聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!EX 作:みおん/あるあじふ
ネオと一体化した燕を前に、更に狼狽する男達。男達は馬鹿の一つ覚えのように、銃弾が無くなるまで乱射を続けた。
しかし、燕は動かない。アーマーが装着された右腕を上げ、掌を広げ銃弾を迎え撃つ。
「―――フィールド展開!」
『-Magnetic field-』
デバイス化したネオが燕の声に反応する。周囲に磁場が発生し、磁力によって生成された半透明の膜が全ての銃弾を防ぎ切った。銃弾は勢いを無くし虚しく燕の足下へと転がり落ちていく。
――――否、これは防いだのではない。磁石の原理を応用し、展開した磁力の膜の性質を変化させ、銃弾と膜の間に運動エネルギーを発生させたのである。
互いに反発し合い、結果として運動エネルギーを失った銃弾は当然威力が落ちる。最後にはただの鉛と化すのが道理。
銃弾は金属。磁力は金属を引き寄せ、または反発する性質を持つ。藤臣粥が行使する元素、ネオジムの能力を燕は再現していた。
もはや今の燕に銃は通用しない。男達は恐怖のあまり、アサルトライフルを捨てて場内から足早に逃げ出していく。
そして工場には燕と……女性幹部だけが残った。女性幹部は役立たずめ、と逃げた男達に吐き出しながら燕を睨みつけた。彼女は逃げない。燕と戦うつもりである。
男達とは違い、女性幹部には戦う術がある。
右手の甲に刻まれた黒い紋章―――謎の
「……私が自ら手を下す事になるとは思わなかったわ」
女性幹部から感じる闘気。吐き気を覚える程に嫌な感じがした。女性幹部は覚悟なさいと、燕に向かって疾走する。
今の彼女は元素回路の影響で、身体能力が格段に上昇している。油断すれば、負けるのは自分だと……そう燕は言い聞かせた。
「全ては所長の野望の為に――――
女性幹部は飛躍しながら、青白く発火したマグネシウムのリングを燕に向かって投擲する。リングは回転しながら燕を斬り刻もうと襲いかかる。
「―――ネオちゃん!」
『-erbium form-』
燕の呼応と共に、デバイスのモードが切り替わる。今度は圧縮した光が複数の光弾となって、燕の周囲に出現する。
「“フォトンスマッシャー”、シューーーーート!!」
光弾が弾けるように飛び交い、向かってきたマグネシウムリングを、全て撃ち落とした。光弾とマグネシウムリングは互いに爆発して相殺される。
エルビウムによって光信号を増幅し発生させたレーザーを圧縮、さらにネオジムの元素を添加させた複合攻撃。エルビウムの元素を応用した光の弾丸である。
「ちっ……!」
舌打ちをする女性幹部。だがこれで終わった訳ではない。女性幹部は懐から幾つものリングを展開。一、二、三……さらに数は増えていく。
女性幹部はニヤリと笑う。その数、全部で30。
「“
複数に連なるリングが一斉に着火する。それはまるで炎の車輪の如く。炎は激しく揺らめきながら、その車輪を回転させる。そして車輪を形成していた一つ一つのリングが拡散していく。
まさに“カゴメカゴメ”。宙を舞う無数のリングが、燕に向かって飛来した。
先程とは桁が違うリングの数。しかしその状況下でも燕は笑い、女性幹部の攻撃を迎え撃った。
「これは一筋縄じゃいかないね、でもぉ――――!」
『-Natrium.form-』
両腕の装甲が発火現象を起こし、燃え盛る灼熱の拳へと変化した。ナトリウムによる発火現象を利用した元素の能力である。燕は背中のブースターを加速させながら飛び上がった。
「――――全部撃ち落とす!!」
リングは燕に狙いを定めている。つまり、誘導弾と同じ原理。変則的なものはなく、動きは常に一定である。
追いかけてくるのならば、こちらから出迎えれば良い。燕は飛来するリングの行動パターンを読み取り、まずは一つ目のリングに向けて拳を叩き込んだ。
「せりゃああああっ!!!」
灼熱の拳とリングが衝突し爆発を起こす。衝突したリングは粉々に砕け無残に散った。続いて二撃、三撃と、リングを避けながら破壊していく。
隙のない燕の連続攻撃に、女性幹部の表情が歪んだ。攻撃パターンもリングの誘導作用も、全て読まれている。
どんな動体視力を持ってしても、対応し切れる数には限度がある。だが燕にはそれがない。燕はそれを知略と戦術という“武器”でカバーをしている。
ならば補え切れない程の数で圧倒すればいい……燕の腕が、脳が全て焼き切れるまで。
「貴方の余裕もそこまでよ―――サーキット全開!!」
女性幹部の宣告と同時に、宙に舞うリングが突然二つに別れて増殖する。
一つが二つに。二つが四つに。全てのリングが分裂し、対象を刻み殺す無数の鎌鼬へと変貌した。燕の空域が殺人領域へと変わる。
いくら燕と言えども、一人で相手にできるような数ではない。
だが――――燕はそれでも表情を崩さなかった。何故なら、この状況下でさえも、覆す事ができる確信があるから。
「――――サーキット、オーバードライブ!」
「-OK.Acxel mode-」
瞬間、燕の装甲に亀裂が入るように溝が開いた。溝の奥からは赤く発光した光が覗いている。両腕、両足が溶岩の如く煮え滾る赤の極光によって解放されていく。
そして背中の粒子翼も、虹色から焔へと変化する。その姿は不死鳥と呼ぶに相応しい。
「さあ、思い切り………振り切るよ!」
装甲が紅に輝き、紅蓮を宿した燕はリングの殺人領域へ突貫した。
リングは一斉に燕を包囲している。一撃でも当たればまた一撃……ダメージが連鎖し、致命傷へと追い込まれるだろう。このリング全てを、相手にしようとしているのだ。無謀な挑戦である。
だが、燕は加速する。先へ――――さらにその先へと。
「ナトリウムバースト、ダブルアクセル!!」
『-count system-』
[00:25:37]
燕とネオの波長がシンクロし、燕の動作がまるで倍速に見えるような動きを見せ、リングを次々と破壊していく。
ネオの機能の一つ。【ナトリウムフォーム・アクセルモード】。
カウントシステムにより燕の動き、攻撃力を倍加させる能力である。制限時間は30秒。燕は30秒で、蹴りをつけ、全てを終わらせる。
[00:15:56]
残り時間15秒弱。僅か10秒で、リングの六割を破壊していた。残数4割。倍速によるGが、燕の身体に負担をかける。身体が悲鳴を上げる前に、リングが増殖を始める前に、破壊し尽くす。
[00:06:33]
残り6秒。
リングは殆ど残っていない。スローモーションのように降り注ぐリングの破片と爆風。燕の限界を超えた加速がそう錯覚させている。
この時点で燕は全くの無傷である。リングの僅かな破片すらも、肌に触れていなかった。
30秒間の高速戦闘が、もうじき終わりを迎える。
[00:00:00]
『time over』
「絶望がお前のゴールだ、ってね」
燕が地面に降り立った時には既にカウントは0秒を指していた。装甲はスチームを吹き上げながら冷却モードへと移行する。
跡形も残さず、後は消えゆくマグネシウムの塵と、宙には花火のように爆風が咲き乱れている。これが燕の起こした、加速という名の奇跡。
決着はついた……後は女性幹部を捉え情報を聞き出すだけである。
「……あれ?」
だがしかし、燕の目の前にはもう女性幹部の姿はなかった。