IS×仮面ライダー 仮面ライダー炎竜   作:柏葉大樹

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 本編23話と現在執筆中の24話の間の話、原作で言うところの臨海合宿前になります。今回は大樹たちの日常の他にも、、、。それでは、どうぞ!


日常編第3話

side 大輝 

 タッグトーナメントのラウラの事件から1週間が経った。あの一件でヴァルハラは正式に衛生省と協力関係を結び、なおかつ3人目の男性操縦者の陸は特別に生徒でありながら有事の際にはERの仮面ライダーとして戦うことが正式に決まった。そして、夏の暑さが近づくこの季節、俺は体感的には2度目の臨海合宿の買い物に来ていた。正確には買い物というよりはデートで、、、

 

 「あ~ん。」(マドカ)

 「いや、だから。」(大樹)

 「あ~ん。」(マドカ)

 

 今はおされなカフェでマドカにパフェのおすそ分け(俺に拒否権は無いらしい)をされていた。いや、、、それね、俺がそんなに得意でないフルーツミックス系のパフェじゃん。優しさの押し売りは時として相手に不快な思いをさせるんだよ。断っても、断っても諦めないって、そのスプーンで食ってたじゃん。間接キスだよ、も~。

 

 「あ~ん。」(有無を言わさない強い目のマドカ)

 「あ、あー。」(棒読みで渋々口を開ける大樹)

 「ふん。」(マドカ)

 「うぐっ!」(大樹)

 

 勢いよく口に突っ込むな!死ぬわ!そのまま、喉の奥にパフェが消えたから味がよく分かんねえ。

 

 「はい、あ~ん。」にっこり(マドカ)

 「あ、あーん。」(大樹)

 

 すごく周囲の視線が痛い、、、。ちなみ、これは食べ終わるまで続きました。

 

 

 

 

 

 

 

 実はあのトーナメント、優勝したタッグには高級ホテルのケーキバイキングが無料でできる商品券みたいなものを渡された。そこになぜか夜のディナーまでついていたけど、、、。あの後、俺とマドカは破竹の勢いで対戦相手を叩きのめして、優勝候補だった3年生のコンビを圧倒的攻撃力をものに言わせて優勝をもぎ取った。優勝後にその商品を見て、水着を買いに行く日はデートをしようということになったのだ。

 今回のデートは水着を買うということでレジデンスに来ていた。1年前、アリインベスが出現し、光実さん、ザックさんと一緒に戦った場所であるここはその時の戦いなどを感じさせないほどきれいになっており、人でにぎわっていた。

 

 「1年もたてばほとんど思い出さないだろうな。」(大樹)

 「喉元過ぎれば熱さを忘れるって言うほどだしね。」(マドカ)

 

 俺とマドカは学園の制服ではなくお互いに私服で、俺は黒の上着に中は赤のシャツ、ジーンズといういで立ちでマドカは青いワンピースに白のブラウスを羽織っている。まあ、すれ違う人が皆、振り向くわ。ひいき目で見てもマドカ、美人だからこう年相応の私服を来たら、まあ、そりゃ、皆見るわ。箒や鈴とは違ったタイプで箒が大和撫子、鈴が元気系ならマドカは美人系と言うべきかな?よく分かんないけど。

 

 「みんな、見るな。」(大樹)

 「そう?」(マドカ)

 「さっきから、通りすがる人が皆見ているぞ。」(大樹)

 「気のせいだよ。」(マドカ)

 「気のせいじゃないと思うけど。」(大樹)

 「意識するとそう見えるから。気にしない、気にしない。」(マドカ)

 

 案外、マドカは周りの反応がそうでもないらしい。まあ、亡国機業にいたときのことを思い返せば、そんなに周囲の様子を気にするようなタイプじゃなかったな。

 

 「ねえ、次のお店はどうする?」(マドカ)

 「水着を見に行った方が良いんじゃないのか?あまり、人が多い時間に行くのも疲れるだろうし。」(大樹)

 「見に行くのは最後で良いんじゃない?ホテルの時間を考えたら、まだ時間に余裕はあるし。」(マドカ)

 「確かにな。」(大樹)

 

 こんな風に話しながら見て回るのは意外にも初めてだ。前世ではまあ一緒に出歩くこともあったけど、実際には監視がいたし、思い切り楽しんでいたわけでは無かった。

 

 「ねえ、覚えてる?」(マドカ)

 「何を?」(大樹)

 「前の世界で私と一緒にここに来た時のこと。」(マドカ)

 「ああ、覚えているよ。」(大樹)

 「大樹が急に監視している人達を振り切るぞって言った時には何を考えているんだろうって思ったよ。」(マドカ)

 「ああ、邪魔だったじゃん。」(大樹)

 「それで人ごみにわざとまぎれたり、途中で服を変えたりって、何を本気でやる必要があるのかって思ったけど。」(マドカ)

 

 そう、その監視の目を振り切るという、今考えればなかなかに頭がいかれたことをした。その中でそうやっていく中でマドカの見たい店を回れるし、そこで物を買って着替えればそれだけ見つかるまでの時間も稼げたしな。まあ、その部分は二人ともノリノリでしていた記憶があるし。

 

 「でも、それで気にしないで見て回れただろ。」(大樹)

 「それをする必要なんてなかったのに。そんなことをしたら大樹の立場が悪くなるのに。」(マドカ)

 「まあ、それも考えなかったわけではないけど。まあ、よくもまあ注意だけで済んだな。」(大樹)

 「お姉ちゃんと山田先生だったからでしょ。」(マドカ)

 「よく、ほっといてくれたな、千冬姉ちゃん。」(大樹)

 「大樹だから、信用したんじゃない?」(マドカ)

 「そうかね?でも、一夏の奴がやったら、出席簿アタックだったな。」(大樹)

 「別なんじゃないの、一夏兄さんと大樹は。大樹はなんというか大人びていたし。」(マドカ)

 「大人びたって、、、。ただ、家を空けがちな両親のもとで生活していたら一通り自分でやらなくちゃいけないことが多くて、そうなったってだけだよ。」(大樹)

 「大樹がそうなったんなら、大樹と同じような生活をしていた人が皆同じ感じの人になっているよ。大樹だからそうやって皆のことを気遣って優しくできたんだよ。」(マドカ)

 

 私のことを思って、あんなことをしたんでしょ?小声で俺にそう言ってくるマドカ。それに表立った答えを示したわけではないけど、確かに千冬姉ちゃんたちだったとは言え、自分の立場を悪くしてしまうことをしたのはあの時のマドカの表情が何となく、暗い表情だったから、それを変えたいと思ってからだった。なんとなく、それをマドカに認めるのが気恥ずかしかった。その直後にカフェに入って、パフェの食べさせ合いをしたのだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思えば、前世での戦いは自分の信じる正義を貫くためというよりも父さん、母さん、兄貴、一夏、千冬姉ちゃん、弾、蘭ちゃん、厳さん、数馬、鈴、箒、俺の人生で関わった大切な人達に危険が及ばないために、その一心で戦っていた。そこに事の善悪なんて入る余地もなく、戦いを忌まわしく思うこともなく、ただ、俺がやらきゃ誰かが死ぬ、俺が失敗すれば誰かが死ぬ、俺が全力を尽くさなければ誰かが死ぬ、だから、自分の持てる全てを注ぎ込んで戦いに臨んでいた。それを毎回毎回、そうやって戦っていると生傷も絶えないし、毎日全身に痛みが走っていた。

 俺は自分が戦っていることを一夏たちに隠すために常に鎮痛剤を使っていた。ただ、その量も日を追うごとに多くなっており、マドカと出会った時には四六時中薬を飲んでいないと生活が出来ないほどだった。その生活が変化するようになったのもマドカと出会ってからだった。その時にはまだインベスはいたがマドカといるようになってからは薬を飲む量も回数も減っていった。ただ、痛みが落ち着いてきたわけではなくそれでも痛みが全身を襲っていたがマドカといるようになった時になぜか、このままだといけないと強く思った。それからは薬に頼ることを極力控えていくようになった。

 マドカといるようになって、それまでのような俺の中にあった強迫観念のようなものは不思議と和らいでいった。その時には自然と笑えるようにもなっていたし、それまで以上に勉強にも力を入れるようになっていた。その時にはバカみたいだけど、なぜかマドカとこの先もずっと一緒にいるのではないか、そんなことを考えるようにまでなった。それが一変したのは一夏とシャルがフランスに行っていた時だった。

 千冬姉ちゃんもいない、他の専用機持ちもいないという状況でマドカとクリスマスをどう過ごそうかと考えていた時に父さんと母さんが死んだのだ。警察の霊安室にいた両親はひどく冷たかった。遺体は損傷が激しく俺が見ることが出来たのは父さんと母さんの体の一部分だった。その時に警察から渡されたのは父さんと母さんが俺に当てた手紙だった。その後からの記憶がかなりあいまいで、気付けば学園の自分の部屋でその手紙を読まずに窓の外を見ていた。

 俺の様子を見て心配したマドカは俺の手にあった手紙を読んだ。その文面を見て、彼女は俺に読むように促した。その時に彼女は涙を流しながら、俺に言ったのだ。

 

 「ちゃんと、読んで!」(マドカ)

 

 俺はその手紙を手に取って読み始めた。そこには俺が生まれたときから仮面ライダーとして戦うまでの俺の成長を見てきた父さんと母さんからの謝罪と俺の幸せを願う二人の思いが書かれていた。その日、俺はマドカがいることも気に留めずに涙を流し、泣き叫んだ。ごめんなさい、お願いだから帰ってきてと。その時の外は白い雪が空からゆっくりと降っていた。

 その1週間後、兄貴が俺の前に現れた。兄貴はオーバーロードとしての力を俺に見せつけ、圧倒した。幸い、その時にはまだ力が上手くなじんでいなかったようでその場を立ち去った。その時に俺の脳裏に浮かんだのは一夏の顔でも、千冬姉ちゃんの顔でもなく、マドカの笑顔だった。それから俺はほどなく、学園を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねえ、どうしたの?」(マドカ)

 「ああ、ごめん。ちょっと、考え事。」(大樹)

 「もう、水着、選んでいるのに。」(マドカ)

 

 マドカと共に水着売り場に来ていた。マドカが試着している間、前世でのことを思い返していた。自分のこれまでを振り返って、これからをどうしていくべきなのか、今の俺はふと思い立った時にはそのようにしている。その思考の最中で試着室のドアを間から顔を出したマドカに声を掛けられた。

 

 「ねえ、どれが良いか、見てよ。」(マドカ)

 「マドカが良いと思う奴で良いじゃないの?」(大樹)

 「その他に大樹が好きな水着も買うの。」(マドカ)

 「必要?」(大樹)

 「必要。」(マドカ)

 「俺に見せる必要は?」(大樹)

 「あるから聞いているの。」(マドカ)

 「さいですか。」(大樹)

 

 そのやり取りをして、マドカは試着室のドアを開ける。最初に選んだのは純白のビキニだった。でも、

 

 「マドカはそれは良いの?」(大樹)

 「大樹は好きじゃないの?」(マドカ)

 「これは違うかな。」(大樹)

 「ふ~ん、意外。」(マドカ)

 

 マドカはドアを閉めて、次の水着を俺に見せようと準備する。よくよく考えたら、ここは女性用水着の売り場だ。一人でこんなところにいたら怪しまれるよな。このご時世、前の世界とは若干違いはあるものの変な考え方をしているお姉さん方にはあまり見られたくない。見られたら、この先の人生が壊滅する。そうこう、考えていると試着室のドアが開いた。

 

 「これはどう?」(マドカ)

 

 そう言って俺に見せてきたのは黒の中々にきわどい水着だった。局部だけを隠すエロい奴で体格は鈴と同じだけど鈴と比べると女性らしい体つきのマドカが着るとまあエロい。

 

 「良いけど、なんか今度の臨海合宿には着てほしくない。」(大樹)

 「じゃあ、二人だけの時だね。」(マドカ)

 「買うの?」(大樹)

 「良いんでしょ?」(マドカ)

 「いや、まあ、その、う~ん、、、うん。」(大樹)

 

 俺のその返答をOKと受け取ったマドカはドアを閉める。あの水着、いつ着るんだ?そういえば、今回のデート資金ってマドカはどこから持って来たんだ?選んでいるときにちらっと値段を見たけど、バイトをしていない高校生が買うには桁が多かったけど。ああ、そういえば俺は3月から束姉ちゃんのところの専属パイロットをしているからそれなり、、、というかかなりの給料をもらっているけど、、、。

 

 「それじゃ、だいくん。これは今月のお給料。気持程度だからそんなに多くはないけど。」(束)

 「何も給料なんて、、、え。」(大樹)

 

 というのが俺の初給料を受け取った時のやり取り。いや~、諭吉先生が何人もいた。怖かったから、小母さんに預かってもらおうとしたけど、

 

 「預かって、この金額、怖い。」(大樹)

 「自分でやりくりしたら?これからはそういうのも必要だから練習だと思って。」(春奈)

 

 小母さんの管理の下で自分でやりくりするように。そんなこんなで3月から数えると4ヶ月が経過して、貯金がかなりたまって来た。貯金の金額を見て、思ったのは

 

 「ああ、指輪ってこんくらいの値段になるんだ。」(大樹)

 

 てこと。

 

 「これ、可愛いから選んだけど、どう?」(マドカ)

 

 そう言って、マドカが見せてきたのは白と紫のカラーリングのひらひらが付いたビキニタイプの水着だった。腰には黄色に華やかな模様があしらわれたパレオが巻かれており、俺の好みにどストライクだった。

 

 「うん、良い。すごく良いよ。」(大樹)

 「本当?」(マドカ)

 「いや、可愛いよ、本当に。すごく、良い」(大樹)

 「そう、、、。」(マドカ)

 

 そう言うとマドカはドアを閉める。なんか、顔を真っ赤していたな。なんか、心なしか熱くなってきたな、、、冷静に考えるとなんか恥ずかしいな。ドアが再度開かれると私服に着替えたマドカが選んだ水着を持って出てきた。会計を終えても二人とも、無言だった。

 

 

 

 

 「すごい、人が多いね。」(マドカ)

 「まあ、高級ホテルのディナーだからな。見た感じ、場違い感はそうでもないみたいだな。」(大樹)

 「大樹、嫌がるよね。極端に場違いな場所に行くの。」(マドカ)

 「嫌じゃん、なんか自分が居ちゃいけないって思うし。実際、ディナーに関してはあまり乗り気でなかったし。」(大樹)

 「もう、それじゃデートを楽しめないでしょ。」(マドカ)

 「高級って付くのは抵抗感があるんだよ。」(大樹)

 「、、、庶民。」(マドカ)

 「俺は一生庶民で良い。」(大樹)

 

 俺たちは本日のメインイベントである高級ホテルでのディナー(スイーツバイキングは1組の皆に渡した。あの狂喜乱舞というだけでは表現しきれないあの様子、まさにカオスだった。)に来た。すごく高級で俺のような庶民は絶対お断りのような場所かと思ったけど、庶民にもリーズナブルに楽しめるレベルの高級ホテルで内心はほっとした。受付自体はディナー券を見せたらすぐに出来たのですぐに席へと案内された。

 高級ホテルのディナーということでやたらとマナーに気を付けないといけないと思っていたが、そういうこともなくリラックスして楽しむことが出来た。

 

 「おいしかったね。」(マドカ)

 「うん。美味かった。」(大樹)

 

 ホテルでのディナーに満足した俺とマドカはホテルから出ようとしたのだが、

 

 「お客様、お部屋へとご案内いたしますので少々お待ちください。」(ウェイター)

 「「え?」」

 

 

 

 

 

 

 

 時はあれから20分ほどたった。

 

 「こんなのは聞いていないけど。」(大樹)

 「こういう時のことを棚から牡丹餅って言うんだっけ?」(マドカ)

 「ここ、普通に泊まったら二人で諭吉先生が10人以上はさよならするような場所だぞ。」(大樹)

 

 俺達に案内されたのはなんとこのホテルのスウィートルームだった。例のディナー券を見たら、宿泊込みだった。これは、、、確認していなかった俺達も非があるけど、、、。普通、高校でこんな賞品を出さねえよ!

 

 「ねえ、これって今日は学園に帰らないでこのまま二人きりでいろってことじゃない?」(マドカ)

 

 そういうマドカの瞳はどこか期待するような眼差しをしていた。その期待するものが何なのかはすぐに分かった。俺はその直後に学園に居る千冬姉ちゃんに外泊の許可を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side マドカ

 まさか、大樹と高級ホテルのスウィートルームで一夜を過ごすなんて思っていなかった。その大樹は私としてからは眠りについていた。私はその寝顔を見て、大樹の頭を優しくなでていた。思えば、この部屋に泊まるということになってからすごくドキドキしながら過ごした。

 ホテルの最上階にあるこの部屋から眼下の街の輝く様子を見ることが出来た。私は街の様子を見るたびにどれだけの人が何も知らずにいるのだろうと思った。大樹はずっと一人で多くの人々を守って来た、自分の身を削って。それを知らずに生きてきた人たちが前の世界ではあまりにも多すぎた。そのことに私は憎しみを抱いたけど、それよりも、大樹が死んでしまったことへの喪失感が大きかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「マドカ。」(一夏)

 

 あれは大樹が死んでから数日が経ったある日だった。千冬姉さんが葬儀の手配を全て行っており、一夏兄さん、簪、楯無さん、弾、蘭ちゃんといった大樹のことを知るごく少数の人達だけで葬儀をした。その時の私は大樹が死んだことを受け入れることが出来ず、学園の、二人の部屋にずっといた。

 

 「何。」(マドカ)

 「なあ、大樹の葬儀だけど、明日出棺するんだ。せめて、大樹に最後の別れを、、、。」(一夏)

 「行かない、大樹が、、、帰るまでここにいる。」(マドカ)

 「なあ、マドカ、、、。大樹はもう、、、。」(一夏)

 「皆、嘘ばかり、、、。大樹は、、、大樹は、、、必ず帰る。だって、そう約束、、、。」(マドカ)

 「目を覚ませよ!大樹はもう、帰ってこないんだ!」(一夏)

 「どうして、、、そんな、、、。」(マドカ)

 「マドカも見ただろ!大樹が目の前で死んでいくのを!」(一夏)

 「違う、、、あんなの、、、嘘、、、。あれは、、、。」(マドカ)

 「マドカ!」(一夏)

 「ねえ、一夏。先に行ってて。」(簪)

 

 あの時、一夏兄さんは私に現実を見ろってずっと言っていた。そんなのは私にはまったく届いていなかった。現実から目を背け、ただ唯一大樹とした約束だけを心のよりどころとしていた私には一夏兄さんの言葉は届くことが無かった。

 

 「マドカ、、、。」(簪)

 「何。あなたも、一夏兄さんと同じでしょ、、、。大樹は、、、。」(マドカ)

 「これを見て、マドカ。見たくなくても、聞いて、、、。」(簪)

 

 簪はそういうとテレビをつけて、持ってきていた機械と繋げる。そこには、、、大樹がこの部屋にいる姿が映し出されていた。

 

 【ああ、こんなことは映像に残すよりも直接言った方が良いのは分かっているけど、、、。でも、もしものことを考えると、、、きっと、言えないと思う。だから、こうやって映像に残すことにした。、、、、、初めて会ったのは、、、マドカはきっと覚えていないだろうけど、学園祭の時にオータムが襲撃してきた時だったな。まあ、ろくに会話をしていたわけでは無いから、カウントしなくて良いか。

  まともに話したのは京都で会った時だな。あの時の俺は、、、うん、よく敵である君を誘ったよ。それに君もその場で殺せるはずだったのに俺に誘いに乗ってくれた。観光の時のまた会おうがまさかその日の夜だなんてね。フォルテ先輩、ケイシー先輩、それにまあ、あの時は失ったものも大きかったな。入れ替わるようにやってきた君は、とにかく俺と話す時間が多かった。お気に召す答えなんて出せないから、俺の中で言えることを、な。それから、、、、無駄話は、、、したいけど、、、うん、話さなくちゃいけないことがあるからな。

  マドカ、俺は君のことを一人の女性として好きだ。だからこそ、俺は兄貴を、勇吾を、あの化け物を倒しに行く。愛する君を守りたいから、、、。それで、俺が死んでしまっても、、、俺のことを気にしないで人生を生きて欲しい。ここまでの人生で苦しんできた分、幸せになって欲しい。俺が死んで、自分の所為だとマドカは思うだろう、でも、それは違う。ただ、俺が勝手にそう考えて行動しただけだから。マドカには何も悪くない。それに俺が戦ってきたのは周りは関係ない、俺が勝手に行動しただけだ。だから、これからは俺のことを忘れて、幸せになって欲しい、俺からの身勝手な願いだけど、、、この世界を愛して欲しい。憎み続けるよりも難しいと思うけど、こんな世界でも愛すべき部分がたくさんある。俺の仲間たちなら、きっと助けになってくれるはずだ。

  マドカ、さよなら。どうか、元気で。俺は、柏葉大樹は織斑マドカと出会えてよかった。】(大樹)

 

 そこには大樹が私に残したメッセージがあった。そのメッセージはあまりにも、あまりにも、私にとってはひどいものだった。

 

 「どうして、どうして、そんなこと言うの?どうして、あなたが居ない世界で生きなきゃいけないの?あなたが、そう言っていたなんて知ったら、私、、、。」(マドカ)

 「皆にそれぞれ、残していらしいの。私にも、お姉ちゃんにも、もちろん一夏や織斑先生にも。でも、マドカだけは、マドカにだけは残しておきたいものがたくさんあったんだと思う。マドカに宛てたビデオだけは、私達に残したものよりも、多いの。」(簪)

 

 そう言って簪は私に大樹の残した多くのビデオを見せる。

 

 「正直、友達の私達よりも敵だったあなたにこれだけいっぱいメッセージを残しているのを知ってすごく嫉妬した。でも、これを見たらね、大樹はあなたのことが、マドカのことが本当に大好きだったんだと思う。どれを見ても、あなたに伝えたいことがいっぱいでとにかくそれを伝えようとしていた。」(簪)

 「、、、馬鹿。どうして、、、一緒にいる時に、、、話してくれなかったの?そんなに、、、そんなに、、、私のことが好きだったんなら、、、どうして、言ってくれなかったの!」(マドカ)

 

 ビデオを見てから、思いが口から出て、止まらなかった。一緒にいた簪はそれを遮ることなく、黙って聞いてくれていた。

 

 「そんなに、そんなに、私のことを思っていたなら、どうして、連れて行ってくれなかったの!この世界に、いる意味なんて、無いのに!大樹が、一緒じゃないなら、生きている意味なんて無いよ、、、、、、。」(マドカ)

 

 涙が止まらなかった。思いがあふれ出て、胸が苦しかった。

 

 「良いよ、今は、私の胸の中で泣いて。」(簪)

 

 簪はそう言って私を抱きしめてくれた。簪の胸の中で私は泣きじゃくっていた。

 

 「マドカ、お願いだから、明日は、来て。あなたが居ないと、大樹が悲しむよ。」(簪)

 「うん、うん。」(マドカ)

 

 その翌日、私はやっと大樹の葬儀の出席した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼下の明かりを見ながら、私は前の世界であったことを思い出していた。あの喪失感から完全に立ち直れたわけじゃない。前の世界で簪たちと一緒に過ごして、薄れはしたけど、、、。

 実のところは、大樹にはもう戦って欲しくない。正直、大樹が戦っている姿を想像すると嫌でも大樹が死んだ姿を思い出す。そうすると、ものすごく落ち着かなくなって、居ても立っても居られなくなる。でも、、、、、。

 

 「あなたは、守りたいもののために戦うから、、、。私が止めても、どんなにあなたが私の元にいるようにしても、あなたは行ってしまうでしょ?」(マドカ)

 

 これは、大樹には届かない私の独り言。でも、言わずにはいられないから、、、。

 

 「愛してる、ずっと。だから、死なないで。」(マドカ)

 

 その言葉を口にすると、私は大樹の体に触れて、目を閉じた。

 




 一部シーンについては現在連載中のR18版で投稿します。今回は日常編の他の話よりも回想シーンが多く、大樹とマドカの前世での思いなどに焦点を当てました。今後、一夏と箒(or鈴orセシリア)、颯斗と簪、陸とシャル(orラウラ)で同時期のやり取りも書きます。執筆の時期は未定ですが、それぞれの良さを出した話にしたいです。本音は、主人公とヒロインだけだと重たい話になることが多くなるから、原作のようなライトな雰囲気のやり取りを書きたい!
 それでは次回は本編24話若しくは今回のR18版にて。

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