バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
強化合宿の日誌
強化合宿一日目の日誌を書きなさい。
姫路瑞希の日誌
『電車が停まり駅に降り立つと、不意に眩暈のような感覚が訪れました。風景や香り、空気までもがいつも暮らしている街とは違う場所で、何か素敵なことが起きるような、そんな予感がしました』
教師のコメント
環境が変わることで良い刺激が得られたようですね。姫路さんに高校二年生という今この時にしか作ることのできない思い出が沢山できることを願っています。
土屋康太の日誌
『電車が停まり駅に降り立つと、不意に眩暈のような感覚が訪れた。あの感覚はなんだったのだろうか』
教師のコメント
乗り物酔いです。
坂本雄二の日誌
『駅のホームで大きく息を吸い込むと、少し甘いような、
教師のコメント
隣で土屋君が吐いていなければもっと違った香りがしたかもしれませんね。
吉井光正の日誌
『電車に乗りいつものメンバーと移動。面倒だったが、お互いに話したりするうちに一層友情が深まった……そんな気がした。ただ、移動中は暇なので携帯ゲーム機を持ってくることを許可して欲しいと切実に思った』
教師のコメント
前半はとてもいいことを書いているのに後半は願望になってますよ?何を目的とした合宿かをもう一度見直してみましょう。
翌日。オレたちFクラスは電車に乗って合宿場へと向かっていた。
「よし、本を読み切った。秀吉、後どれぐらいで着く?」
「後、二時間くらいじゃのう」
秀吉に時間を聞くとなんと後二時間はこの暇で退屈な時間が続くらしい。あー暇だ。
秀吉の隣に座っているムッツリーニは昨日の調査のせいで疲れたのか、ぐっすりと眠っている。
よし、兄さんたちの方へいこう。
「暇だから来たよー」
「あ、やっぱり?ねぇ雄二、何か面白いものはない?」
「鏡がトイレにあったぞ。存分に見てくるといい」
「あ、オレ手鏡あるよ。見る?」
「それは僕の顔が面白いと言いたいのかな?」
「いや、違う。お前の顔は割と――笑えない」
あ、笑えないんだ。オレも毎日のように見ているから笑う要素が見当たらないんだけど。
「笑えないほど何!?笑えないほど酷い状態なの!?」
「頭が?」
「確かに……ってなわけあるか!」
いや、笑えない程に酷いと思う。
「俺が面白いと言ったのはお前の守護霊のことだ」
「守護霊?そんなものが見えるの?」
「霊媒師にでもなった?」
「ああ、見えるぞ。明久の背後に血みどろで黒髪を振り乱している珍しい守護霊が」
「そいつはどう考えても僕を護っていないよね」
守護しない霊。ただの害じゃないか。
「安心しろ。半分冗談だ」
「あ、なんだ。ビックリしたよ」
「本当は茶髪だ」
「そこは一番どうでもいいよね!?」
全くだ。
「ん?でも、その守護霊ってすぐ近くに居そうだよね」
「すぐ近くだと?」
「それって、雄二に折檻する時の霧島さんじゃないの?」
「…………光正。悪い冗談はやめてくれ」
「黒髪で血みどろ、そこに口数の少ないとか頭がいいとか加えたら霧島さんじゃん」
「…………よし、話題を変えよう。明久」
「……そこで僕に振る?」
これ以上続けるとおかしな話になると悟った雄二は、兄さんに話題を変えるように言う。
「ね、ねぇ美波、何を読んでいるの?」
そして兄さんは話題を変えるように、小さな本を読んでいる島田さんに問い掛けた。
「ん、これ?これは心理テストの本。一〇〇円均一で売ってたから買ってみたんだけど、意外と面白いの」
「へぇ~。面白そうだね。美波、僕にその間題を出してよ」
「うん。いいわよ」
退屈しのぎが出来たと思った兄さんは、ワクワクしながらページを捲る島田さんの問いを待っている。オレも退屈凌ぎになるかな?
「それじゃいくわよ。『次の色でイメージする異性を挙げて下さい』」
色でイメージする異性ねぇ。
「『①緑 ②オレンジ ③青』それぞれ似合うと思う人の名前を言ってもらえる?」
「えーっと──って、美波。そんな怖い顔で睨みつけられてると答えにくいんだけど」
「べ、別にそんなわけじゃ……!いいから早く答えなさい!」
「ん~……順番に、『緑→美波 オレンジ→秀吉 青→姫路さん』って感じかな」
おかしい。一人同性が混ざってる。そう思ってると、
ビリィッ!
島田さんの手元から凄い音がした。
「み、美波さん……?どうして本を真ん中から引き裂いているのですか?」
「どうして……」
「はい?」
「どうしてウチが緑で瑞希が青なのか、説明してもらえる?」
なんか知らないけど凄い怒ってる。というか心理テストでそこまで怒る事なの?
「ど、どうしてと仰られましても……」
「怒らないから正直に言ってみて?」
あ、これ言っちゃいけない奴だ。
「前に下着がライトグリーンだったから」
「坂本、窓開けて」
「捨てる気!?僕を窓から捨てる気!?」
「島田。窓からゴミを捨てるな」
「そうだよ。ゴミはゴミ箱だよ」
「雄二に光正。今サラッと僕をゴミ扱いしたよね?」
「いいのよ。ゴミじゃなくてクズだから」
「クズはきちんとクズカゴに入れるべきだ」
「そうだよ。どちらも窓の外へ捨てるものじゃないよ」
「そして雄二も光正もクズを否定しないんだね……」
すると雄二はヒョイと島田さんの手元の本(だったもの)を取り上げてた。
「あっ!ちょっと坂本!?」
「何々?緑は『友達』、オレンジは『元気の源』、青は──なるほどなぁ。光正」
「ん?どうした?」
「お前だったらこの三色の異性なんて答える?」
「えぇー『緑→姫路さん オレンジ→島田さん 青→紫乃』かなぁ?」
「ほほう。これは信憑性が高まったと」
すると雄二は兄さんと島田さんを交互に見て嫌な笑みを浮かべている。
「さ、坂本!返しなさいよ!」
「悪い悪い。面白そうだったもんで、つい借りちまった」
そうやって謝る雄二をむくれっ面で睨む島田さん。あーさっきの雄二の発言からも青の連想する異性が何を示すかなんとなく分かった気がする。
「そう思うんなら雄二も参加したら?光正みたいに」
「オレはもう参加していることになってるの?」
「そうだな。島田、俺もちょいと混ぜてもらえるか?」
「それはいいけど……。そ、それより、さっきの問題に深い意味はないんだからね!」
「ああ。わかってるって」
深い意味が無いなら何で本を破いたのだろう?すごく気になる。
「ワシも参加していいかの?」
そして、こちらの様子を見てた秀吉がこっちに来た。
「別にいいけど」
島田さんは何故か不満顔だ。さっきの心理テストの結果が関係しているのか?というか、心理テストを妄信すると危険だと思うけど。かなりのレベルで。
「それはありがたい。……ところで明久。さっきの答えじゃが」
「ん?」
「『次の色でイメージする異性を挙げて下さい』とあったのじゃが、オレンジでイメージするのは誰じゃ?」
「秀吉」
「……少し、嬉しいから困る……」
秀吉がうつむきがちにそんなことを言い出した。遂に頭がおかしくなったか?
「ところでムッツリーニは参加しないの?」
「どうやら眠っておるようなのじゃ。色々と調べものをしておったとか」
ムッツリーニもお疲れだからね。こっち来る時には既に船を漕いでいたし。
「そっとしておいた方が良さそうだね」
「うむ」
流石に寝ているところを起こすのは可哀想だ。
「あの、私もいいですか?」
兄さんの正面に座っている姫路さんがおずおずと手を挙げていた。
「そうだね。皆でやろうよ」
不機嫌そうな島田さんに代わり兄さんが返事をする。さすがに島田さんでも姫路さんを仲間外れにする気はないだろう。あったら子どもだ。
「ところで美波ちゃん。さっきの問題の『青で連想する異性』って──」
「……教えない、絶対に」
「そ、そんなぁ……」
うーん。やっぱり、子どもだろう。心理テストなんて少し信じて楽しむぐらいがいいのに。本気にし過ぎるのは良くないと思うよ。
「はぁ……。ま、いいわ。第二問いくわよ」
島田さんが溜息をつきながら読み辛くなった本を開く。うーん。疑問だけど、島田さんの握力はどれ位あるんだろう?本を引き裂くにはある程度握力がいるはずなんだけど……
「『1から10の数字で、今あなたが思い浮かべた数字を順番に2つ挙げて下さい』だって。どう?」
「俺は5・6だな」と雄二。
「ワシは2・7じゃな」と秀吉。
「オレは9・5」とオレ。
「僕は1・4かな」と兄さん。
「私は3・9です」と姫路さん。
それぞれの答えを聞いた後、島田さんはゆっくりとページを捲った。
「えっと、『最初に思い浮かべた数字はいつもまわりに見せているあなたの顔を表します』だって。それぞれ──」
島田さんが順番に指を差しながら、
「クールでシニカル」→雄二
「落ち着いた常識人」→秀吉
「意志の強い人」→オレ
「死になさい」→兄さん
「温厚で慎重」→姫路さん
と、告げた。
「ふむ。なるほどな」
「常識人とは嬉しいのう」
「意志が強いのか……?」
「ねぇ、僕だけ罵倒されてなかった?」
「温厚で慎重ですか~」
口々に感想を述べているオレたち。
「それで、『次に思い浮かべた数字はあなたがあまり見せない本当の顔』だって。それぞれ──」
さっきと同じように島田さんが順番に指を差して、
「公平で優しい人」→雄二
「色香の強い人」→秀吉
「クールでシニカル」→オレ
「惨たらしく死になさい」→兄さん
「意志の強い人」→姫路さん
と、告げた。
「秀吉は色っぽいのか」
「光正は冷たい感じがするのう」
「姫路さんは意志が強いそうだね」
「ねぇ、僕の罵倒エスカレートしてなかった?」
「坂本君は優しいそうです」
心理テストでわいわいと盛り上がる会話。そんな感じで心理テストを何問かやってみた。
そうこうしていると、
「…………(トントン)」
ムッツリーニが兄さんの背後に現れた。
「あ、ムッツリーニ。おはよう」
「おはよ~」
「目が覚めたようじゃな」
「…………空腹で起きた」
「あれ?もうそんな時間?」
携帯電話を取り出して現在時刻を確認する。現在の時刻は午後1時15分。普段ならもうとっくに昼食を済ませている時間だ。
「確かに良い頃合じゃの。そろそろ昼にせんか?」
「そうだね。あまり遅くなると夕飯が入らないし」
「うんうん」
オレたちは各々用意した昼飯を用意しようとする。
「あ、お昼ですね。それなら──」
と、姫路さんが傍らに置いてある鞄を手繰り寄せて中から何かを取り出そうとした。物凄く嫌な予感がする。
「──実は、お弁当を作ってきたんです。良かったら……」
予感的中。姫路が取り出したのは大きなお弁当箱だった。しかも手作り。
「姫路。悪いが俺も自分で作ってきたんだ」
「ごめんね。オレも自分で作ってしまったんだよ」
「すまぬ。ワシも自分で用意してしまっての」
「…………調達済み」
即座に自分の昼飯を見せる雄二・オレ・秀吉・ムッツリーニの四人。自衛策は万全だ。
え?オレは自分で作ったのかって?まぁ、電車の中で昇天しても困るしね。でもあれから成長して60%昇天する料理になったんだよ。
「そういうわけで、明久にでもご馳走してやってくれ」
雄二が勝ち誇った顔を兄さんに向けていた。
「ごめん。実は僕もこうして惣菜パンを」
「おっと、手が滑った(パシッ)」
「…………足が滑った(グシャッ)」
「ああっ!パン!僕のパン!」
雄二が叩き落としムッツリーニが踏みつける。見事な連携プレーだ。
「全く。食べ物を粗末にしないでよ?」
「あはは。そうだよ。気をつけてよ。まったく、食べ物を粗末に──」
兄さんは惣菜パンを拾うとする……が。
「──してはいけないからな。これは俺が責任を持って処分させてもらおう。だから明久は姫路の弁当を分けてもらってくれ」
雄二がまた妨害する。
「「…………!!(ガンのくれ合い)」」
「おっと、ゴメン雄二。僕も手が──」
「滑らないようにきっちり掴つかんでおいてやるからな」
「「…………!!(メンチの切り合い)」」
「あの、明久君。良かったら……」
姫路さんがおずおずと弁当を兄さんに差し出す。うぅ~なんていい人なんだ。
「あ~、えっと、その~」
「アキ。良かったらウチのお弁当も食べてみる」
兄さんは何かひらめいたのか、
「ありがとう!美波も分けてくれるんだね!それならいっそのこと、皆でお弁当を広げて少しずつ摘まもうよ!」
考え得る限り最悪の提案をしてきた。
「わ、ワシとムッツリーニと光正は向こうの席なので遠慮させていただこうか」
「や、やるなら、そこの四人でやるといいよ」
「…………!(コクコクコクコク)」
オレたちは元の場所へ避難する。
その後、いろいろあって兄さんが天に召された。