倉敷蔵人が占領している綾辻一刀流道場を取り戻す為に乗り込んだ、和人達は、そこで倉敷蔵人一派と再会を果たす。彼の言動によって武士道を汚され怒るリーファだったが、彼の異質な反応速度の前に為す術もないまま敗れた。そんな妹の敵を討つ為に兄である桐ヶ谷和人が立ち向かう。
「──二刀流
静まり返った道場の中、剣と剣が激しくぶつかり合いながら鈍い金属音が幾度となく響く。和人は、迫り来る大蛇丸を二刀流スキルの1つクロスブロックで何度か防いでいた。
「お兄ちゃん!」
あまりの心配に声を上げたのは、実の妹であるリーファだった。しかし、すぐにそばに行きたいのを我慢した。彼女の瞳に映り込むのは、口角を上げて笑っている兄桐ヶ谷和人の姿だった。そして、再び大蛇丸を弾いた和人は、後ろへとステップしながら距離を置いた。
「中々やるじゃねぇか。」
一旦、距離を置いた和人に対して大蛇丸を手に持っていた蔵人は、ここまで生きている彼に称賛の言葉を送る。しかし、和人はそれをあまり嬉しく捉えれなかった。姿勢や言動、目付きから何まで彼は本気で和人の相手をしていなかったのだ。手を抜かれている事に和人は、自身の未熟さを痛感したと同時に彼は、更に上へと意識を向ける。
「どうした?そんな程度で俺に勝てると思うなよ!」
再び彼らは、互いの距離を縮め剣を交える。鈍い金属の音が再び響くと和人の姿は、そこにはいなかった。
『消えた!?』
蔵人から見れば、彼は消えたかのように見えた。目線を下ろせば、そこにあるのは和人が握っていたはずの黒色の愛剣がゆっくりと地面に落ちようとしていた。
「そこだ!!」
和人は、奴と剣を交える瞬間を見払って彼の後ろへと最短の距離を進み素早く回り込んでいた。だからか、彼には消えたように感じたのだ。もう1つの愛剣を振り、背後から蔵人を斬ろうとすると彼もまた信じられない速さでそれに対応するように大蛇丸を鞭のようにしならせて和人の一撃を防いだ。
「何!?」
「いや〜今のはちと焦ったぜ、もう少しお前の方が速ければ、今頃は、背中から大量出血だろうよ」
「じゃあ……何で、お前はそれを防げれてるんだよ……」
「そりゃ、簡単な事だ……俺にはそのスピードは通じねぇ!!」
蔵人は、そう言うと大蛇丸を薙ぎ払い和人を吹き飛ばすとすぐに距離を縮めると、大蛇丸の切っ先で和人の体を何度も突く。
け
「くっ……」
「おらおら、お前の力はそんな程度か?」
突かれた箇所から血流が溢れ出る。このままでは、出血多量で先に倒れるのは、間違いなく和人の方だ。危ういと思った途端、和人は蔵人から距離を置き、後ろへと下がる。
「何だよ、少し本気を出しただけでそんなに驚くなよ……」
「これで少し本気ってお前、本当に人間かよ……まるで、システムを相手にしてる気分だ。」
こちらが、二手、三手など相手より多く考え行動しても目の前で余裕の笑みを浮かべながら立っている奴には、1という動作でこちらが考えた全てを考えられる。それは、嫌味にも彼の生まれ持った才能を褒めるしかない。と思わせるぐらい彼と和人の差は大きかった。
「だが、こうして攻防できる時点でお前も人を超えた反応速度だと思うぜ!と言っても……」
「何、速攻だと!?」
「……この俺の
そう言うと、蔵人はまた和人との距離を縮める。しかし、その攻撃を躱そうとした彼の背中は、既に大蛇丸の餌食になっていた。彼の
「お兄ちゃん!」
「桐ヶ谷君!」
妹のリーファと彼とここまで過ごしてきた男友達である一輝がほぼ同じようなタイミングで彼の名を叫ぶ。勿論、その声は彼の耳に届いていた。幸いなのは、大蛇丸の切っ先は、まだ和人の体を貫いていないという事だ。しかし、この体は彼の手によって簡単に大きな穴が空いてしまう……。
「そろそろ、負けを認めたらどうだ?《破軍期待の騎士》さんよ!」
次第に大蛇丸の切っ先が和人の身体を貫こうとして、徐々に肉体の内側へと進行していく……。
このまま行けば、確実に死ぬ……。
そんなことを思った和人は、ふと昔の記憶を思い出していた……。
あの時……、
SAOのアインクラッド第75層で起きたヒースクリフとのデュエルを和人の肉体は、脳は、その時の記憶を鮮明に覚えていた。そして、あの時アスナを守りきれなかった後悔が今更の様に込み上げてくる中、和人は、あの不思議な感覚を思い出そうとしていた。
『あの時……、何で俺は、ヒースクリフのユニークスキル神聖剣を上回ることが出来たんだ?』
愛する人を失った悲しみや憎しみと言った怒りの感情に全てを任せたのか、和人は全てのスキルを熟知しているはずの彼がそのスキルで押されて引き分けに持ち込めるほど、あの世界が甘くないことは、重々理解していた。なら、何故……。様々に散らかる気持ちを一つの大きな大木の幹の様に集めると彼の深層心理は、更に奥の本能と呼ばれる所まで沈み込む。そして、ある言葉を思い出す……。
『伐刀者は、魔力も秘めています。ですが、SAOから来た貴方達には、魔力は本来なら0です。そこで、私はある条件が満たされた時、魔力が上がるようにしてあるのです。それもこの世界でも渡り合える魔力と力を……』
この世界に来て、早い段階で出会った異世界の女神の言葉だ……。伐刀者は、本来魔力を保有しているが、彼らSAOから来た転生者にはそれがなく、本来なら魔力も使えない。しかし、和人にはその魔力が既にある。女神は、条件が満たされた時その内に眠る力が開放されると告げていた。もし、その事が本当なら……和人にも逆転のチャンスがあるという事になる。
「一か八か……試してみるか……」
そう呟くと、和人は落ち着く為に深くまで沈みこんだ深層心理を浮かせて肉体との確かなパイプラインを供給する。込み上げて来る痛み……、傷つけられた血管から溢れ出る血流。全身の神経との通信が出来るようになった時、しばらく動かずにいた和人の手が動いた。
「何!?」
次の瞬間、和人は愛剣の一つであるダークリパルサーを捨てて自らを傷つける様にして大蛇丸を貫通させたのだ。その不可解な講堂に蔵人は、眉間に皺を寄せた。何か、来る……そう考えたが、今の和人に連撃の多い、二刀流
「──ホリゾンタル・スクエア」
静かに己の剣技名を唱える和人は、自然とその技のモーションを取った。4連撃のホリゾンタル・スクエアがみるみる決まる。大蛇丸の刀身は、伸びていたせいか、彼が動く分は何も影響を受けない。
「まさか、このためだけに肉体を貫通させたのか!?」
「あぁ、お前の剣が無事なら俺に勝ち目はない……けど、その剣の動きさえ封じれば……勝機が見える!!」
和人は、すかさずに剣戟を放つ。貫かれている為、出血多量でいつ命を落としてもおかしくはない。だからか、彼に逃げる間を与えずに何度も彼が1番使い込んだ剣技をぶつける。何度かホリゾンタル・スクエアをぶつけた後に彼のスキルは次第に連撃の多い上位技へと移る。ここが現実で助かっているのは、スキルの硬直がない事だろう。生身の肉体にステータスがSAOのデータだからこれだけの連撃を放てる。
「トドメだ!!片手剣
ノヴァ・アッセンション。数ある片手剣ソードスキルの内、最上位のランクを技だ。その為、10連撃と片手剣の中でも最多の連撃数を誇る。そんな、最多の連撃を受けても蔵人は、片膝を着くぐらいの反応しかせず、むしろこの状況を楽しんでいた。
「面白ぇ……もっとだ……もっと楽しませてくれよ!!《黒の剣士》さんよ!」
「何で、その名前を……」
「ちっとばかしな……アインクラッドから約6000人もの命を救った英雄様がこっちの世界に居るって聞いたからな……ちとばかし、手合わせしてみたかったんだよ……英雄様とな」
「その為だけに……こんなことをしたって言うのか!?」
「あぁ、そうさ!俺はな……強い奴と戦えればそれでいいんだよ!!」
そう言い放つと、蔵人はゆっくりと立ち上がってから無理矢理という言葉が似合うほど強引に和人の身体から大蛇丸を引き抜いた。その衝撃で二歩、三歩と後ろへ下がった和人は、立っていられずその場に膝を着ける。胴体の中心よりやや下の辺り、へその近くに大蛇丸の切っ先より少し大きめな穴が空いていた。半ば強引に抜いたせいだろう。激しい痛みと抑えても溢れる血が彼の体を動かす量もなく、本来なら出血多量で死んでもおかしくはない……。
「さぁ、立ってくれよ!《黒の剣士》!!英雄の力を見せてくれ!!」
「体が……重い……」
ようやく、自分が見たかった物が見え始めて高揚している蔵人に対してエリュシデータを杖替わりに立ち上がろうとする和人だが、血の残りからして既に意識が消えても可笑しくはない。この一回の攻撃の代償がこれ程だとは、行動に移した和人でさえ、想像の範囲外だ。
対して目の前でふらつきながらもその場でしっかり二本の足で立っている蔵人の方が誰もが有利だと思っていた。しかし、和人はSAOからやってきた自分からして使え物にならないはずの魔力の使い道を予め決めていたのだ……。
『ここだ……、イメージしろ、そして創り出すんだ……!!この世界がクラインやエギルの来ることが出来る仮想世界の一種でもあり、異世界だと言うのならあるはずだ……カーディナル・システムの一部が!!』
見た目が同一人物であったが言動が明らかに可笑しかったクラインやエギルそれにリーファやユウキと言った仮想世界の住人がソードスキルを使える。これは、絶対にシステムアシストがなければ成立しない。女神の力でステータスがSAOにいた頃の物になっている和人を例外に仮想世界から来たプレイヤーが、ソードスキルを使うには絶対的なシステムアシストが必要なのだ。それに今、SAO時代のステータスであるという事は……。
ゆっくりしか動かない脳細胞を精一杯動かして和人は、もう一本の愛剣を失った左手を完全に開き切った胴体に近づけ……。
「──システム……コマンド……」
その言葉を口にした。それがどんな意味を成すのか、理解しているのはリーファのみだった。彼女は、再開できたはずの兄がこんな事に巻き込んでしまった事に少し後悔を感じながら、それでも前向かって歩む兄を応援したい気持ちが胸を締め付ける。
「お兄ちゃん……」
今日何度目かの彼の呼び名を口にする。そして、その言葉を境に彼の肉体に変化が起きる。
《次回予告》
倉敷蔵人の
しかし、彼が唱えた言葉をきっかけに全てが変わる。
第18話「最強の自分」