原作知識として、大まかなあらすじ、すごくオサレな台詞、必殺技は覚えている。詳細は微妙。
なお使えるか別として黒棺の詠唱は完璧。
慣れちゃいけないのは百も承知だが、だんだんと戦いが日常となることに慣れていった。負傷することも少なくなり、食料が略奪されたり弱くて手に入らないことはなくなった。飢えの心配がなくなったのはいいことだが、治安が最悪な場所である。刀を振り回す日々がしばらく続いた。
期待はしていなかったが、やはり現代日本とは全く違う理でこの世界は成り立っているようだ、髪は伸びるものの、身体が成長することも老いることもなかった。
もちろん、髪は伸びっぱなし、肌は垢だらけ、衛生的な問題で髭だけはどうにか処理しているがきれいに剃れているわけでもない。仕方がないことだが全体的に不潔である。筋肉だけはついたが、そこそこ身綺麗にしていた平成の世を生きた俺の面影は全くない。
食料を調達し、戦って生きるばかりで余裕と言うものが皆無であったため、何年間か文字を読んでいない、さらに言うとまともな会話をすることも稀であった。
このままでは、健康で文化的な生活を享受していた昔の俺とはかけ離れてしまう。多少手遅れな気もするが、文化や平穏を求めて行動範囲を広げることにした。
更木で生活していて分かったことは、他の地区に行くことは想像よりも簡単なことではないということだった。さっさと一番治安のいい地区に逃げたかったのだが、境界線らしきところに薄い透明の壁があった。おそらく結界みたいなものだろう。いい加減活字に触れたいし、美味しいごはんが食べたい俺は、そこで諦める訳もなく、散策を続けた。
完璧に忘れていたが、お腹が減るということは霊力が多少なりともあるということである。力こそパワーみたいな頭の悪い連中としか関わっていなかったのでそんな設定は忘却の彼方であった。
ここは更木、人が消えたり、死んだりなどは日常茶飯事。瀞霊廷から離れているし、死神もほとんど現れない。霊力を持っていて、一人、人気のないところを歩くひょろっとした青年など、人体実験のための材料として恰好の的であった。
────
散策の途中、何かの気配を感じ、身構えたはいいのだがすぐに目の前が急に真っ白になって意識を失った。
歩いていた場所は何もないので人などいないはずだと、完璧に油断していたので気配を察知するのが遅くなったのが原因か、と意識が覚醒してから冷静に考えた。
意識を失ったふりをし、まずは目をつむったまま状況確認をする。紐で後ろ手を拘束さているようだ、身に着けていた刀や、他の武器になりそうなものは全て無くなっている。
動き回る人間の気配が多少離れていることをいいことに、少しずつ目を開ける。周囲は真っ暗だ、腹の減り具合からもだいたい気絶させられて5時間くらいは経っているとみていい。
何のために拘束されたのかは分からないが、周りには自分同様拘束され意識を失った人々が倒れていた。年齢や性別がばらばらだし、身に着けている服や汚れ具合も異なる。
更木の知り合いなんて皆無に近いが、少なくとも自分の住む集落やその周辺集落の人間ではないことは分かった。共通点がある無いようは人達ばかりで何を目的としてここに集められたかが分からなかった。
誰かが近づいてくる気配を察知したので再度目をつむる、ここで昏倒させて逃げる手も考えたが、体がうまく動かないし状況もまだ把握できていない。それに少し距離があるとはいえ、6人くらいの気配を感じたので、様子見を続けることにした。
俺はこの時の選択を今後ずっと後悔し続けることになる。
月明かりも無く暗いのではっきりとは分からなかったのだが、何とか盗み見たところ黒い着物を着ていたように思う。俵担ぎをされ顔が見られないことをいいことに、自分を運ぶ人間をきちんと見る。斬魄刀持ちの死神で確定した、最悪だ。
俺は、両腕を別々に二人の男に抱えられ、地面へと膝をつく形で下ろされた。さらに別の人間が寄ってきて、俺の目の前で立ち止まった。
早く逃げなければならない、逃げなかればならないのにその機会を見失ってしまった。
実験を始めようという声が聞こえる、人体実験の被験者になる気はさらさらない、状況を打開しようと冷静に考えていた時であった、一気に自分の力が吸い取られ、何かが壊れるような感覚を味わった。
反射神経と危機管理能力はこちらに来てずっと鍛えられていたものだ、俺の本能みたいな部分が何が何でも逃げろとバカみたいに警告を発した瞬間、右腕を拘束していた男が佩いていた刀を抜き去って左腕を拘束していた男を叩き切った。
二人を自分の正面に立つ男の壁にし、死角に入って全速力で逃げた。
すぐに山の中に入り、足跡や血痕をわざと残し遠くまで逃げるように見せかけたうえで、気配を完璧に絶って先ほどの人間たちがぎりぎり見える範囲で潜む。瞬歩があるから距離を稼ごうと遠くまで逃げるほうが悪手だと判断した。どうせ追いつかれるのみだ。
何人もいる実験体の一人が逃げたくらいで、それに人員を割くのも非効率的であり、俺が切った男も軽い傷だったのだろう、実験の続行を優先させ追っ手が来る気配はなかった、不幸中の幸いである。
生い茂る草の隙間から実験しているところを覗き見る。
俺が逃げたことで、別の人間が実験体になっていた。
球体に近い石みたいなものを近づけられている。その瞬間背中に嫌な感覚が走った、冷や汗が止まらない、石が少し光っていることで、その石をもつ男の顔がはっきり見えた。
黒縁の眼鏡をかけた優し気な風貌の男である。最悪だ、ラスボスと遭遇してしまった。
……逃げることができたのは、本当に運が良かったとしか思えない。死神から奪った刀、おそらく浅打を持って細心の注意を払いその場を離れることにした。
───
この世界にやってきて、初めての接触がラスボスとか本当に笑えない。美人キャラ多いんだから美人寄越せ。
あばら家へと逃げ帰り、この時ばかりはがたがたと震えた。
確か、浦原喜助が崩玉を創り出す以前に、それにたどり着いていたと藍染は言っていたように記憶している。詳しい時系列は分からないが、今は原作開始よりはるか過去ということになる。
奴と遭遇したことで、ここが俺の識っている尸魂界であるという事が急に現実として迫って来た。
まずい、ここは更木だ。更木剣八が更木地区で暴れまわるのはいつだろう、更木でそこそこ有名になってしまった俺に勝負を挑みに来ないとは考えられない。と言うか、まだ俺に挑みに来ていないだけですでに暴れまわっている可能性の方が高い気がする。原作を見る限り斬魄刀始解なしでほぼ負けなしという正真正銘化け物である、しかも戦闘狂。生存が第一目標の俺にとって戦いたくないランキング3位以内には確実に入ってくる危ないやつだ。
しかし、この地区から脱するにはおそらく死神になるしか方法はない。霊力があるか分からないし、基本的に話の通じない更木の住人にそうそう瀞霊廷のエリート様たちが耳を傾けるとは思えない。そもそも中央とどうやって連絡取っているのだろう、この地区。
ちょうど愛用していた刀を奪われ、おそらく捨てられたところだ。
奪った浅打から何とか名前を聞き出し、死にもの狂いで始解を習得した後、たまに一瞬だけ見かける死神に頼み込むことで瀞霊廷に入ることを目標にしよう。活字と贅沢な食事が本当に恋しい。
正直、死神とまともに戦ったことはもちろん、きちんと見たこともないので、どの程度の実力がいるのかが分からない。少なくとも、俺自身剣の腕だけで死神になれるような化け物ではない、はずだ。
死神になったとしても藍染は平隊員に目もくれないだろう、逃げた実験体だとは気づかないはずだ。ラスボスや更木剣八とは全く関わりを持たず、瀞霊廷に住む小市民として生きていくことが完璧な理想である。
一応、念には念も入れて瀞霊廷に足を踏み入れる暁には大胆イメチェンをする予定である、今の良く言えばワイルド、いやそう言うのはいい無理があるな、単純に小汚い恰好をラスボスは一応目にしているのだ。忘れてくれているとは思うが、絶対に油断や慢心はまずい。やつを実際に見て本能的に思ったことだ。
前門の藍染、後門の更木剣八。さすがに人生辛すぎる。
オリジナル設定として、流魂街の地区の移動は簡単ではないということにしました。特に治安の悪い地区では簡単にそこから荒れくれ者が出ていくでしょうし、より良い場所を求めて1区あたりに人々が難民みたいに押し寄せるのでは?と。それでは土地区画整理の意味なし、少なくとも関所や結界はあるかなーと。