バカとテストと召喚獣~オレと兄さんとFクラス~ 作:アカツキ
ムッツリーニのおかげで写真を収めることに成功したオレたち。兄さんや雄二は昨夜に西村教諭のシゴキに遭っていた所為か、オレたちの部屋は電気を消してすぐに寝息が聞こえ始めた。まぁ、オレは現状そんな呑気なこと言えるわけもなく……
「光正……」
取りあえず、目の前で馬乗りになっている紫乃が何を考えているのかを知らなければいけない。
「紫乃…………何でかオレの両手両足が動かないのだが?」
後は自身の手足が動かない件についてもだ。
「フフフ……光正。私思うのです……」
暗闇で不敵に笑う紫乃。その手には何か持ってるように見える。そう何か……
「……っ!?おい紫乃!その手に持ってるのはなんだ!」
「絶対に浮気させない方法……二つあるってことに」
こちらの話を聞かずに話を進める紫乃。対してこちらは身体がまるで金縛りにあったように動けない。
「一つは光正を洗脳、服従させること」
……おいおいこいつなんて言った……?
「もう一つはですね。如何なる女性をも、光正に会わせないこと」
「一つ目はともかく二つ目は無理だろ。外にでれば女性はいるんだし」
「フフフ。そうですよね」
そう。確率的に二人に一人は女性。だから街に行けば、会う人の二人に一人は女性だろう。
「私。光正が如何なる姿でも愛せる自信があるんです……」
「……おいおいちょっと待てよ……!」
「だからですね……」
右肩に添えられる紫乃が持っていたもの。
「手足全部切り落としちゃいますね♪」
それは、チェーンソーだ。
「おいおい、どういうつもりだ……」
「フフフ、賢い光正なら分かりますよね?」
なるほど。外に出さなければいいというわけか……ってちょっと待って!
そんな思いも虚しく動き始めたチェーンソー。右肩と触れるまで後5cm。
「ちょっと痛いですが……我慢して下さいね♪」
後、4…………3…………2…………1…………
「………はぁ!…………夢……か……」
目が覚めると見覚えのある天井だった。少なくともここ最近よく見ている天井だ。
何か酷い悪夢だったな。細かく覚えてないが、オレの両手両足が何故かなくなって、首に首輪がついて、リードという名の鎖がついていた記憶がある。そして、そんなオレの上にチェーンソーを持って血まみれで跨り、恍惚の表情を浮かべる紫乃。ふむ。どうしてそんな風になったのか分からないが……
「ははっ。ただの夢……だよな」
全く……紫乃がヤンデレを目指すなんておかしいことを言うからこんな夢を見てしまったんだ。
とりあえず、身体を動かそうと試みる…………が。
「あ、あれ?う、動かない……?」
おいおい!確かに夢でも動かなかったけどさ!ま、まさか……金縛り!?つまり、あれは正夢だったのか!?ということは、オレはこれから……!
「…………すぅ……」
すると、オレの胸の上あたりで寝息が聞こえる。あれ?よく見ると布団が盛り上がってる?
「……何だ……ただの紫乃か。よかった……」
見てみると紫乃がオレを抱き枕のように抱きしめる形で寝ていた。あ、可愛らしい……じゃなくて、こいつ本当に襲いに来たのか?取りあえずチェーンソーが無いことから、夢の内容が現実になることはなさそうだ。ふと、周りを見てみると霧島さんと島田さんも乗り込んでいるみたいだし……うん。だいたい分かったよ。
「寝たふりはやめたら?」
「…………何で分かったの?」
「襲いにきといて襲う前に紫乃が寝るわけないじゃん」
「……フフフ。ばれたら仕方ないです。こうなったら……」
何か行動を見せようとする紫乃。そんな紫乃に対しオレは……
「ほら、一緒に寝たいんでしょ?」
少し布団の中にスペースを作る。さすがに、オレの上にずっと乗ってもらっても困る……何故か身震いがするから。
「え……?」
「ほら、寝るよ?明日も早いんだし」
「あ、うん」
こうして、オレたちは抱き合って眠りにつこうと――
「あれ!?やたらと単純!?」
――したタイミングで奇声を上げる兄さん。
「アキッ!邪魔者が起きちゃうでしょ!?」
「むぐぅっ!?」
続く島田さんの声。うん。今ので起きたわ。
「はっ!私は本来の目的を忘れるところでした!」
「……本来の目的?」
そして、一緒に寝ようとした紫乃が、
「そうなのです!私は光正を襲いに来たのです!」
あまりにも予想通りの事を言ってくる。
「はぁ……で?」
「反応薄っ!」
ちなみにこの一連の会話は小声なため兄さんたち他の人には聞こえていない。
「ふ~ん。まぁ、紫乃がしたいことすれば?」
「フフフ。その余裕後悔することに………………あれ?動かないんですけど。あのー、光正さん。名残り惜しいのですが、動けないんで少し抱き着くのやめてもらえませんか?」
「い・や・だ」
「ま、まさかこの男!起きてからここまで私を誘導していたの!?」
うん。大正解。チェーンソー持ってなければオレの勝ちだ。
「そういえば、紫乃ってくすぐりにも弱いけど耳とかも弱そうだね(はむっ)」
「ひゃぁああっ!?」
「ほら?声出すとばれちゃうよ?(ペロンッ)」
「ひあっ!?た、立場が逆……」
そう。紫乃にしてみれば襲おうとしたのに襲われてるもんなぁ……立場逆転形勢逆転?普通に考えたら情けないことだろうなぁと思いながらオレは手を紫乃の服の中に入れて、耳攻めと並行してくすぐりを開始する。
「……美波。せめて苦しまないように頼むよ……」
「……アンタってどういう思考回路しているの……?」
一方で兄さんは島田さんに暗殺か闇討ちに来たと結論付けて楽に死なせてくれと懇願していた。
「……そ、その、ウチだって勇気を出してここまで来たんだよ……?だから、その、ああいうことはメールじゃなくて、きちんとした言葉で……」
「ほぇ?」
島田さんの発言に素っ頓狂な返事をする兄さん。そして、兄さんは何か使えるものがないかと周囲を見てくる。
ふむ。兄さんの視点で見て今、兄さんの周囲にあるものは──
・可愛らしい秀吉の寝顔
・カメラを構えているムッツリーニ
・お互いに抱き着いている
・浴衣姿で雄二の布団に侵入しようとしている霧島さん
「…………」
あまりの事に絶句する兄さん。そしてもう一度よく観察している。
・あどけない秀吉の寝顔
・静かにシャッターを切るムッツリーニ
・ドSモード発動中の
・慌てふためく雄二をよそに浴衣の帯を緩めようとする霧島さん
「困った……。今の僕に役立ちそうなものがない……。後、光正。あまり天草さんを虐めるのは良くないと思うよ?いくら彼女だからといって」
「虐めてないよ?弄ってるだけ(ふぅー)」
「んんっ!?」
必死に声を押し殺して可愛いなぁ……もっと弄りたくなる。
「その前にお前ら!俺を助ける気はないのかっ!?」
ないな。
「いいぞ霧島さんもっとやれー(こちょこちょ)」
「煽んじゃねぇよ!これ以上状況を厄介にすんなよ!」
え?そっちの方が面白そうじゃん。
「ちょ、ちょっと!木下以外は全員起きてるの!?早く言いなさいよねっ!」
そして、兄さんと至近距離にいた島田さんが慌てて距離をとった。今更気付いても遅いと思う。
「そ、そっか。周りが起きてたんだ……。だからアキは知らない振りをしていたのね……」
後、それは違うと思う。
バァンッ!
すると、部屋のドアが開く音が聞こえた。
「お姉さま無事ですか!?美春が助けに来ましたよ!」
何か来た。
「み、美春!?どうしてアンタがここにくるのよ!」
全くだ。
「さっきお姉さまのお布団に入ったら誰もいなかったから、もしやと思ったら……!やっぱりここに探しに来て正解です!」
な、なんだこの人……!『布団に入ったら誰もいない』から探しに行こうと考えたとは……!切っ掛けからして普通じゃないな。やはり、この逝かれた奴が脅迫犯か。
「あ、危なかったわ……。昨日で懲りたと思って完全に油断していたもの……」
え?昨日も来たの?
「お姉さま!男の部屋に来るなんて不潔です!おとなしく美春と一緒に裸で寝ましょう!いえ、勿論イロイロするので寝かせませんけど!」
「やめるんだ清水さん!それ以上の会話はムッツリーニの命に関わる!」
「…………!!(ボタボタボタボタ)」
「……雄二、とにかく続き」
「翔子、お前は本当にマイペースだな!」
「まだまだこれからだよ?(ペロペロッ)」
「そ、そこはダメぇぇっ……」
「な、なんじゃ!?目が覚めたら女子が四名もおる上に光正が攻めて雄二は押し倒されてムッッリー二が布団を血で染めておるぞ!?」
「ああああっ!皆してそんなに騒いじゃダメだよっ!このままじゃ、鉄人に気付かれて──」
『なにごとだっ!今吉井兄の声が聞こえたぞっ!』
階下から聞こえてくる鉄人の声。
「「「「「「「「………………」」」」」」」」
「え?なに?なんで全員が『吉井兄が叫んだせいで見つかったじゃないか』みたいな目で僕を見ているの?」
「くそっ!明久が余計な事をした所為で面倒なことになった!とにかくお前らは見つからないようにここから逃げろ!」
「何だか納得いかない物言いだけど雄二の言うとおりだ!とりあえずここは僕らに任せて!」
「任せたぞ兄さん!オレは寝る!」
「お前も手伝うんだ光正!」
「……はぁ。分かったよ。霧島さん。紫乃運ぶの任せた」
「…………分かった」
全く……こうなるって分かってたらもっと手を抜いたのになぁ。
「じゃあ、紫乃。行ってくるね。んっ」
「んっ……いって、らっしゃい」
完全にお疲れのご様子だ。まぁ、オレがやったのだけれども。
「で、でも……」
「お姉さま、躊躇っている時間はありません!とにかく服を脱いで美春の部屋に行きましょう!」
「美春は黙ってなさい!」
『吉井兄に坂本ぉ!お前らだとは分かっているんだ!そこを動くなよ!』
再びドスの聞いた声。なるほど……
「鉄人の声だ!もうかなり近いよ!」
「ねぇ、オレ名前上がってなかったしここに残っていい?」
「時間がない!こうなったら俺と光正が『必殺アキちゃん爆弾』で鉄人の注意を引き付けるから、その間に四人は部屋を出ろ!」
オレは参加確定なのね。はいはい。分かってましたよ。
「わかったわ!」
「美波!そこはわかっちゃダメだ!」
もう、何でもいいだろ。
「まず僕と雄二と光正が飛び出して鉄人の注意を引き付ける。その隙に四人はドアから出て一気に部屋まで走るんだ。いいね?」
「うん。……ごめんね。ウチらの為に」
「……ありがとう」
「頑張……って」
「お姉さま、愛しています」
一人返答がおかしいぞ。
「雄二、光正、行くよっ!」
「仕方ない、付き合ってやる!」
「えぇ……眠いのに……」
兄さんはドアの取っ手に手をかけ、一気に押し開ける。
バン!ガスッ!
「ふぬぉぉっ!?よ、吉井兄、キサマぁああ!」
「げっ!?鉄人が扉で頭を痛打したみたいなんだけど!?」
「それはファインプレイだ明久!」
「さすが兄さん!計算通りだね!」
ふっ。これで、てっつんの殺気は全て兄さんの元へ行くはず……。
「逃げるぞ光正!明久!」
「へーい」
「了か――」
と、ここで計算違いが起きる。
鉄人が出遅れたせいで、部屋の中を覗き込もうとしている。クッ……この手だけは使いたくなかったが致し方なし!『必殺アキちゃん爆弾』で鉄人にトドメを……!
「鉄人!僕はこっちだよ!」
オレたちの手を振りほどき、浴衣の帯に手をかけながら走る変態……もとい兄さん。鉄人は兄さんの声に反応し、こちらを向いた。どうやら、中の人たちは見つかってはいないご様子だ。
「貴様は西村先生と呼べと何度言えば――」
「どりゃぁあーっ!」
すかさずその顔に兄さんは脱いだ浴衣を巻き付ける。
「こ、こらっ!何を」
「おまけっ!」
そしてその上から帯を巻き付ける。
「今のうちだ!」
すかさず兄さんは四人に指示を出す。四人は頷き廊下を疾走する。
「吉井兄。貴様はつくづく俺の指導を受けたいようだな……!」
兄さんの鉄拳指導が確定した。
「明久。頑張れよ」
「ファイト。兄さん」
オレと雄二は兄さんに向かって親指を立てる。ナイス犠牲。
「西村先生すいません!坂本雄二がこっそり持ち込んだ酒を隠す為に注意を逸らせと言ってきたものですから!」
「キサマなんてこと言ってくれるんだ!?」
雄二も犠牲になったか……まぁ、しょうがないよねぇ~
「後、吉井光正も、連れ込んだ女たちを見つからないようにしろと僕に命令してきましたので!」
「テメェこの場でなんてデタラメな嘘を!?」
紫乃に聞かれてたらどうするんだよ!折檻なんて冗談じゃねぇぞ!?あ、でも、疲れているはずだからいいか。
というか兄さんが笑顔でこっちに親指を立ててくる。オレも答えるようにして、笑顔で親指を下に向ける。巻き込みやがってこのクソ野郎!
「吉井双子……。坂本……。貴様ら……覚悟は出来てるんだろうなぁぁああっ!」
「「「出来ていませんっ!」」」
鉄人が浴衣を剥がす前に走り出すオレたち。畜生何でこんな目に!
「どうする二人とも!何とか鉄人を撒かないと!」
「どうするも何も、普通に走っていたら逃げ切れないのは目に見えてるだろうが!」
「ですよねぇ~向こうは化け物だし。やはりここは『アキちゃん爆弾』を……!」
「嫌だよ!雄二、もっと良い方法はないの!?」
「ある!鉄人が入ってこれない場所に逃げ込む!」
鉄人が入ってこれない場所?それって…………女子部屋か!
「雄二!兄さん!……先に行け」
「「光正!?」」
「オレが時間を稼ぐ!お前らだけでも生き延びてくれ!」
オレは足を止め、迫り来る怪物と相対する。
「そんな……!」
「振り返るな明久!光正の犠牲を無駄にするんじゃねぇ!」
「くっ……すまない光正!」
……すまないと思うならオレを最初から巻き込むな。
「吉井弟……!貴様どういうつもりだ!」
「未来を考えたらこっちの方がいいと思いましてね……!」
そう言いながら蹴りを放つ。ここで、オレが女子部屋に侵入した場合の未来を考えてみよう。
女子部屋に侵入する
↓
鉄人を撒くのに成功
↓
翌日紫乃にこの一件がばれる
↓
夢の内容が現実になる
↓
BADEND
BADEND直行だ。というか、女子部屋に入って巨乳がいた時点でオレは終了な気がする。
「くっ……ガードされたか!」
「いい蹴りだ。だが……!」
そのまま足を持たれて……
「相手が悪かったな」
連れてかれた。抵抗しようにも片足を持たれているので上手く出来ない。
「吉井弟。お前は覗きだけは参加していなかったな。ということは、合宿での補習は初めてか」
「そうなりますね」
「初回大サービスだ。みっちり朝まで補習をしてやる」
「いや、結構です」
「まぁ、拒否権は無いんだが」
「横暴だ!」
その後パンツ一丁の兄さんが雄二のズボンを無理矢理脱がせている光景を目撃した。思わず手元の携帯でパシャっと写真を撮ってしまったオレを誰も咎められないと思う。
そして、オレたち三人は鉄人と熱い夜を過ごすのであった……。