聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!EX 作:みおん/あるあじふ
謎の
しかし、それはサーシャ達だけではなかった。
この物語は、サーシャ達の裏で暗躍していた少女――――松永燕の戦いの記録である。
那覇空港行、航空機内。ファーストクラス。
沖縄へ向けて離陸してから数十分が過ぎ、機内の揺れが徐々に緩やかになっていく。
機内は寛ぎながら雑誌を読む会社員。高級珍味のランチセットを頬張る和服の女性。足を組み、紅茶を啜りながら窓の外を眺めている少女……様々な乗客がそれぞれの時間を過ごしている。
その中で、席に座りノートPCを広げ画面上の人物と連絡を取り合っている女性が一人。
彼女の名前は松永燕。関西出身の女子学生。松永家の人間であり、試作品のエレメンタル・ギアを使いサーシャと手合わせをした人物である。
『――――空の旅は如何ですか?燕さん』
PCの画面上から聞こえる声はアトスの人間、ユーリの物である。エレメンタル・ギアの一件以来、連絡を取り合うようになっていた。
「最高ですね。っていうかファーストクラスまで用意して頂けるなんて、何だか悪いです」
燕は現在、アトスの情報部員兼新型武装被験者として身を置いている。一時的にだが、アトスとは協力関係にあり、ユーリの指示の下で活動していた。
『いえいえ、こちらこそ燕さんには助けられていますので。これはほんのお礼ですよ』
言って、極上のスマイルを見せるユーリ。しかしそのスマイルの裏には“これくらいはしないと割に合わないので”というメッセージが隠れている事を、燕はすぐに見抜いた。とはいえ、それはいつもの事なのだが。
「それで、今回の依頼は?まさかただの沖縄旅行二泊三日の旅、じゃあないですよね?」
ニヤニヤと笑う燕。察しの通りですと笑い返すユーリ。
一見沖縄への単独旅行だが、当然それは表向きの話である。するとユーリはこれを見てくださいと、燕のPCにあるデータを送信した。
本題に入ると察した燕は音が漏れないようにイヤホンのプラグを差し、パソコンの画面をプライバシーモードに切り替える。
送られてきたデータには、数枚の写真とその詳細が映し出されていた。写真の内容は、九鬼財閥が開発したクッキーの姿があるが……外見が少し異なっている。
「これは?」
『財閥と我々が結集して開発したクッキーの次世代機です。先日九鬼財閥研究施設において、試作機を含む計5機が何者かによって奪取されました』
今回の依頼内容は、次世代クッキーの捜索と回収及び破壊である。アトスの調査によると、奪取されたクッキーが保管されている場所は沖縄の工業地帯である事が判明している。
燕はこの工業地帯を探し出し、主犯格を確保する事が、今回の任務内容であった。
正直な話、ファーストクラスだけでは話にならない。下手をすれば死に至る……しかし燕は断らない。父親の久信が作った借金を自力で返すよりは遥かに楽な仕事である。
「一応聞いておきますけど、もしクッキーが起動したら、私生身で戦う訳ですよね?ユーリさんって優しい顔して、結構ドSですね」
『ええ、よく言われます』
互いに笑い合う二人だったが、ユーリは咳払いをすて話を本題へと戻す。
『………冗談はさておき、その心配は無用です。その為の“保険”なのですから』
ユーリから告げられた“保険”。それは、燕に用意されたエレメンタル・ギアの後継機である。燕もその意味を理解しているのか、小さく含み笑いをするのだった。
「乗る前に確認しました。うまく隠れてますね、アレ」
『航空会社には許可を頂いていますが、念の為です。何しろ極秘なので』
機内には何が潜んでいるか分からない。秘密を漏らす訳にはいかないのでとユーリ。燕も普段はただの旅行を楽しむ女子学生を装っているが、警戒は怠らない。
『では、後の事はよろしく頼みますよ。何かありましたらご連絡ください』
「了解です」
良い旅を、と言ってユーリは話を終えると、燕との通信を切った。良い旅も何も、これから危険な旅になるのだ……ユーリは骨の髄までドSだなと燕は苦笑いする。
「……さて」
PCを閉じ、燕は窓の外と視線を移す。もうじき沖縄へと到着する。“楽しい”旅行になりそうだと、胸を弾ませながら。
「………?」
窓から視線を外すと、少し離れた席でやり取りをしている女性二人組が目に入る。女性の一人はもう一方の女性の胸を吸い上げ、吸われている女性は声を出すまいと必死に堪えていた。
うわ……と燕は小さく声を上げる。世の中には変わった性癖を持つ人間がいるものだと、世界の広さを思い知りながら、沖縄を目指す燕なのだった。