脳筋にはなりたくない   作:スーも

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やっとこさ本番開始だ!
異能力バトルの始まりだ!




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浦原の一言を受けて、ずっと深く考えないようにしてきた最初にここへ来た時のことについて考えなおす。

虚に襲われはしたが、死んだとは今まで一度も考えることができなかった。しかしここにいることは死んだということなのだろうと状況的に理性が判断した、実感がわかず、受け入れることなるのも怖くて、自身のことなのに直視して来なかった、その時の記憶から逃げ続けていたのだ。そう、あの夜のことをもう一度考え直さなければいけない。

 

もし浦原の言うことが可能性としてあり得るのなら、俺は本来自分の在るべき場所に帰れるのかもしれない。こちらに来るさい何があった、帰る手段は存在するのか?

疑問は尽きないが、とにかく浦原を師事しより精力的に学ぶとしよう、彼は現世と尸魂界、虚圏といった違う世界を繋ぐ門を作った天才だ。何かつかめるかもしれない。

 

布団の中でつらつらと考え事をしていた俺だが、いつの間にか意識を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、現代で住んでいたマンションの前に立っていた。裏には小さな山があってそこに神社があり、大型ショッピングモールも近い、通っていた大学まで徒歩10分というなかなかいい立地の場所だ。周囲は住宅地で、民家の明かりはついているのに、人の気配が全くしない。

 

周囲をぼーっと見渡していたら、誰かが歩いてくる音がして振り返る。

 

「こんばんは」

「こんばんは」

「今日は珍しく空が見えるね、ちょうどいい。少し歩こう。」

 

男はそう言って歩き出した。俺もそれについていく、普段じゃあり得ない行動だがこんなところだ、仕方がない。

 

「ここは夢の中?」

「ん、そうだね。そうとも言うし、違うとも言える。」

「俺あなたに会ったら言いたいこと、聞きたいことたくさん、たくさんあったんだけど聞いていい?」

少し語気を強めてそう言った、そう、今まで出てきてくれなかったことに一番不満はある。

 

「あはは、ごめん。でも君が悪いんだよ、自分と向き合おうとしなかったから。」

「どういうことだ?」

「識っているだろう?斬魄刀は君の魂を元に作られる、本体は君の心の中に居るんだ。自分の魂と向き合おうとすらしない者に俺の声は届かない。」

「じゃあなんで3回は発動できたんだ?」

「君の生き残りたい、死にたくないっていう気持ちは君の心の一番根源的なものだからかな、力を貸せた。他にも理由はあるけど、それはまたおいおい。」

 

「全部を教えてくれる気はないか、あの紙は?名前が書いてあったが。」

「君が分からないことを全て俺が知っていると思わないでくれよ。そうだ、自己紹介がまだだったね、俺の名前は飛雷神、使いたいときは…そうだね、光来し飛べ閃光となって「却下」…何か不満かな。」

やはりあのクソださいネーミングセンスをお持ちのようだ。そんなに長い言葉を吐かないと使えないとかスピード命の能力なのにおかしいだろ。そもそも言うのも嫌だ、そんなデメリット抱えたくない。

「あと四代目って呼んじゃだめ?」

「ん!それはダメ。」

 

 

 

 

 

「着いたよ、ちゃんと向き合うんだ」

友人宅の近く、こんなことになっている全ての始まりの場所へとやってきた。相変わらず電灯は点滅している。

 

俺はあの時、虚に襲われた、電信柱の電灯が白く光ったと同時に虚を目視したところまで覚えている。自身の体が驚き硬直して何もできなかったこともだ。しかし実際喰われただとか、痛みの記憶は無い。認識する間もなく喰われた可能性もあるが、どうなのだろう、分からない。その後は、謎の紙の切れ端を持って死者の霊が並ぶあの列にいつの間にか居た。

ああ、やはり自分が死んだとは思えない。信じたくない、生きていたい。

 

「禅や、瞑想って深く深く考える、つまり自己の中に答えを探す方法なんだ、刃禅もそう。自己内省して自分の魂と向き合うことで、強さを得ようとする死神の修行法だね。答えは全て君の中にあるんだ、自分で探さないと。」

「…そうだな、まずは自分としっかり向き合わないと。生きるために敵や自分の力ばかりを考えてきたけど、それはやめるとするよ。」

そう言ってまた歩きだした。次は俺が先に行き、男がそれに付いてくる。帰巣本能というかなんというか、自宅のマンションへと足が自然と向かった。

 

「俺の肉体って、本当に生きているのか?俺はどうしてここにいる?」

ぽつりと、一番気になっていることを聞く。

 

「本来君が居た世界に存在しないはずの虚との接触により、君は肉体から離れ魂のみ飛ばされて来た。そう考えるとうまくいくんじゃないか?人間の霊圧、ギガイに弾かれること、他にも何かあったかな?助言はできるけど自分で答えを探さないとね、さっきも言ったろ。俺は君の魂を元に生まれた、君の一部にすぎない刀だよ。」

答えらしき答えは得られなかったが、考えを整理するのにはありがたい。ここには足しげく通わせてもらおうと思った。

 

 

「本当に俺の住んでいた町のままだな、なぜか夜だけど。」

少し遠回りをして、周囲を見渡し歩きながらそう言った。

「君の心象風景だからね。最後にこびりついている記憶が反映されているんだろう。ちょうど寝るまでそれを考えていたようだし。」

「何で満月なんだ?あの日はいつもより暗かった、皆既月食だったからよく覚えてるんだが、反映されないのか?」

「ここの風景は君の感情で変わったりもするんだ。特に空は移ろいやすい、悲しめば雨が降り、喜べば晴れる、焦れば曇るし、怒れば雷が落ちる。」

「へー、それにしても凄い満月だな。」

大きすぎて気味が悪いくらいの満月だ、少し赤みがかっている。月に向かって吠えたくなるのは狼男と相場が決まっているが、そうでなくても何か起きそうで背中がざわざわし、気持ちが掻き立てられる。

 

「そうだ、これだけは言っておかないと。人は新しい情報を理解しようとするとき、すでに識る確かだと思っているもの──例えば常識や確立した理論、物理原則などかな、それとの共通点を手掛かりに理解しようとする。それは、時には誤解や誤った真実に繋がる……気を付けてね。君という異物がここに居る時点でこの世界は原作とやらとは違う道をたどり始めている。」

「そう言えば、最近大学で借りた本にそんなこと書いてあったな、認知心理学の本。忠告感謝する、要は、先入観に騙されて足元をすくわれることがないようにってことだろう?」

「…………今日はもう帰った方がいい、夢から醒めることができなくなるよ。」

「何言ってるんだ、まだまだ聞きたいことは沢山あるぞ。……ここに寄ってもいいか?」

 

家の近くにあるそこそこ大きい稲荷神社の前についた、小さな山の上にあり本殿まで階段が続く、座り込んで話をするにはちょうどいい場所だろう。何もかもを打ち明けていい話相手なんて他にいないのだ、もう少し付き合ってもらおう。

 

その神社は階段の入口に一つ目の鳥居、本殿の目の前に二つ目の大きくゴツい鳥居がある。着くまで鳥居が重複するタイプのありふれた神社だ。雰囲気があり、個人的に気に入っている、思い入れも深いので精神世界でもちゃんと再現されているような気がした。しかし今日は、嫌に大きい満月のおかげか普段よりうす気味悪く感じた。

 

──其処はまだ駄目だよ。

 

少し前を歩いていた俺は振り返り理由を問おうとする、男の顔は見えないままいつのまにか現実へと引き戻されていた。

 

 

 

 

───

 

 

 

 

外から鳥の声が聞こえてくる。朝が来た、やはり夢の中だったようだ、そこで会った金髪の爽やかな男は、俺が紙面上で見た人より少し意地が悪いような気がした。俺の影響を受けてそうなったとかであれば辛い。

答えをはぐらかされたようなものが所々あった、例えば空の話だ。雨が降り、雲が空を覆っても、その上で輝く満月はそのままなのだろう。そう取れる意味合いに聞こえた。

 

布団から這い出し、色々と準備をした。飛雷神が使えない時も、使えるようになったらと考え、用意していたものや作戦がある。準備万端の状態で、部屋にこもって実験をしているであろう浦原を呼びに行った。

 

「浦原!少し付きあってください、今なら始解ができる」

「やっとできたんスね、それじゃ修行場に向かうとしましょ。」

 

いつもの修行場にやってきた、浦原と向き合い刀を抜く。いつもと見る風景は同じなのに、何となく違う風景に見える。安心感が違う、今なら少し余裕を持って戦える気がする。

 

「それじゃあ始めましょう、今回は本気で行かせていただきます。」

───啼け、紅姫。

 

「早速か、じゃあこちらも行かせてもらいます」

─────一閃しろ、飛雷神。

 

持っていた浅打は、三又に分かれたクナイの形になった。本来のものよりも少し大きい。

試してもいないので、有効範囲や飛ぶ条件も分からない、ただ切った場所周辺へ飛べることだけは分かっていた。

まず浦原に傷をつけるべく、正面から斬りかかる。

─縛道の九 崩輪

斬りかかりながら一瞬でもいいので動きを止め、服の一部だけでもいいので、斬ることを目的に手足を縛る縛道を放つ、失敗した。避けられ、逆に斬りかかられる、クナイでそれを受け止めると浦原は距離を取り、斬撃を放ってきた。

 

「剃刀紅姫」

 

俺の斬魄刀で少しでも斬られるとまずいことが分かっているのか、浦原には距離を取られた。このまま中遠距離でやるのだろう、しかし期待は裏切られすぐに縛道が放たれる。

少しの間動けなくなるが、まだ距離がある。そう考えていたのだが、すでに距離は詰められていた、斬撃を放ったと同時に動き出していたようだ。何とか抜け出し、迫る刃をクナイで受け止める。

 

「嫌に好戦的だな、一気に片を付けるつもりですか」

「波風サンは、その斬魄刀の能力を斬った場所へと移動する力だと言っていた。仮にそうだとすれば、長期戦はまずい、ここをアナタのフィールドへされる前に叩くのが吉っス。」

 

その通りだ、周囲の木や地面、岩など斬ってマーキングし、移動できる場所を増やしてしまえばいい。増えれば増えるほど、敵の安全圏は無くなっていく。

 

「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ──縛道の六十一 六杖光牢」

 

六十番代の縛道はまずい、かかれば俺では抜け出せない。浦原は俺より霊圧が高く、術はうまい、つまり抜け出しにくいのだ。

 

「飛雷神の術!」

最初に地面にマーキングしておいた場所に飛ぶ。飛雷神で霊力を込めて斬ると、その場所にあのマーキングの文字が浮かぶ、本来の使い方だとそうなるらしい。浦原にしゃがんで下から上に斬りかかる際、地面にそれを付けておいた。

 

「なるほど、斬った場所にはそうやって黒い文字が浮かび上がるんスね。」

嫌な奴だ。見えないように土で隠していたつもりだったのに、すぐに気づかれた。

飛んだ場所はマーキングした場所から約1m程度の場所、だいたい思い描いていた通りの場所だ。

 

「さて、いつも実験されているんだ、今度は俺が実験させてもらうぞ。」

 

ダメージを与えることを目的とするのではない、一般的な物より少し小さめのクナイ、投擲し刺さるということに特化したものを20本ほど用意した。その端に紙を紐で括り付けてある。紙にはマーキングの文字が書かれていた。

 

それを一気2本、浦原の方へ連続で投げる。浦原は斬撃を放ち、それを打ち落とす。その間を縫って俺は浦原の真横から小型クナイを投擲する。さすがに間に合わなかったのか、威力の低い鬼道を咄嗟に放ち付いている紙だけを燃やしていた。

勢いを殺しきれず、迫る小型クナイは紅姫ではじこうとしているのが見えた。

 

「飛雷神弐ノ段、なんちゃって」

 

浦原の下、クナイが飛んだ2m上方へと移動した瞬間首筋に刀を向ける。いつでも切り落とせる体勢だ。

浦原のすぐ横に移動する気だったのに、うまくいかないものだ、要練習だな。

 

「文字のあった紙は燃やしたはずですが、どうやって移動したんスか。」

「あれはただの文字です、俺が墨で書いたな。本命は取っ手に直接マーキングしてあって、その上に布を巻き見えなくしています。俺の勝ちですね。」

久々の勝利な気がする、何でもありにしてしまうといつも負ける。剣術一本だと負けないが、こいつの怖さは他にある。

 

 

「…油断大敵っスよ。アナタの能力の脅威は距離の利を一瞬で無くされること。近距離で殺しにかかってくるのが分かっていて、なんの対策もしていないと思っていたなら甘い。それにアナタは首をよく狙うでしょ、更木での癖か何かですか?最も警戒していて当然です。」

 

そのまま斬ろうとしたら、赤く薄い盾のようなものにはじかれた。

「なにっ…」

まずい、足が動かない。下を見るといつのまにか術が仕掛けられていた。

 

「褥返し」

技をかけられる前に飛ぼうとする、しかし発動よりも浦原の一手が早かった。

 

「ボクの勝ちですね、波風サン。」

「…ハイ。」

 

寝転がされ、首筋に刀を突きつけられる。最後に飛ぼうと思った場所が見えなかった。俺は飛雷神で飛ぶ直前にその飛びたい場所が一瞬見える。まあ、誤差が2mほどが出たりと思った通りの場所にはまだ行けないみたいなので修行あるのみだ。

それに俺は首を狙う癖があるのか、我ながら恐ろしい癖だな、それもこれも最初に更木に連れてこられたせいだ。

 

「最後に移動しようと思ったのにできなかった。何か理由、思いつきますか?」

「そりゃ、空間移動なんて高度な術を使うんです、かなり緻密な霊圧のコントロールが必要でしょ。霊圧が乱れたらお終いっす。」

焦りは禁物ということだな。以前死にかけて発動できたときは、もしやアレか、火事場の馬鹿力ってやつか。それとも走馬燈のように、死を目の前に思考速度が飛躍的に加速しできたのか?涅マユリが言っていた、達人どうしの斬り合いなどで起こる時間の感覚の延長というあれだ。

どちらにせよ、奇跡のようなものだったのだろう、焦ってコントロールを失わないように地道に特訓するしかない。

飛雷神もあの時発動できたのは、他に理由がある的なことを言っていたし、それを教えてはくれなかった。意地が悪いな、俺の斬魄刀。

 

 

 

 

今日は2人とも疲労困憊だ、双極の丘の下に浦原が作った温泉に入る。あー夜一さん入ってきてくれないかな。

そんな贅沢なことを考えながら、浦原と話をする。霊圧を誤魔化す道具はできたらしい。腕につけるそれを貰い、左上腕につける。是非そのまま頑張って霊圧完全遮断コートを作ってくれ、1枚貰いたい。

 

「そういえばこの前言っていた、生身の人間が入れる義骸を作っても無駄ってどういうことなんですか?」

俺の肉体が生きているとすると、生身の人間と同列扱いになるかもしれない。生身の人間でも入れる義骸を作れるには作れると言った、含みのあった発言であったのでもう一度聞いてみた。

 

「肉体を持つ魂は、その肉体と因果の鎖でつながれてるでしょ。ソレが切れると徐々に鎖が無くなって、胸に孔が空き虚になっていくっス。死者の霊もそうっスね、死神が魂葬せず放置しすぎると虚になってしまう。義骸に入れたとしてもそれじゃあ意味がない、だから魂葬されて尸魂界にいる人々に義骸が使えても、現世の人間の魂魄には意味ないんスよ。」

「なるほどな」

 

肉体がもし生きているのならば、俺の因果の鎖はどこに消えた?俺の魂と肉体とのつながりは今もあるのか、それとも魂が死神化したから鎖が切れたのか。

謎だ、分からないことが増えていくが、やはり一番気になるのは俺の肉体がどうなっているかだ、そればかりは確かめようがないのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんで師匠あんなにオサレな解号思いつくん?神か何か?
オリ主には、木の葉の黄色い閃光からもじったものを言ってもらいました。

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