その日、和重と最悪の再会をした正則は和重に自身も嫌う暴力を振りかざして絶望した。正則は絶望に駆られたまま最悪の破壊神ヘキサオーズへと変貌する。
side3人称(過去)
茨城県つくば市にあるJAXA筑波宇宙センター、束と千冬の姿はそこにあった。二人は氷室親子より伝えられたある人物の元へ訪ねたのだった。
「束、大丈夫か?」(千冬)
「ダメダメダメダメダメダメ!ちーちゃん、やっぱ無理!」(束)
だが、ここに来て束が踵を返して帰ろうとしていた。流石に例のシンポジウムのこともあって束にも不安があった。それ故に束はここまで来て極度の不安に駆られていた。
「良いから、束。ここまで来たら行くぞ!」(千冬)
「無理だよ、ちーちゃん!もう、もう!」(束)
センターの廊下で大声でやり取りをする二人。流石にものの分別が出来る高校生がして良いことではない。当然ながら、この施設にいるある人物にはあまり心証が良いとは言えなかった。
「おい、ここは学生の遊び場じゃないんだぞ。」(???)
束と千冬はその声の主の元へ顔を向けた。その人物こそ、氷室親子が束たちに会うように言った人物、この当時すでに最先端の研究であるワープ航行の方法と宇宙に存在する超高次元知的存在の研究の第一人者である歌星賢吾だった。
「なるほどな。フォーゼとも、ゾディアーツとも違う。そもそも、それらとは目的が違うな。」(賢吾)
賢吾は束たちが提示するデータや記録を見て、驚嘆していた。
「こうまで斬新なものは生まれて初めてだ。だが、ここで示されているものは実現すれば様々な分野をはるか先まで進めることになる。」(賢吾)
そして、賢吾はそこに書かれているものが多くのことを大きく変えるものであることを即座に理解した。
「それで、君達はこれを使って何をするつもりなんだ。」(賢吾)
「これは、私が、この空の先を見るための、この星の外へ行くための翼です。」(束)
賢吾の問いにそう答える束。その束を見つめる賢吾、その瞳を見て、一瞬肩を震わせた束だが気丈にも見つめ返す。
「誰もが宇宙へ行く、そのための翼。そして、私達と共に成長していくかけがえのない存在です。」(束)
束の願いを乗せるべくそこに作られようとしているIS、それを聞いた賢吾は表情を緩めた。
「俺の友人に幼い頃から宇宙飛行士になるが夢でその夢をかなえた女性がいる。彼女は君たちと同じくらい、高校生の時にその切符を手にした。彼女はその後もたゆまぬ努力を続けた。そうして、彼女は夢をかなえたんだ。」(賢吾)
賢吾は机にある一つの写真に目を向ける。そこには彼が青春を過ごした友たちとのかけがえのない時間が写っていた。
「君達がその夢を叶えようとしているなら君たちが高校を卒業した後、また訪ねてくれ。改めて、話をして、そしてここで共に働いて欲しい。」(賢吾)
「は、はい!!」(束)
賢吾から掛けられた言葉、それはここの世界において束の道が決まった瞬間でもある。
「あの、一つお願いをしても良いですか。」(束)
「ああ、言ってくれ。」(賢吾)
「これはここにあるISは私だけじゃ出来ませんでした。ここにいるちーちゃんの助けもあった。そして、ここにはいないけど、私の助けにずっとなってくれた人が居ます!その人が居なかったら今の私はいない、だから、その人も!岩城正則も!私と一緒に正則も一緒に働かせてください!」(束)
そして、原作においては天災と称される束が一人の少女として成長を遂げていたことでもあった。
その帰り、束は今までにない程ににこやかな表情を浮かべていた。
「嬉しそうだな、束。」(千冬)
「うん!」(束)
千冬の言葉に満面の笑みで答える束。彼女にとってIS実現の夢の進歩だけでは無かった。彼女の傍らでずっと自信を支えてくれ、そのやり取りはいつもいつも口喧嘩ばかりだったが彼=正則の存在は束にとって大きな存在になっていた。
「束、岩城には伝えなくて良いのか。」(千冬)
「え、ああ。そうだけど。」(束)
ここまで上手くいったという結果をまだ束は正則に伝えていなかった。流石に中学から数えてすでにそれなりの付き合いになるがこの二人、今時なら連絡先くらい交換しているものだがお互いになんだかんだでIS関係のことで顔を毎日嫌になる程会わせていることから連絡先を交換する必要性が無いと感じていた。
「ほら、岩城の番号だ。」(千冬)
ここで何のためらいもなく個人情報をさらす千冬。もちろん、正則から許可を得ていない。
千冬から正則の電話番号が書かれたメモ用紙を見る束。だが、
「うんうん、ちーちゃん。私、正則にちゃんと自分の口から話す。そうしたいから。」(束)
と話した。その表情はこれまでの二人の関係性を間近で見ていた千冬から見て、まさかと思うような表情だった。
「まさか、束。岩城のこと、、、。」(千冬)
「ん?」(束)
「いや、気にするな。それなら早く帰ろう。」(千冬)
「どうしたの、ちーちゃん。何か、言いたいことがあるなら言ってよ。」(束)
「いや、本当に大丈夫だから。」(千冬)
「むう、ちーちゃんがそう言うなら良いよ。」(束)
そう言って束はそのまま千冬の先を歩き出す。千冬から見て、今の束は初めて出会った当時から最もかけ離れた表情=恋する乙女の表情を浮かべていたのだった。
side3人称(現代)
「ね~、また一人で飲んでいるの?」(束)
「お、まあ。」(正則)
研究所で一人酒を飲んでいた正則の元へ束がやって来た。今の束は風呂上りということで髪がしっとりと濡れており、服は普段の白衣ではなく浴衣だった。
「いやあ、お義父さんさ、酒入るといじってくるしさ。お義母さんも雪子さんも酒入ったら孫とかの話をするしさ。まあ、静かに飲みたいときはどうもな。」(正則)
「ああ、確かに。」(束)
話をすると束は正則の隣に座る。隣に座った束に正則は研究所内にある冷蔵庫から缶ビールを一本取り出して渡す。
「酔わせてどうするつもり?」(束)
「そう言いつつ開けるなよ。まあ、二人で飲むったら一本で終わらないよな。」(正則)
「当然!」(束)
缶ビールを開けて勢いよく飲みだす束。それを横目で見ながらちびちびとビールを飲む正則。過去における二人からは考えられないほどに仲睦まじい姿。学生時代の二人を知る人物たちは意外にも「お前らきっとくっつくわ」と言う人物たちが多かった(ただ一人はまさかなと今でも言うが)。
「あっ、これ。」(束)
「んっ、ああ。」(正則)
束は机の上に置いてあった黒をベースに水色のラインが走るバックルを見た。そこにはまってある6枚の金色のメダル、これこそ高校生だった正則にダーククロウが与えたヘキサオーズの力、六連オーズドライバーである。
「これ、見るのさ嫌がるよね。」(正則)
「嫌がっている訳じゃないよ。嫌がるならダーリンの方でしょ。」(束)
あの当時のことは夫婦の間では特に忌避すべき出来事ではないが、束にとっては六連オーズドライバー、正確にはそれにはまっている6枚のコアメダルは忌避すべきものでもあるが同時に夫婦を結び付けたものでもあるので強く拒絶しているわけではない。
「いや、大丈夫だよ。セルメダルをやらない限りは実体化しないし。」(正則)
「そうじゃないよ。」(束)
お互いに言わんとすることは1から10まで瞬時に分かる。正則は束の言わんとすることをちゃんと理解している。そして、それに関して嘘をついても無意味だってことも理解している。
「だから、鴻上さんに新しいドライバーを頼んだんだ。それを使うことはたぶん無いよ。」(正則)
「でも、使うかもしれない、でしょ。」(束)
「ならないで欲しいけどな。」(正則)
「怖い?」(束)
「こいつらの力を使う時はいつもだったよ。分かるだろ、俺にもあの親父の血が流れているんだ。いつ、向こう側に行ってもおかしくないんだよ。」(正則)
「ダーリンはいつだって悪い力をちゃん正しいことに使って来たでしょ。大丈夫だよ。」(束)
「いつ、誘惑に負けてもおかしくないんだ。それにそいつらもタダで使われるつもりなんて一切ないからな。」(正則)
正則はずっと6枚のコアメダルにそれぞれ宿っている者達に対して警戒を解いていない。一度、彼らの誘惑に負けてしまった、それが正則の中では恥ずべき事となっている。故に正則はあらゆることに対して人が望むものを望まないようにしている。それを見た束はグイっと一気にビールを飲み干す。
「いや、いやいや。たばちゃん、そんなに一気に飲んだら、、。」(正則)
その様を見て、束を心配して近づく正則。束は口を拭うとそのまま正則の唇を奪う。いきなりのことで動きが止まる正則。深くキスをする二人だが、しばらくして束の方から唇を離した。
「ねえ、このままだと私、すんごく酔っぱらっちゃって、ダーリンのことが欲しくて欲しくてたまらなくなっちゃいそう。」(束)
「この、発情兎め。」(正則)
「何さ、自分だって興奮している癖に。」(束)
不穏なものはどこへやら二人はそのまま研究所の仮眠室に入った。
束はあの時、正則も一緒に賢吾の所へ行こうとしっかりと誘い、なおかつ連れていくべきだったと思っている。正則は父親に暴行したことを今でも他に方法があったのではないのか考えており、なおかつあの時の誘惑を断固として拒絶するべきだったと思っている。どうやっても戻らないたられば話であるが、それでも二人は同時にそうでなければお互いが結ばれることもなかったとも考えている。
side3人称(過去)
束が自宅へと着いた時だった。神社へと続く階段を上ろうとした時だった。
「おおおおおおいいいいい!!」(???)
何者かが束の肩をつかみ、地面に押し倒した。束は突然のことで声も出せなかった。
束を襲ったのは顔が腫れて元の面影が分からなくなった和重だった。
「まっはく、あにょにゃろうめ。ひょんないいひゃらだのおんにゃをひゃぶりゃしゃりやぎゃって!」(和重)
束を押し倒し、舐め回すように体を見る和重。明らかに顎もやられているであろうことが容易に窺い知れる。この状況で何をされるか、それを分からない束では無かった。当然ながらにそのことに恐怖もしていた。
(お願い、誰か、誰か助けて。お願い正則。)(束)
束が願ったその瞬間だった。
「へへへへ。しゃあへ、、「うちの可愛い姪っ子に何手を出してんのよ、変態!!」ぶへええ!!」(和重)
刃社の階段から正装のままに大ジャンプをして和重の顔面に強烈なキックを浴びせたのはアラフォー女神主の雪子だった。
「束、大丈夫!?」(楓)
束の帰りを待っていた楓は束の様子を見て駆け寄って来た。楓と雪子は束の帰りをずっと鳥居の近くで待っており、和重の大声を聞いて様子を見たらあろうことか束が襲われていたのだった。それを見た雪子は範〇刃〇も驚きな超低姿勢での階段駆け下りダッシュを披露して、そのスピードのままに人間版ライトニングソニックを和重の顔面にぶち込んだ。
楓は束の元に駆け寄り、肩を抱く。そして、雪子は地面に倒れた和重に追い打ちのヤクザキックをさらに腫れて前歯も全て折れた和重の顔面にぶち込んでいた。
「私の可愛い可愛い、目に入れても痛くないどころか体のほくろの位置も分かる束ちゃんに何手を出してんのよ、変質者!警察に突き出す前にその(ピー)を(ピー)して、(ピー)させてやろうか!!」(# ゚Д゚)(雪子)
さらに倒れたところで顔面にこれでもかこれでもかと言う程に踏みつけていく雪子。普通ならばここで終わりにして良い、というか死ぬ。だが、和重は普通の変質者とは違っていた。和重はズボンのポケットからあの魔性の小箱を出したのだった。
≪アンモナイト≫
和重はそのまま頬の生体コネクタにガイアメモリを接続させた。即座に和重の肉体は変化していく。
「雪子ちゃん!!」(楓)
楓は事態を省みて雪子に呼び掛ける。呼び掛けられた雪子もすぐに離れた。
「何!?今どきの変質者は宇宙人か何かなの!!」(雪子)
驚きながらもファイティングポーズをする雪子。いや、お前のような豪胆な女性がいてたまるか。
「ああ、好き勝手にやってくれたな女。ちょうどいい、お前ら全員、犯してやるよ!!」(アンモナイトドーパント)
アンモナイトドーパントはそのまま両手の複数の触腕を束たちに高速で伸ばす。それに対して雪子がやったのは
「はいやああああ!!!」(雪子)
「ぐほおお!!」(アンモナイトドーパント)
アンモナイトドーパントの胴体に高速の右ストレートが深々と刺さった。普通の人間の攻撃がドーパントにたいしては効果は薄いのだがどういうわけ雪子の拳はアンモナイトドーパントに効果があった。そして、そこで怯んだ時だった。
「おうら!!」(翔太郎)
「おいおい、人ん家の娘、奥さん、妹に手を出そうとするとはずいぶんと礼儀がなっていねえな。」(柳韻)
さらに神社の境内から左翔太郎がアンモナイトドーパントに回し蹴りを、柳韻がなんと日本刀でアンモナイトドーパントに斬りつけていた。
「おいおい、なんだよこのタコのお化けは。」(柳韻)
「そいつはドーパントだ。」(翔太郎)
「ああ?ドーパントってあのメモリを使った人間が変身したってやつか?」(柳韻)
「普通はメモリが出回っている風都にしか出ないけどな。」(翔太郎)
翔太郎がこの場にいる理由、それは1年前にあった風都における正則の素行調査に関わっていた。柳韻は翔太郎への素行調査の費用支払いのため、さらにはもう一つの依頼を頼むためにわざわざ呼び寄せたのだった。
「お前らあああ!!ぶっ殺してやる!!」(アンモナイトドーパント)
「はあ、殺す気でぶち込んだのにまだ元気なの!?」(雪子)
「雪子の殺す気の一撃を受けても平気とはな、中々楽しめそうじゃねえか。」(柳韻)
自身を攻撃した相手に殺気を漲らせるアンモナイトドーパント。だが、その姿を見ても怖気づくことなくファイティングポーズを構える雪子に獰猛な笑みを浮かべ、日本刀を構える柳韻。その姿を見て、彼らの前に出る翔太郎。
「柳韻さん、あんたたちは下がってくれ。こいつは俺がやる。」(翔太郎)
翔太郎は懐からダブルドライバーが二つに分かれたようなドライバーであるロストドライバーとジョーカーメモリを取り出す。翔太郎は取り出したロストドライバーを腰に当てて装着する。
≪ジョーカー!≫
「行くぜ、変身!」(翔太郎)
翔太郎はロストドライバーにジョーカーメモリを装填し、ドライバーを倒す。
≪ジョーカー!≫
ガイアメモリの秘められた力が解放され、翔太郎の肉体はジョーカーメモリの特性により強化される。そして、翔太郎は全身が漆黒に染められたライダー、仮面ライダージョーカーへと変身した。
「さあ、お前の罪を数えろ。」(ジョーカー)
「あんたの罪はあたしの姪っ子に手を出そうとしたことよ!!」(雪子)
ジョーカーがきめ台詞を言った瞬間にアンモナイトドーパントに雪子の怒りの鉄拳が炸裂した。その一撃は凄まじくアンモナイトドーパントの頭部の殻が粉々に砕けたのだった。
「ギャアアアアア!」(アンモナイトドーパント)
「は、はあ!?」(ジョーカー)
アンモナイトドーパントはそのダメージの高さに痛みで悶絶する。常人がドーパントに手傷を負わせた。それは普通であればあり得ないことである。それだけではなく雪子は止まることなくそのままアンモナイトドーパントを殴り続ける。雪子の拳が当たる度に周囲に鈍い音が響き渡る。拳だけかと思いきや時折、ハイキックや回し蹴りを入れてアンモナイトドーパントを徹底的に攻撃する雪子。その様子は明らかに常人ではなく、その猛攻は明らかにアンモナイトドーパントにダメージが入っていることが見て取れた。
「おいおい、マジかよ。」(ジョーカー)
「お~お~、雪子の本気の拳骨、かなり効くだろ。兄貴の俺でも食らいたくねえからな。まあ、その体になっていなかったら、あんた死んでたぜ。」(柳韻)
その様子を見て驚きと共に引き気味なジョーカー。一方で笑いながら言う柳韻。さらに柳韻は言葉を続ける。
「篠ノ之の家ってな、はっきり言って人外の出やすい血筋なんだわ。まあ、死んだ爺さんはそういう血を持った子供を忌み子つってな。かくいう俺もその血をしっかりと引いていてな。雪子はその阿呆みたいな身体能力、んで俺は。」(柳韻)
そう言うと柳韻はアンモナイトドーパントのある場所を日本刀で勢いよく突き出した。
「ギャアアアアアア!!」(アンモナイトドーパント)
日本刀は深々とアンモナイトドーパントの肉体を貫通、その切っ先にはガイアメモリが刺さっており、もはや二度と起動することは無いことが見て取れた。その瞬間、アンモナイトドーパントの肉体は変化して元の姿である和重の物に戻った。
「お前は、岩城和重。」(ジョーカー
「痛ええ!痛ええよおおおおお!!」(和重)
「へえ、あんたが正則っていう子の父親か。ああ、さっきの俺の説明だけどな、そのガイアメモリの場所とかな相手の身体の中身がどうなっているのか分かるんだよ。ああ、あんた、肝臓とかいろいろな場所にガタが来てるな。見たところ、数年で体がボロボロだな。それに、、、原因は分からんが全身に歪み?みたいなもんがいっぱいあるぜ。」(柳韻)
変身が解け、痛みに叫ぶ和重に柳韻は淡々と自分の能力の説明をする。その中で和重の肉体について次々と説明をしていく。後に柳韻が話したことは全て当たっていたことが分かっている。ジョーカーは手持無沙汰な様子でいたがドーパントの変身が解かれたためにロストドライバーを待機状態に戻し、ジョーカーメモリを抜いた。
「どうやって、ここまで。こいつ、警察病院で拘束されているはずなんだ。」(翔太郎)
変身を解除した翔太郎は警察病院にいるはずだということを告げた。
「ああ、なら話を聞かねえと、なあ!!」(柳韻)
柳韻はそのまま日本刀を強く押し込んだ。すると和重は脂汗を流しながら痛みで表情がゆがむ。
「おい、どうしてお前が警察から逃げてこれた?普通なら抜け出そうなんてそう簡単には出来ねえよな?刀を抜いて欲しけりゃ、さっさと吐け。」(柳韻)
「分かった、分かった!!頼むから、抜いてくれえええ!!」(和重)
「柳韻さん、まずはそれを抜いてやってくれねえか。犯罪者でもそいつは普通の人間だ。」(翔太郎)
「はあ、全く。一応はでかい血管を斬ってはいねえがこの刀はこのままの方が良い。それでもか?」(柳韻)
「俺も抜いちゃいけねえのは分かっているがそう言っている以上はそうしてくれる方が良い。」(翔太郎)
「まあ、こいつが動く前にやれば良いか。」(柳韻)
柳韻はそのままかなりの速さで刀を抜いた。その拍子にガイアメモリは壊れて地面へと落ち、和重の傷口を広げることなく刀が抜かれた。
「はあ、はあ、俺にガイアメモリをくれたやつのおかげだ。そいつが俺を出してくれた。」(和重)
「そいつの名前は?」(翔太郎)
「知らねえ。一切聞いてない。」(和重)
「それはないだろ。」(柳韻)
「ほ、本当だ!信じてくれ!!それに早く病院に連れていってくれ!!血が、血が止まらねえ!!」(和重)
和重の様子からこれ以上は情報は無いことを理解した翔太郎と柳韻。
「柳韻さん、俺は風都署の照井に連絡を入れる。流石に手当てをしてくれ、までは言わねえが。」(翔太郎)
「ああ。まあ、このまま放置したところであれだしな。」(柳韻)
そう話していた時だった。
「畜生、畜生。あいつの所為だ。あのクソガキめ、そうじゃなけりゃこんな目に遭ってねえ。」(和重)
和重の口からは反省の色など一切なかった。それどころか束にまた舐め着くような視線を向けたのだ。それに気づいた柳韻は和重の傷口を思い切り踏みつけた。
「ギャアアアアアア!!」(和重)
「そりゃ、こんな父親の近くに居たらあんな暗い目をするわ。お前よう、自分のこれまでの行いを振り返って反省したことは無いのか。」(柳韻)
「う、うるさい!!俺は本当なら、本当ならこんな目に遭っているはずが無いんだよ!!」(和重)
「本当にそうか。じゃあ、お前はこんな目に遭わないように努力したのか。見たところ、それもしねえでただ周りに当たりまくっていただけみたいだな。そりゃ、お前みたいな奴なら犯罪者になって当然だな。」(柳韻)
「お前えええええ!!」(和重)
「俺には学も無いし、はっきり言ってちゃんとした仕事に就いたことは無い。そんな俺でもな、こんな俺でも子ども達、妻、妹、大切な人が居て、その人達のために努力し続けてんだよ。お前みたいなやつでもただ息を吸って、心臓を動かしてんのは神様のおかげかもな。でもよ、人として恥じない生き方をしてねえ、あろうことか恥しかない人生しか送っていねえお前に人の親として胸を張れるものはあるのか。あるわけないよな、お前みたいな自分本位で、世界は自分中心に回るべきなんて考えているようなやつが地べた這いずり回って、泥まみれになるような泥臭い努力をしていないお前が生きてる価値はない。」(柳韻)
「俺はな、本当ならエリートだったんだ!すべてがうまくいくはずだったんだ!それなのに、それなのに!すべて、あいつだ、正則の所為だ!!」(和重)
「お前の失敗を子どもの所為にするんじゃねえ!!」(柳韻)
柳韻が声を荒げた。
「なんでもかんでも自分の思い通りにならなきゃ気が済まない子どもか!!良い年したおっさんの言い分がそれか!!都合の悪いことは全て他人の所為か、思い上がるな!お前にも多少の非はあるだろうが!それに目を背けて都合の良いことだけに目を向ける奴が立派な大人面をするんじゃねえ!!どんな子どもだろうとお前の血がつながった子どもだろ!!お前まで敵で、正則君が可哀そうだ!」(柳韻)
「何様だ!!」(和重)
「俺様だ、この街の神社の篠ノ之神社の跡取り息子の篠ノ之柳韻様だ!美人の妻の楓の夫で!これまた美人の妹の雪子のクソ兄貴で!妻に似た美人さんの二人の愛娘の束と箒の親バカ親父だ!!それ以外の何者でもねえ!!」(柳韻)
柳韻のその姿は多くの人にうつる武人では無かった。ただ一人の夫であり、兄であり、父親であった。
「お前の本当の罪はな、そのねじ曲がった根性で息子を苦しめたことだ!!その罪は一生消えねえし、償う気もないお前に彼の生きるこれからを見る資格は一切ない!!それどころか正則君の近くに寄って好き勝手するような奴が近寄るんじゃねえ!!もし、俺の家の近くで正則君の前でまたその薄汚れた姿で来てみろ、その時は本気でぶっ殺してやる!!」(柳韻)
その気迫は正に武人、それを受けた和重は完全に心が折れていた。それから数時間ほどで照井が風都から刃野刑事を連れて和重の身柄を引き取った。
「売人が逃亡に関わったというのは本当か。」(照井)
「奴はそう話していたけどな。だが、あの様子なら本当にガイアメモリを買っただけなんだろうな。」(翔太郎)
「ただの売人が一般人、それも経済状況が良いとは言えない奴に5本もガイアメモリを渡すのか。」(照井)
「何か裏があるみたいだな。」(翔太郎)
「左、奴の息子がいたアパートに何かが現れた様子があった。」(照井)
照井は翔太郎に正則のアパートの写真を見せる。そこには屋根に大きな穴が空いたアパートが映し出されていた。
「奴は息子に殴られたと言っていた。その彼の姿はなく、アパートには何かが現れたと思われる大きな穴と部屋には血の跡だけだ。このタイミングでの逃走、行方不明が同時期に。」(照井)
「確実に何かあるだろうな。照井、俺はまだこっちに残る。俺の方でいろいろと調べてみる。お前は、。」(翔太郎)
「俺は風都に戻って岩城和重の足取りをもう一度洗いなおす。何かわかればすぐに連絡する。」(照井)
照井はこのまま風都へと戻った。そして、翔太郎は神社の中に戻っていた柳韻の元へ向かった。
「翔太郎君、立て続けで悪いが岩城正則君の捜索を依頼して良いか。」(柳韻)
「それが柳韻さんの新しい依頼なのか。」(翔太郎)
「あの父親が現れた、それも娘と大事な発表をしたその日にあの父親がいた。それなのに、束を襲ったのに正則君が現れなかったということに引っ掛かる。」(柳韻)
「なあ、柳韻さん。その、岩城正則とは面識は?」(翔太郎)
「2年前、正則君の素行調査の時に正則君と束が風都に行く直前だな。」(柳韻)
「どうして、そこまで。」(翔太郎)
「まあ、ぶっちゃければ婿殿をある程度は気に掛けるだろ。」(柳韻)
「え?」(翔太郎)
「見たときにな、ああこいつは束と付き合うなって。ああ、付き合うって結婚までな。まあ、それに他にな、眼がな、昔のクソジジイに忌み子って言われた時の俺と全く同じ目をしていやがってな。まあ、あれだよ。他人とは思えなくてな。」(柳韻)
柳韻はそう言うとふとことから煙草を取り出して火をつけた。ゆっくりと煙を吸い、吐き出す。
「ああいう子は周りの所為でああなっちまっただけだ。何か、危ないことに手を出してんなら止めないと行けねえ。この世界に生きている奴らは皆、お空の上とかいろんな場所にいる神様のおかげで生きてるんだ。でもな、結局は皆、人の中で生きているんだ。その人の中で人の決まりに生きていかなきゃいけない。神様がしてくれんのはこの世に生まれることが出来るようにすること、そっから先は生まれた奴自身の力と周りの人間の助けが絶対に必要っていうだけだ。助ける奴がいないなら、せめて神様の奉っている家の人間くらいは助けになってやらないといけないだろ。」(柳韻)
「そういうことだったのか。」(翔太郎)
「ああ、でもな。今回ばかりは俺の力だけじゃあ無理だ。裏のことをよく知っている人間の助けが必要だ。だから頼む。」(柳韻)
「分かった、それだったら報酬もいらねえ。出来る限りやるぜ。」(翔太郎)
「ありがとうな。それに俺の昔の知り合いに助けを求めてな、たぶん面識があるはずだから彼と一緒に行動してくれないか。」(柳韻)
「昔の知り合い?どんな奴なんだ?」(翔太郎)
翔太郎と柳韻が話している頃、篠ノ之神社にある一人の男がやって来た。そして、そこには束が居たのだった。
「正則、どこにいるの。」(束)
初めて意識する感情、分からないもの、自分には関係ないものと思っていたものを改めて意識していた時だった。
「ねえ、君。ちょっと聞いても良いかな?」(???)
男が束に声を掛けた。先程、男性に襲われた束だったが不思議と目の前の男には安心できるものがあった。
「あの、誰なの?」(束)
「俺は火野映司。」(映司)
彼こそ柳韻の古い知り合いであり、ある事情で日本に戻っていた火野映司だった。
翔太郎と映司は束と千冬を連れ、正則の行方を追う。始と久方ぶりの再会をした剣崎の前にダーククロウとヘキサオーズが現れる。そして、束たちに力を貸したあの男も今回の事件に関わることに。
「未来を紡ぐ国民を守る、その大義の犠牲となれ。」
そして、始まる最悪の事件。