side貴虎
私は自分の耳を疑った。一夏君はなんと自分もアーマードライダーになると言い出したのだ。
「何をバカなことを言っている!正気か!」(千冬)
「だけど、千冬姉!大樹一人に任せるべきじゃないだろう!」(一夏)
「だからと言って、一夏がなる必要はない!それにこれがどれだけ危険なのか分かっているのか!?」(千冬)
「分かっているさ!大樹の戦いを見たら、俺でも分かったさ!だから、誰かがあいつを助けないとだめだろ!」(一夏)
ここまで、2度のインベスとの遭遇し、アーマードライダーとインベスの戦いを見た彼はそのさまを危険性を肌で感じたはずだ。それなのに、彼は友のために自身もアーマードライダーとなると言ったのだ。その様子に彼の姉であるブリュンヒルデも額に手を当てる。
「すまない、一夏君、君のその気持ちは素晴らしいものだ。だが、大樹君の友人とは言え、無関係な君まで巻き込むわけにはいかないのだ。」(貴虎)
私は彼にそう言った。だが、一夏君は私を見据える。その眼差しはかつて、この世界を救った葛葉紘汰を彷彿させた。
「おっさん、大樹が、俺の親友が関わっているなら、無関係じゃないんだ。あいつに関わりのあることがあいつを危険な目に合わせる。それを安全なところで見ているなんて俺は出来ない。」 (一夏)
彼の姿があの時、私に人類を救う別の道を指し示した葛葉と重なる。
「すまない、弟はこう言ったら梃でも動かない。」(千冬)
彼女の織斑千冬の様子を見て、私は光実との関係を思い出す。
「一夏君、ブリュンヒルデ、少し昔の話を聞いてくれないか。」(貴虎)
私は彼らに、私が、光実が、ここヴァルハラで働いている者達が関わったあの戦いの日々を話し出した。
side大樹
俺は辺り一面が漆黒の空間にいた。最後に覚えているのは激痛と貴虎さんの顔だった。
「死んだのか?」(大樹)
「いや、君は死んでいないよ。今は少し眠っているだけさ。」(???)
俺の前方から誰かが歩いてくる。近づいて来るにつれてその顔が徐々に見えてくる。
「俺?」(大樹)
「やあ、別世界の僕。」(大樹B)
彼は、もう一人の俺は俺に笑いかけた。
「どうも、融合が上手くいかなかったみたいだね。僕の記憶を思い出すのに時間が掛かっているみたいだね。」(大樹B)
「記憶?」(大樹)
「その様子だと融合する前のやり取りも覚えていないみたいだね。余程、君が元の世界で最後に戦った時の影響が残っているみたいだね。」(大樹B)
彼は俺が転生したことをよくわかっているらしい。その理由も。
「なあ、この世界で何が起こっているんだ?俺が元の世界で戦ったインベスがなぜ、この世界に、インベスのいなくなった地球にいるんだ。」(大樹)
「君の世界で起きた脅威がこの世界に来たのさ。それが君が前の世界で倒したインベスたちを作り出したんだ。
君が転生したのはその脅威に立ち向かうためだよ。」(大樹B)
俺の世界の脅威、それは
「兄貴が、兄貴が全ての元凶なのか。」(大樹)
「余程の因縁だったんだね。でもね、今の君じゃ、元の世界で最後の戦いで死んだ君じゃ止められないよ。」(大樹B)
「どういう意味だ。」(大樹)
「今の君は人の心の死んだ修羅だ。敵を倒すためなら自分の命すらも捨てて戦う獣だ。」(大樹B)
俺は彼が言っている意味が分からなかった。
「何も残さず、敵対するすべてを屠る修羅じゃ、オーバーロードを超えて世界を蝕む邪神になったあいつには勝てないよ。」(大樹B)
「俺は修羅になっていない、柳韻先生に剣を教わり、一夏たちと一緒に学んだ俺が修羅になっているはずがない。」(大樹)
「それは錯覚だよ。今の君は普通に見えるけど最後の最後で万夏達に最後を看取られた時には人の心を失っていたんだよ。今の君は人の心の残滓が残っているだけ。それも君の中の修羅が表に出たらすぐに消えてしまうだけのもろいものさ。」(大樹B)
彼の物言いは俺の神経を逆なでした。現に俺はそんな戦い方をしていない。
「まだ、理性を働かせているからね。そうそう、君の中の修羅は消えないよ。一つ言うけどここの世界に来て、意識が覚醒してから君は心の底から笑ったのかい?」(大樹B)
彼の問いに俺は答えられなかった。結局のところは悲しみなどのマイナスの感情はすぐに湧き出てくる。けれど、、、。
「君の心はあの戦いで死んだんだ。その前から、兄ちゃんを探していた時から君の心は徐々に尖り、削れていった。その脆くなった心があの戦いで決定的に死んだんだ。」(大樹B)
俺は彼の言う心の死んだ瞬間をいまだに覚えている。あの時、俺の中にある人間らしさが無くなった。
「君だって、自覚したはずだよ。鈴を、セシリアを、シャルを、ラウラを手にかけた瞬間に君の心が死に、君の中にあった修羅が表に出てきた。その結果、君は自分の命を顧みなくなった。その命が消えるまでオーバーロードになった兄ちゃんを殺すことを考えるようになった殺人マシーンになった。
いいかい、人の心が死んだ今の君じゃあ、兄ちゃんを倒すどころかその近くにいる今まで以上の強敵との戦いにも勝てないよ。
変心、心が変わった君は強くなった一方で決定的に弱くなった。多く敵を倒せる力と引き換えに自分を殺せるようになったんだ。
あの戦いは序章だよ。これから起こる戦いこそ君が生きるべき本当の物語だ。孤独に戦い、その果てに人の心を失った君はこれからを通して、本当の強さを手にする必要がある。そのためには僕の記憶を思い出していかないとね。そして、君と共に戦う人々の存在を知ることだ。
頑張ってね、もう一人の僕、いや、仮面ライダー炎竜。」(大樹B)
「はあ!はあ、はあ、はあ、、、。」(大樹)
「大ちゃん!大丈夫!?」(万夏)
俺は精神世界から戻って来た。
マドカがそばで見ていてくれたらしい。
「マドカ、今、何時ぐらい?」(大樹)
「今は3時頃だよ。ねえ、大丈夫?」(万夏)
「ああ、大丈夫。」(大樹)
「ああ、良かった、目が覚めたんだね。」(???)
白衣を着た女性が俺の様子に気付いた。
「私はリカ、医療部門に従事しているの。ねえ、最後に覚えているのは?」(リカ)
「ええと、激しい痛みと貴虎さんの顔。」(大樹)
「ここに来ているのを覚えていると。君が寝ている間に色々調べていたの。とりあえず、健康面に関しては大丈夫よ。」(リカ)
どうやら、寝ている間に色々調べられていたらしい。
「ねえ、二人とも付き合っているの?」(リカ)
リカさんが言った。まあ、年頃の女の子が男の子の見舞いをしていることからそう勘繰られることもある。
「え、ええと。」(万夏)
マドカが答えを考えている。てか、顔が赤い。こういうのに耐性なさすぎだよ、マドカさん。
「いや、幼馴染なんです。事情があって、俺が彼女に家に居候しているといいますか。」(大樹)
俺が代わりに返答する。マドカ、露骨にしょんぼり(´・ω・`)しないで。まだ、俺達そこまで進んでないでしょ。
「へえ、幼馴染ねえ。
私の昔の知り合いにも幼馴染同士の二人がいてさ、私達もその二人が出来ているって思ったんだよね。だけど本人たちは違う違うの一点張りでね。今じゃ、二人とも何をしているのかは知らないけど。」(リカ)
俺はリカさんの言う二人がどうなったのかは知っている。だが、それを話すのは残された側にとっては苦である。
「きっと、結婚したんじゃないんですか。」(大樹)
ただ、これくらいを言うのは良いのだろう。
「たぶんね。君たち二人もなんだか、相性よさそうだし、ねえ付き合ったら教えてね。」(リカ)
ただ、女子会のネタに使われるのは勘弁だ。
ズシーン。
突然、ヴァルハラの施設が大きく揺れた。
side貴虎
「おい、何があった!」(貴虎)
私は職員に概要の説明を求めた。
「ヴァルハラ近海にインベスが出現。大きさは10メートルを超える模様。水棲型と思われます。」
水棲型は今までに確認されたことのないタイプだ。前回のインベスと言い、最近のものは私達が過去に遭遇したインベスとは明らかに違う。
「ザック、施設の防衛を頼む。インベスの迎撃は私がする。」(貴虎)
「分かった!」(ザック)
「君たち二人は安全な場所へ。」(貴虎)
「いや、私も出る。」(千冬)
ブリュンヒルデが言った。
「競技で相手にするISとは違うのだぞ。」貴虎)
「ここまでの施設に襲撃した時点で相手が計り知れない奴なのは分かる。いくら手練れのあなたでも一人では厳しいはずだ。」(千冬)
私は数瞬のうちに
「分かった。だが、無理はしないでくれ。いくらISでも命の保証はない。」(貴虎)
「ああ。」(千冬)
「すまないが、一夏君は妹さんと大樹君と合流して安全な場所へ行ってくれ。職員と共に行動すれば大丈夫なはずだ。」(貴虎)
「分かった!」(一夏)
私はゲネシスドライバーを取り出し、腰に当てる。
side大樹
俺は突然の揺れにとっさにマドカを抱きしめていた。
「外にインベスが出たみたい。二人とも私についてきて、安全な場所に移動するから。」(リカ)
リカさんの言葉で外にインベスが出現したことが分かった。
「マドカ、俺、行ってくる。」(大樹)
俺の言葉に不安な表情を見せるマドカ。
「リカさん、マドカのことをお願いしても。」(大樹)
リカさんは少し考えると
「分かったわ。マドカちゃんのことは任せてね。」(リカ)
「マドカ、また後で。」(大樹)
マドカは不安な表情を見せていたが。
「うん、気を付けてね。」(万夏)
無理矢理笑顔を作った。
俺はドライバーとロックシードを持って、外へ向かった。
side 貴虎
私とブリュンヒルデは外へ出ると、ヴァルハラの基底部分に体当たりするインベスを見つけた。
「それでは、行こうか、ブリュンヒルデ。」(貴虎)
「千冬と呼んでくれ。これから共に戦うのだから。」(千冬)
「分かった。よろしく頼む、千冬。変身。」(貴虎)
『メロンエナジー!』
≪ロックオン!ソーダ!メロンエナジーアームズ!≫
「行こうか、暮桜。」(千冬)
私はアーマードライダー斬月・真に変身した。
千冬は自身の愛機の暮桜を装着する。
私たちは眼下のインベスへと向かった。
side 大樹
俺は廊下を必死に走っていた。
「変身!」(大樹)
俺はそのまま仮面ライダー炎竜ドラゴンフルーツアームズに変身して、窓を突き破る。外では千冬姉ちゃんが暮桜を装着し、変身した貴虎さんと共にサメインベスへ攻撃していた。俺は一階のバルコニーに着地して、サメインベスへと飛び掛かる。空中で俺はベルトを操作する。
≪ドラゴンフルーツスカッシュ!≫
竜炎刀にエネルギーが集まり、着地と同時に刃をサメインベスの背中に突き刺す。
「GIYAAAAA!」
さすがのサメインベスもこれには堪えたようだ。出来た隙を千冬姉ちゃんも貴虎さんも見逃すことなく一撃を入れていく。だが、サメインベスの体表は固い鮫肌となっており、攻撃が通りにくいだけでなく掠るだけでも仮面ライダーの強固な鎧に傷をつける。前の世界では不用意に水中戦を挑んだ結果、リアルジョーズを体験しかけた。
「魚は焼く!」(炎竜)
俺はパッションフルーツロックシードを開錠し、取り換えた。
≪ソイヤ!パッションフルーツアームズ!情熱・メガフレア!≫
サイバーな意匠と黄色のラインが特徴のパッションフルーツアームズにアームズチェンジした。この形態は着弾すると爆発するグレネード弾を発射するパッションフレアカノンによる火力特化型の形態だ。難点は火力が強すぎるために使いどころを見極める必要があること。だが、今は海上で障害物はない。つまり、打ち放題だ。
「千冬姉ちゃん、貴虎さん!離れて!」(炎竜)
二人ともサメインベスから距離を取る。俺は先程、付けた傷に銃口をめり込ませる。そして、カッティングブレードを2回下ろした。
≪パッションフルーツオーレ!≫
そのまま、パッションフレアカノンの引き金を引いた。
サメインベスの体内へと高エネルギーのグレネード弾が送り込まれた。体内で破裂したグレネード弾によって、大きく飛び上がるサメインベス。空中には零落白夜を発動している千冬姉ちゃんと、ソニックアローにエネルギーを貯めていた貴虎さんが待っている。俺はサメインベスから距離を取る。俺と入れ替わりにサメインベスへと近づいた二人によって、三分割にされたサメインベスは爆発四散した。
「体調は良さそうだな。」(貴虎)
俺の様子を見た、貴虎さんが言った。
「ええ、まあ。」(大樹)
俺とこの人の間に沈黙が立ち込める。俺は思い切って、口を開く。
「俺の名付け親なんですか?」(大樹)
その言葉に目を見開く貴虎さん。そして、
「ああ、君の御両親から名前を付けてほしいと言われてね。正直、私はそう言うのが得意でなくて。」(貴虎)
と言った。
「俺の名前の由来って?」(大樹)
「新たな世界に根付く大樹(たいじゅ)となって欲しい、そう願いを込めた。」(貴虎)
また、沈黙が流れた。でも、俺はこの人との間に特別言葉を紡ぐ必要はないと思った。この人は行動で示す。今回、俺のために時間を割いてくれた。それこそがこの人の人格を現しているのだとそう思いたい。
俺の中にある修羅、あの時の戦いで俺は決定的に壊れたのは確かだ。だが、兄貴が、ユウゴガ、またウゴイテいるノデあれば、オレハコノイノチヲステテデモ、、、、、、。
「大ちゃん!」(万夏)
思考の波から引き戻された。マドカがリカさんと共に俺の下へとやって来る。俺はマドカに向かって、大きく手を振った。
次回、大樹に事実を話す貴虎。アーマードライダーになろうとする一夏と大樹の間に軋轢が生じる。そして、マドカは大樹に自分の正直な気持ちを伝える。町へと戻った大樹達に待っていたのは箒と鈴だった。