脳筋にはなりたくない   作:スーも

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九尾を何とか抑えることができた事で、俺も虚の霊圧も使えるようになったので、地下の虚化鍛錬場を破壊して回った次の日から早速虚化の訓練に参加した。

俺が虚化すると、社にあった狐の仮面が顔に張り付くように出てくる。そのまま虚の力を使おうと試みるが、冷静な思考を保つことが難しく、どうしても乱暴に剣を振り回してしまった。まだコントロールが完璧ではなく、虚の力に振り回されているみたいだ。

 

飛雷神はというと、虚化モードの状態で始解されるのが嫌なのか、何なのか、始解のクナイの形にはなってくれない。始解前の浅打と同じ形をした斬魄刀に霊圧を纏わせ、目の前の相手に猛攻する。久南白と打ち合っていたのだが、互いに剣が手から離れ次第に何でもありの異種格闘技のようになっていった。

 

「必殺!白パーンチ!」

「……はっ」

 

ふざけた必殺技であるが、名前に反してとんでもない威力である。少しくらっただけで視界がぐらつくほどの衝撃を受けた。

そうして殴り殴られをしているうちに急速に虚の力が遠のいていく感じがした、虚化の持続時間は現時点において遥かに彼女の方が上であった。

 

「いえーい!白の完勝!ってことでここの片付けよろしくね!」

「ハイ」

 

ぐうの音も出ない、口の端についた血を拭いながら立ち上がった。まだ頭がぐらぐらするが、訓練に参加させてもらっている立場で、かつ勝負に負けた手前何も言えない、無言で荒れ放題になっている訓練場を片付け、修復していった。

ふらつきながら仕事をしていた俺を見かねたのか、有昭田鉢玄が手伝ってくれた。彼の力で一瞬で綺麗になったのを横目で見つつ何とも言えない気持ちになってしまったのは秘密だ。

俺にも彼の使った空間回帰の能力は使えないだろうか、色々と便利そうなので有昭田鉢玄に教えてもらおうと話を切り出した。

 

 

 

 

 

「っとこんな感じでしょうか?」

「こんなにあっさり習得されるとこちらとしても形無しになってしまいマス」

「いや、有昭田さんよりも遥かに時間がかかりますし、何より範囲が狭い。これじゃあ使い物になりませんね。コツは掴めたのですが」

「……アナタは回帰という能力と本来馴染むハズなのデスが、何かがそれを阻んでいるようにも感じられマス」

「つまり元に戻す力という事ですよね?それを阻む力があると?」

「イエ、どう表現すればいいのかワタシも悩むところデスが、回帰というよりも原点から変化を嫌うと感じられマス。それが元来あるべき形への回帰という力として使用可能なのかもしれマセン。」

「そうですか、俺も自身の霊圧やら能力やらさっぱり分からないことが多いので大変参考になりました。ありがとうございます。」

「はっきりと言える事が無くてスミマセン。言い訳にもなりませんが、アナタの霊圧は一見、一般的な死神の物に感じられマスがその実非常に捉えにくい。」

「ああ、それについては思い当たる所があります。藍染対策ですので大丈夫です。」

 

そんなこんなで実践では到底使用不可能なしょぼい空間回帰の力を手に入れた。時空間忍術っぽいし使えるかなと期待した通りすんなりと習得できたのまでは良かったが、戻り方が歪だし、原理もよく分からないので無機物に使うことはしても他人や自分相手に使わないことを誓った。

 

有昭田鉢玄の発言を察するに俺本来の霊圧、いや霊圧自体本来的に俺の物ではない可能性を九尾に示唆されたので別の表現がいいかもしれない。俺自身が本来の持つ性質が、原点からの変化を嫌うというのなら、納得できることがいくつかある。

現代社会で生きた俺の記憶が全く薄れる気配がないのも、現代へ帰って身体へと返りたいと願うのもそういう事だろう。そしてそれを阻む力がある。

……俺は一体何を信じて生きていけばいいのか、斬魄刀も虚の力も、自分自身ですら信じられない、疑心暗鬼に陥りそうである。

 

 

 

 

────

 

 

 

 

「藍染は浦原、あんたの崩玉を狙っていますよ、しっかり壊すなり何なり奪われない方法を考えといて下さいね。」

「分かってますよ、もちろん単に破壊するでなく分解する方向に重点をおいて研究するっス。」

「それは助かります。俺はただ、藍染の崩玉の中に奪われたものを取り返したいだけだ、崩玉を分解できる方法が見つかればそれが最善です。」

 

浦原の創造した崩玉を前に、それについての話をした。破壊しろ何のと俺は言ったが、藍染の手に渡ってしまう危険性も考慮した上で、浦原の崩玉が壊されてしまうのは俺にとって困ったことになるだろうと考えた。

 

浦原の崩玉を手に入れようと画策し、朽木ルキア処刑未遂事件を起こした藍染がどう動くか予想できなくなるのだ。それに藍染が全面的に尸魂界と対立してくれないことには、原作の一連の流れが成立しない、それでは黒崎一護が藍染を倒せるほど成長するとは思えない。そして、彼無しで藍染を倒して、崩玉を奪い、安全にそれを研究できるとは考えられない。やはり、浦原の崩玉は原作通り破壊不可能で、朽木ルキアの入っていた義骸に封印するという流れが望ましいだろう。

 

──そもそもその材料となった俺の一部を回収するため破壊したいのは、浦原の崩玉ではなく藍染の崩玉なのだ。浦原の崩玉は藍染のそれを表に引っ張り出す餌として働いてもらう方が都合がいい。

 

透明のガラスでできたようなその物体を見ながら考えていたら、崩玉が一瞬青白く光ったような気がした。しかし、浦原が何の反応も寄越さない所を見ると、月明りの具合で一瞬そう見えただけなのかもしれない。深く考えずに会話を続けた。

 

「では、俺は引き続き技術開発局の一職員として尸魂界で働きます。藍染への注意を怠るつもりは無いですが、積極的に奴から情報を奪う危険を冒すつもりなので、もし俺に何かあったらここに匿ってください」

少し冗談めかしてそう言った。現世と尸魂界を繋げるほど俺の霊圧は高くないので、さすがに飛雷神を使ってここまで一足飛びとはいかない。現世まで地獄蝶なしに来れるルートをいくつか確保しておかなければならなかった。

 

「何かあったら西流魂街まで逃げ切って下さい、現世まで繋がる道ならそこにあるっス。波風サンの能力は逃げることに関して、右に並ぶ者はいないっスからね!楽勝でしょう!」

「確かに物理的な退路なんていらない、でも戦略上のそれは別ですよ。現に逃げられない状況だったので、先日藍染と真っ向からやり合う羽目になったわけですし。」

「はいはい、それを考えるのはボクの役目っスね。……尸魂界関連の情報報告を怠らないようにして下さい、少しでも危険を感じたら逃げてきて結構ですよ、一人でそこまで危険を冒す必要もないッス。対藍染の切り札は今の所アナタだけっスからね、無茶はしないように。」

「了解しました、元隊長。心配せずとも俺の逃げ足だけは一級品らしいのでね。では、また。」

 

浦原から崩玉についての資料をもらい受け、尸魂界へと向かった。また市丸から情報を貰いながら進捗の出ない研究を続けなければならない。藍染は崩玉をそれこそ自分自身以上に丁重に、厳重に保管しているそうなので、何をどう足掻いても盗みとれる気がしない。

実物が無いのにどう研究すればよいのだろう、正直浦原の崩玉とその研究結果だけが頼みの綱である。自分で研究するよりはるかに成果を出してくれそうなので、俺はとにかく情報収集とその報告に徹する方向で行こうかと考え始めた。

 

それにあと一つ俺には重要な研究事項がある、どうやって現代日本へ帰るか、という事だ。大霊書回廊で文献を発掘するくらいしか思い浮かばないが、それを読むにはまた市丸頼みである。自分自身だけでできることは本当に少なく、少しだけへこんでしまった。他人任せの事が多すぎる、せめて藍染と戦って3分もつくらいには強くなろうと決意した。

 

「死神が強くなる方法か、虚化の力の制御はこれからコツコツとやっていくとして、一番強くなるには卍解が手っ取り速いのかもしれないな」

「何をブツブツ言ってるんですか、いや!そんなことよりも聞いてくださいよ!今から十一番隊の隊長に挑みに来た奴と隊長の一騎打ちが始まるそうですよ、見に行きましょう!何でも相手は死神ですらない、更木出身の荒れくれものだそうですよ!」

「……えっ!!?」

「やっぱり波風さんでも興味あります?そんなに驚いているの初めて見ましたよ、ほら、早く!」

「あ、ああ。行きましょう。怖いもの見たさではありますが、興味はあります」

 

強くなろうと考えていた時になんとタイムリ―なことだろう、戦闘力の塊である更木剣八が隊長相手に喧嘩を売りに来たようだ。浦原が隊長だった時から付き合いのある隊員と共に見に行くことにした。

今までの俺なら何かと理由をつけて更木剣八との接触を避けただろうが、強くなろうと考え始めていた時に純粋な戦闘力だけでいうと俺の出会った誰よりも強者であるあのケダモノの戦いだ、何かの参考になるかもしれない。

 

 

 

 

戦闘が始まると同時に決着がついた、あまりの威圧感に誰一人として声を発することができずにいた。圧倒的な強さだ、戦闘狂の気がある者ならみなあの姿に憧れるだろうという男の後ろ姿に俺は恐怖と安堵を感じていた。

以前よくこんなのと戦って逃げ切れたな、という安堵と再び戦う羽目になったら次は死ぬという恐怖だ。その余りにも強すぎる男は鬼厳城隊長から十一番隊の羽織をはぎ取りそれを羽織った。

大歓声である、血の気の多い連中が多い十一番隊の隊員にはこの強すぎる隊長は受け入れられたようだ。他の隊から来た野次馬連中はそれと反対に青ざめている者が多かった。

 

更木剣八本人はと言うと、興冷めした、という顔を隠そうとしていなかった。隊長に挑んだはいいが弱すぎて話にならなかったのであろう、十一番隊の連中に話かけられても面倒臭そうに応対していた。

こんな戦いを見せられたら、卍解なんて目指すのではなく、生き残るために純粋に刀を振り回す更木のあの頃を思い出し、一から鍛え直すのが結局は一番の早道なのではないかと思ってしまう。脳筋になるのは御免だとあれだけ思っていたが、生き残るために必要な物を更木剣八は全て持っていた。戦って戦って、生きるためがむしゃらに野生動物のように生きていたあの頃が一番成長していた事を思い返し、初心に帰って刀を振り回す訓練をすることに決めた。虚化もその中でマスターしていこうと思う。

そうして更木剣八の戦いに魅せられていた俺は、隊員と話終えてこちらに渦中の本人が近づいてくるのに気づくのが遅くなった。

 

「お前、技術開発局って所の局員らしいな。」

胸倉を鷲掴みにされてそう言われた、滅茶苦茶すごんでくる。爽やかさなんて吹き飛ばし、生存本能マックスで警戒してしまいそうになるのをなんとか抑え、俺は震えるふりをしながらこう答えた。

 

「はっはい、おっしゃる通りですが、何か御用でしょうか」

「これじゃあどうにもつまんねえ、隊長ですらこの程度とは話になんねえな。俺の力を抑える道具を作れ、できるよな?」

「涅隊長に話をしておきます」

先ほど話をしていた十一番隊の隊員に何か吹き込まれたのだろう、その隊員の顔は覚えた、余計なことをしやがって。作るとは確約せずに、隊長へと話を通すとうやむやにすることで、本人の望む物が手に入らない場合は涅マユリへ不満が行くよう誘導した。俺のことなど忘れてくれているといい、文句は全部涅マユリへ言ってくれ。

 

 

 

 

 

 


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