからなぁ。というか、何でこの二人って付き合わないのだろう?まぁ、何でもいいけど。
「丁度良い。先ほどの写真が騒ぐほどの物ではないと姫路に証明してもらうとしようかの。姫路、少々良いか?」
姫路さんの姿を見て、秀吉がそんな事を言い出す。
「はい、なんでしょうか?」
「うむ。姫路に質問なのじゃが、明久のメイド服姿の写真があったらどう思うかのう?」
正直、その入り方はダメだと思う。
「う~ん、そうですね……もしそんな写真があったら……取り敢えず、スキャナーを買います」
「へ?スキャナー?なんで?」
「何でそんな物が必要がなの?」
「だって、その……」
兄さんとオレの問いに姫路さんは少し恥ずかしそうに頬を染めてこう答えた。
「そうしないと、明久君の魅力を全世界にWEBで発信できないじゃないですか……」
「はい。兄さん。飛び降りようとしない」
「明久落ち着くのじゃ!飛び降りなんて早まった真似をするでない!」
「放して二人とも!僕はもう生きていける気がしないんだ!」
窓から飛び降り自殺をしようとする兄さんをオレと秀吉が何とか止めている。
「そ、そうじゃ!ムッツリーニじゃ!ムッツリーニならばこの手の話には詳しいはずじゃ!事情を説明して──」
なるほど。盗撮盗聴はムッツリーニの管轄内だろうし。
「ムッツリーニに笑われる?」
それは諦めろ。
「違う!事情を説明して脅迫犯を見つけ出してもらうのじゃ!」
「おおっ!なるほど!」
兄さんは飛び降りをやめる。
「ナイスアドバイスだよ秀吉!流石は僕のお嫁さんだ!」
「婿の間違いじゃろう!?」
「あの……どっちも間違いだと思いますけど……」
「諦めるんだ姫路さん。もう、この2人は助からない」
「は、はぁ……」
そう。きっとこの2人は脳に不治の病を抱えているんだ。
「それじゃ、僕はムッツリーニに話があるから!」
兄さんがムッツリーニを見つけてすぐに直行した。
「ところで、明久君のメイド服姿がどうとか……」
「ひ、姫路!ワシと話でもせんかの!?」
秀吉には姫路さんの相手をしてもらい、オレは兄さんと一緒に行かせてもらおう。兄さんについてった方が面白そうだ。
「助けてムッツリーニ!僕の名誉の危機なんだ!」
兄さんがムッツリーニののいる席に倒れこむように駆け寄る。すると、雄二が遮るような感じでオレたちの目の前に現れた。
というか、兄さんに名誉ってあったか?
「後にしろ。今は俺が先約だ」
「あれ?雄二?」
「雄二もムッツリーニに相談?」
あれ?いつもよりツンツン頭が元気がない。何かあったのだろうか。
「ムッツリーニ、何の話?」
「…………雄二の結婚が近いらしい」
結婚が近い?普通じゃないの?
「雄二と霧島さんの結婚?そんな既に決まってることより、僕が校内の皆に女装趣味の変態として認識されそうってことの方が重要だよ!」
「なんだと?お前が変態だなんて、それこそ今更だろうが!」
オレも同感だ。
「黙れこの妻帯者!人生の墓場へ還れ!」
「うるさいこの変態!とっととメイド喫茶へ出勤しろ!」
「…………」
「…………」
「…………傷つくならお互い黙っていればいいのに」
「お互いの傷を抉り合うなんて笑えるねぇ……プククッ」
「「黙れ学年一のバカップルのバカの方!」」
「よし、上等だ。貴様ら表に出ろ」
というか、バカップルのバカの方って何だよ。
「で、でも、まだ結婚の話程度で済んで良かったじゃないか。僕はてっきり、あのペースだともう子供が出来たことにされているのかと……」
「そうそう。というか、雄二。寝込みに既成事実とか作られてない?」
まぁ、さすがに冗談だけど。
「……お前ら。笑えない冗談はよせ」
…………あれ?笑えない冗談って……。まさか霧島さんは本気でやろうとしてるの?
「で?雄二は何があったの?深刻そうだけど」
「ああ。実は今朝、翔子がMP3プレーヤーを隠し持っていたんだ」
「MP3プレーヤー?それくらい別にいいんじゃないの?雄二だって前に学校に持ってきてたし」
へぇ~持ってきてたんだ。まぁ、兄さんは一時期ゲームとか諸々持っていっては没収されていたけど。
「いや、アイツは結構な機械オンチだからな。そんな物を持っていて、しかも学校に持ってくるなんて不自然なんだ」
霧島さんは機械オンチだったのか。何でも出来そうなイメージがあったけど……まぁ、人は誰しも苦手なものはあるか。紫乃も料理苦手だし。
「そこで怪しく思って没収してみたんだが、そこには何故か捏造された俺のプロポーズが録音されていたんだ」
「「…………」」
一瞬、先の召喚大会の準決勝を思い出す。そのプロポーズを捏造してしまったのがオレだと言う事実に罪悪感が湧いてきた……?あれ?湧いてこない気が……まぁ、湧いたことにしといて。
というか、霧島さんが大好きな人からのプロポーズを録音していたなんてね。あの人の記憶力なら一言一句
「き、霧島さんは可愛いねっ!そんな台詞を記念にとっておきたいなんて……」
「よほど気に入ったのかな」
「いや。婚約の証拠として父親に聞かせるつもりのようだ」
「ほうほう。こりゃ、結婚も近いですなぁ」
「……お前には罪悪感がないのか?この計画犯及び実行犯」
「ないよ?」
どこから罪悪感が湧くのだろうか?
「まぁこいつにそんなの求めても無駄だよな」
酷くない?
「一応MP3プレーヤーは没収したが、中身は恐らくコピーだろうし、オリジナルを消さないことには……」
そう言って雄二が取り出したものはどうみても再生専用のプレーヤーだ。確かにこれの中身を消したところで問題の解決にはならないだろう。
「そんなわけで、ムッツリーニにはその台詞を録音した犯人を突き止めてもらいたい。さっきも言ったようにアイツは機械オンチだからな。密かに集音機を仕掛けるなんてことが出来るわけないから、きっと盗聴に長けた実行犯がいるはずなんだ」
まぁ仕方ない。多少はオレも絡んでいるんだ。協力するのが吉か。
「…………明久は?」
ムッツリーニが兄さんの方を向いて聞いてきた。どうやら兄さんの事情も聞いてくれるみたいだな。
「実は、僕のメイド服パンチラ写真が全世界にWEB配信されそうなんだ」
ごめん。伝わってないと思う。
「…………何があった?」
「ごめん。端折り過ぎた。要するにね――」
──事情説明中──
「──そんなわけで、その写真を撮った犯人を突き止めて欲しいんだ。写真を撮られた覚えなんてないから、きっと盗撮の得意なやつがこっそり撮影したんだと思う」
「なんだ。明久も俺と同じような境遇か」
「…………脅迫の被害者同士」
「固い絆で結ばれている」
「こんなことで仲間ができても……」
面白い関係だなぁ。
「…………光正は?」
「ん?兄さんに付いてきただけ。特に何もないよ」
「…………そうか」
「そうそう」
オレが言い終えたタイミングで、ガラガラと教室の扉が開く音が響いた。どうやら西村教諭が来たみたいだ。
「遅くなってすまないな。強化合宿のしおりのおかげで手間取ってしまった。HRを始めるから席についてくれ」
そう告げる西村教諭は手に大きな箱を抱えていた。さっき言った強化合宿のしおりが入っているんだろう。
「…………とにかく、調べておく」
「すまん。報酬に今度お前の気に入りそうな本を持ってくる」
「僕も最近仕入れた秘蔵コレクションその二を持ってくるよ」
「…………必ず調べ上げておく」
ムッツリーニが快く引き受けたのを見たオレたちは、西村教諭に何か言われないうちに素早く席に戻る。
「さて、明日から始まる『学力強化合宿』だが、だいたいのことは今配っている強化合宿のしおりに書いてあるので確認しておくように。まぁ旅行に行くわけではないので、勉強道具と着替えさえ用意してあれば特に問題はないはずだが」
前の席から順番に冊子が回されてきたので、オレも一冊取って残りを後ろに回した。
「集合の時間と場所だけはくれぐれも間違えないように」
西村教諭のドスの聞いた声で言う。
とりあえず、該当箇所を見ておくか。オレは冊子を捲って集合時間と場所の書かれている部分を確認する。
今回オレたちが向かうのは卯月高原という少し洒落た避暑地で、この街からは車だと大体四時間くらいで、電車とバスの乗り継ぎで行くと五時間くらいかかるところだ。
「特に他のクラスの集合場所と間違えるなよ。クラスごとでそれぞれ違うからな」
AクラスやBクラスはリムジンバスとかで快適に向かうんだろう。オレたちFクラスは狭いバスや、バスの荷物置きかも。後は西村教諭が引率だけと言う事も……。
「いいか、他のクラスと違って我々Fクラスは……現地集合だからな」
『『『案内すらないのかよっ!?』』』
嘘……だろ?