脳筋にはなりたくない   作:スーも

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「小隊長!お目覚めですか?安心しました、お身体の調子はどうですか?」

「?俺は確か………っ!波風!あの虚はどうした?お前も無事だったのか!!」

「はい。まずは報告します。小隊長はあの虚と戦っている最中意識を失った事までは覚えていらっしゃいますか?その後に、あの虚は私へと標的を変え襲って来ましたが、小隊長と戦って既にぼろぼろでした。そのおかげで、自分だけで偶然にも虚を倒せた。以上が事の顛末です。」

「俺はアイツにそんなダメージを入れることが出来てたか?そんな記憶は無いんだが……」

「意識を失われる寸前に斬りつけたのがいい場所に入ったんではないでしょうか?それと本来は先に言わなければならないことでしたが、申し訳ありません。初めて見る虚に動揺してしまい、必要な援護をできませんでした。」

そう言って目の前の青年は頭を下げて来た。その様子には後悔の念が見え隠れする。

 

「いや、初めてならば仕方の無いことだ。お前はいつも冷静だし優秀だったから、ただの新入隊員ってことを失念してた。だから、この怪我は俺のせいだ、気にするんじゃねえ!虚も強かったしな、ただ次からはしっかりな!」

上げた顔は眉を寄せて苦笑していた、いつもの温和な雰囲気が戻ったようで安心した。

 

訓練の時の動きはいつも冷静沈着、動きも判断も早く体の使い方がうまい。あの四大貴族であり隊長でもある四楓院夜一様に推薦されたとの噂もあったので相当に強いのではないかと思っていた。

事務作業にも文句を言わず淡々と取り組み、きちんと整理された状況で報告書が上がってくる。まさに理想の部下であった。

そんな彼がいざ実戦になるとあそこまでカチカチになって動けないとは思っていなかった。他の新人と同じくかわいいところもあるじゃないかと、ある意味色眼鏡が取れた。

 

───それにしても、あの虚が地に倒れた時の衝撃か何かで一瞬意識を取り戻した後見えたあの光景は何だったのだろう。

えぐれた地面の上に虫の息の虚が倒れていた。その上から無慈悲にその喉笛を搔き斬る波風がまるで別人に見えたのだ。無表情で虫を踏み潰すかのように虚を殺すその雰囲気にはいつもの好青年然とした物が微塵も感じられなかった。あの冷たい霊圧には、ただ殺すという念に駆られた獣のような狂気すら感じた。

虚を前に恐怖で固まっていた青年があのように豹変するとは思えない、見間違えだったのだろう。

 

 

────

 

 

藍染の崩玉の研究拠点は名前は覚えていないが、図書館っぽい場所、それも四十六室関係者の人間しか入れない所を牙城としていたはずだ。

藍染がどこまで四十六室を掌握しているかは分からない。そこに侵入するにしても罠であふれていそうで恐ろしい。何とかして内部事情を探らなければならないが、あの眼鏡の裏をかける気がしないのは仕方ないだろう。

 

──ん?木無のじじいは四十六室ではなかったか?

更木で出会った貴族のじじいだ、あの人を利用して藍染の根城の足掛かりにするとしよう。早速連絡し、会うことになった。

 

「なるほど。普段は清浄塔居林に住んでいるのですね。お世話になりましたので一度ご挨拶に伺いたいと考えておりましたが、わざわざ自分の方を訪ねていただきありがとうございます。御足労お掛けしました。」

「用事があったものでね。それに私もちょうど会いたいと考えていた。とはいえ君では禁踏区域には近づくことも許されないからね。」

 

それから雑談を交え、内部の様子を聞こうとする。さすがにじじいは何も洩らさなかった、あまり深入りしても疑われるだけだしどうでもいいような話を続ける。

完全催眠にかかっているかどうかも全く分からなかった。聞けるとも期待していなかったのでそのまま雑談を終えお土産を渡して解散した。

土産には美味しいと評判の老舗の饅頭を箱に入れて渡した。箱の中敷きは飛雷神で斬ったものである。ついでに保険としてじじいの服にも切り込みを入れる。幸い黒地の服なので目立つことはないだろう。

 

さあ、そのまま俺を禁踏区域まで案内してくれ。本命は大霊書回廊、尸魂界全ての事象、情報が強制集積される場所らしい、知っているものも多いということで先ほど教えてくれた。

 

饅頭は箱の中に20個ほど入っていた、一気に一人でそれを食べることはまず考えられない。更木から戻る際、少し遠回りしてまで饅頭をわざわざ買っていたので好物なのだろう。

捨てられない限り、居住区へと持ち帰るはずだ、ひとまず清浄塔のじじいの家にマーキングし状況を徐々に探るという作戦である。雑談の中で判断したが、じじいの生活リズムはかなり規則正しい。深夜に飛べば熟睡中のはずなので見つかることはないだろう。

 

霊圧が探られるのは恐ろしいが、霊圧の隠蔽能力だけは最初から太鼓判を押されていたものなのですぐに見つかることはない、と信じたい。霊圧遮断コートを早めに作ってくれ、頼む浦原。

 

その日の深夜、予定通り飛んだが家の中らしい場所についた。じじいの寝室ではなかった。あまり使われてなさそうな箪笥の引き出しの裏とトイレにマーキングしすぐさま帰った。

日本家屋というものは密閉空間が少ないので、泣く泣く密閉されており、光の漏れにくいトイレにマーキングし飛雷神を発動する。ラスボス一行が老人の家のトイレに近づくなんてことはしないだろう、間抜けすぎると考えた結果でもある。

藍染がいつどこにいるか分からない状況で欲張ることはしない、とりあえず最初の一歩はクリアした。

 

藍染の完全催眠は視覚からヒトの脳を支配するモノなのであれば、つまりカメラなど機械は騙せないはずだ、と早速制作に取り掛かった。浦原のラボに似たようなものがあったのでしっかり構造を見て技術を盗み自分なりに作ってみた。

最初から作るなんてことはできないし、浦原が作り上げる30倍の労力と試行錯誤、時間はかかったが、もどきくらいは作ることができた。

 

そうして来たる日までコツコツと準備を続けた。俺が待っていたのは藍染が死神達に自分の斬魄刀の能力を見せるその日であった。原作では瀞霊廷全員がその能力にかかっている、ということを言っていたので能力を見せるのは一度や二度ではないと考えていた。藍染の嘘の方の能力は隊士達の間では割と知られている情報であったしな。

 

そうして、藍染が隊士達を集めて講習会をやるという話を聞きつけた二番隊平隊士に誘われ、と言うか誘うように誘導し、それを見に行った。参加する人間は名簿に名前を書かされた、こうやって誰が鏡花水月にかかっているか判断するためだろう。

 

不自然にならないようしっかりと藍染が始解を行う様子を見る俺の目は何の光も映していなかった。一次的に視覚情報を遮断する薬を作ってもらったのだ、隠密機動は夜の闇に紛れて動くことも多い。そのための訓練をしたいと浦原に言って作ってもらった、中和剤を打つまで2時間ほど効果が続く優れモノだ。

 

胸元のアクセサリーに見せかけた監視カメラで堂々と映像を記録する、画質も荒くそこまで多くの情報量を記録できるものではないが、鏡花水月を見た人間とそうでない人間にどの程度見えるものの差が出るのかを把握したかった。

そうして、共に講習会へと赴いた平隊士くんとその様子を話し合った。彼は藍染の刀の強さを熱弁していた。霧を発生させ幻覚を見せる、そして同士討ちを誘うのだと。それに紛れて藍染が対戦相手に刀を突きつけ決着がついたということを教えてくれた。

 

一方、映像の方を見てみると始解直前までは全く同じ行動だったようだが、その後の様子は異なっていた。藍染は動いていなかった。眼鏡をはずし、髪をかき上げ、藍染の戦いを見る人間たちの顔を一瞬見たあと興味を失ったかのように対戦相手へと視線を戻した。特別俺が注視されている様子はなかったので一安心だ。

もしはっきりと監視されていたら危なかった、俺の目の焦点があっておらず、戦い動く人間を追う目ではなかったことに気付かれた可能性があった。

これで藍染の能力が始解時の視覚情報をきっかけとして発動するものだという確信を得ることができた。俺はむやみやたらに原作の情報を信用しないことにしている。特に能力云々については、実は○○であった、ということがありそうで怖いしな。

 

俺の一方的な藍染との戦いにおいてカメラはかなりの役割を果たしてくれそうだ。藍染が確実にいない夜を狙って大霊書回廊に忍び込み、俺の魂の一部を材料に藍染が作った崩玉について調べなければならないのだ。

浦原に彼の持つ崩玉について聞き込むのはもう少し情報と信頼を手に入れた後にすることにしている。

 

共に来た二番隊の隊士と談笑しながら講習会から去っていく俺の背を、一対の視線が見つめていることにこの時の俺は全く気づいていなかった。

 

 

 


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