脳筋にはなりたくない   作:スーも

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やっとこさまともに原作突入


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「波風サン、それはまだ経過を観察中っス。3番は置いといて、その横の4番にコレ注入しといて下さい。」

「了解です、ちなみにそれは何ですか?」

「分離しやすくなる薬剤みたいなものっスね。」

現代で言うカラムみたいな機械にその薬剤と4番と言われた物をいれて、分かたれた物を抽出しようとする。魂魄の研究とも言えども、この死後の世界ではスピリチュアルなものではなく非常に科学的な手法で行われるものだった。

 

実験対象の状態に合わせてこちらの生活を左右されるので非常にきつい、三徹なぞザラだ。隊長任務で実験室を抜ける事が多い浦原の代わりに対象の変化を観察する事もよくあった。自分の研究しつつ助手の役割もしていたのだ。

ちなみに涅マユリと浦原は全く同じ実験をしないので、関係なかった。両者は議論以外は大体背を向けていた。そして猿柿ひよ里は言わずもがな、そんな細かい作業は好んでいない、助手として使おうという気持ちが起きる涅にびっくりである。他何名か助手が居たがまぁ見事にそれぞれがそれぞれの方向を向いていた。しかし何だかんだと楽しい研究室であった。

 

そんなこんなで崩玉の研究というか混ざってしまった魂魄の分離研究というか何というか、何でこんなコアな話を長々としなければならないんだと思いもするが、ここ何年かの俺の日常全てがこの研究と技術開発局の事務作業で占められてたからだ。

そのせいで頭の中の殆どが研究一色で、市丸に警告を受けていたにも関わらず藍染が本格的に動き出すのを見逃してしまった。流魂街で変死事件が起きているという話を聞いていた筈なのに、聞き流してしまっていたのだ。

 

「……っちゅうことや!ってちゃんと聞いてへんやないか!ボケェ!」

「!っいった!!何するんですか!」

我らが副隊長に飛び蹴りされた。すでに九番隊が調査に向かったらしい事まで聞いた。まずい、確かこの事件のせいで隊長副隊長軒並み居なくなるのだ。具体的に何が起きてるか覚えてないし、市丸に聞こうにも最近はほぼ接触できていない。

 

浦原が援軍の要請を受け、その指示で猿柿ひよ里が現場に向かおうとしている。止めるべきか?いや、怪しまれる。それに今ここにいる浦原も猿柿も涅も、皆全て鏡花水月、つまり藍染の支配下なのだ。早々と藍染の話を切り出すのは無理だ。それに100年後の話で彼女の顔は見た、死の危険は無いのだろう……が……。

藍染の策略に嵌められ命以外の何もかもを、下手をすれば命ですら失う可能性があるのに俺は見捨ててしまうのか。

 

「変な顔をしてどうしたんだネ。君がいつもの薄気味悪い笑顔を浮かべていないとは天変地異の前触れのようだヨ。」

「寝不足で体調が優れなくて。大丈夫です。」

知らずのうちに下を向き唇を噛み締めていたらしい、ずっと一緒にいた騒がしい人間が死地に向かうのは流石に応える、やんちゃだけど何だかんだいい子なのだ。しかし、此処で俺が下手を打つのが一番不味いのも分かっている。まだ機ではない、藍染は崩玉を自身の命の次くらいに大切にしていそうだし暫くは奪えない。

遠くから様子を観察するだけしよう、最悪の場合は……まぁ、その場のノリだ。考えることを放棄し、自身で改良した遠視用のスコープの準備に取り掛かった。

 

 

────

 

 

浦原が霊圧遮断コートを探しているのを見て、現場に向かう気なのは分かったがそれよりも一足先に向かう。大霊所回廊に侵入した時の格好と同じく、浦原と同じコート、隠密機動連中が着ている口までマスクが来る真っ黒のインナー、そして黒手袋と前身真っ黒で向かった。

 

藍染一行が実験経過を見るだろうからそう遠くには居ないだろうと予想し、現場からかなり遠い森の中で息を潜め観る。スコープから覗いて見たところ、現時点で隊長クラスに死者は居ないようだが………あれは虚化だ。この事件は虚化研究のせいで起きた物だったのか、さっぱり忘れていた。

 

そうこうしている内に平子隊長に、藍染の刀が振り下ろされようとしている。

「まだか、浦原……!!」

猿柿ひよ里にマーキングは済ませてある。最悪此方に呼び寄せようと、斬魄刀を始解状態にする。その時だった、浦原はギリギリで間に合ってくれた。その後テッサイさんの鬼道──現鬼道長なんだがなぁ、あの人、の鬼道を大して霊圧を込めてもないような断空で止め藍染は去って行った。

そう、藍染の弱点、唯一の隙は格下や面白味がないと判断した相手に興味を失ってしまう事だ。今回息の根を止めずに去って行くのがいい例である、どうせ何をしても無駄だと考えているのだろう。

完全に藍染一行が消えた後、すぐに猿柿ひよ里の下へと飛んだ。

 

「!波風殿、来ておられたのか!」

「はい、最悪の状況だけは回避すべく様子見していました。申し訳ありません、話は後です。とりあえず彼女たちを浦原の隊舎へ運びましょう。」

「どちらも禁術ですがこの状況では致し方ない、時間停止を使います。空間転移の方はお願いしてもよろしいか!」

「ええ、莫大な霊力を使うでしょうし分担した方が効率がいい。任せて下さい。」

 

そうして十二番隊舎まで飛雷神を使って飛んだ。発動時間が長くかかるが、本体を中心とした半径10m内の円の中の物を転移させるような真似が出来るようになったので、そうして虚化した連中を運ぶ。

 

浦原が虚化の治療を試みている間、俺は藍染がどう動いたか外に出て様子を確認しに行った。

 

「失敗っス……少し外の空気を吸ってきます。」

四十六室から浦原とテッサイさんの捕縛命令が出ていた、俺の名前は無い。こうなる事を警戒して今日のアリバイは偽装済みだ。それを浦原達へと伝えるため、また飛雷神を使って飛ぶ。飛んだ先でそう言った浦原の肩を掴み止めた。

 

「待て、浦原。お前とテッサイさんに四十六室から捕縛命令が出された。四十六室は藍染の支配下だ、行ったら確実に処分されるぞ。」

「……波風さん、何でそんな事を知っているですか。」

「その話も後だ、すぐに処分が下ることはないだろうから時間稼ぎをしていてくれないか。この人達は俺が……そうだな、双極の丘の下に連れて行く。お前とテッサイさんを助けるのは、あと1人の強力な助っ人だ。」

「分かりました、ではまた後で。ああ、そうだ。その話が本当ならボクがこれを持つのは危険でしょう、預かって下さいっス」

そう言って崩玉を渡された。俺の魂魄の一部がこの崩玉の材料にされた訳でも無いのに微妙な気持ちになる。絶対無くさないようにしなければ。藍染に奪われたら一発で終わる。

 

早速、双極の丘の下へと虚化した隊長格連中を連れて飛ぶ。

「なんじゃ、遅かったな。」

「夜一さん!!なんで此処に!!」

「まぁ捕縛命令の出されていないお主なら此処に来るだろうと予想しておったからな。さて儂に言うことはないか?」

「声かけずにすみません、でもこれは成り行きというか何というか……、とそれよりも頼みがあります。」

「何じゃ。詳しく話せ。」

「予想しているとは思いますが、四十六室に呼び出しくらってるお2人を助けに行って貰えませんか?俺はこの人達に結界を張っておきます。お2人が戻ったらすぐに治療に必要そうな物を全て運ぶため隊舎に飛ぶので急ぎでお願いします。」

「誰にものを言っておるのだ、承知した。ではそちらは頼むぞ。」

そう言うや姿を消した、さすが瞬神夜一と謳われるだけある。俺の方も大仕事だ、時間停止をかけ結界を張る。時間停止はテッサイさんが使うのを盗み見て習得した技だ。時空間忍術に関わりそうな事だけは、異常なほど得意な俺だ。使えること自体が問題だが、もう今更である。

 

浦原が戻って来てすぐに指示が出された。先程の義骸、それとの繋がりを補強する薬剤、あとは魂魄の全体的な働きを抑える道具など諸々持ち込むため浦原を連れて隊舎へと飛ぶ。預かっていた崩玉はその時に返した。

そして目的の物を急いでかき集め、また丘の下へと飛んだ。今日の移動距離が多すぎて死ぬほど疲れているのだがそうも言ってられない。そのまま浦原が霊圧遮断型の義骸を作る手伝いをした。

 

「さて、もうそろそろ聞いてもいいっスか?」

「ああ、そうだな。話せる事は全て話そう。」

浦原だけでなく夜一さん、テッサイさんも俺に質問したくて仕方がないようだった。此方を眉を寄せて見つめてくる。

 

「まず、お主は藍染があのような実験に手を出しているのは知っておったのか?それと藍染について知っている事を全て吐け!」

「虚化までは知りませんでしたが、崩玉を作っている事は知っていました。その実験内容もいくつかは。それと化け物みたいな霊圧と他人の五感──いえ、それ以上も支配する能力を持っていることですかね。それで四十六室どころか瀞霊廷の殆どがその支配下にいる事も。」

「何故それを儂らに言わなかった、というのは愚問じゃな。ある意味当然。儂らはいつその能力にかかったのかすら知らんのだから。次だ、何故それを知っている?」

「俺はそれこそあなた達に会う前から藍染を知っていました。ずっと奴を探ってきたのです。現時点で奴の能力の支配下にないと確実に言えるのは俺と……盲目の者だけでしょうね。」

「どこで知ったんスか?接点なんてないでしょうに。」

「更木、でだな。俺は奴が崩玉を作るための材料にされた。その時奪われた物を取り返すため今まで実験を繰り返してきたし、奴の根城に情報を盗みにも行った。」

「そこまで危険な事もしていたんですね……彼が斬魄刀を使ったのを見た者はことごとく支配下に置かれるという事っスね、一応聞きますが解除条件は知ってますか?」

「それを知ってるならとうの昔に教えてる。それと正確に言うと奴の始解を見たらお終いだ。」

 

三人とも釈然としない顔をしている、まあそうだろう。俺は彼らを信用せずに一人でずっと奴と敵対してきたのだから。その後はそれぞれ思う所があるのだろう、無言で目的の義骸を完成させた、とりあえず虚化した連中は一安心だ。全くもって根本的解決には至ってないけどな。

 

それと藍染の斬魄刀の解除条件だが、始解前にそれに触れておく事と原作にはあった。しかしそれもあまり信用していない。能力者本人が言った言葉をそのまま信用するのは危険すぎる、ましてや藍染だ、全く信じられない。確証も無いので何も伝えないことにした。

その後の方針として、俺は十二番隊に残り引き続き藍染の動向を掴み、夜一さんは逃げながら情報収集、あとは俺と浦原達の橋渡し役になってくれると決まった。

浦原達はそのまま現世へと逃げるらしい。自身の崩玉を使って俺の研究を手伝うとも言ってくれた。正直死ぬほど助かります、行き詰まってたんですよ。

 

そして双極の丘の下から解散し、一時的に出入り禁止となっている十二番隊の隊舎へと戻った、相変わらずの不審者スタイルで誰かに見つかったら一発アウトな気がする。そうして没収される前に浦原へと送った方がいい物をさっさと集め、整理していたら背後の扉が開く気配がした。

 

 

 

不味い、まずいまずい!!────この霊圧は!!!

 

 

「こんばんは、こんな所に君がいるとは思わなかったな。」

 

 




しばらく更新停滞します、また一気に投下すると思います。


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