倉敷蔵人、彼の
まさに絶体絶命と思われた和人だが、こんな言葉を口にした。
「──システム……コマンド」
「──システム……コマンド」
和人は気がついたらその言葉を口にしていた。その後、どこかで聞いたことある声が脳を殴るようにして入り込む。仮想世界では、コントローラーで操作すると違って音声やモーションでシステムを動かすことがある。そのひとつが、
『キリト君、常に最強の自分を想像したまえ……』
聞き覚えのある声がまた和人の脳に直接入る。その正体は、分からなかったが、ソードアート・オンラインが始まったあの日、その声とよく似ていたゲームマスターの声を聞いたことがあるせいか、その声に対して嫌味でも言いたくなったが、和人はそれを言うのを我慢してその声に従うように想像した。思い浮かべたのは、あの時の姿……。
アインクラッドでレベルを上げて強さを求めた《黒の剣士》キリトの姿だ。
そうして、想像しているうちに和人は、素直に口が動き次の言葉を発した。
「──スキルID、バトルヒールングスキルをジェネレート……」
ソロプレイヤーだった和人があのSAOを生き抜く為に上げたスキルのひとつが“ バトルヒールングスキル”だ。バトル中の自動回復をしてくれるスキルだ。そのスキルが生成されると慣れ親しんだシステムウインドが彼の前にでてきた。
『このバトルヒールングスキルを使用しますか?』
もう迷わず彼は、YESのボタンを押した。すると、和人の体が緑色の光に包まれると、穴が空いていた腹部が次第に巻き戻されるかのように埋まり始めた。
「何が……起きてやがる!?」
「何って……簡単なことさ……お前が言ったんじゃないか、お前が戦いたいのは……《破軍期待の騎士》桐ヶ谷和人じゃなくて、《黒の剣士》キリトだと!」
「まさか……、この短時間でゲーム世界と繋がったというのか!?」
和人は、ゆっくりと立ち上がると目を細め、倒すべき敵を睨みつけるとその後、一呼吸置くと左手を前に出して何かを求めるように血塗られた手を開いた。
「──闇を払い、希望を照らせ!!ダークリパルサー!!」
離れていた愛剣が姿を消すと次の瞬間、和人の目の前に姿を現した。かつて、リズベットに作ってもらった愛剣の柄を握りしめると、和人は両手にそれぞれの剣を持ち相性の悪いであろう蔵人へ向かってゆっくりと歩み始める。彼の目の奥には、密かに燃え上がる闘志を感じた蔵人は、口角を上げて白い歯を見せる。
「面白ぇ……面白ぇぞ!キリト!!」
「行くぞ、蔵人……俺は、お前を倒す!!」
黄金色に光る光が何故か彼の周りを浮遊する。まるで、蛍に囲まれているかのようだ。しかし、その黄金色の光は、和人の服に溶け込むように付着すると彼の服装を一新させた。
「何だよ……その格好は!?」
「何だ、知らないのか?《黒の剣士》は、黒一色のコスチューム何だぜ?」
まるで、奇跡を見せられているかのようだった。今までの服とはまるで違う物になる。黒一色のロングコートが目立っているが、その下もズボンも黒……。黒ずくめの和人は、何故か自信満々の笑みを見せていた。アインクラッドで慣れ親しんだコスチュームになった彼には、ここで敗北をする訳には、いかない。そう心に強く呼びかけていた頃……。
もう、《破軍期待の騎士》桐ヶ谷和人は、ここにはいなかった……。
今、蔵人の前にいるのは、彼が噂を聞いた時から戦いたいと思っていたアインクラッドから救い出した英雄《黒の剣士》キリトだ。
「あれが……桐ヶ谷君なのか?」
「あんなお兄ちゃん、見たことない……」
一輝とリーファは、驚きながらそんなことを口にするも綾瀬は、言葉を発することさえ出来なかった。そんな彼らとは違い、彼と2年の時間を過ごした明日奈や彼の子供であるユイは、やっと本気になった和人の様子を見て少し安心をしていた。あれが和人本来の戦闘スタイルなのだから。
「ママ、やっとパパが本気を出しましたね!これで、パパは無敵です!」
「えぇ、本当に……。いつも君は、遅いんだから……」
懐かしい服装の彼を見ていた明日奈は、少し大きく男らしく見えた彼の背中に見惚れながらも安堵からくる涙を浮かべながら彼の勝利だけを祈っていた。しかし、そんな明日奈でも
そして、和人と蔵人は今日幾度目かの鍔迫り合いをする。和人の今まで見たことない反応速度に少し驚かされていた蔵人は、冷や汗が溢れるが、
『“ 最強の自分”か……、その挑発に乗って野郎じゃないか……』
声が伝えてくれた台詞を思い出し誰か見えない者からの挑発に乗った和人は、蔵人に距離を置かせることも反撃の隙も与えさせないようにするも、彼の反応には驚かせられながらも与えられた傷なんて気にせずに蔵人の体へ向かって剣を振り下ろす。最初は、お互いに互角だったはずの反応速度だったが、次第に和人の剣先が蔵人に当たるようになった。追い詰められた蔵人は、大蛇丸の刀身を伸ばすことはせず、一つの剣として二本の剣戟を防ぐが、彼の剣戟がほんの少しだが、蔵人の
「──スターバスト……ストリームッ!!」
二刀流
もう、何にも負けない様に……
もう、愛する人を失わないように……
そう誓いながら和人は、16連撃目を撃ち込んだ。斬られ、16箇所の切り傷から血が飛び出た蔵人は、手に持っている大蛇丸がすり抜け、地面に落ちるのを横目で見ていた。
「──それが、英雄の剣戟か……」
「あぁ、そして……お前が見たかった物だ……蔵人。アインクラッドで二刀流スキルを与えられた者は、生き残った6000人の中で1番の反応速度を持つんだ。だから、
「でも、それを乗り越えた……お前の最後の猛攻は、正直効いたぜ……」
そう言い残して、蔵人は膝から崩れ落ちるかのように床に倒れこもうとする。そんな彼の身体を和人は、そっと支えた。勝負が終われば敵味方もないというスポーツマンシップの様に……。だが、蔵人はそれを否定した。
「何してやがる……お前らには、こんな俺を相手してるより……他に行くべきところがあるだろ?早く行けよ……」
「そうしたいのは、山々だけど……俺も動ける状態じゃない……」
途中、和人が生み出したバトルヒールングスキルには、システムによる自動発生がない為、本人の視覚、聴覚、認識と言った3つの感覚が『今は、戦闘中』と判断すれば、自動で傷ついた肉体を回復させるが、16連撃を放っている間やその前の攻防にも蔵人の攻撃を受けていたり、激しく動かしたことにより、塞いだ傷が開いたりと肉体にとてつもない負荷が加わっていたせいで、今の彼は、既に次のステージへと動ける状態じゃなかった……。
「お兄ちゃん!」
「キリト君!」
心配そうに見ていたリーファや明日奈がすぐさま、彼の元へと駆け寄り、身を支える。
「俺は、大丈夫だから……ヴァーミリオンを助けに行くんだ……」
「無理だよ……、こんなにボロボロになったお兄ちゃんを置いて行けないよ!」
「スグ……」
今にも消えそうな小さな声で和人は、反論する妹を呼ぶとこしか出来ず、そのまま視界が暗くなってしまうと、深い谷へ落とされたかのように意識を失った。
《次回予告》
蔵人との戦いで肉体に大きなダメージを負った和人は、破軍学園の医務室にあるIPS
大きな戦力を無くした一輝達の前に遂にALOから来た“
第19話「やってきた、妖精達」