春休みが終わり、中学校生活最後の1年が始まって3か月が経った。その間に小学校時代に箒や鈴、万夏をイジメて、中学では俺を標的にしてた連中をはめて、学校での居場所を無くし、体力テストで今まで以上の記録を出して、ドーピングの疑いがかけられたり、成績が上がって、前世で行きたかった高校が狙えるレベルにまでなったと周囲が俺の変化に驚いていた。ここ最近はインベスが出現することもなく、月1回の沢芽市での健康診断も問題は無い。俺と一夏の関係も紘汰さんと出会ったあの日の夜に修復した。そして、今の俺がしていることは
「いや、あいつもね、わざとじゃないんだ。ただ、どういうわけか、恋愛ごとに関してはすごく鈍くてね。その、悲しいだろうけど、ああいうやつなんだ。」
「でも、織斑先輩は、、、。」
一夏に告白して、ハートブレイクした後輩を慰めています。こういう役目はいつも俺だからここでも前世でも同じことをしているからもうベテランの領域に至っているのではと考えている自分がいるけど。
「すぐに忘れるのは無理だけど、少しでもこの失恋を引きずらないで。」
「柏葉先輩、優しいんですね。」
少し、立ち直れそうみたいだから安心、安心。
「なんで、もてないんですか?」
この一言さえなければな。
一夏のこういうトラブルの始末をしていくと必ず最後に言われる一言だ。俺だってなあ、好きでもててないわけではないのだよ。というか、あいつのトラブルの火消しをやっているとどうしても友達とかの認識が強いんだよ。失恋から始まる恋なんて起きたためしがねえよ。
「なんでなんだろうな。」
まあ、もてるつもりも無いし、思いを寄せている女性はいる分には居るが。
「先輩こそ、織斑先輩のフォローばかりに気を取られないでくださいね。」
「分かったよ。元気でね。」
大きなお世話だ、なんて口が裂けても言えない。まあ、俺にとってはこれが日常だし、当たり前の風景だから。そのなかで、俺は紘汰さんと出会った後、ドライバーとロックシードにまともに触れることが出来なくなっていた。触れようとすると手が震えだして、前世での最後の記憶がよみがえるようになったからだ。俺はいまだに戦うことが出来ないでいた。
「おう、大樹お疲れさん。」
一夏の親友の弾が俺に声を掛けてきた。弾も俺と同様に一夏の恋愛関係のフォローに入ることが多い。
「もう、嫌になってくるんだけど。」
俺も愚痴をこぼす。
「まあ、今に始まったことじゃないから。それと、あいつらが仕返しに来たか。」
弾が言ったあいつらは俺をイジメてたやつら、あいつらなまじ頭が良かったから推薦無くなっただのなんだのうるさかった。仕返しに関しては
「今までやられた分も込めてしっかりやり返すつもりらしいけどね。ちなみにこないだ、それで呼ばれたけど無視したら家まで来てさ、小父さんと小母さん、警察まで呼んで対処したから完全に自分で自分の首を絞めた結果になったよ。」
正直、これで懲りてほしい。こっちは対処法を色々考えているから、仕返しのたびに社会的地位が低くなるのは明白だから諦めてほしい。
「なら、当分は大丈夫か?」
「次に来たら、心にトラウマが出来るレベルのを考えているんだけど。」
「それ、俺も一枚かませろよ。」
「プロデュースは束姉ちゃんだから、OKもらえるよ。ああいう奴らは少し、ビビらせる方が良いんだよ。」
一夏は真正面からやめさせようとするから関わっていないが、ああいう奴らは実際のところは恐怖心を与えて、自分から近付かないようにする方が効果が高い。そんなことを考えていると、
「大ちゃん、一緒に帰ろう。」
俺の用事が終わるのを待っていた万夏が俺を呼びに来た。
「うん。弾、また明日。」
「おう、またな。」
俺は万夏ともに家に帰る。これが俺の今の日常で代わり映えしない、けれど大切な日常だ。
「おい、柏葉。」
ああ、俺をイジメてたやつらだ。
「何?これ以上、付きまとうのをやめてくれない?」
「お前のせいで、家でも学校でものけ者扱いだ!どうしてくれるんだ!」
「それは知らないから。だって、自分たちでやったことだろ。」
「ウルサイ!ちょっと付き合えよ!」
こいつら、学習能力がないみたいだ。
「万夏、先に行ってて。どうしても、こいつら、付き合ってほしいみたい。」
「大ちゃん、けど。」
「いや、そいつもだよ。」
ああ、こいつら、万夏も巻き込むつもりか。インベス相手に戦うのは出来なくなっているがこんな奴らに万夏をやらせるなんて絶対にさせない。
「分かったよ。」
結果だけ言えば、俺が奴らを一人で締め上げました。騒ぎを聞いた一夏、箒、鈴、弾が来たら、全裸で正座して髪を刈られ、大粒の涙を流すいじめっ子どもと仁王立ちしてそいつらを睨みつけている俺に俺の後ろに隠れている万夏という奇妙な光景だったらしい。
「大ちゃん、あまり無茶しないで!」
「ごめん、万夏。」
あの後、先生たちに事情を聴かれて、当初よりも帰りが遅くなった。帰る道中俺は昼間のけんかを万夏に注意されてた。
「私のために無茶をしないで!それで大ちゃんがケガとかをしたら。」
「万夏に何かあったら、それこそ自分を許せないよ。」
「でも。」
「それに、なるべくケガをしないように気を付けているから。その、万夏が無事なのが俺にとっては大切だから。」
「大ちゃん//。」
俺の言葉に万夏が顔を赤くする。その言葉を言った俺もすごく恥ずかしかったけど。
今の俺は前世、IS世界で仮面ライダーとして戦ってきた俺とこの世界で平穏に暮らしてきた俺が融合した人格になっている。実際には前世の俺が主人格でこの世界の俺の記憶を全て保有している。ただ、この世界の俺の記憶は他人の記憶ではなく、自分自身で体感したものという意識が強いので融合という言い方が正しい。
この世界での記憶で言えば、俺も万夏のことを好ましく思っている。イジメてきた奴らが俺を標的にしていたのも万夏が関わっていたからだった。それを考えると前世でも今世でも俺は万夏が好きで彼女の為ならなんだって頑張れる。自分でも恥ずかしい、こんなキャラじゃなかったんだけどな。
そんなこんなで俺と万夏は家に帰る。その間に、俺はこれから何事もなく普通の日常が来ることを望んでいる。だが、そんな日常はほんの些細なことで崩れる危険性があることを俺は知っている。その時に、今の俺は戦えるのだろうか。
沢芽市、ヴァルハラ。サメインベスによる襲撃があったものの施設そのもののダメージは少なく、今では何事もなく職員が業務をこなしていく。
「これまでの調査で柏葉勇吾が1人で行動しているのではなく、部下ないしは仲間と共に行動しているのは分かっていた。そのうちの人物の詳細が判明した。」
光実、ザック、貴虎、凰蓮、城之内の5名が以前に大樹たちが沢芽市を訪れたときに使用した会議室に集まっていた。
「僕の調べで、彼と共に行動していた人物が2名だと分かった。皆の手元の資料にその2人の詳細が書いている。」
5人は光実が言った資料に目を通す。
「女性の方はイリーナ・A・タカハシ。日系アメリカ人で過去にアメリカの国家代表候補生だった。その当時は次期ブリュンヒルデとして有望視されていた。実際の処、操縦技術、適正もかなりのものだったらしい。ただ、彼女のことを妬んだ他の代表候補生によって事故に遭い、下半身に後遺症が残ってからはISから離れていた。3年前に失踪後、行方が知れなかった。」
光実の説明に皆、手元の資料に目を通していく。
「男の方は藤村正東。日本でISに関する研究を進めていた研究者で主に男性でも操縦できるようにする技術の確立を目指していた。だが、その技術が非人道的として研究が止められる。それにも関わらず、研究を断行。人体実験に踏み込むが警察に発見されてそれも失敗する。その後は学界からも姿を消して、2年前に自殺。遺体は遺族が居ないために共同墓地に埋葬されるはずが火葬を行う前に遺体が消えていた。」
光実の説明に合わせ、勇吾の仲間と考えられる2名の顔写真が写される。
「一人は半身不随の元国家代表候補生でもう一人は死んだはずの男。この2人の接点は?」
貴虎が聞く。
「僕が調べた限り、この2人の間に接点はなかった。気になる点は。」
「半身不随の元代表候補生がなぜ、回復したのか、死んだ男がなぜ生きているのかということね。」
光実の言葉を凰蓮が引き継ぐ。
「そういうこと。ただ、厄介なのはイリーナは米軍から強奪したISを所有していることが判明していて、対処に注意が必要だと分かった。」
「ミッチー、イリーナ・タカハシが気を付けなきゃならねえのは分かった。3か月前に大樹を襲撃したアーマードライダーの正体は分かったのか?」
ザックは大樹を襲撃したアーマードライダーに関する情報を求めた。
「実は、そいつも調査した中で情報を手に入れることが出来た。アジア系の30代ということと戦極ドライバーとロックシードを持っていたということからこいつがナイトと呼ばれる傭兵ということが分かった。そして、こいつが大樹君の襲撃の1週間前に柏葉勇吾と接触、その2日後に日本に来ていたことが分かった。」
その事実にその場で説明を聞いていた者たちは驚きを隠せなかった。
「なあ、ミッチー、それって、柏葉勇吾が実の弟の殺人を依頼したってことなのか?」
城之内がここまでの情報から思い当ってしまったことを口にする。
「その可能性が高いと思う。」
実の兄が殺人を依頼したという事実を若きアーマードライダーにはあまりにも酷だろう。だが、
「大樹が検査でこっちに来た時に話してくれたんだ。きっと、兄貴が寄越したって。それを聞いた時、俺は大丈夫だとしか言えなかったんだ。」
ザックがナイトのことを話した時の大樹の様子を話した。
「あいつ、その時に兄弟仲なんてとっくに修復不可能になっちゃって、兄貴が俺を殺すつもりだと分かって、逆に安心したって言ってんだぞ。あいつになんて言葉を掛けて良かったか俺にはわからなかった。
その後に俺たちの前であいつが話したあの話を聞いて、信じらんねえ自分と納得しちまった自分が居たんだ。それこそ、インベスやヘルヘイムのこと、オーバーロードを知っている俺たちでも信じらんねえ話をあいつはホラじゃなくて本当に体験していたことなんだって分かって、話しているあいつの顔を見て居たたまれなかった。」
そう、ナイトの襲撃の後、大樹はヴァルハラに所属している彼らに自分が別の世界で体験したことを話したのだ。その時、彼らは信じられない気持ちを持ったがその話を聞いて彼に関わる事件の説明がつくことを知り、納得した。それと同時に彼らにとって他人ごとではない話を中学生の彼が話していることにひどく心を痛めた。
「特に、俺が悔しかったのがあいつがもう兄貴の所為で誰かを殺したくないって言ったんだ。あいつは、誰かに守られるはずだったのに、たった一人で戦い続けていたんだ。それを、、、。」
その先は言葉に出来ないようだった。
「クルミの坊や、あなただけが思っていることじゃないわよ。ここにいる全員があの子の体験してきたことに心を痛めているのよ。あの子の今の状態じゃ新しいインベスと戦えない、だから、あの子には当分の間はそれを気にすることなく生活させることに決まったのよ。」
ヴァルハラでは大樹はしばらくの間、戦うのを控えるようにしていた。前世のトラウマから今の彼がインベスとの戦闘を満足に行えないことが分かったからだ。
「あいつ、戻ってこれますかね?」
城之内が口を開く。
「紘汰さんが、ナイトを殺そうとした大樹君を止めて、大樹君の心の闇を分けたって話を聞いた時に紘汰さんは大樹君がまた、誰かのために戦えるために大樹君を救ったんだと思った。紘汰さんは大樹君が何時かはまた立ち上がれるから助けたんだと思う。そうじゃなかったら、わざわざ、地球に戻って来ないよ。きっと、大樹君は戻るよ。」
光実が城之内の言葉に答えるように話す。
「葛葉が大樹君を助けた。理由は本人に聞かなければ分からないが、葛葉が助けた彼は間違いなく私達と同じ志も持っている、私達に出来ることは彼が戦いの場に戻って来た時に彼を受け入れ、共に戦うことだ。そして、彼と共に戦うと言ってくれた、葛葉に似た瞳の彼に大樹君の助けになろうとしている彼に悪に屈しない力を託さなければならない。」
貴虎はトランクケースをメンバーの前に出して、中身を見せる。
「時間が掛かってしまったが、これで彼も戦える。だが、私達には彼らを巻き込んでしまった責任がある。その彼らを帰るべき場所に帰れるようにするのも私たちの役目だ。皆、やってくれるか?」
貴虎の言葉にその場にいる全員が頷く、笑みを見せるなどの同意の意思を伝える動きをする。
翌日、俺はいつものように中学校にいた。ちょうど、昼休みだった。
バリ―ン!どこかのガラスが割れた音がした。
「なんだなんだ!?」
その音に周りの生徒が反応する。俺は昨日の奴らがとうとうそこまで落ちたと思い、特に気にも留めなかった。
「おい、お前ら、何をしている!逃げろ!」
先生方が各教室に逃げるように指示する。
その間に何かが壊れる音がする。俺は背筋が凍るような感覚を覚え、音の方へと走る。そこには、前世で戦ったゴリラインベスが居た。
「大ちゃん、先生たちが危ないって、、、。」
「おい、あれなんだよ。」
万夏と弾が俺についてきたらしい。俺は自分が走ってきた方向を見ると一夏、一夏の親友の御手洗数馬、箒、鈴が走ってくるのが見えた。俺は、ロックシードを取り出そうとするが、右手がひどく震えていることに気付いた。
「おい、危ないぞ!」
「一夏、貴虎さんに連絡して。俺、少しの間、あいつを引き付けておく。皆は安全なところに逃げて。」
そういうとゴリラインベスが俺たちの方を向いた。俺は震える手でロックシードを取り出し、ドライバーを身に着ける。
「っ、っ!」
「ソイヤ!ドラゴンフルーツアームズ!竜王・オン・バトルフィールド!」
「うおおおお!」
変身した俺はインベスに向かって走り出した。
刀を振るう度、脳裏を忌まわしい記憶が駆け巡る。その度に刀の剣筋が鈍り、かすり傷程度しかインベスにダメージを与えることしか出来ない。見てるヤツが居れば、10人中10人が全く話にならないと言う戦い振りだろう。向こうは無視出来る程度の傷、こちらは息も絶え絶え。正直なことを言えばまともな戦いじゃなかった。
戦っているなかで校舎の外へ出ていた。
持っていた刀は手もとを離れており、拳を握り、叩きつけようとするも
「っ。」
振り上げた手を振り下ろせなかった。
その瞬間に
「WUOOOOO!」
インベスの剛腕が俺の胸にたたきつけられた。その衝撃でかなりの距離を飛ばされた。かなりのダメージだったらしく変身が解除されていた。
「はっ、うあ、痛。」
体に痛みが走る。立ち上がることが出来ずに地面に伏せていることしかできない。インベスが俺に近づいてくる。
「死ぬのか。」
ここまで追い込まれて、否が応にも死を意識する。ただ、死への恐怖は無く、ただただ万夏への申し訳ない気持ちで一杯だった。
「おい、そこのゴリラ!俺が相手だ!」
一夏がインベスにそう叫ぶ。
「いち、か、、、。にげ、、、。」
俺は一夏に逃げろと言おうとするが言葉に出来ない。
「今度は俺が皆を護る!」
「シルバーエナジー!」
一夏の腰にはゲネシスドライバー、その右手には銀色のロックシードが握られている。一夏はロックシードをゲネシスドライバーにセットする。
「ロックオン!}
一夏の頭上にクラックが空き、そこから白銀のリンゴ型の鎧が現れる。一夏は左手で拳を作り腰に引き、右手は刀を下ろすようにドライバーの前まで下ろす。
「変身!}
掛け声とともに右手は真横へ開き、ドライバーのレバーを操作する。
「ソーダ!シルバーエナジーアームズ!」
白銀の鎧が一夏へと降りてゆき、白色のスーツを形成、天へと貫く金色の三本角を持つ白銀の鎧武者へと変身する。
「アーマードライダー白銀!行くぜ!」
アーマードライダー白銀となった一夏はインベスを相手に着々と戦績を挙げていく。一方、大樹は前世のトラウマと向き合おうとするもうまくいかない。そんな中、大樹を襲ったアーマードライダーの傭兵、ナイトが新たな力を手にして現れる。