脳筋にはなりたくない   作:スーも

18 / 20
昨晩投稿し忘れてたみたいです、ここまで投下しておきます。


18

あの後、瀞霊廷はがらっと空いた隊長や副隊長の席に座る者を決めようと慌ただしい雰囲気であった。何の問題もなく、藍染は隊長となり、他の隊長副隊長も軒並み顔ぶれが変わった。

 

職場で一番顔を合わせることが多くなったのも、隊長になった涅マユリや阿近といったインテリ勢である。

今まで俺は、事務仕事、研究助手、自分の研究、虚退治と雑用係のように何でもやっていたのだが、涅マユリはあの見た目で驚くことなかれ、非常によくできた上司であった。

組織を一新し、事務員と研究員をきちんと分け、効率の良い組織体制を作り上げていった。俺はもっぱら研究員としてラボに籠りきりになった。藍染と顔を合わす機会も減るのでありがたいことである。

 

そうして新体制に慣れてゆき、落ち着いてきたあたりで、浦原達のいる現世へ向かった。俺が数日隊舎に居なくとも、俺は所詮十九席という席次なんてあってないような最低位の物であるし、迷惑は掛からないだろう。

 

「少しは落ち着いたようですね、安心した。虚化を食い止める方法は何か見つかりました?」

「そうっスね。虚化を治す方法は見つかりませんでしたが、それを制御する方法なら見つかりそうっス、今皆さん訓練している所ですよ」

「なるほど。俺もその制御訓練とやらを見物してもいいか?」

「それはボクに聞くことじゃなくて……「波風!こっちに来とるなら挨拶くらいしろやこのハゲ!!」……」

 

純和風の日本家屋の一部屋で浦原と話をしていた所、襖がスパーンと勢いよく開けられた。早速怒鳴り込んできたようである、もちろん飛び蹴り付きで。

その様子を見て、元気でやってるならよかったと親戚の子を見るジジイのような気分になった。

 

「波風サンは先ほど到着したばっかりっスよ、ひよ里サン。話は聞いてました?」

「コイツ下に連れてってボッコボコにして吊し上げとりゃええんやろ!?何やコソコソしよって。ムカつくツラ一回ブッ飛ばしたかったからちょうどええわ!!!」

「……そうっスね!!よろしくお願いします!」

「おいっ、違うだろ!ここは止めるとか、お手柔らかにとか言う所ですよ!?元部下に対してあたり強すぎませんかお二人とも!」

「先に行っといて下さいっス、後からボクも追いかけます」

「無視ですか、俺は強制参加!?」

 

俺の隊の元隊長、元副隊長はこんな時だけ息がぴったりであった。思ってもみない裏切りを受け、何もできないまま襟首をつかまれてずるずると連れていかれてしまった。浦原はいい笑顔でひらひらと手を振っている。

 

 

「着いたで!」

「え、ちょっ、何する気ですか!?待ってください!!」

目的の部屋に着いたらしく、猿柿ひよ里は立ち止まった。今度は正面から襟元をつかまれ、閉まったドアに向かって思いっきり投げられた。俺が当たったその衝撃でドアが開いたようで、無事に中に入れたはいいが最初に目に入ったものは視界いっぱいいっぱいの地面であった。

 

「おう、待っとたで。」

「…平子隊長………」

顔をあげてみると、元隊長、元副隊長が勢揃いしていた。あまり優しいとは言えない視線が飛んでくる、どうやらこちらを値踏みしているようだ。

 

「もう隊長やないわ、アホ。癪なことに今は藍染のハゲが隊長や!シンジでええ」

「では、平子さんと……」

「かーーっ!もうええわ、それで」

 

ひとまず、全員に向かって挨拶をし虚化制御の訓練を見学したい旨を伝えてみたのだが、やはり強制参加になってしまった。俺のことは事前に知らされていたようで、今後のためにも実力を図りたいらしい。

 

 

 

───ガァン

平子真子は何の予告もなく突然斬りかかってきた、それを始解もしない飛雷神で受け止める。

 

「隊長格になる為には、手や足が出るのが早くなければ駄目って決まりでもあるんですか?」

「拳西ーほーらーー言われてるよ?」

「てめえ、真白!!あいつこっちは向いてなかっただろ!!ふざけんな!」

そうだ、六車拳西がどうであるかは知らない。顔的に完全に口より手足がでそうなタイプに見えるが、その実ちょっと優しいヤンキータイプとみた。

 

「それ誰のこと言うてんねん!!コラァ!!!こっち見んなや!!!」

「自覚あったんですね、猿柿元副隊長」

「オマエそんな事言うキャラとちゃうやろ!ゴチャゴチャぬかすんなら後で痛い目見てもらうで!!」

「誰も彼もあのポンコツみたい思ってへんやろうな?違うで、あんなんばっかやったら護廷も終わりや。」

「護廷なんてもう終わってるみたいなもんでしょう、あの眼鏡、護るどころか反逆を企てるような奴にしか見えません。それと、キャラ云々の事ですが、此処ならあの眼鏡のよく見える目は届かないでしょうし、もういいかなと。」

 

そうこうしているうちに段々と戦いは白熱していった。周囲の俺の見る目もそれに伴い少しずつ変化していったように思う。

 

 

 

「思っとったんのとだいぶ違うなァ、波風。そんな荒々しい剣しとったんか、十一番隊の方が似合っとったんかちゃうか?」

「それ、だけは……ごめん、ですね!!」

刀で打ち合いながらそう会話をする、手加減無しで斬ろうとしてくるので此方も取り繕う余裕がない。十一番隊とか絶対に嫌だ、後々更木剣八が入ってくる隊など心の底から遠慮する、今思い返しても奴相手に更木で生き残れたのは奇跡に近かった。

 

キーンと刀と刀が打ち合う音が響く、段々とその音以外にも別の音が混じっており、それが大きくなっていることに気付いた。

 

───グオオオオオオオ!!

遠くから獣の声がする、何故だ、封印していたのではないのか?まだ命の危機と言えるほど追い詰められている訳ではないのに、虚の力が少しずつ近づいて来るような感覚がする。

 

目の前の男はニンマリと笑っている、俺に何かしたのか。

 

「あれェ、今頃気付いたんか。ばれんよう少ーしずつ虚の霊圧出しとんの。もう遅いわ、そろそろ引っ張られる頃や」

目の前の戦いに集中できない、唸り声が少しづつ大きくなっていく。やめろ、アレはこんな所で見せられるものではない。記憶にはないが、あの藍染相手に多少はやり合えた化け物だ。

封印をしてくれているはずの飛雷神は何をしているんだと思い、始解を試みるがうまくいかなかった。こんなことはきちんと斬魄刀から名前を聞いてから初めてで困惑する。

 

「!!なぜ!!」

「スミマセン、夜一サンからあなたの斬魄刀が封印の役目を果たしていると聞いていたので、さっき波風サンがお手洗いに立つ時細工させてもらいました。」

「……浦原……!」

気付けば浦原も部屋に入っていた。アレが表に出てくるのはかなり危険だと分かっているから、とりあえず見学だけさせてもらおうと考えていたのに……もうもたない。意識が遠のいていく感じがする。

「………一つだけ言っておくが俺の虚化は、荒れるぞ。」

 

───ウガアアアアアア!!!!!!!

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

俺は社の目の前に立っていた。中から声が聞こえるので、木でできた扉を開け、そこに入る。こういう神社では御神体として鏡が置かれている場合が多いと思っていたのだが、それは違ったようだ。中心に狐の面が置いてあった。

 

何かに導かれるようにその面を手に取り、顔につけてみる。面を被る際、一瞬遮られた目が再度光を映す頃には、俺は知らない場所に立っていた。周囲を見渡しても一面何も無い、水の上であった。いつから俺はチャクラを使えるようになったのやら。

 

大きな狐がこちらを見つめていた。以前見た時と違い、その瞳には理性の色が宿っている。

 

「やっと来たか。お前は肝心なところでいつも詰めが甘い。」

「お前が俺の中にいる虚だな、思ったより荒れ狂ってはないようで安心した。」

「ワシはお前の魂から生みだされた存在だ。外からいれられた力よりは、まだ協力的だろう。」

「ああそう、それならその力貸してくれるのか?」

獣は唸りをあげた、肌にびりびりと音の衝撃が伝わってくる。

 

「甘いわ!!!ワシも舐められたものだな、このままで力を貸してもらえると本当に思っているのか!笑わせてくれる、頼りないお前を呑み尽くしてワシが表に出てやろう!!」

「ちょっ、待て!!俺、斬魄刀持って無いんだが!?飛雷神どこだよ!!」

 

無視され、早速重たく大きい爪が振り下ろされた、避けるが余波が大きい。水面が揺れ、波のようになっている。

一撃でも食らったら、普通に即死レベルなのだがどこを持って協力的だとほざいてるのだろうかこの化け狐。瞬歩を使って、顔の前まで跳んで、螺旋丸を作ってぶつけてみた。

 

「そんな物が効くと思っているのかァ!?」

ほぼノーダメージである、ただ崩玉によって暴走させられていた時よりはっきり言って強い。前脚で殴られる寸前だったが、体を捻ることで間一髪避けた。

 

「縛道の六十二 百歩欄刊」

動きを封じる棒状の光が降り注ぐ。狐はそれを九つの尾で払った。

 

そして、九尾はその荒々しい霊圧をもって威嚇して来た、この霊圧を纏った状態では触れただけでも重傷を負ってしまう。怖い、死の恐怖から体の芯が冷えたような感じがする。

 

「どうした、そんなものかァ?ならば死ね!!!お前を今此処で殺す事が出来れば全てがワシのモノだ!!!」

 

 

───巫山戯るな、死にたくない。生きたい。俺は帰りたい、死んでたまるか!!!

自分が死ぬくらいなら………相手をどうやってでも殺す。

斬魄刀はない、螺旋丸も効かない。そう、最初に戻っただけだ。力も武器も技術も、初めは何も持たなかった俺は弱さを呪い、強くなろうとあの更木で我武者羅に血を浴びて生き抜いた。

刀が折られたらどうしていたか、矢が無くなったらどうしていたか。

 

決まっている、相手から奪えばいい。

 

「その霊圧を、力を寄越せ!!俺を呑むだと?やめとけ、消化不良を起こすぞ。逆だ、俺が」

 

手先にありったけの霊圧を込める。

以前斬魄刀に風系の破道を使う時の霊圧をイメージし変化させて纏わせたように、雷系の破道を使うイメージで、手先にそれを圧縮する。

 

「喰らってやる」

 

夜一さんの瞬閧は、それを使う時両肩、背中に圧縮した鬼道を纏って戦っていた。それと、ある忍術に構想を得て作った術がある。いつもは圧縮しきれず失敗していたが、今なら行けそうだ。目の前の相手を殺してでも生き残る、その衝動に突き動かされていた。

言うなれば亜種瞬閧だが、この術の名前は……

 

「雷切!」

 

見た目だけなら完璧にそれだ。肉体の一点を超強化する技をこれ以外思いつかなかった。

青白く光りながらバチバチと音を出す左手は、まるで相手の肉を切り割き抉る捕食者の爪ようにも見える。そのまま九尾に突っ込んで、その腹に穴を開けた。

 

 

 

 

「チッ、獣の本能を忘れてはいなかったようだな。それを忘れるな、死にたくないなら殺せ、奪え。お前と共倒れなんぞ我慢ならん。死なない程度には力を貸してやる」

そう言って九尾の狐はその姿を消していく。

 

「これでお前が勝手に暴走することは無いんだな?」

「阿呆か、お前が死んだらワシも死ぬ。お前が弱いならワシはいつでも喰らう気でいるぞ。」

「大丈夫だ、最悪飛雷神使って逃げる。逃げれば死ぬことはない。」

「お前はアレを随分と信用しているようだな。」

「そりゃそうだろう、お前もそうらしいが俺の魂を元に生まれた物なんだろう?しかもあっちは俺に取って代わろうなんてしないしな。」

「だから詰めが甘いと言っておる。浅打や斬魄刀はただの道具だ。お前の純粋な死神の力、それ自体は、一体どこで手にした?」

「尸魂界に来た時に何かに目覚めたのかとでも思っていたが違うのか……?霊圧は人間ぽいって……」

「おめでたい奴だ。お前はあの街に住んでいた時、幽霊を見たことがあったか?霊力なんて持っていたのか。欠けて変化してしまっているが、魂それ自体は生きた人間のそれだからな、霊圧が人間のようと言われるのは当たり前だ。」

「そんなもの感じたこともない。それじゃあ俺は、俺の、この死神の力は譲渡されたものなのか?」

 

 

気付けば社の前に突っ立っていた。九尾は質問に答えることもなく、消えていったようだ。扉の穴から、狐の面は変わらず祀られているのが見えるが、もう扉は開かなくなっていた。声も聞こえない。

 

後ろを振り向くと、飛雷神が立っていた。さらにその後ろに見える筈だった鳥居はもうない。

先程、九尾に言われた言葉が蘇る。少し顔が引きつって警戒の色を浮かべていたのが分かったのだろう、飛雷神は真剣な表情でこう言った。

 

「アレに何を言われたのかは知らないけど、君が………君の心が、魂が、生きたいと願うのならオレは全力で手を貸すよ。何があってもそれを違えることはないから安心して。」

本心からそう言っているように見えた。

 

「ああ、疑心暗鬼になり過ぎていたみたいだ。あなたはいつだって俺の命を救おうとしてくれていた。信じるよ。でももう封印はいい、あの虚は俺が自分自身で制御しなきゃならないものだ。色々とありがとう」

「ん!外はめちゃくちゃだけど頑張ってね!」

「えっ」

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

あの制御訓練を行っていた部屋に意識が戻り、仮面を剥がれ落ちた後周囲を見渡すと屍累々という感じであった。

やはり相当暴れまわってくれたらしい、地面も壁も天井も様々なところが抉れている。

 

「ばんばん虚閃を撃ちおって!アレほんまに虚閃か!?黒いし、色々と桁違いや、とんでもない霊圧しとったしなァ」

「記憶には無いですが……すみません、みなさんにはご迷惑をお掛けしたみたいですね。」

 

かなりボロボロにしてしまったみたいだが、先程より好意的な目線が増えている。認められたようだ、やはり理性なし虚化状態の俺はかなり強いみたいだ。

ちなみに人間っぽい霊圧はバレていない。壊れた後、浦原に霊圧を誤魔化す装置をもう一度作ってもらっていた、伸縮可能で、人間っぽい部分を感じさせないようにするだけの物に改良してもらった。同じ過ちを二度も犯すつもりはない。勘づかれると色々と面倒だ。

 

その後、包帯だらけの体で飲み会が始まった。テッサイさんが外から色々と買って来てくれたらしい。おつまみや食事自体も全部作ってくれたみたいだ、飾り付けまで完璧で普段とのギャップに笑ってしまった。

 

「あれ、それは…?」

「最近現世で流行っているビヤというやつッスよ。」

「ああ、ビールですね。」

「一杯どうっスか?疲れた体に染み入りますよ。」

「……飲みたいのは山々なんですが遠慮しておきます。それを飲むのは、狭くて暑苦しい部屋の中、大して美味しくもない缶に入った安物だと決めているんです。」

「えらく具体的ですね、缶に入ったものは見たことがないっスけど……」

「いずれ作られますよ、たぶん。」

 

現代に戻って、手に持っていたビニール袋に入っているロング缶を開けるまではビールは飲むつもりはない。それがぬるくなってしまっているのか、冷たいままなのか確かめるのも、身体に返ってからのお楽しみだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。