side秋人
まさか、子ども達が一堂に会している、というより長女の職場に通う生徒の長男、次男、次女の様子を見るために学校に来るとはね。15年前の僕が知ったらそんな馬鹿なって思うような状況だな。
「ねえ、秋人君。まずは誰から見る?やっぱり千冬のところに話しをしにいく?それとも一夏と万夏のクラスの方を見る?あと、大樹が話していたバンド、時間を確認して。ちょっと、これは全部見ないと。」(春奈)
「春奈さん、そう考えこまなくて良いよ。それに大樹の話だと大樹の方は始まってからそれなりに経ってからだって。」(秋人)
「もしかすると一夏と万夏の出しものを見る時間に押されて見れないかもしれないでしょ。皆のやっていることは私は見たいのよ。」(春奈)
「まあ、あの大樹がバンドをするっていうのは良い変化だと僕は思うよ。それに来てくれって言ってくれたのもね。」(秋人)
完璧超人然としているのに気心知れた相手には隙を見せる千冬、正義感が強くてまっすぐでそれ故に危なっかしさを持つ一夏、最近では随分と元気になったけどあまり丈夫じゃない万夏、最後に付き合いが長くなりもはや息子同然だけど一夏以上に心配な部分が多い大樹、まさかの子どもが4人で四者四様で心配な子どもたちという何というか頭を抱えればいいのかそれとも親になったとして喜ぶべきなのか。
「弾君と蘭ちゃんはどうだい?どこを見る予定なんだい?」(秋人)
「俺は鈴の所に行ってきます。あいつ、俺が暇だからって頼みごとをしてきて。」(弾)
「ああ、その荷物はそう言うことか。」(秋人)
そうか、弾君の荷物、一体なんだと思えば鳳さんの所の鈴ちゃんだったのか。高校の学校祭に何をするつもりなんだろう。まあ、考えられるのが中華屋の娘としてのプライドが出てきたっていうところだろう。
「私は一夏さんに誘われて、それにIS学園がどんなところか見たいなと思って。」(蘭)
「へえ、それだけなの?」(春奈)
蘭ちゃん、うちの奥さんはお婿さん候補、お嫁さん候補にはちょ~~~~~~~~っと厳しいから。そう簡単に一夏のお嫁さんにはなれないよ。まあ、大樹の場合は長年の付き合いとか親子同然ってこっちが一方的に思っている部分が多いけど。
「春奈さん、あまりイジメないで。蘭ちゃん、そんなに気を張らなくて良いから。」(秋人)
「は、はいい。」(蘭)
そんなこんなで電車に揺られ、僕たちはIS学園に着いた。
「おはよう。」(大樹)
校門の前では大樹が僕たちが待っていた。服装は制服のズボンにたまにバンドをやる時のドラゴンが書かれた赤い半そでという今日ここに来ているメンツにとってはそれなりになじみのある服装だった。
「おはよう。出迎えは大樹だけかい?」(秋人)
「うん。一夏とマドカの方を見に行くんなら早めに行った方が良いよ。たぶん、お客さんがどんどん来たら見れる時間とか少なくなるし。」(大樹)
「ありがとう、大樹。じゃあ、私は蘭ちゃんと一緒にそっちに行くね。」(春奈)
「なあ、大樹。鈴のクラスは?頼まれたもんを持ってきてんだけど。」(弾)
「ああ、案内するよ。何だったらうちのクラスに行く途中の案内もするし。小父さんはどうするの?」(大樹)
「ああ、そうだな。一度、千冬の所に行ってこようかな。」(秋人)
皆、大樹の話を聞いてこの後の動きを決めていた時だった。
「秋宮?」
随分と聞かなくなって久しい声と名乗らなくなって長い僕の元の名前が後ろから聞こえた。時間の経過もあってか、どうも聞き覚えのある声としか感じなかったが、声が聞こえた方向を向いた。随分と年を取っていたがそこには雰囲気から伝わるものを始めて出会った時から変わらないものを醸し出していた人物が居た。
「泊。」(秋人)
僕の同僚だった泊進ノ介がそこにいた。
「秋宮なのか?」(進ノ介)
「どうして、ここに?」(秋人)
「小父さん、泊さんと知り合い?」(大樹)
大樹に声を掛けられて、子どもたちのいる場所、そして春奈さん、いや愛理のいる場所ということを僕は思い出す。
「ああ、そうだよ。僕は泊と話をするから皆は先に学園祭を見ていて。」(秋人)
皆とは別行動することにして、僕は泊に耳打ちをした。
「別の場所で話をしよう。子ども達の前だと話せないこともある。」(秋人)
「分かった。なあ、お前が警視庁を辞めてから何があったんだ?」(進ノ介)
「それも含めて話すよ。」(秋人)
僕は泊を連れて別の場所へ移動した。学園の校舎から少し離れたある場所、学園最寄りの喫茶店に入った僕らは学園祭ということもあってなのかガラガラの店内に僕と泊は手ごろな席に座り、コーヒーを頼んだ。
「驚いたな。まさか、こんなところで出会うなんて。」(進ノ介)
「それは僕のセリフだよ。なんで学園に?」(秋人)
「知らないのか?ついこないだロイミュードの襲撃があったんだ。それで最後に何もないのかを確認しに来たんだ。」(進ノ介)
「ロイミュード?撲滅したんじゃないのか。」(秋人)
「ああ、新たに誕生したロイミュードだ。」(進ノ介)
「被害はって聞いたところで明白みたいだ。」(秋人)
「幸い、何も影響は残っていないのが分かった。それで今回の事件で協力した子にお礼を言おうと思って。」(進ノ介)
「なる程ね。」(秋人)
「秋宮は、今は何をしているんだ?」(進ノ介)
「警備会社相手にコンサルタントをしてるよ。それなりに収入もあるからね。」(秋人)
復活した、ではなく新たに誕生した、か。去年、大樹たちの前に現れた新種のインベスと言い、終わったものがここに来て新たに現れている。今の状況、何かの前触れなのか?本当、愛理、千冬、一夏、そして万夏と関わってからとんでもないことに関わっているな。
「なあ、秋宮。どうして、警視庁を辞めたんだ?理由も何も分からなくて。」(進ノ介)
「ややこしい話だよ。それにあの時の泊には話せなかったんだ。」(秋人)
そう、僕は十数年前までは警視庁で警察として働いていた。今は当時の経験を生かして、警備会社のコンサルタントをしているけど。理由を話せなかったのは当時、グローバルフリーズによって相棒で俺達の同期の早瀬がネオシェードという犯罪組織を追う中で再起不能になってしまったから。その中で僕が関わった事件はあの当時、早瀬のことでショックを受けていた泊には言えなかった。
「でも、今の泊を見るとあの当時に事を話しても大丈夫だろ。なあ、仮面ライダードライブ。」(秋人)
「知っているんだな、俺がドライブだってこと。」(進ノ介)
「辞めてからも気に掛けてたさ。だから、泊が仮面ライダードライブになっていたって知って、ああ、吹っ切れたんだって思ったよ。」(秋人)
そう、まだ一夏も万夏も幼い頃、テレビで見た泊の勇姿は去り際の意気消沈したものを感じさせないほど堂々としていた。
「なあ、良いか?辞めた理由を聞いても。」(進ノ介)
「あの当時、かなり厄介な事件に関わることになったんだ。警官一人でできることもたかが知れててね。苦肉の策として、その厄介な事件の解決を頼んできた相手と一緒に身分を変えることにしたんだ。」(秋人)
「だから、やめたのか。」(泊)
「うん。本願寺さんに一度話をしてさ、それで出たのが戸籍とかも変えて身分を変えて、東京から離れる案だった。」(秋人)
「秋宮、今のお前の名前は?」(進ノ介)
「織斑秋人、その時に保護した織斑千冬、一夏、万夏の父親、としての自分だよ。」(秋人)
「な、お前、ブリュンヒルデの父親になったのか!?それとも、最初から!?」(進ノ介)
「いやいや、子ども達と血の繋がりは無いよ。そのことを知っているのは千冬と僕の妻として生活してきた織斑春奈、本名は春崎愛理だけだよ。」(秋人)
そう、僕たち家族は血の繋がった本当の家族ではない。特に僕と子ども達には血のつながりは一切ない。いや、もっと正確なことを言えば純粋な血の繋がりがあるのは千冬、一夏、万夏の姉弟たち、愛理と万夏の親子だけ。しかも、子どもたちの出生こそが僕が関わった事件の根幹をなしていた。
「連れてた子どもたちは?出迎えていたのは大樹君だよな。」(進ノ介)
「連れてきた子は子供たちの友達だよ。そして、大樹は僕が離れる理由になった事件とは別にね。それに柏葉って苗字に覚えはあるだろ。」(秋人)
「ああ、それにあの時の報道も覚えている。大樹君があの柏葉夫妻惨殺事件の被害者遺族っていうのはすぐに気づいた。」(進ノ介)
「あの事件の後に残っていた公正証書遺言で柏葉さんは僕と愛理を大樹の後見人に指定していたんだ。元々柏葉さんとは近所ぐるみの付き合いだったから、それで。」(秋人)
「随分と強い少年だったよ。」(進ノ介)
強い、か。確かに大樹は強い。本当なら心が折れてもおかしくないことが次々と降りかかってきたのに、それにめげずに生きている。でも、一方でその境遇の所為でかなりの孤独感を抱えている。彼此10年一緒に暮らしてきたけど、大樹が僕たち家族の中に加わることは滅多にない。孤独感を抱えていながら、自身の境遇から他者と関わることを恐らくは良しとしてない。それをずっと見てきたから分かるから。
「戦う、そのことにおいては強いだろう。でも、あの子は本来だったら真っ先に守られるべきだったんだ。あの子は死に場所を求めているのかもしれないんだ。」(秋人)
万夏と付き合う、それを聞いた時には驚いたし、万夏をやりたくないとも思ったし、嬉しいとも思った。でも、その後のやり取りから分かったのはあの子は優しい、それ故に人に甘えることを良しとしていないことだった。
「あの子は、大樹は優しいよ。まだ、身体が弱くて病院と家を行き来していた万夏と真っ先に仲良くなった、一夏をはじめとして友達のことを思って行動できるし、事実そうしてきた。僕らにもわがまま一つ言わずに生活してきた。でもな、泊。僕はあの子から心の底からのやりたいこと、自分が本当にやりたいんだってことを一度も聞いたことは無い。幼い時から我が儘言わずに生きてきた、あの子は自分の欲求とかを全部抑えて生きているんだ。しかも、それを当然だって思っている。異常だろ。」(秋人)
「そうか。だからなのか。」(進ノ介)
「僕はあの子には刀を手に取って欲しくなかった。僕が覚えている記憶の中で大樹が一番笑っていたのはベッドの上で万夏と一緒に絵本を読んで笑って見ている幼い時の大樹だ。」(秋人)
「でもな、秋宮。お前が考えているよりも大樹君は大丈夫かもしれない。」(進ノ介)
「どこがだい?少なくとも大樹との付き合いは泊よりも長いんだけど。」(秋人)
「大丈夫じゃない人間の眼をしていなかった。どんな困難にも負けない、むしろ自分に降りかかる困難を全てぶち壊す、そんな眼をしていたよ。」(進ノ介)
「大樹が?」(秋人)
困難を打ち壊す、まさか、いや、あの子のことだ。きっと、本当にそう思っているんだろうな。
(僕、自分のことは言われても平気。でも、万夏ちゃんのことをイジメてくる奴は絶対に許せない。)(大樹)
(そうか、ありがとうな。でも、大樹。大樹はそれで良いのか。)(秋人)
(僕は大丈夫だよ。)(大樹)
幼い頃の大樹はいつも眼に暗い色を宿して力なく笑っていた。でも、一度だけすごく強い輝きを眼に宿していた時があった。事実、大樹は万夏を守る時は普段の暗い空気が消え、必死になって戦っていた。当然、ケンカに真っ向から勝てる子では無かったけど、一夏たち以上にあきらめずに立ち向かっていた。
「万夏がいじめられることが多くてね。一番そのことで怒っていたのは大樹なんだ。自分に向けられるそう言うのは仕方ないって割り切っているのに万夏や他の人間がそう言う目に遭っているのが許せない子だったんだ。一夏もそれには許さないって気持ちも強いけど、大樹のはね、すごいよ。完膚なきまでやる時はやるっていうのと絶対に守るんだって気持ちが強い。」(秋人)
「随分と気に掛けているんだな。」(泊)
「何かね、昔の僕と被るんだよ。」(秋人)
そう、僕が大樹のことを気に掛けているのは大樹が昔の僕と被るからだ。僕の境遇も幸せとは言い難いものだったから余計に。
「なんかさ、秋宮と大樹君さ、本当の親子みたいだった。昔、俺の父さんが生きていた時、俺と一緒に出掛けた時と、被って見えたんだ。それで思わず見たら秋宮だったから声を掛けた。」(泊)
そう、泊の境遇だってそう幸せなことばかりとは言えない。だからなのか、泊が言ったことがなんとなくそうなんだと信じられる。
「随分と僕たちも年を取ったよ。色々とあった中でね。泊は家族は?」(秋人)
「俺か。妻と息子がいるよ。息子は今は中学生だ。」(進ノ介)
「気難しい年ごろだろ。」(秋人)
「そうだけど。でも、良いよ。」(進ノ介)
あの熱血漢の泊に奥さんか、それに息子。幸せそうで何よりだ。
「なあ、秋宮。もしも、昔の事件、警視庁を辞めるきっかけになった事件で俺に手伝えることがあれば言ってくれ。」(進ノ介)
泊なら言うと思った。でもな、泊。僕が警察官であることを辞めた大きな理由はその事件が発端であるが、その事件の黒幕に関わることじゃないんだ。それに、それに関われば泊だけじゃなくて泊の家族や大事な人を巻き込んでしまう。それだからこそ、僕は愛理と共に身分を変えて、千冬たちと一緒に居ることを選んだんだ。
「泊。僕の事件の裏にはロイミュードやインベス、幽霊、バグスターとかを相手にしている方がはるかに良いと思えるかもしれない漆黒の闇があるんだ。愛理から助けを求められた僕が出来る限り調べた結果がこのまま関われば僕だけじゃなくて数多くの人間の人生を狂わせてしまうかもしれないことだったんだ。しかも、それが簡単に良心の呵責もなく、さも当たり前に行われてしまう、そんな闇だよ。そこに泊を関わらせられない、いや、絶対に関わってはいけない。」(秋人)
「そんなに危険なのか。」(進之介)
「調べていく中で監視されていた。それだけじゃない、関係者を詳しく探ろうとしたら身の危険が迫った時もある。泊、家族のことを考えるんなら、警察官であるならそこは首を突っ込んで良い領分じゃない。僕が相手にしたのはそういう表の法律が通用しない奴らだ。」(秋人)
あのことは正気な人間が出来る所業じゃない。調べる中で危険を感じるよりも嫌悪感の方が強かった。そう、そしてそれに愛理が関わっていたということが僕にとっては許せないことでもあった。
「秋宮は、切嗣はそれで良いのか。」(進之介)
「警官だった秋宮切嗣で言うのなら、本当は放っておきたくない。でも、織斑秋人としてで言うのなら僕は家族を守るために危険を冒せない。」(秋人)
僕はもう警察官ではない。むしろ、警察官であろうとすることが出来なくなった。市民を守ることよりも家族を守ることを優先するようになったから。
「 そうか。それなら俺も強くは言わない。」(進ノ介)
「すまない。でも、僕にとって大事なのは今の家族なんだ。最初は偽りからはじまったものだとしても、かけがえのないものだから」(秋人)
その後、僕たちは互いに家族のことを話した。若い頃、初めて出会った時には考えられないほどに僕らは子煩悩な父親に、妻に頭の上がらない夫になっていた。時の流れを感じて一抹の寂しさもある。だけど、それ以上に友人の幸せな生活を聞くのは楽しかった。
「またな、切嗣。」(進之介)
「またな、進之介。」(秋人)
カフェの前で別れた僕らそれぞれ逆の方向へ歩いていった。一度、同じ道を歩いていた僕らはまたそれぞれの道を歩み出した。学園に着くとどこからか大樹がよく聞く曲が聞こえてくる。歌が聞こえる方へと向かって行くとそこは学園の校舎の隣の芝生だった。特に大きなステージがあるわけではなく、太陽の光を受けて芝生の上でギターとドラムの音が響く。そこにはギターを弾きながら流暢な英語で歌っている大樹の姿があった。まだ、小学生だった大樹が自室で僕が引いていたギターを興味深そうに見ていた時のことを思い出す。そこから僕が持っていたものを大樹にあげて、手取足取り教えるようになった時のことを思い出す。それと同時に今の大樹の姿を見て、小さい頃、ついこないだまで見ていた暗い笑みを浮かべていた子が明るく成長していく姿を見た。
神様がいるのなら、どうか願いを聞いてください。この子の、大樹の、これから生きていく上である未来をどうか苦難ばかりの苦しみに満ちたものにしないでください。それが織斑秋人として、秋宮切嗣としてのお願いですから、どうか僕の息子に幸せな道を歩ませてください。
一夏たちの出生については今後取り上げる予定です。そして、今回の話の別サイドも書く予定です。それではヘキサオーズ編最新話にて。