脳筋にはなりたくない   作:スーも

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なぜ藍染と目の前で対峙するまで逃げなかったんだ、数時間前の自分を殴り殺したくなる衝動でいっぱいだった。その怒りと恐怖を込めたまま浅打をブンブンと振るう。

 

藍染に実験体として使われそうになったことから、それまで以上に命を削って強くなろうと様々な手段模索し始めた。木や虫を切ったり、素振りを続けたり、実際に戦った時を思い出しシュミレーションしたりと思いつく限りのことは行った。

 

実は、霊力を持つ人間というのは流魂街においてそう多くはない。ソウル・ソサエティで暮らしていて分かったことだが、食料を必要としている人間たちはあまりいない。死神になってしまえばみな霊力持ちなので関係ないが、俺を捕まえた付近の更木の集落なんて限られている、さらに大食いで狩猟を行っている人間なんてここらでは俺くらいである。

隊長格を放置してたくらいだし、逃げた実験体のことなど捨て置いてくれているとは思うが、変な疑いをかけられたりする前にさっさとここから脱出するに限る。

 

それにしても農耕や牧畜といった仕事をする必要もなく、飢えて食料を略奪しなければならないという状況に陥ることは、ほぼないだろうになぜこんなにも治安が悪いのか謎である。

集落のチンピラを倒したことで、他の集落の連中から恨みを晴らすよう襲われたので組織的な抗争があるのは確かではあるだろうが、何年もここに居るのに何も知らないのだなと自分の世界の狭さに悲しくなった。

 

試しに刃禅?というものをやってみたのだが、周囲が気にかかりすぎてゆっくりと刀にのみ集中することは不可能だった。瞑想し、目の前のことに集中すると言えば聞こえはいいが、それはつまり視野を狭くすることを意味する。

 

野生動物はまだいいが、死神や更木の強い人殺し連中がやってきた場合、一歩遅れるということだ。すなわち、即、死である。

それを考えると今までよく生きてたな、現世だったらアマゾンの奥地だろうとサバンナだろうと戦場のど真中だろうと、どこに放り出されても生き抜く自信がある。あ、シベリアは無理だ、凍死だけは勘弁願いたい。

そんなこんなで刃禅は諦めて、修行して、狩猟して、襲撃されては殺さないように片手間で撃退し、あるいは四肢の一つをきれいにへし折るくらいに収めていた。

 

型なんて知らないし、生き残るための剣術だが、力を受け流すことを意識し重点を置きつつ、経験を積んでいった。

スピードや気配を消すという面では、自信を持てるのだが、パワーという面においてはいまだ勝てないやつらもいる。しかし、間合いを読み相手の呼吸に合わせ、攻撃を避け、そのまま相手の攻撃の力の流れを利用するという戦法で、誰が来ようと、誰に喧嘩を吹っ掛けられようと手加減できる程度には刀を扱う技術みたいなものを身につけていった。

 

このまま順当に経験を積んでいけば、始解までたどり着けるかもしれないといつも通り集落から外れた林の中で刀を振っている時だった。

突如、森の空気が変わった、何かが来ると感じ腰を落とし、刀を構える。

瞬間、刃物と刃物がぶつかりあう音が聞こえた、反射的に頭上へと刀を振りかぶったと認識する間もなく次の一撃が迫る、何とか横に転がることで避け距離を取りつつ突然攻撃してきた男を見据える。

 

「ずいぶんな挨拶だな、まずは口で言うべきでは?」

俺は男に対して言った。容姿や風貌ではなく、醸し出す気配から目を離せない。目の前の男と比べれば、まだ野生動物の方が高尚な気配を醸し出しているだろう。ただただ争いを、血を求めるケダモノみたいな男である。

ん…?待てよ……?嫌な予感はよく当たるものだ、頼む、外れてくれと思いながら名を問う。

 

「…名を名乗れ」

ついつい虚勢を張ってしまう、相手より自分が弱いと本能的に分かっているのだ、言葉くらい強くありたい。そうでなければ精神が保てないのだ。藍染様の名言に真っ向から反対するスタイルである、まあどちらかと言うと、長年の更木生活でだいぶ口が悪くなってしまった方が原因としては大きいが。

 

「名だぁ?そんなもんねえよ、無駄口はいい、さっさと殺し合いを始めようぜ!」

話が終わる前に切りかかってくる戦闘狂の鑑である、左目の傷、この強さ、態度、のちの更木剣八確定である、幼女の方のやちるパイセンが見えないのでまだ会えていないようだ。

 

恐怖で呼吸が荒くなる、汗も止まらない、瞬き一つ油断していたら、眼を閉じている瞬間に狩られる。

本気で逃げ出したいがおそらくこいつは原作開始時の瀞霊廷に居た時期よりもはるかに手に負えない化け物だ。背を向けた瞬間やられる、対峙した瞬間今まで生きてきた中で最も自らの死を明確にイメージさせられた。

 

「くそ…っ!なんていう力だよ!」

一撃一撃が重い、正直一発でも直撃したらまずい、この場をしのいで逃げ切るための余力を残せる気がしない。

受け流すにしたって、限界がある。避けきれず真正面で受け止めるが、ギギギギと錆ついた歯車を無理に回そうとするような音がする、刃物どうしでぶつかってなる音ではない。

 

目の前の野人は本当に力と戦闘センスと本能の塊みたいなやつだ。

俺自身もここで生きていく上で、仕方なく似たような戦闘スタイルで最近まで生き抜いてきたが、どう考えても向こうが上位互換。

このままではじり貧である、まずは俺の良く知るフィールドまで誘導し、野生動物やチンピラ相手の罠を利用しつつ打開策を考えないといけない。

 

色々と思考を巡らせていたせいか、動きがほんの少し鈍ったようだ。簡単に吹っ飛ばされ、木に打ち付けられる。口から血が滲んでくる、肋骨がやられたかもしれない。誘導なんてろくにしたことも無いのにできるわけがなかった、もう考えるのはやめだ。

並列で考えて体を動かすのはそういう訓練をしてからだ、今はただ鍛えられた野生の勘に任せて戦う。

すぐにやつが迫って来る刀を、浅打を持つ右手で受け流し、左手で顎を狙うふりをしつつ蹴り飛ばす、やっとまともに一回入った。

 

「ははははは!面白え!!おらァ!もっと来いよ、攻撃仕掛けて来ねえとどうせ死ぬだけだぜ!!」

超笑顔である、結構いい感じに決まったはずなのにダメージを受けたように思えない。俺は攻撃を受けないことを第一に動くタイプなので、やつが俺を傷つけることは少々面倒程度で済むが、俺がやつを傷つけるのは到底無理だ、固すぎる。

 

確か、霊圧の高い死神にダメージ食らわせるには、多少なりとも霊圧を込めて攻撃するしかないとかいう設定があったようなかったような。

そうだとしたら、かなりまずい、霊圧の使用法なんてこれっぽちも分からない、ついでに言うとそんな力を感じられたことがない。

試しにこっそり覚えていた六十三番の破道雷吼炮を唱えてみたのだが全く何も起きなかった、その後恥ずかしいやらなんやらで床に転がっただけである。

 

更木剣八が猛攻し、それをなんとかさばいて、たまにカウンターを入れる。基本防戦一方で、そらしきれなかった攻撃をちょくちょく受けており、現状打破のためには逃げるしかないと頭では分かっているのだが、俺の勘が背を向けたら死ぬぞと警告を鳴らす。

 

一体どうすればいいんだと思ったその時だった、やつの体勢をほんの少しだけ崩すことに成功した。ここぞとばかり懐に入り首を狙ったが、やつは笑みを深くした。

 

まずい、罠だ、カウンターを食らうのは俺の方だ。切れ味の悪そうな刃が俺の首へと触れそうな瞬間、それでも生き延びる方法や手段を考えた。死にたくない。

 

カッと真っ白い光が見えた。

その瞬間、住んでいるあばら家すぐ裏の修行場代わりにしている竹林の景色が見え、地上約3M付近の空中に頭を下にした状態で移動していた。

頭を打つことだけは回避したが満身創痍であり、ずるずると地面に座り込んだ。

気がついたら、持っていた浅打は三又に分かれた小刀に変化し、さらにまた右手に身に覚えのない紙の切れ端を持っていた。

『N.B. HIRAISINN -斬魄刀飛雷神』、無機質な紙にそう書いてある。

 

え?俺のわくわく内面世界は?斬魄刀の声を聴いて、名を呼ぶことで真の相棒を手に入れ、強くなるっていう熱い過程はすっ飛ばされた?話し相手ができるかもしれないと柄にもなく楽しみにしていたのに、この気持ちをどうすればいいのだろう。

 

あのケダモノから逃げ切れたのは良かったが安堵より困惑の方が大きい。やつからすれば目の前で獲物に逃げられたのだ、また会ったら問答無用で殺しにかかってきそうである、無論そんな機会を永久に作る気はない。

 

 

 

深呼吸し、気持ちを落ち着けて現状を整理することにした。光が見えた瞬間、普段物を切る練習をしている竹林に一瞬で移動したということは、瞬間移動や空間操作とかの能力だろう。

自分の斬魄刀と紙の切れ端を再度見る。嫌に見覚えのあるフォルムと名前である。

 

……もしかしなくてもNARUTOの四代目火影様、略して四様の飛雷神の術、これはクナイ?

しばし呆然として、その後小踊りしそうな気分になる。生き残るためのこれ以上ない強能力の斬魄刀ではないか。何が何でも使いこなしてみせる、がぜん鍛錬のやる気が湧いてきた。

 

戦闘後は嫌に頭が回ってしまう、気付きたくもないことに気付いてしまった。動体視力や敏捷性は高く、気配察知や隠蔽は得意だが、そこまで力が強くならなかった。忍者的な身体スペックなのかもしれない、そうだとしたら修行方法を明らかに間違えている、本能に任せ刀を振り回し、斬って斬って斬りまくっていたこの数年間の脳筋修行はかなり無駄だった可能性が高い、悲しすぎる。

 

最近始めた相手の動きを読んで、力を利用するような闘い方を最初からやっておけばよかった、嫌に習得早いなと感じていたのだ、忍者っぽいですね分かります。気分がジェットコースターの下りの時のように沈んでいく、他に何か今回のことで考えられる点はないか…

 

卍解、はまだまだ先のことではあろうがこの斬魄刀の本体は四様な気がしてならない。今回は声も姿も見ないまま、なぜか始解できてしまったが、いつか必ず自分の内面世界へのダイブと具象化を成功させてやる。

紙によるネタバレという最悪な形での相棒との始まりをいつか必ず消し去ってやるろうと、再度やる気を取り戻してきた。

 

この世界に来てからかつてないほど確固とした決意を胸に、死神となるべく明日にでもあばら家から出て、瀞霊廷関係者を探すことにした。もちろん、更木剣八とエンカウントしないよう注意を払うのが大前提にあるが。

 

よしっ!と勢いをつけて立ち上がろうとする。

…明日出立は無理だ、ダメージの蓄積がひどくて体が動かない。人の気配も近いし周辺に罠を張ってある、悪人も野生の生き物もここまでは来ないだろう、もう地面でいい、精根尽き果てそのまま倒れるように眠った。

 

 

 

 

 




本物の脳筋狂戦士に勝てる訳がない、所詮似非脳筋。しかしこの戦い方、実は向いてない。
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