脳筋にはなりたくない   作:スーも

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結局あの後、藍染が特に行動を起こすこともなく、俺の日常は過ぎていった。市丸は本当に俺について何も話さなかったらしい。それどころかあちらから接触してきて、見て盗んできた崩玉関係の資料を渡してきた。

藍染関係の情報はなかなか寄越さないので、確実に松本乱菊の為であろう。市丸がそこまでやってくれているのにこちらの進捗は0だ、申し訳なさすぎる。やはり浦原に泣きつくしか方法は無い気がする。

 

浦原はトントン拍子に出世し、いつのまにか隊長にまでなっていた。おかげで前より忙しそうで何かを頼むにしたって余裕がなさそうだ。

俺の方はというと、ここ数年虚倒したり捕まえたり、研究書読み込んだり、事務作業押し付けられたり、実験してみたり。我ながら忙しい毎日を過ごしていたが特にこれといった功績が無いので出世とは無縁の日々を送っていた。

事務作業を好む二番隊連中が少ないのか、砕蜂もこっそりと俺のデスクに書類を置いて行くのを何度か見た。一度、半目になってそれを見つめていることに気付いた砕蜂が此方を見たあと、そっと目を逸らして部屋を出て行った事もあった。

次の日、俺の好物であるたまり醤油の煎餅が机に置かれていたのでまぁ許そう。いや、熱々の茶が欲しいなーと呟いた所、調子に乗るなとでも言いたいのか筆が飛んできたのでやっぱり許さん。

 

っとくだらない事を考えてないでさっさと片付けしなければ。

つい先日、浦原に新しく技術開発局という組織を作った、これからより大きくしていくつもりだから力を貸して欲しい。それに研究にもっと没頭したくありませんか?と言われ、速攻で頷いた。

浦原の魂胆はなんとなく分かる。新しい部局なのだ、それはそれは煩雑な手続きやら人事やらで大忙し。本人は隊長のためそんなことをこなす時間も無く、部下となった涅マユリや猿柿ひよ里はそんな事をする質ではない。面倒な事は全て俺に投げるつもりなのだろう。

そういう事で俺は、二番隊から浦原が隊長となった十二番隊へと移籍になったのだ。なぜ今になってと思わなくもないが、順当に上がっていったポストで席官に就けたからだろう、流石に平隊士をヘッドハントしたとなると俺に対しても浦原に対しても嫌な評判が立ちそうだ。

 

 

 

「行かないでくださいよーーー!俺らの仕事の効率悪くなるじゃないですか!!」

「先輩、本当に行っちゃうんですか…?あの、私……」

「おう!行け!!!色気でも食い気でも何使ってでも止めろ!!」

「また飲みに行こうな、いつでも奢ってやるよ!」

 

……二番隊の中でも俺の所属している部署はやかましい所だったらしい、俺はそこそこ慕われていたのか。まぁ俺は外から見れば爽やかだし淡々と仕事をこなす人間だしな。

 

酒をだいぶ飲まされ、フラフラと持たされた餞別を持って帰路についた。家に帰ってそれらを整理していく。菓子だとか、手ぬぐいだとか色々と出てきたが、最後の箱に見覚えがなかった。少し警戒しながら箱を開けると、高級茶葉と好物の煎餅が入っていた。

 

「なんだ、意外と可愛いことするじゃないか。」

自然と溢れた笑みと共にそう言う。今頃これをくれた何処かの誰かさんは大好きな隊長殿と共に任務へ向かっているだろう。

それにしても箱入りお菓子か。自分がじじいに渡した饅頭のことを思い出し、ついつい箱の中敷を取り出して隅々まで観察してしまった。色々と台無しである。

 

 

「はっくちっ!」

「どうした、砕蜂。風邪でもひいたのか?」

「いえ、全く。ご心配には及びません」

「何処かでお主の噂でもしているやつがおるのではないか〜?隅に置けんやつじゃのう〜」

「そっ、そんな者おりません!!…………夜一様の揶揄う表情、何て可愛らしい」

「今何か言ったか?」

「何でもありません、それより先を急ぎましょう。」

 

 

────

 

 

「申し訳ないですが、中々難航しています。やはり藍染は天才です、化け物じみた霊圧や能力だけで無く研究方面にもズバ抜けた頭を持っている。俺は崩玉の構造ですら理解がままないというのに。」

「波風さんは、あの人の斬魄刀がどんなものか知っとったん?」

「ええ、色々と検証した後やっと確信を得た、という感じですがね。護廷に入った時、あの冷たい目をした人間が温和な顔をしながら、能力を見せて回っていると聞いて確実に裏があるとずっと探っていたんです。意味のない事を好む人種ではないでしょう。」

「なんやそれ、波風さんにも丸々返ってきそうな台詞やな。」

「あなたも人の事言えないでしょう、あなたに揶揄われた人が狐につままれたと叫んでいるのを聞きましたよ。」

「ボクは別に温和な顔はしてへんで、それに狐は波風さんや。堂々と藍染さんの目の前で能力にかかったフリをするなんてなァ。」

「………嘘も演技も得意なんですよ。」

 

背後で笑った気配がした、それこそ市丸が得意とすることだろう。そしてやはり藍染の始解を見ていないことを知られていた。

町へと出て、死神が多く集う食堂へと入って市丸と話す。席は向かい合わせではなく、別々の机に座り背を向けあった状態だ。下手に警戒されないようにする為、会う場所も時間もバラバラだ。

 

「嫌やわーー狐に食われへんよう、うろうろせえへんようせな。波風さんも気い付けてや。」

「おや、狐はあなたの友人ではなかったのですか?」

「狐以外も出るかもしれへん。ほら、鬼が出るか蛇が出るか、よく言うやろ。ほなまた。」

初めて警告をくれたな、珍しい事もあるものだ。さてさて鬼が出るか蛇が出るか。市丸は自分のことを蛇と表現したことがあった、ということは蛇は無い。残るは鬼………化け物、幽霊……虚か?

わざわざ言ってくるくらいだ、ただの虚ではない。藍染が改造した虚なのだろう、原作にそんな描写があった気がする。

 

この時期に何があったかについて正直言うと殆ど何も覚えていないので、曖昧な表現しかできない。覚えているのは、事件が起き浦原やテッサイさんあと死神何人かが現世に逃げ延びたということだけだ。浦原に現世に行かれると困るな、崩玉の研究が進まなくなる。

 

 

────

 

 

藍染が大霊書回廊で文字を書いている横で本を読む、こうやっている姿にも全く隙の見つからない男だ。この男から何とか斬魄刀の能力解除条件を聞き出さねばならない。警戒していたにも関わらず自分は、この前此処で顔を合わせた男と違い既に術中に嵌ってしまった。

 

「どうしたんだい、ギン。何か悩みでもあるのかな。」

「いやー此処にある本難かしゅうて理解が追い付かんのですわ。」

「手伝ってくれるのは嬉しいが、君が読む必要はないよ」

「本に囲まれて暇だったら一つしかすることがないですわ、お構いなく」

 

そんなに難しい顔をしていたのか、していたのかもしれない。協力関係を築くことになった波風という男について考えていた。市丸ギンにとって波風との最初の邂逅は此処ではない、藍染が斬魄刀の能力を披露するため開いた講習会だ。

 

完全催眠に嵌って以来、何とか斬魄刀の能力から逃れ、周囲との様子の違いを理解する者、ひいては藍染へ牙を届かせる可能性のある者がいないかいつも探していた。

 

藍染の能力は始解をみた時点で終わる。つまり市丸はそれが見えない者を探さなければならなかった、しかし盲目だと周囲に知れ渡っている者を藍染が自陣に引き入れない訳がない。

そうであるから、目が見えないのにそれを隠している人間を探していた、それは砂漠に紛れる金の一粒を探すに等しいというのは自分でも分かっていた。

 

ある日の講習会の時、限りなく自然であったが藍染の見せる幻、藍染の刀や動きを目で追っていない人間を発見した。ずっと目が見えている振りをした人間を探していたから分かる、その男は鏡花水月にかかっていない。名を波風と言った。

調査を進めると、普段の様子からは目が見えないという事はあり得ないということが分かった、藍染の能力を見るあの時のみわざと一時的に視力を無くしていたのだ。

そこまで理解して藍染と敵対しているのであれば、相当此方について情報を掴んでいるはずだ、更なる情報を掴むため拠点としている場所まで来るだろうと予想できた。

 

その後、藍染が前日ほぼ確実に隊舎の方にいるだろうと予想できる時間に講習会を企画し、清浄林か回廊まで来るように誘導した。回廊に全くの痕跡無く侵入していたことについて驚いたが、更に驚いたのは崩玉について調べようとしていた所であった。回廊の魂魄に関する場所、特にハ行で探し物をしていた後に浦原の調査書を取ろうとしていたので殺す気で止めた。

ここの本は触れて開くと既読記録が残ってしまう、正式に扉を通って入った人間でない波風が本に触れると更に警報装置が作動する仕組みだ。それにあの程度の攻撃で死ぬのであれば興味はない。

 

その後、事情を聞いてみると予想の何倍も利用価値がある人をここに呼び出せたことが分かり、少し目を見開き固まってしまった。乱菊と同じ物を盗られたと言っていた。それを取り返すという目的のために資料を集めに来たようだった。

彼女のためにもその研究に関しては出来る限り情報を流す事を決め、一先ず協力関係を築く事に成功した。

 

藍染を一歩出し抜いたのだ、頭の回転が早いのは分かっていたが、実力も申し分なかった。ギン自身全力を出したとは言い難いが、出したとしても勝てたかどうか分からない。おそらく斬魄刀の能力で一瞬で背後に回り込まれ、喉元に刀を突きつけられた。

目的の為には手段は選ばない非情になれる男だったが、ギンを殺すのをやめ此方の条件を飲む───柔軟にその手段を変える事のできる人間でもあった。

───これはいい拾いもんをしたわ。

 

その後何度か情報を流していくにつれ、波風も此方との協力関係を信用、利用するようになっていった。自分も自分で、この男が早々と大きな失敗を犯すことないだろうというある種の信頼を寄せてしまっていた。自分らしくもない、何故こんな事を思うか、と考えてみると一つの答えが出てきた。

波風はある意味藍染に似た男だったのだ、外面の分厚さと雰囲気なんかはそっくりであると思う。まだ分からないが中身も似たような煮ても焼いても食えない物であろう。ただ、藍染の方がはるかに実力も智略も人間的魅力の何もかもを備えているし、目的意識の違いもある、異なる所など挙げるとキリがないがそれでも何となく似ている部分があるのは確かだ。

 

藍染の真実に気付き、奴を討とうとしているのは自分だけだと考えていたが、死力を尽くして藍染に見つからないよう敵対している彼なら保険として役に立ってくれそうだ。乱菊の物も早めに取り返せるかもしれない。暫くは彼の言ったこの奇妙な友人関係を続けていこうと考えた。

 

 


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