バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~   作:アカツキ

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囮という名の生贄

「……やっぱりこっちにも監督の先生がいるね」

「そりゃそうでしょ」

「当然だな」

 

 廊下をこっそり歩くこと数分。オレたちはDクラスとEクラスの合同学習室の前で様子を窺っていた。

 

「して、どうするのじゃ?このままでは交渉も進められんが」

「…………侵入も難しい」

 

 ふむ。監督の先生は出入り口の前に陣取っているか。

 

「よし。オレとムッツリーニであの先生を暗殺してくるわ」

「…………了解」

 

 オレとムッツリーニは堂々と暗殺に向かう……が。

 

「待て待て。何故そんな物騒な発想が出来るんだ?」

 

 雄二に止められた。

 

「え?ダメか?」

「却下だ」

「チッ……じゃあ、どうするんだ?」

 

 雄二にどうするかを尋ねる。するとヤツは平然と言ってのけた。

 

「簡単だ。一人を囮にして教師を引き付ければいい」

「断る」

 

 すぐさま兄さんが否定する。当然だ。こういう損――重要な役割は大抵兄さんに回ってくるからだろう。

 

「やれやれ。それなら、ゲームで決めないか?」

 

 雄二の提案。こうなったらもう兄さんに勝ち目はほとんど残されていない。

 

「ゲームって、何?」

「古今東西だ」

「わかったよ。やってやろうじゃないか」

「よし。それならいくぞ」

 

 兄さんと雄二は向かい合って部屋の中には聞こえないように気を配りながらゲームを開始する。

 

「坂本雄二から始まるっ」(雄二のコール)

「「「「イェーッ!」」」」(オレと兄さんと秀吉とムッツリーニの合いの手)

「古今東西っ」

「「「「イェーッ!」」」」

「【A】から始まる英単語っ」

 

 あ、兄さん詰んだ。

 

 パンパン(手拍子) → 雄二の番

 

「【Apple】!」

 

 パンパン(手拍子) → 兄さんの番

 

「……僕の、負けだ……」

「一つも思いつかんのか!?」

「嘘だろ!?」

「で、でも、ムッツリーニもこんなこと出来ないよね?あ、双子だから光正もできないか」

 

 あ、この野郎。オレまで巻き込みやがった。

 

「…………そんなことはない」

「そ、そうなの?」

「…………やってみせる」

「それじゃ、俺→光正→ムッツリーニの順で行くぞ。……古今東西、【A】から始まる英単語っ」

 

 パンパン(手拍子) → 雄二の番

 

「【Almond】」

 

 パンパン(手拍子) → オレの番

 

「【AAA】」

「ちょっと待って三人とも」

 

 兄さんが待ったをかける。どうしたんだろう?

 

「どうした明久?」

「今の光正の英単語はどうかと思うんだ」

「ん?」

「だって、Aを三つ並べただけじゃないか。本当に英単語なの?」

 

 あれ?兄さん知らないんだ。まぁ、知らなくても無理はないけど。

 

「【American Automobile Association】の略。『アメリカ自動車協会』のことだよ」

「……そうなの?」

「…………光正の言ってる事は本当」

「じゃあ、続行するぞ。ムッツリーニからでいいな」

 

 パンパン(手拍子) → ムッツリーニの番

 

「…………【AV】」

 

 英単語か?……あ、英単語だったね。

 

「はい待つんだ三人とも」

「今度は何だ?明久」

「今のムッツリーニの英単語はどうかと思うんだ」

「きちんとAから始まっていただろ?」

「全く……兄さん知らないの?【AV】の意味」

「そ、それは……その……ちょっと大人向けの……」

 

 うちの兄さんは何を言ってるんだろうか?

 

「はぁ?【Authorized Version】の略で『欽定訳聖書(きんていやくせいしょ)』のことだろ?なぁ。ムッツリーニ」

「(コクコク)…………俺はそれが言いたかった」

「絶対嘘だぁ!」

「さて、光正のおかげで問題がないことも分かったし続きをやるぞ」

 

 パンパン(手拍子) → 雄二の番

 

「【Agent】」

 

 パンパン(手拍子) → オレの番

 

「【Akinesia】」

「……今、明久って言わなかった?」

「地味に違ってたぞ?」

 

 パンパン(手拍子) → ムッツリーニの番

 

「…………【Akihisa】」

「待つんだ三人とも。今度こそ明久って言ったよね」

 

 確かにそう聞こえたな。

 

「いつの間に僕の名前は英単語になったのかな?」

「…………【名詞】バカの意。または相応の人物の総称。【―ful】で形容詞」

「類義語。『foolish』『idiot』。対義語。『smart』『clever』『Kousei』」

「何ぃ!?そうやってまるで本当に辞書に載るっているような説明はやめてよ!後、ちゃっかり自分の名前を入れるな!」

 

 問題あっただろうか?

 

「例文:He is so Akihisaful.(彼はこの上なく愚かな人物だ)」

 

 ふむ。最近兄さんをバカにする方法がどんどん高度になっている気がする。

 

「とにかく、固有名詞や略語は反則だからね!」

「あー、わかったわかった。んじゃ、続きいくぞ」

 

 パンパン(手拍子) → 雄二の番

 

「【Arrival】」

 

 パンパン(手拍子) → オレの番

 

「【Arriviste】」

 

 パンパン(手拍子) → ムッツリーニの番

 

「…………【Amen】……ボ」

「ねぇ、今小さい声で『ボ』って言ったよね!?今のは明らかに『アメンボ』だよね!?」

 

 そんな事実は確認されていない。

 

 パンパン(手拍子) → 雄二の番

 

「【Action】」

 

 パンパン(手拍子) → オレの番

 

「【Active】」

 

 パンパン(手拍子) → ムッツリーニの番

 

「…………【A――☆●♦▽♫€☓】」

「ごまかした!今思いつかなかったから早口でそれっぽく言ってごまかしたよ!」

「ふぅ……。決着がつかないな」

「三人の力が拮抗している。もう充分じゃないか?」

「…………俺たちはよくやった」

「くそぉぉっ!全然納得いかないっ!どうしてムッツリーニへの判定はそこまで甘いの!?」

「兄さん。そんな大声で騒ぐと――」

 

 ガラッ

 

「廊下で騒いでるのは誰ですか!今は自習中のはずですよ!」

「うわっ!布施先生だ!雄二、光正どうする……っていない!?いつの間に!?」

「吉井君、そこを動かないように!」

「やっぱりこうなるのかっ!」

「こらっ!待ちなさい!」

 

 兄さんが布施先生を引き連れ逃走する。

 

「……今のうちだ行くぞ」

「「「…………(こくり)」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……。なんとか、撒いた、かな……」

「明久、ご苦労だったな」

「無事大役を果たしてくれたんだね」

 

 息を切らしているようだが、布施教諭を撒くのにそんなに体力使うか?

 

「苦労、したよ、途中から、大島先生が、出てきて……」

 

 あ、察し。

 

「そうか。おかげでD・Eクラスの協力を取りつけることが出来た。良くやってくれた」

「次はBクラスとCクラスだね。ファイト兄さん」

「ああ、もう一度頼んだぞ明久」

「そう簡単に引き受けるわけにはいかないよ」

 

 ……ッチ。考えるだけの頭があったか。

 

「さっきの勝負も納得がいってないし、もう一度勝負だ!」

 

 あ、これオチが見えたぞ。

 

「別にいいが、時間の無駄だと思うぞ?」

「ふふっ。そうかな?僕をさっきまでの僕だと思わない方がいいよ?」

 

 な、何なんだこの自信はーオレたちに勝つ秘策が有ると言うのかー。

 

「それじゃ……吉井明久から始まるっ」(兄さんのコール)

「「「「イェーッ!」」」」(オレと雄二と秀吉とムッツリーニの合いの手)

「古今東西っ」

「「「「イェーッ!」」」」

「【O】から始まる英単語っ」

 

 パンパン(手拍子) → 兄さんの番

 

オーガスト(August)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事交渉も終わり、何事もなかったかのように戻ってきた自習室。

 

「光正?何処行っていたんですか?」

「トイ――」

「嘘ですね」

 

 ……バレるの早くね?というか言い切ってないんですが。

 

「散歩に――」

「正直に言ってください」

 

 おかしいな?何ですぐにバれるんだろう?

 

「ま、まさか紫乃!彼氏の言うことが信じられないと言うの!?」

「はい。微塵も」

 

 これはこれで酷い。あまりの信用のされていなさにあのオレでも涙が出そうだ。

 

「まぁ、いいです。どうせ、戦力増強のために他クラスの男子と交渉していたのでしょうから」

 

 何故わかった?

 

「ふふん。光正の事ならお見通しなのです」

「はぁ。まぁ、当たっていたからよしとしようか」

 

 これで外していたら可哀想な子になっていただろう。

 

「光正。私、思ったのです」

「何を?」

「属性を追加する必要があると」

 

 いや、ないだろ。

 

「ここ最近。他の人に比べて影が薄い気がします」

 

 いや、全く。

 

「そこで私は『ヤンデレ』を目指してみます」

「その方面に走っちゃダメだ。さすがにそれはダメだと思う」

「というわけで……コホン。光正。私以外とお話するの……そんなに楽しい?」

「ひぃっ!目怖っ!それはヤンデレじゃない!ただの病んでる人だ!」

「ねぇ、光正。私と過ごす時間より……そんなことの方が大切?」

「だからそれはただの病んでる人!デレの部分がゼロに近い!」

 

 すると、スイッチを切ったように、目の色が元に戻る。あぁ……怖かった。……夢に出てきそう。

 

「あれ?うーん。何が足りなかったんだろう?」

「愛情だよ!」

「うーん。……あ、血の付いた包丁かな」

「待って紫乃!これ以上おかしな路線に行かないで!」

「え?光正って、ヤンデレが好きじゃないの?」

「どこ情報だよ!」

「おかしいな……明久さんと坂本君に、光正はヤンデレを愛してるって聞いたのに……」

「クソ兄貴!赤ゴリラ!テメェらを今からぶっ飛ばしてやる!そこを動くなよ!」

 

 アイツラ、ゼッタイ、コロス。

 

『わわっ!た、大変だ雄二!光正が暴走してこっちに襲いかかってくる!』

『何だと!?おい明久!お前なんかまたやったのか!』

『何で僕を犯人扱いするのさ!』

『えぇい!応戦するぞ!明久スタンガンは持ってるな!』

『もちろん!出力は!』

『最大に決まってんだろ!行くぞっ!』

 

 この後の記憶は少しトんで気付けば、夕食になっていたことを記す。


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