脳筋にはなりたくない   作:スーも

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夜一さんは御当主で隊長で隠密機動長官なのでかなり多忙のようで、最初に挨拶した以来あまり会えていない。俺の修行を見てくれているのはもっぱら浦原と浦原に紹介され仲良くなったテッサイさんであった。

もちろん彼らも常日頃暇なわけではないので、俺は一人でいる時の方が多い。座学などは自分で勉強している、当たり前だが現世で培ってきた知識は全く役に立たなかった。

 

座学はとても苦労した、まず文字が非常に読みにくい。平安時代のくずし字レベルに読みにくい訳ではないが使ってある漢字が異なれば、現代とは異なる意味で使用されている単語もたまにある。しかし、待ち望んでいた文字とのふれ合いで舞い上がっていた俺は、全力で本という本を読んだ。知識は生きる上で身を護る武器になる、ペンは剣より強し、脳筋戦法が出てしまう今の俺がそれを言っても皮肉にもならないが。

 

そして、現代とは全く異なる常識や理論を一から勉強しなければならなかったのでそもそも意味が分からない部分が多々あった。興味があることにはとことん没頭するタイプの俺は霊子についての文献や空間移動の文献を浦原が置いていった荷物の中から引っ張りだし、熱中して読み込んだ。聞いたら文献なら勝手に見ていいと言われたし、借り物ではあるが俺の部屋を使わせてやっているんだ、有効活用するに越したことはない。

 

「浦原さん、ここの部分が分からないんですが」

「これ読んだんですか、逆にここ以外理解できたんスか?これは霊子が物質の構造を決定し形作る際…」

浦原にも聞き込み、いろいろと教えてもらったり議論をすることで意気投合した。

やれることは少ないが、いまや実験の助手みたいなこともしている。俺は没頭した一分野をちょっとかじったくらいだが、浦原はあらゆる分野に精通していた、発想力、分析力どれをとっても超一流であった。その頭脳には心の底から尊敬する。

こんな鬼才に長寿という金棒を与えたことで、原作のように凄すぎて最早どこが凄いか分からないという、とんでもない発明道具がポンポンと出てきたのだろう。

 

真央霊術院の入試は座学があるものの、基本的に霊力の有無で合否が決まる。座学や剣術などは入って身に着けるものだからだ。それにそうでなければ、流魂街の貧民層が門を叩けるわけがない。このまま文字の練習さえ続ければ座学は余裕で合格できるだろう、問題は霊圧である。

 

 

浦原から最初に霊圧の使い方を教えてもらってしばらくたったあと、俺の霊圧は生粋の死神のものと比べると、ずっと人間のものに近い、そう伝えられた。

原作の一護は一応人間であったし、それが混じっていてもおかしくはなかったのだろうが、一般的な死神と比べると不自然であるらしい。

そこで、俺の霊圧にも興味があるので、危険なことは「あまり」しないので実験体として協力してくれれば、霊圧を誤魔化す道具を作ってくれると浦原は言ってくれた。

恐ろしい気もするが、背に腹は代えられない。被験者としても協力することになった。

 

この世界において俺は異物なので、多少の差異が出るのは仕方がないのかもしれない、しかしそれで面倒ごとを(こうむ)るのは嫌だ。

霊圧に蓋をしている状態であれば、完璧に隠蔽できていたらしい、以前のように気配を隠せといったのはそれが原因だったと言われた。蓋を取り、俺が自分の意思で霊圧を使った瞬間違和感を覚えたらしいので、今のところそれを知っているのは修行に付き合っている浦原とテッサイさん、夜一さんだけだ。

 

 

 

───

 

 

 

霊圧をコントロールできるようになったはいいものの、斬魄刀はうんともすんとも反応してくれない。刃禅とやらも組んでみたのだが、心を落ち着け瞑想してみても何も起きなかった。

 

「あーーもう何だ!何がそんなに不満なんだ飛雷神!」

 

瞑想に飽きて、両手を万歳し立ち上がった状態で叫んでしまった。自分一人しかいないと思っていたのに前にテッサイさんが立っていた。危ない、更木だと死んでたぞ。…ではなくて。

 

「あ、テッサイさん…いや、これはですね、むしゃくしゃしてしまったと言いますか…」

明らかにキャラじゃない行動と発言であった。むしゃくしゃしてやりましたじゃ取り繕えていない。テッサイさんは優しく笑ってくれた、なんだこれすごく恥ずかしいぞ。

 

「波風殿が一人で修行をと聞きましてな、様子を見に来たところです」

「見ておられたなら理解いただけたと思いますが、ちょうど斬魄刀との対話に失敗して諦めてたところです。修業、見ていただけますか?」

「それはまた後程他のお二人に聞いた方がよろしいでしょうな。では、鬼道の練習に入りますか。」

 

先日、霊圧の蓋を開けコントロールは会得した。霊力の取り扱いは得意だったようで、すんなりとできている。テッサイさんは俺に教えたってなんの利益もないだろうにこうやって鬼道を教えてくれる。浦原とまともに仲良くしている人は少ないのに、よくつるんでいる俺に興味を持ったようだ。

未来の大鬼道長や隊長に教えてもらっているのに、学院に入る意味があるのかという感じである。能力や霊圧が特殊なせいでこのように色々と叩き込まれることになっているのであるが。

 

君臨者よ!血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ!焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ──破道の三十一 赤火砲

 

声高らかに唱える、が……何も起きない。

 

「やはり、赤火砲は駄目でしたか」

「教えていただいているのにふがいないばかりです。」

詠唱破棄なんてオサレな真似はせずに、ちゃんと霊力をのせて術を発動したというのにできなかった。

 

「五十番代の闐嵐や縛道は得意でいらっしゃるのに、人には得手不得手がありますのでな。そう気を落としなさいますな」

「はい、でもこれでは霊術学院に入ったところで卒業できるか不安です」

「学院に入られるのですか?波風殿の実力であそこに入られても学ぶことは少ないと思いますぞ。護廷十三隊や鬼道衆、隠密機動は受かる人数は少ないながら試験を直接受ける制度があるのでそちらを受けられてはどうか。すでに斬魄刀をお持ちになっているのでは、学院に入ったところで余計目立つだけでしょう。」

「そんなものがあるのですか…そうですね、考慮してみます。」

 

学院に入らなければ何も始まらないと思っていたが違ったようだ。確かに死神になれと生まれてすぐから鍛えられるであろう四大貴族などがわざわざ学院に入っても学ぶものがあるとは思えないな、他に道はあったのか。大学受験に高校卒業が必須要件ではなく、高卒程度資格があればいいのと同じだろう。

 

入らなくていいなら入りたくない。俺の見た目は20前後程度である、中身年齢が上だとしても学校という緊密で閉鎖的なコミュニティに混ざっていく自信がない。浮く。

 

それに俺は鬼道が不得意だ、卒業できなかったら最悪である、夜一さんに大迷惑だ。

いや不得意というには語弊があるな。鬼道は番号が大きくなればなるほど発動が難しく、困難になっていくらしいのだが、俺はどんなに番号が小さかろうと発動できない、もしくは失敗する鬼道がある。

逆に、番号が大きくとも相性がよければ、少し練習すれば簡単に習得できた。

 

そう、炎や土が発生するような術は全て失敗するのである。

逆に風や雷を使うものは非常に得意であった。そして、縛道、ある種の簡易的な封印術みたいなものもとんとん拍子に習得していった。

テッサイさんも言ってくれたが、人には得手不得手がある。俺の場合は─大事なことなので2回言うが、たまたま、偶然にも、赤火砲や蒼火墜などができなかっただけだ。

 

……明日から、水風船を大量に準備しよう。霊力を圧縮し、中で回転させ水風船を割る練習も追加だ。きっとうまくいくだろう。

 

 

 

────

 

 

 

「そっちに置いてある義骸持ってきてくださいー」

「了解。本当に精巧にできているな、少し気味が悪いくらいです」

浦原とは気の置けない友人くらいの関係になった。あちらも遠慮なく俺を実験体にしたり、おちょくったりしてくる。痛い目にあいその不満が募って、文句をいう時に一度ほぼ敬語が消えうせてしまった。その後から諦めて敬語とため語のまじりあいみたいな口調になっている。むかつきすぎていつか完璧に敬語が飛んでいきそうである。

 

「あ、そこ置いといていいっスよ。仕方ないですよ、仮の肉体ですもん、違和感持ちたくないでしょ。」

「それはそうですけどね」

「んじゃ、さっそくそれに入ってくださいっス」

 

義骸に入ろうとする、しかし入れずはじかれる。何回目かの失敗だ。

 

「あーやっぱりそうなりましたか、義骸の感想を求めるべく実験体になってもらっているのに義骸に入れないだなんて思いませんでしたよ、かなり改良加えたし今回こそはうまくいくと思ったのになァ」

「そこは素直に申し訳ない、何か原因は分かりました?」

「それが分かってれば苦労はしないっスよ、霊圧が特殊なせいだからと思って合うように改良を加えたのに。」

「そうですか、まあ原因は俺の方にあるみたいだし、自分でも考えてみるよ。ちなみに義骸って霊子でできた仮の肉ですよね、現世に行くときとかに使う」

「そうっすよ、死神が霊力を極端に消耗したとき、それを回復するときにも使うっス」

「それなら虚や人間とかには使えないんですよね」

仮面の軍勢連中が入れるような義骸がすでにあるのか聞いてみた。無ければないで作る方向性に話を持っていけばいい、備えあれば憂いなしだ。

 

「虚は分かりません、今度試してみましょう。人間に関してですが、生きてる人間は使えませんよ。自分の肉体がありますし、それと鎖でつながれてますから他とはうまく馴染まないっス。現世の死者の霊は、義骸に入れたら大問題ですね、記憶置換装置大活躍っス。まあ人間用も作ろうと思えばその個体専用で拒絶反応が無いよう作れるとは思いますが意味がない」

さすが浦原、分からないことがあるなら実験して解明しようの科学者精神がこびりついてる。

 

「そこまで言い切るなんてさすがですね」

「まああり得ないっすけど、波風サン元現世の人間だったんでしょ?肉体が生きてたりして。……冗談ですよ、きちんと入れる物を完成させます、これは研究者としての意地っッス。なので安心してください、なんではじかれるんだか……ちょっと波風サン、聞いてます?」

 

 

────は?肉体が生きている?

 

どうせ不可能だ、今まで考えないようにしてきた、考えても辛いだけだから。

俺は………帰れるのか?

 

 

 




真央霊術院は鬼道衆や隠密機動にも輩出している程度の設定でしたので、他に入る道はあるかと。護廷に関しては更木剣八の例がかなり特殊ながらありますし、学院卒業は必須ではないのかなと予想。

次はやっと斬魄刀の出番だよ!お待たせしました。

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