side 大樹
「束姉ちゃん、正則さん、来たよ。」(大樹)
颯斗たちと出会ってから、家に荷物を置いたりして、束姉ちゃんの研究所(神社の一角にある古い蔵だけど)へと来た。当の束姉ちゃんたちはいないみたいだけど。
「どっかに行っているのか?」(大樹)
「でも、そんなことを言っていなかったと思うけど。」(マドカ)
「仕事は大抵、ここでするからな。」(大樹)
二人がここにいないのはどこかで講演会みたいなのをしているのかもしれない。でも、そんな話は無かったはずだが。
「珍しいの?ここにいないことって。」(簪)
「基本はここが仕事場だから。筑波にある研究所は束さんと正則さんはあまり行かないから。」(マドカ)
「あそこは主にしている研究がISに特化している訳じゃないみたいなんだ。ISの製造はそこでしているみたいだけど、IS関係の仕事はここで全てしているんだ。」(大樹)
「見た目は古い蔵なのに、中はがっつり研究所だね。」(颯斗)
「すご~い。」(本音)
俺たちはいたるところを見てみるがどうも完全にここにはいないみたいだった。
「あの、皆さん。ここの下に誰かいらっしゃるようですよ。」(メディック)
「俺はそう言ったことは得意ではないが確かにメディックの言うとおりだ。」(ハート)
ハートたちがそう言った。でも、見た限りではここには地下に通じるような扉などは無かった。
「ねえ、それって篠ノ之博士?」(颯斗)
「どうやら一人だけのようですわ。生体反応から見て、どうやら子供のようですけど。」(メディック)
メディックの言葉から一人、前世で記憶している人物を思い出した。ただ、この世界だと束姉ちゃんはあまり接点がなさそうだし、、、。
「ねえ、もしかしてクロエ・クロニクル、かな」(マドカ)
マドカが小声でその人物の名を口にした。
「この世界でそれがあり得るのか?俺たちの知る限り、あの二人がラウラの研究に関して知っているなんてことは無いと思うけど。」(大樹)
「それでも、関係が深そうなのは彼女でしょ?もしかすると、地下にいるのが彼女ってこともあり得るだろうし。」(マドカ)
そう、それほどまでにクロエが出ている=束姉ちゃんの仕業って言うのが確定と言えるほどに関係性は深い。とりあえず俺たちは研究所をしらみつぶしに調べることにした。まあ、大方の予想通り、地下に通じるような扉や隠し通路なんかなかった。そもそも、あの二人がそんな隠し通路みたいなのを作ったところで俺達に分かるようなものを作るはずもないか。
「何か、見つかった?」(颯斗)
「いや、見つかんない。そもそも、そんな隠し通路みたいなものをあの二人が作っているのならわかりやすいものを作りはしないだろ。」(大樹)
「ハート、メディック。何かあった?」(簪)
「いや、不審なものは何もないが。」(ハート)
「わたくしとハート様でも見つからないのであればかなり巧妙に隠しています。」(メディック)
「ねえ、二人が分からないのって。ここにはそんな入り口はないってことじゃないの?」(マドカ)
ここでマドカさんの一言。俺もそれは考えた。でも、好奇心から探す方を選んだし、あの二人だったらそう言うの一個や二個はあるだろ!!って思ったし。
「ねえ、これな~に~。」(本音)
本音が指さす方向には「家族以外絶対に入るな!!」と書かれた張り紙があった。
「何?」(颯斗)
「さあ?」(簪)
「なんで壁に張り紙?」(マドカ)
「ドアに貼るならなあ。」(大樹)
そう、壁にそう書かれた張り紙があるだけでドアらしきものは無いのだ。5人で肩を寄せ合って見る。
「ねえ、離れて!」鼻血つー(颯斗)
「わ、わ、わか、った!!」(簪)
「簪、そんなに押さないで!」(マドカ)
「あまり、動くなよ。こっちにしわ寄せが来るから!颯斗、耐えろよ!!」(大樹)
そんな中であまりにも簪が密着していたことで颯斗の鼻から赤い鼻水が流れ出した。簪がそれで離れようと動き出すとそれまでかなりぎゅうぎゅうに密着していた俺とマドカにしわ寄せがくる。そうこうしていると
バキャン!!
と大きな音を立てて壁が倒れた。壁の向こう側は階段になっており地下に続いていた。
「どうする?」(颯斗)
「俺は行かない方に一票。」(大樹)
「でも、何かあるんじゃないの?」(簪)
「見るだけならいいじゃないの?」(マドカ)
「それじゃ~、行くよ~。」(本音)
本音がいつもの感じでそのまま階段を下りていく。それに颯斗と簪もついて行く。
「どうする?」(マドカ)
「できれば、こういうのはしない方が良いと思うけど。」(大樹)
結局、俺とマドカも颯斗たちについて行くことにした。
side 正則
ま~た、うちの嫁さん、やらかしやがった。おかげで今日、俺達の所に訪ねてくる颯斗君たちの約束に遅れた。本当の予定ならとっくに家についているのだが、うちの嫁さん、昨日までため込んでいたの仕事終わらせるのに明け方までかかった所為でつい30分前に起きたのだ。まあ、当の俺も寝過ごしてしまったのでたばちゃんばかりを責めることは出来ない。
「ああ、約束の時間から30分オーバーだ。たばちゃん、連絡はした?」(正則)
「今、しているけど出ないよ。」(束)
颯斗君たちが電話に出ない。どこかに移動しているのなら仕方ないが、、、、。そう言うことにはしっかりとしている印象なのだが。とりあえず、俺とたばちゃんは持ち物を研究所の中に運んでいく。そこに、昼間は開かないはずの通路の扉が開いていた。それを見て、俺は思考が数分ほど止まってしまった。
「くーーーーーーーーーーーーちゃーーーーーーーーーーーーーーん!!」(束)
それを見た瞬間にたばちゃんは最愛の娘の名を呼んで普段はしないであろう全力疾走でそのまま扉の向こうへと飛び込んでいった。それを見た俺ははっとして思考を取り戻す。
「たばちゃん、待って!」(正則)
俺は荷物を机の上に放り投げると念のために鴻上会長から受け取ったものを持ち、たばちゃんの後を追う。
side 三人称
時刻は正則と束が戻って来た時刻から数分ほど前までにさかのぼる。大樹たちは階段を下りていき、平坦な通路へと出た。
「なんだか、忍者屋敷みたい。」(颯斗)
「私はエジプトのピラミッドみたいに思ったけど。」(簪)
「わ~、ずいぶん遠くまで続いているね。」(本音)
友人3人はそのようにして先へと歩いていく。一方の大樹とマドカは3人からは少し距離を取って、後ろをついて行く。
「ねえ、ハートたちの言っていた反応はここらへんじゃなかった?」(マドカ)
「あんな音を出せば気付いただろうな。とっくに移動しているはず。」(大樹)
大樹とマドカは先程の反応が居ないことに特に驚くわけではなく、周囲を見ながら進んでいた。大樹たちが進んでいく通路は壁は白一色で床、天井にはライトが灯っており、見通しは良かった。近未来的で、確かに研究所と言っているだけはあった。進んでいくとまた階段があり、大樹たちはその階段を上がっていく。その先にあったのは
「ここは?」(颯斗)
「家の中?」(簪)
「誰のおうち?」(本音)
明らかに誰かが住んでいると思わしき家の室内であった。そこはどうやら、靴を脱ぎ着する場所らしく颯斗たちは靴を脱ごうとしたその時、
「くーーーーーーーーーーーーちゃーーーーーーーーーーーーーーん!!」(束)
大樹たちの後ろから束が飛び蹴りをかましていた。
「ぶげ!」(颯斗)
「ぶっ!!」(大樹)
男性陣二人は対応しきれずにその跳び蹴りの直撃を受けてしまった。女性陣は直撃を受ける位置にいなかったために無事だった。
「くーーーーーーーーーーーーちゃーーーーーーーーーーーーーーん!!」(束)
大樹と颯斗に飛び蹴りをかました束はそのまま家の奥へと走り去った。束の普段は見ることない姿を初めて見て目を丸くする女性陣。大樹と颯斗は蹴られた箇所を抑えてうずくまっている。
「はあ、はあ、たばちゃん、、、待って。」(正則)
束から遅れて正則も来たが相当走ったためか息が上がっていた。
「あれ?皆、なんで?」(正則)
「ええと。」(簪)
「こんにちは~。」(本音)
「ええと、正則さん、こんにちは。」(マドカ)
正則はどういうわけかここにいる大樹たちを見て頭の上に疑問符を浮かべる。ただ、まともに受け答えをする女性陣とは違い、蹴られた箇所を抑えて悶絶する大樹と颯斗はそれどころでは無かった。
「うちの奥さん、どこ行った?」(正則)
正則の言葉に束が走り去った方向を指さすマドカたち。
「皆とうちの奥さん以外で誰か入ってきたかい?」(正則)
「うんうん。私達だけ。」(マドカ)
「なら、一安心だ。」(正則)
正則にとっての懸念事項はこの家の侵入者が自分たちが警戒する者達であるかどうかだけで見知った仲の大樹とマドカ、その友人たちであれば防犯上の欠陥(これもかなり重要なことではあるのだが)だけでそこまで気を張ることではないからだ。
「皆、勝手に入ったことに関してははっきり言おう。不法侵入で訴えられても文句は言えないからね。あんな入り口を見ても、基本は自分の家じゃないのならば家主の許可なしに入らないように。良いかい?」(正則)
「はい。」(簪)
「分かりました。」(マドカ)
「は~い~。」(本音)
「わ、、、か、、、、り、、、、まし、、、た、、、。」(大樹)
「は、、、、、はい、、、。」(颯斗)
正則の言ったことに頭を振るなどの動作を交えて理解したことを伝える大樹たち(大樹と颯斗はダメージから立ち直っていないがそれでも返事をした)。
「ああ、皆は靴を脱いで。ここまで来たなら紹介したいし。」(正則)
後半は独り言のように小さく言う。大樹と颯斗の息が整うのを待って、一行は家の中へ上がっていった。
「正則君、束がすごく慌てて、なぜ、大樹たちもいるんだ?」(柳韻)
束、箒の父の柳韻が先程の騒ぎを聞きつけて現れた。大樹たちの姿を見て、なぜここにいるのかを聞く。
「ああ、あの蔵の入り口を見つけたみたいで、そのまま入って来たみたいです。こうなったら、あの子と会わせても良いかと思って。」(正則)
「そうだな。あの子も少し家族以外の人間と関わるべきとは思っていたがこの子たちならば大丈夫だろう。」(柳韻)
柳韻と正則のやり取りに出てくるあの子に疑問を浮かべる一行。
「ああ、今から会えるよ。束もそこにいるだろうし。」(正則)
一行は柳韻に挨拶をして、そのまま家の奥へと行く。ここは箒たちの家だったらしく、ここに束と正則も生活している。家の奥へと進んでいくと、クロエと書かれた名札が掛けられたドアが開けられたままの状態であった。
「ああ、たばちゃん、そのまま入ったか、、、。皆、入って良いよ。たぶん、大丈夫なはずだから。」(正則)
正則の言葉に従って、大樹たちはその部屋へと入る。そこには、、、、、、、、
「くーちゃん、くーちゃん、くーちゃん、くーちゃん、くーちゃん、、、、。」(束)
「母様、もう、やめてください。」(クロエ)
ラウラによく似た少女に抱き着いて頬ずりをしまくっている束の姿があった。束は何というかだらけ切った表情で少女の愛称を何度も口にする。その少女は明らかに困った表情をしていた。
「たばちゃん、そこらへんでやめな。クロエが困っているだろ。」(正則)
「くーちゃん、くーちゃん、くーちゃん、、、、。」(束)
「父様、助けてください。」(クロエ)
「今助けるからな。ほら、たばちゃん、離れなって!!」(正則)
正則は力づくで束を少女から引きはがす。
「あああああああああああああ!!くーーーーーーーーーーーーーーーちゃーーーーーーーーーーーーん!!」(束)
「離れろ~~~~~~~~!!(正則)
それに力の限り抵抗する束、それを引きはがそうとする正則の戦いはものの数分で終わった。
side 大樹
なんというか、もう俺もマドカも分かっているけど、クロエ・クロニクルがいた。もう、なんというか、、、結局、どこの世界でも大して変わらないんだなとしか思えなかった。
「ああ、紹介するよ。この子は黒江。訳あって、俺と束が引き取って娘として育てている。」(正則)
「篠ノ之黒江です。初めまして。」(黒江)
しかも、娘、、、。いや、これはおかしくは無いか。一応保護者だし。
「皆には娘の話し相手になって欲しいんだ。事情があって、学校に通っていなくて。」(正則)
「父様、私は、、、。」(黒江)
「当然、黒江がそう言うかかわりが必要ないなら良い。でも、父さんとしては仕事の手伝い以外にも世界に触れて欲しいんだ。」(正則)
「くーちゃんがしたくないなら、お母さんは別にしなくて良いと思うな。むしろ、ずっと家に居て欲しい( ・´ー・`)」(束)
「束は子離れできるようにしないとな。」(正則)
「嫌だ!!離れたくない!!」(# ゚Д゚)(束)
「子どもはいつかは離れるよ。」(正則)
「そんな現実、見たくない!」(´;ω;`)(束)
大人二人のやり取りを見て、ああそういうことかと納得した。クロエはその出生、束姉ちゃんの所に来るまでに様々な事情がある。そのどれもが世界に生きる大半の人間が受け入れることが出来ないものだ。それを考えれば家の外に出ることなんてほとんどないだろう。束姉ちゃんと正則さんからすれば、出来ないのは仕方ないにしても少しでも外とのかかわりは作って欲しいのだろうな。これから先の人生を考えて。
「黒江、少しは話してみてくれないか?」(正則)
「けれど、、、。」(黒江)
「ねえ、黒江ちゃん。」(マドカ)
「あ...なんでしょう?」(黒江)
「ちょっと、お父さんとお母さんのことでもいいから私達と話さない?」(マドカ)
「ですが...。」(黒江)
「ねえ、話そうよ~。」(本音)
「ああ!ちょっと!!」(黒江)
本音が黒江の手を引っ張って話そうと催促する。何だろう、意外と強引なところがあるんだな、本音って。
「ああ、初めまして、黒江。俺は柏葉大樹。んで。」(大樹)
「僕は留芽颯斗。大樹の友達。」(颯斗)
「織斑マドカです。お母さんの友達の織斑千冬の妹です。」(マドカ)
「私は更識簪。よろしくね。」(簪)
「私は布仏本音~。のほほんって呼んで~。」(本音)
俺たちはそれぞれクロエに自己紹介する。それに少し戸惑いがあったのだろう。ほとんど閉じられている目からは戸惑いや疑念などが見て取れた。それでも、
「あの...よろしくお願いします。」(黒江)
と手を差し出した。
今回はここまでです。そりゃ、あまり外へは出られないわ。本編最新話も完成次第投稿します。それでは、楽しみにしてください。