脳筋にはなりたくない   作:スーも

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前話が誤解を招く終わり方だったのでここまで投下します。




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自分の心臓の音が聞こえる、

緊張と死への恐怖から血が沸騰している、

斬魄刀に頼って逃げる、会話を続ける、このまま戦う、選択肢は多数浮かぶが何が最適解なのか───。

驚き答えあぐねているのが伝わったのか、奴はそのまま台詞を続けた。

 

「先日ぶりだね、その後の平子隊長達の調子はどうかな?」

───!!浦原と俺を間違えている!?

まだ俺は机に向かっており、背後に奴がいる状態だ、浦原と同じ霊圧を遮断するコートを着ているので間違えても仕方がない、のかもしれない。

 

逃げの一手を打とうと始解状態にした飛雷神を握りしめ、思い至る。

此処にはまだ浦原の発明品や研究書類の多くが残っている。特にこの霊圧遮断コートを奪われたら最悪だ。ただでさえ周囲の人間の藍染についての情報が全くあてにならないのに、自分の霊圧知覚ですら信用できない物となり、俺の暗躍は此処で終了となる。

まだそのコートの余りや資料が研究室の中にある。そして何より俺自身の魂魄の研究書があるのだ。俺の人間に近い霊圧に興味を持った浦原が、俺専用の義骸を作るため、また死神にしては異質な霊圧の原因について探るため様々な資料が置いてある。

 

───逃げられない、逃げたらもうそこで藍染の崩玉について調べる事が出来なくなる。そして波風をただの技術開発局の局員ではなく、異質な霊圧と魂魄を持つ研究対象として興味を持たれるかもしれない。ひいてはあの時、魂魄を抜かれた時の小汚い野人が俺だと気付いてしまう可能性もある。

 

俺はゆっくりと斬魄刀を構え振り向いた、覚悟は決まった。決して奴の手に渡ってはならない物を回収、もしくは破壊することが俺の勝利条件。その為に藍染を倒せずとも戦う覚悟だ。

先程と異なり、心臓は妙に冷えていた。藍染は月明かりを背に不敵な笑みを浮かべている、どうやら俺が浦原喜助ではない事に気付いたようだ。重く、冷たい、息をするのがきつく感じるほど強い霊圧を発してきた。

 

──これだけは言わせてくれ。勝手に勘違いしたのお前だからな!バーカ!

言わせてくれとか思いながらも実際口には出さなかった、そんな度胸はない、確実に、マジで、1000%殺される。あまりの霊圧のプレッシャーに顔をしかめながらも、藍染の顔をハッキリと見据える、俺は藍染の方と重要な資料がある場所に一斉にクナイを投げた。飛べて3回、今日はもう何度も飛んだので霊力が枯渇している、慎重に行かなければ。

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

螺旋丸を手に作り、一気に距離を詰める。一度当て研究室から藍染を離せば少しの時間を稼げるだろう。俺の勝利は藍染からほんの少しの時間を奪えるか否かという事にかかっている。

 

「縛道の八十一、断空」

「……っは、マジか……」

かなりの霊圧を込めた螺旋丸が完封された。藍染の術の構成スピードは異常に速かった。言霊、というか術名を言い終わる前に既に鬼道による壁ができていた。微かなひびすら入っていない。

せめて斬魄刀で抑えるなり、手で抑えるなりしてくれれば研究室から出て距離を稼げたかもしれないのに。

 

「どうやら君は此処を壊したくないらしい。僕もそれには同意しよう。砕けろ、鏡花水月。」

刀を取り出した時点で腕に仕込んでいた、浦原から貰った薬の針を刺した。始解されることについては極限に警戒していたため何とか間に合ったが、この目のまま暫く戦わねば不審がられるだろう。ただでさえ力の差は歴然なのに、視覚が奪われた。状況は最悪である。

 

そのまま、霊圧の知覚に頼って飛雷神を振り下ろす。藍染の刀で受け止められ、更に気付けば斬られていた。すぐに距離をとって、傷を触り確認した、浅い傷だ。問題ない、まだ戦える。まだ研究室の物を回収するには距離を取れていない。

転移させなければならない物の距離は半径10m程度、優にある、転移させる範囲が広ければ広いほど時間がかかるのでもう少し藍染を離さなければならない。

 

「破道の五十八、闐嵐」

目眩しとして得意な鬼道を放ち、ついでに作った煙玉も放つ。風で煙を巻き上げ視界を0にする。俺が霊圧遮断コートを着ている限り霊圧ではこちらを知覚できないはず、これなら少しは攻撃が届くだろうと藍染の横から斬りかかろうとした。

 

「縛道の七十五、五柱鉄貫」

同時に藍染の放った縛道によって地に伏した状態になった、ビクともしない。縛道の衝撃で斬魄刀は手から離れてしまった。

 

「君は盲目のようだな……残念だ。浦原喜助と関係してなければ、君を助けてあげられたかもしれない。」

藍染は刀で俺の利き腕を刺し、抉るよう少し動かした。くそっ!こいつ絶対今笑ってやがる!

 

「ぐわぁあああああ!!!」

「聞き苦しいな、今に楽にしてあげよう。先の隊長達と同じ状態になれるんだ、光栄に思ってくれてもいいよ。」

視界を戻す中和剤を打ち、藍染を見上げるように仰ぎ見た。その光景が目に入ったことで藍染がしようとしていることを理解してしまった。俺に崩玉を近づけてくる、鈍く光った……

 

「嫌だ!!!やめろ!!!!!」

 

 

 

────

 

 

 

気が付くと俺は日本で住んでいたマンションの目の前に立っていた。今日も空には赤い満月、変化なし、強いて言うなら西の方角に暗雲が立ち込めている。少し待ってみたが、四………飛雷神が現れる気配が無い。暗い雲がある方角の方に向かって歩くことにした。

 

「あれ?神社の鳥居が壊れてる、おかしいな。確かにこの前は俺の現世の記憶と同じ光景のはずだったのに。」

神社の前へとたどり着き、前回との差異に気付いた。此処には近づくなと言われたが、それを言った当本人が出てこないから仕方がない。何があったか確かめる為、そのまま階段を登り本殿へと向かって行った。

 

階段を登っていくと、飛雷神が大鳥居の前で立っているのが見えた。こちらを向いて居ないので、文字は書かかれていないものの白の生地で裾の方に炎が燃えているデザインがなされた、あの派手なコートがよく見えた。そのまま横に立ち、彼の視線の先を見る。

立派な大鳥居にあちこちヒビが入り、現在進行形で増えている。崩壊寸前、という状態であった。

 

「オレの力で抑えるのはもう限界だ。構えて!来るよ!!!」

「えっ?急になんだ、何が来るって???」

 

そういうや否や、鳥居は崩れ落ちた。そう言えば、鳥居は境界。そこに居る神が災いをもたらす神であれば、そこから出てくれるなという願いを込めて作られる結界装置だという話を聞いたことがある。此処は稲荷神社であった、狐は神の使いであると当時に災いを齎す妖である場合もある。

 

「なぁ、猛烈に嫌な予感がするんだが。帰っていい?」

「何を呑気なことを言ってるんだ!君は今、君の天敵と交戦中じゃないか!」

そうだった、俺は藍染と戦闘中であった。此処の記憶に引っ張られて思わず記憶の隅に追いやっていた。

急に現実を認識してきた、ドクンドクンと心臓の鼓動が増していき、嫌な焦燥感もそれと共に大きくなる。

 

「それだったら尚更帰らないと!!!おい!直ぐに帰してくれ!!」

「無理だよ、いいから前を見て」

石段を登りきった場所、壊れた鳥居の前で2人して立ち、本堂を見据える。嵐の前の静けさなのか、シーンとした静寂が神社に広がっている。手水の水の流れる音でさえ聞こえる。

この閑靜と共に一旦深呼吸して落ち着き、藍染に最後に何をされたか思い出した。奴は崩玉を取り出し、居なくなった隊長達と同じ目にしてやると言っていた。

─────虚化だ。

 

 

 

 

「グオオオオオオオ!!!!!」

 

赤い満月、森の真ん中でそれに向かって吠える巨大な狐、その尻尾は九本ある。本堂は木っ端微塵になった。俺は飛雷神に抱えられ、階下へと飛び降りた。

 

 

「四代目が居るからって、こいつまで付いて来なくていいじゃないか………俺写輪眼持ってないのにどうしろと……」

「集中して!知ってるとは思うけど……強いよ」

 

ああ、知ってる。四代目火影がその命をもって封印した、力の塊。その意を通じ合わせる者が居なければ、ただの天災だ。それとそっくりな虚………虚だよな?あいつ、であればそれはそれは強いだろう。

 

「あいつ意思はあるよな?写輪眼で操られてた時みたいに自我がなさそうなんだが。」

「同じような状態だ、崩玉で操られている。勿論、君の敵はこれを完璧に操ることはできていないけどね。今、絶賛交戦中ってところかな!」

「…………速攻でこいつを倒して………倒せるのか?……倒して、現実に戻って藍染から逃げて研究室から色々回収して立ち去る。」

ブツブツとそう呟く。自分で言ってて死にたくなった、いや何が何でも死んでやらないけど。無理すぎるだろう。

どうせなら現実の虚化して絶賛暴走中であろう俺、虚閃でも、この際尾獣玉でもいいから研究室跡形もなく吹き飛ばしといてくれないか。

飛雷神からいい加減にしろという目線を頂いた。ああ、そうするよ。

 

「……現実逃避は此処までだ、力を貸してくれ。」

「ん!もちろんだ!」

「一閃しろ!飛雷神!!」

横にいた四代目の姿をしていた飛雷神は居なくなり、代わりにいつもの刀、というより大きめのクナイを手にしていた。

 

 

 




前話の最後にあった藍染の台詞は彼の色々な気持ちを込めた皮肉です。
「浦原くん四十六室から追われてんのによくノコノコ娑婆に出てきたな?」
「まぁココ元々お前の研究室だけどな。もうお前に所有権ないから。これからは俺が有効活用させて貰いますわ!」
「それと折角逃げのびて此処まできたのに、俺と会うなんて運悪すぎィwドンマイw」
「お前此処にいるってことは平子隊長たちもう手遅れでトドメ刺した?ねぇねぇ今どんな気持ち??」
だいぶ砕けて言うとこれくらいの意味ですかね。浦原喜助ではなく、オリ主に向かって言ってるから肩透かし食らってますけど。

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