脳筋にはなりたくない   作:スーも

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「だいぶ遅くなりましたが、以前はありがとうございました。藍染相手にあんな即興の芝居で騙せたのか不安は残りますが、あの後何の問題も無く過ごせているのでひとまずそういう事にしておきます」

「なんや、えらく自信なさげやな。安心しいや、波風さんの化けの皮の分厚さは藍染さんとどっこいどっこいだと思うで」

「失敬な、あの眼鏡ほどうさんくさくはないですよ。」

「それこそいい勝負や、謙遜せえへんといてください」

「……こんな生産性の欠片も無い話はやめましょう、それよりも最近の藍染の動向ですが。」

 

大霊書回廊に藍染とその信奉者どもが居ないと市丸ギンに言われたので、早速忍び込んで資料を探りつつくだらない話をする。ポンポンと会話が続くのだが、殆ど毒だらけなので嫌になる。現時点では違うかもしれないが、原作スタート時のうさんくささランキングで言ったらお前がぶっちぎりの一位だぞ、と言いたい気持ちを抑え口を噤んだ。

 

「最近はもっぱら虚相手の研究に精を出しではるな、以前からの続けとった研究が崩玉のおかげでえらい進むようになったみたいやで」

「そうですか、虚の研究ねえ……」

思いつくのは、一体の改造虚だ。確か朽木ルキアが自分の上司を刺し殺さなければならない状況になった原因を作った、気味の悪い見てくれの虚。詳しい話は覚えていないが、破面編でも何らかの形で関与していたように思う。

詳しく聞く必要がありそうなので、資料を見せてもらおうと頼んだ。

 

「研究対象の虚関係の資料はここにはあらへんで。纏まったらまた渡しますわ。」

「ありがとうございます。一例だけでもいいので、話を聞きたいのですが、何か特殊な能力を持つ虚だったりしたんでしょうか?」

「そうや。前は戦った相手の力を乗っ取るとか何とかで変わった力を持つ虚を捕まえて研究してはったなぁ……数が膨大すぎて詳しくは思い出せへんわ、そっちはボクもあんま関わってないからはっきりした事は言われへん。」

「無理を言ってすみません、またその件に関しては日を改めて聞く事にします。……それと一方的に世話になりっぱなしなので、いい加減心苦しいといいますか……頼みがあればできる限り聞こうと考えていますが、何かありますか?」

「…………今のとこ思いつかへんわ。それよか崩玉の中のもんの取り出し方、頼むで。」

「一瞬言い淀んだ様に見受けられましたけど、良いんですか?顔に似合わず恋愛関係の悩みだったりします?」

いつも以上に笑みを前面に出し、少し茶化す気持ちで言った。一瞬開けた口の形は俺の想像する人の名を音にしようとしたと見て正解だろう。

 

「そんなんじゃあらへん。それに波風さんには貸し作っといた方が後で役に立ちそうや。」

なんとなく怒気を感じるものの、何の表情も変えずにそう返してきた。特に動揺も見られない。

しかし、彼の心中を勝手に想像してまた俺は、ここまで世話になっているのだから松本乱菊にこっそりと気を配るくらいはしようと思った。市丸なんて関係なくともあの美貌と胸だ、嫌でも見かけたら目が向かうだろう。

 

「貸しをちゃんと返すような男に見えたのなら重畳です。」

「甘いわあ、そうやって皮肉混じりに警告してくる時点で甘いで。その甘さのせいで余計なもん考えとるから色々と失敗するんちゃう?」

「あなたが俺の事をどう考えてようが構わないのですが、とにかく他の情報があればよろしくお願いします。俺の方も崩玉の研究に関しては努力を重ねますので。」

俺が市丸の事情を少しとは言え探ってしまった事に腹を立てていたのかもしれない、市丸は普段は踏み込んでこないような事まで言及してきた。お互いに何かしらの事情があってそれに踏み込まないのは暗黙のルールだった。訳ありの人間は訳ありの事情に深く突っ込まず、利用できる部分を利用するだけするものだ。

 

それにしても嫌なことを言ってくれるものだ。自分がどこか甘さが抜けきってないのは重々承知している、元が平和な社会でのうのうと生きてただけの現代人なのだ。目の前で自分と仲良くしてくれていた人が死にかけていたら自分は手を出さずにいられないのだろう、きっとこれからもずっと。

いくら数年の更木生活と四楓院家の扱きに耐えたからといって、そう簡単に根っこが変わる訳も無い。俺の場合は尚更だ、「ただの日本人大学生」という確固たるアイデンティティをこれっぽっちも変える気は無いし、変える事はできない。

 

 

 

─────

 

 

 

重りをつけて木刀を振るいながら考え事をする、誰かと打ち合うのが1番いいのは分かっているのだが、その場合化けの皮が剥がれる。更木版波風の降臨である、良くて周囲のドン引き、悪くて十一番隊移籍である。

 

俺は今まで周囲の自分より強い相手と戦う事で強さを学んできた。経験に勝るものなしと言うし、俺が少なからずその強さに目を奪われた更木剣八はそうやって強くなったのだろう。しかし俺はヤツほど戦闘の天才ではない、凡人に必要な基礎訓練を今まで怠ってきたのではないか、と今更気付かされた。

死神の強さを決定付けるのは霊圧の高さみたいな事をヨン様が言っていたような気がする、自身の霊圧がそこまで飛び抜けて高くない事は知っているがそれを地道に伸ばすべく現世の元隊長格連中に相談した。

 

彼らはそれぞれ思い思いのことを言うのでさっぱり参考にならなかったが、結局負荷をかけて訓練をすればいいのではないか、という形に落ち着いた。

そして、某ゲジマユ全身タイツ君の如く全身に重りをつけて術や体術訓練を行なう。

重りは浦原が作ってくれた特別性で使用者の霊圧を食うらしい、これをつけたまま鬼道を使うと、術の精度や威力が格段に落ちる。螺旋丸などは特に顕著だった、サイズが通常時の一割程度になるのだ。

 

そして後一つ、必ずやらなければならない投擲の訓練だ。小さめのクナイに飛雷神でマーキングをする、その後いくつか用意した的の真ん中に当たるように投げ続ける。6本を同時に別々の的に投げ、その後飛雷神を使いその全ての的のクナイを回収するという事を繰り返した。

飛雷神の発動スピードを上げる事と、飛ぶ場所をより正確に把握しコントロールする事が目的だ。

こちらは完璧に忍者っぽい修行法だった。ついでに足だけで木登りとか水面歩行とかを挑戦してみたがまぁ当たり前だがうまくいかない。大人しく投擲と術の精度を鍛え続けた。

それと同時に、虚化した時のようなパワーも相手にダメージを入れたいなら必要なので、筋トレや刀を振り回すなど更木剣八の強さに近づけるような強さも追求していった。

 

特に話す相手もおらず黙々と1人でする修行は何とも虚しいものだった。飛雷神は具象化などしてくれないし、禅の状態で任意で会話ができる訳ではない。九尾はもっと対話の仕方が分からない。

気まぐれに様子を見に来る黒猫と戯れる事くらいが俺の楽しみであった。

 

「お主、未だ己の斬魄刀を十全に扱えておらんようじゃのう。面倒を見てやってた時から思ってあったが、色々と残念な奴じゃ。」

「本当に俺の斬魄刀なんですかね……言う事さっぱり聞いてくれないし。まぁ命を救われてばかりなので感謝はしていますが。」

「………波風、お主は色々と考えすぎじゃ。往々にして物事とは意外と単純な物だぞ。お主の刀はお主を死なせたくないと考えてくれておる、命を預けるにはそれで十分じゃろう。」

「それに関しては何も心配していません。幸いにも俺は、俺が死なないように助けてくれる仲間たちには恵まれたようだ。」

「分かったのなら良い、久方ぶりに組手でもしようではないか!お主も1人での修行に飽きておったようだしの!」

 

黒猫はこちらを見ながら微笑んだような気がしたが、俺はそこまで猫の表情識別能力に長けている訳ではない。恵まれた仲間というのに目の前の黒猫も含まれる事はしっかりと伝わったようだ。少し照れくさくなってそっぽを向いていたら、顔面に人の拳が飛んできた。

俺は咄嗟のことでそれを避けきれず見事に意識を飛ばした。最後に見たのは褐色の綺麗な脚だけだった、無念である。

 

「………夜一さん服着たんですね………。」

「何じゃその声は、残念に思うかほっとするかどっちかにせい。喜助なら難なく避けて、何も言わず組手を続行しておる所じゃぞ。」

「あんな助兵衛全開野郎と一緒にしないでくれますか……これが一般的な男の反応です。それに俺はいい気分に浸ってたんです、いきなり拳が飛んでくるとは普通思わないじゃないですか。」

目を開けると見慣れた格好の夜一さんがこちらを覗き込む形で立っていた。俺はあとちょっとだったのにという気持ちと、今まで金銭面生活面諸々お世話になっていて頭が上がらない馴染みの美女のフルオープンを見るのは少し気が引ける、いややっぱそこは見るだろという葛藤でいっぱいだった。

服を着てくれたので目を泳がす必要もなく、逆に見上げる形で素晴らしい眺めを堪能できたので良しとする。

 

 

 




やっとできた波風の休憩回みたいなもの、次からまた新しい話に移ります。

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