side 3人称
束が正則にISを否定された翌日のことである。
「これでどう!」(束)
「ん?」(正則)
夜を徹して考えた束は新たなアイデアを加えたノートを正則に突きつける。正則を一瞥するものの、視線を別の場所へと移す。
「何かない訳?」(#^ω^)(束)
「はあ、で?」(正則)
「見ろ。」(束)
「見る必要なんてないだろ。」(正則)
「良いから見ろ。」(束)
明らかに二人の間にある空気が張りつめてきた。それを周囲のクラスメイトはあまりにも危ない空気ということを察して見て見ぬふりをする。だが、その中で一触即発状態の束と正則の元へ近づく人影があった。
「見る必要なんてない。良いから、ほっとけ。」(正則)
「ぐぬぬぬぬぬ!!」(束)
「おい。」(千冬)
「あれだけのことを言って、束さんが新しいのを出したらナニ?ビビってんの?」(束)
「は?何を言ってんだ?お前ひとりで考えたことなんて前と大して変わりはしないだろ。」(正則)
「おい。」(千冬)
「よく言うね!何!まずは見てから言ってよ!」(束)
「おい。」(千冬)
「だから、見る必要もないだろ。見たくもないものを関わりたくない奴から見せられてその中身を見る奴がどこにいる?」(正則)
「おい。」(千冬)
「何ですって!!」(# ゚Д゚)(束)
束の沸点が超えた瞬間にガン!という音が教室に響いた。そこには頭を押さえてうずくまる束に千冬の拳を右手で受け止めていた正則がいた。
「気に入らなきゃ殴るのか?」(正則)
「そうでもしないと終わらないだろ。」(千冬)
「そうかい。俺は辞める気だったがそいつが中々にしつこかった。それと。」(正則)
正則はほんの少し手に力を込める。千冬もほんの少し眉を顰めるが、、、
「殴る時はしっかりと力加減を考えろ。下手したら死ぬだろうが。」(正則)
そう言うと正則は手を離した。教室の他の生徒はなおも戦々恐々としていた。そして、束はなおも頭を押さえていた。
柳韻が秋人にとあることの調べを頼んでから1週間ほどが経ったある日の夜であった。
「それでどうだ?」(柳韻)
「向こうも渋っていたけどなんとか。」(秋人)
篠ノ之家の柳韻の部屋では柳韻がたばこに火をつけて秋人に電話をしていた。この時、蔵では束がまたもISノート(正式名称IS作成のための理論式などもろもろを描いたノート)を前に考えながら奇声を上げていた。
「じゃあ、話してくれないか?」(柳韻)
「分かった。確かに風都市に岩城正則って中学生はいる。父親の岩城和重と住んでいるらしい。」(秋人)
「まあ、犯罪とかじゃなけりゃそこまでか。」(柳韻)
「いや、続きがあるんだ。」(秋人)
「続き?」(柳韻)
「風都署に児童相談所から何回か連絡があったみたいだ。ただ、問題なしで終わっているけど。」(秋人)
「は~、何かあるだろうな。」(柳韻)
「今はそれ以上は無理だ。ごめん。」(秋人)
「いや、良い。まあ、後はこっちで何とかするさ。」(柳韻)
そう言って電話を切った柳韻。そして、火をつけた煙草の煙を深く吸い込み口から吐き出す。
「一か八か電話をしてみるか。」(柳韻)
柳韻はまた電話を手に取ると別の番号にかけ始めた。その電話はチャイムが2,3回鳴って相手が電話口に出た。
同じ頃、東京にあるとある多国籍料理店クスクシエではある一人の青年がその扉を開けた。
「ごめんなさい~。もう閉店時間なのよ。」(知世子)
店の店主である白石知世子はその突然の訪問者に申し訳ない気持ちを出した声音と言葉で出迎えるがその訪問者の顔を見て驚きの表情を浮かべた。
「お久しぶりです、知世子さん。」
「映司君!?どうしたの!?」(知世子)
訪問者は火野映司、かつては知世子の店で住み込みでアルバイトをしていた青年である。
「しばらくの間、日本にいることになって。また、知世子さんのところで働かせてくれませんか?」(映司)
「良いわよ!むしろ、人手が足りなかったから助かるわ!前と同じ部屋、今の空いているからそこを使って良いわよ!」(知世子)
「ありがとうございます!」(映司)
その日は映司はそのままクスクシエに腰を落ち着けた。彼が日本に戻ったのにはある理由があった。そして、それによってある人物たちとの邂逅を果たすことになる。だが、その邂逅の時はしばらく後であり、そのことに映司が気付くにもまだ先のことである。
side 正則
「見ろ!」(束)
無視。
「見ろ!」(束)
無視。
「見ろ!」(束)
無視。
「見ろ!」(束)
来る日も来る日も懲りずにやって来る。無視をしていれば諦めると思ったが日を追うごとにしつこくなっていく。はっきり言って煩わしい。こっちがあからさまに来るなって態度を見せてもしつこく来る。
「見ろ!」(束)
「分かった。でも、この一度きりだ。俺に二度とそれを見せるな。」(正則)
根負けして一度だけその中身を見た。確かに前に指摘したところは修正されていた。でも、それだけだ。他は変わり映えしない。そのことを言うとあいつはそのまま席に着いた。これでおしまいだと清々した。だが、
「これでどう!」(束)
こいつ、直してきやがった。見せるなって言ったのを聞いていなかったのか?
「お前なあ、もう見せるなって言「良いから、見ろ!」話を聞けよ。」
そして、俺は渋々とその中身を見た。そこからは俺が拒否してもこいつは何度も何度もやって来た。その度に俺は渋々とそれを見るようになった。それから年をまたぎ、俺達が中学3年生になってもこのやり取りは続いた。
「で、どうすんだよ。」(正則)
「何が?」(束)
「お前の考えているそれ、理論を構築するのは良いがその理論をもとにどうやって作るんだ?」(正則)
「どうやってって、作るんだよ凡人。」(束)
「何で?」(正則)
「何、う~ん。」(束)
「理論は必要だけどな、その理論を実現するにはまた新しい理論と物質が必要だぞ。しかも、レアメタルも多量に必要って、明らかに学生の俺達が作るには手間も労力も時間も金もお前が考えているうん万倍も必要だぞ。」(正則)
「ぐぬぬぬぬぬ。」(束)
俺の指摘にこのクソ兎(不思議の国のアリスの格好とうさ耳から勝手に名付けた)が頭を抱える。まあ、流石にそう簡単にはアイデアは出ないだろうな。
「じゃあ、あんたは何かあるの?」(束)
「あ?」(正則)
「あんたの言い方、まるで何か方法があるって言っているみたいなんだけど。」(束)
まあ、このクソ兎の言う通りに何とかする方法はある。いや、俺の考えていることを最初に思い浮かばなかった時点で終わっているぞ、こいつ。
「あるけど。」(正則)
「いや、それ何さ。」(束)
「学会で発表するんだよ。」(正則)
「はっ?」(束)
「それを見せて、学会で認められれば良い。そうすりゃ材料も設備も金もそろう。」(正則)
「自分で何を言ってんのか分かってんの?」(束)
「ああ。」(正則)
これ自体はおかしい提案ではない。つか、当たり前だ。金も設備もない学生が出来るのはこれを発表して資金や設備の援助をしてくれる奴を探すってことだからな。
「ねえ、それは私も考えたよ。その時には理論とかが無かったからそうしなかったし、今だって完璧じゃない。」(束)
「完璧では無いから見せないのか?」(正則)
「他のモブに理解できる奴がいると思うの?」(束)
「理解される必要はない。それを見せて興味を持った奴が一人いればいい。」(正則)
「う~ん。」(束)
こいつ、俺に見せるようになってからやけに出来を気にするようになった。そもそも理解できない奴に興味を持ってもらうには完璧な理論である必要はない。
「なあ、今日はもう終わりなら帰らせろ。」(正則)
「ん、ああ、帰って良いよクソすかし。」(束)
俺はそのまま帰り支度をして学校を後にした。
side束
「う~ん。」(束)
「お姉ちゃん、大丈夫?」(箒)
「ねえ、束ちゃん。どうしたの?」(雪子)
あんおスカシ野郎が言っていたことを言えでも考えていた。う~んう~んって悩んでいたらそれを見た箒ちゃんと雪子叔母さんが心配して私に声を掛けた。
「ISノートをあいつに見せたら学会で見せたらどうだって言われて。」(束)
「学会で見せたらって中学生が出来るの?」(雪子)
「お姉ちゃん、学会ってナニ?」(箒)
「学会って偉い人達が自分たちで調べたことを発表することなんだよ、箒ちゃん。」(束)
「お姉ちゃん、偉い人達とお友達なの!?」(箒)
「ね~、そうなったらすごいのにね。それで、出来そうなの?」(雪子)
「何とも言えないよ~。私一人だけだと出来ることも限られるし。」(束)
「学生が好きに発表なんて出来ないでしょ。」(雪子)
「だから悩んでんの~。」(束)
もう考えることが多すぎて頭が上げられない。はっきり言ってモブのことはどうでもいいけどISを完成させて宇宙に行くことを考えたらそう変な行動も出来ないんだよね~。この天才の束さんがモブの決めたルールに従うのは納得がいかないけど、こればかりはどうしようもないから。
「ねえ、束ちゃん。」(雪子)
「何?」(束)
「いっそのこと、その岩城正則君と一緒にそれをやってみたらどう?」(雪子)
「いや、ないないないない。あのスカシ野郎と一緒にやるなんて無い。こっちが持ちかけてもやらないよ。」(束)
「ねえ、束ちゃん。その言い方って束ちゃんはちょっとはやっても良いって思っているんじゃないの?」(雪子)
「それは~。」(束)
あいつにノートを見せるようになってからは私一人で出来ることにも限界があることが分かったから誰かの手を借りたいって思っていたけど。確かにあいつは束さんと同じ天才で束さんの考えを分かるけど、はっきり言ってあいつの力を借りることはしたくない。あんな奴に頭を下げるなんて正直無理。でも、私のISを実現するには確かにあいつは必要、までは行かなくてもいた方が良いのは本当に考え出してはいる。それに、、、。作るにはやっぱり実際に使ってもらう人も必要、それは目星はついているし、、、。
「束ちゃん、3人寄れば文殊の知恵って言うから思い切って仲間に入れちゃったら?」(雪子)
なら、あり、いや私の夢を実現するにはきっと私だけじゃ出来ない。なら、、、。
翌日、私はちーちゃんとあいつを呼びだした。
「なんだ、束?」(千冬)
「委員長なら分かるけどな、なんで俺まで。」(正則)
私が二人を呼んだのはある目的のため、というかIS=インフィニット・ストラトス(無限の境界)を作り出すために私が必要だと思った二人を仲間に引き入れるため。
「お願いがあるの。私と一緒に、宇宙を目指してほしい!!」(束)
「ん?」(千冬)
「はあ、馬鹿らしい。」(正則)
って、スカシ野郎が勝手に帰ろうとしているううう!!!
「あんたも付き合え!!」(束)
「はあ!?」(正則)
side3人称
束たちの中学校の屋上で響く束と正則の言い争い。この時こそISの始まりであり、この時から束、千冬、正則がこの世界にはこびる様々な超常の悪と対峙する運命が定められ、その運命故に人類種の最高種である自身に苦しめられる長きにわたる戦いに身を投じることとなる。
「どいつもこいつも」(和重)
風都市では正則の父である和重が焼酎を片手に悪態をぶつぶつと呟いていた。
「どうやらご不満があるようですね。」
その和重に何者かが声を掛けた。
「ああ!?てめえ、俺のバカにしているのか!」(和重)
和重はその人物に食って掛かるがその人物は不意に和重の視界から消える。
「私はあなたを助けようとしているんですよ。欲しくはありませんか?あなたをそのような目に遭わせた者達を地獄へと陥れる力を。」
その何者かは手にあったスーツケースを開く。その中には骨の意匠が目に引く色とりどりのUSBメモリ=ガイアメモリがあった。
「さあ、手に取ってください。」
その人物からの誘いを受けて和重はガイアメモリに手を伸ばした。
「最上は計画を防がれたが俺はそんな失態を犯しはしない。」
ある場所では謎の男が何かしらの機器を操作していた。その機器から伸びたケーブルは黄金色の6枚のメダルを収めた黒色のバックルに取り付けられていた。
「グリードと悪の力を融合したこのメダルを使い、この世界を破滅へと導く破壊神を生み出す。そして、私は財団を超える。」
その男いる場所には多くのものがあった。双頭の犬が描かれたカードと多頭の大蛇が描かれたカード、複数の小さなボトルというそれぞれがとてつもない力を宿したパンドラの箱であった。
「あとは破壊神の器となる人物だ。だが、それも。」
男のいる場所の一角、そこには一人の男と二人の女が写った写真が貼られてあった。
束たちがISの研究を共にするようになってから1年が経過した。高校生になった束たちの前に篝火ヒカルノが現れる。学会での発表を目指す束たちに風都から不吉な風邪が吹きすさぶ。
R18版も投稿しています。よろしければどうぞ。