あれからというもの、二番隊としての任務以外の時間は浦原のもとに通い詰めて、映像記憶媒体、製作に成功した本体に記録するタイプではなく、無線で親機に情報を飛ばすタイプやネットワーク型を作ろうと模索していたがまぁ無理だった。
そもそも現代社会でどのような仕組みで無線やネット空間が作られていたかについて曖昧知識しかないのに、さらに尸魂界の物理原則は現世と全く異なる。
機械で藍染の動向を掴むという策は現実的ではないのかもしれない。浦原喜助や涅マユリのポジションは簡単に真似できるものではない、俺みたいな三流では不可能であった。
そんなこんなで対鏡花水月の打開策が思いつかず悶々とした毎日を送っていた時であった。また藍染が隊士達を指導する機会を設けると言う話を聞いたのは。
それは朝早くから行われるらしく、前日は隊舎で休むと予想された。実際に藍染が夜になって隊舎へと入っていくのを俺の目で確認できたので、浦原が完成させた霊圧遮断コートを着てじじいの家まで飛んだ。
急いで先に場所を掴んでいた大霊書回廊へと向かった。その出入り口となる扉を開け司書が出てきたのと同時にその中へとクナイを投げる。これで何の痕跡なく中に入れるだろう。
仕事を終え無人になるであろう時間まで待ち、飛雷神を使い回廊へと侵入を果たした。投げたクナイを回収し、本が並ぶ棚にマーキングをしつつ目的の物を探して行く。
一応見られても大丈夫なように、口もとまで覆う黒いマスク、目近くまですっぽり覆える黒い外套、黒い手袋と完全に不審者スタイルだ。
原作でどうだったかは覚えてないが、現在、ここの情報は紙つまり本媒体で置かれている。魂魄の研究について並ぶゾーンの中から、崩玉の字が出てくるものを探す。中々見つからないが、それに関連しそうな浦原の名前が載っている物があったのでそれを取ろうと手を伸ばす。
───ザワッ
背筋に悪寒が走った、瞬間その場から離れ後ろを振り返る。俺が立っていた場所には伸びた刀が突き刺さり、気づけばすぐに元の長さへと戻っていた。
「ありゃ、外してしもうた。こんな所で会うなんて奇遇やなァ」
「……………」
「だんまりかい、まぁええわ。どうやってここに入ったんか……色々と聞かせてもらうで」
なぜ、何故ここに市丸ギンが!!見つかったからと言って殺すわけにもいかないし、そもそも殺せるか分からない。
伸びるという単純な能力。本当にそれだけなのかは知らないが、切っ先を向けられたら終わりだ。使う霊力の質を変えるイメージで練習し、何とかして習得し暴発しなくなった赤火砲を放った。それと同時に間合いを詰める、斬り合いの勝負へと持ち込んだ。
俺の方はまだ始解をしていないので浅打と同じ形である。さすがに力ではこちらが勝っている、彼はまだ子どもの姿だ、それでいて俺よりも年上の可能性があるのが尸魂界の怖いところである。見た目に騙される事なかれ。
「手加減してや、力が強おて手ェびりびりしてしまうわ。波風さん」
「……斬り合いをしている相手に対して手加減しろとは随分面白い事を言いますね。」
俺が誰かまでバレている、カマかけか?霊圧も見た目も、声ですら俺が誰か判断がつかないはずだ。もし俺だと確信を得ていて、藍染にまでここに侵入したことが伝わっているなら非常にまずい。
会えて奇遇だ、とやつが言った瞬間非常に嫌な予感がしたがもしや俺のことを先に知っていたのだろうか。
とにかく長居するのは避けたい、聞きたいことをさっさと聞き出し、口封じした上でずらかるのが勝ちだ。
市丸ギンとは交渉の余地が全く無い訳ではない、ここに来た目的を正直に話せばこいつは必ず俺を利用するはずだ。松本乱菊の奪われた魂魄の一部を取り返すために藍染の下にいるのだから、崩玉の材料として利用された魂魄を取り出す研究をしようとする俺の存在は願ったりかなったりという所だ。
しかしそのカードをいつ切り出せば信憑性が高まるか、ということだが、お互いある程度の実力を把握してからであろう。少なくとも俺は少し刀を向けられたからと言ってすぐにベラベラ話す人間の事なんぞ信用できない。
「この場所を壊したくない気持ちは同じでしょうし、探り合いは終わりにさせていただきます」
ただの刀の打ち合いなら確実に俺に軍配が上がっていただろうが、相手もそれを理解しているはずだ、ここで終わるはずがない。
敵陣の真っ只中なのだ、ここに居座る時間が長ければ長いほど不利なのは俺だ、さっさと本題に入るに限る。
片手で刀を持ち、市丸からの攻撃を受け止め逆の手で螺旋丸を作った。市丸は、直撃はまずいと悟ったのかわざと切っ先を地面に向け、斬魄刀を発動、伸ばした勢いで遠くまで飛んでいた。
「一閃しろ、飛雷神」
始解の状態へと斬魄刀が変化する、市丸がこちらを警戒しているのは分かったが無駄だ。
先ほどの斬り合いの際、掠った市丸の死覇装に既にマーキングは済ませてあるが、能力を色々と推察されるのはごめん被る。マーキング済みのクナイを投げ、それを市丸が避けた瞬間やつの背後へと飛んだ。
「質問に答えていただくのはあなたの方だ。まず一つ目の質問、あなたは藍染の部下ですか?」
喉元に飛雷神を突きつけながらそう言う。容赦なく殺すつもりであると、意識的に霊圧でプレッシャーをかけておく。
「……違うと言ったら?」
予想外の反応だ、思ったより好感触。そうだと言って徹底的に藍染の味方として振る舞うと考えていたがそうではなかった。笑顔を浮かべ少し目を見開きこちらを揶揄するような雰囲気を出しているものの、こちらの方が俺の望む展開へと持って行きやすい。
「ここは藍染の根城の筈。あなたのことは藍染の周囲で何度か見た事がある、そんな事は信じられませんね。市丸ギン。まぁあなたのことなんてどうでもいい、次の質問です。崩玉、特にその材料についての資料の在り処について教えていただきたい。」
「おーーこわ、名前知られとるとは思いもせえへんかったわ。何でそんなもん欲しいん?」
「質問しているのはこちらです、が、まぁいいでしょう。あなた方に奪われた物を取り返したいからですよ。だからさっさと資料を寄越せ、藍染と直接対決になる前に。」
わざわざ関連資料を手に入れそうになる瞬間に攻撃を仕掛けてきたのだ、この答えは市丸が期待していた通りのはず。藍染の名前を出す時に少し語気を強め、焦りをにじませる、ついでに突き付けてる刀に力を込めた。
「そんなカリカリせんといてや、焦らんといても教えたるわ。それよりもいい話あるんやけど聞かへん?実はボクも同じモン取り返したいだけなんや。」
話を聞くと言ってないのに、勝手に喋り出したぞこいつ。いい性格してるな。
「もし仮にそうだとすれば、あなたとはいい友人関係を築けそうだ。貴方が私に情報を流してくれさえすれば、研究も進むし藍染の弱みを握れるかもしれない。しかし嘘ならここであなたを見逃すのは私にとってデメリットしかない、そうでしょう?」
「そんな格好でコッソリ此処に入って来た人が言うことちゃうやろ。ボクを殺したら藍染さんに資料見に入ったのバレるだけや。今回はボクが関連資料渡してしまい、それでええやろ?」
「まぁそれを手に入れて、かつ藍染にバレないのであればそれが一番理想ではありますね。仕方ありません、今回はこれで手を打ちましょう。今後についてはまた折を見て伺わせていただきます。」
そう言って一応、手を組む形で市丸ギンとの戦いは終了した。彼が本気で戦おうと思ってなかったのは分かる、此方もそうではないのは伝わっているだろう。実力は示せたはずだ。最後に一言聞かなければならない事がある、マスクを外してこう聞いた。
「最後に、なぜ俺が波風だと?」
「この前の講習会で名簿に書いてたやろ、名前。ああ、そうや。此処の本勝手に触らん方がええ。閲覧記録が残る仕組みになっとる、どっちにせよキミはボクが居ないと何も知れへんで。」
本媒体なのに触れるとその記録が残るってどういう技術だよ、今回は運が良かった。市丸に守られる形になったな。
市丸が波風のことを知ったきっかけは講習会だと分かったが、結局この全身真っ黒な俺を波風だと判断した理由を答えてない。こんなのと腹の探り合いしながら藍染から情報盗むとか、前途多難である。
砕蜂みたく隠密機動に入った時点で波風という名前だけになった、という設定。