東方妖々続伝〜outside and inside.   作:みかんでない

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第一章 失われた記憶
未来の侍


     

      東 方 妖 々 続 伝

      ~outside & inside.

          

 

 

 

 

 

 

 

いわゆる「日露200年戦争」の始まりは、330X年。

事の発端は日本の未解決問題の一つである北方領土問題だった。ロシアに生まれた強力な独裁軍事政権が、日本との交渉を拒絶し、更に日本との国交も断絶したのだ。余りに強大な軍事力を持っていたロシアに、報復をおそれた世界の主要国は何もすることが出来なかった。あのアメリカでさえも、今回は中立の立場をとることとなった。

そして、3370年代に北方領土内へのロシア海軍の不法侵入により戦争が勃発。ロシア軍は北東側の北方領土と、朝鮮半島を通り南側に兵を進めた。日本は陸軍、海軍、空軍を北海道地方と北九州地方の軍事拠点に導入し防衛戦争に備えた。国境付近での小競り合いは長く続き、日本、ロシアでの本土決戦はその時はまだまだ先の話だと思われていた。

その中で、342X年に、ロシアが人間のように戦え、簡単な思考力を持ったバトル・ロボットの開発に成功。資源がある限り無尽蔵に兵士を生み出せるロシアに対抗するため、日本の政府は「多産政策」を発表し、すぐ戦争に参加できる人間を増やしたが、それでも日本はロシアに着実に押され始めていた。

そして355X年、今より少し前、遂に敵兵の本土上陸が始まった。量のロシアと質の日本。もう、日本の敗戦は目と鼻の先にあった……。

 

 

 

[日本、九州北部にて…]

 

その日、対馬は戦場だった。本土決戦の幕開けとなったその戦いでは、突然のロシア軍の襲来に日本軍はことごとく敗北し、九州への撤退を強いられる事となった。

そして、その男は一部隊の隊長を任されていた。

「部隊長!右手からロボット部隊が接近!左手に進みましょう!」

「左手からも部隊が接近!囲まれました!」

「背後からも敵兵の接近を探知!後衛部隊は全滅した模様です!」

三方を塞がれるという絶望的な状況を前に、彼の配下の兵隊達は慌てふためき、焦りながら報告を重ねる。

「作戦を、部隊長!」

部隊長と呼ばれたその男は、死期を悟った侍のように潔い眼をしていた。いや、実際彼は「侍」だったのだ。

「俺が最期に一矢報いてやろう。援護は頼んだぞ。」

「「「サー!」」」

愛用の日本刀を抜き放ち、敵に向かって掲げる。「戦争の勝敗は人員と弾薬の量が左右する」とまで言われるほど銃器の普及が進んだこの世界で、彼は「時代遅れの侍」という異名を日本軍内で馳せていた。

 

彼の名は、柏根 葉一(かしわね はいち)。この物語の主人公である。

 

 

そして当然、敵兵のレーザー弾が、彼目掛けて一斉に降り注いだ。

瞬時に彼は跳躍し、敵兵の真ん中に着地して潜り込む。

そしてその次の瞬間ヒョウと風を切る音が響き、彼付近三メートルの敵兵が役にも立たない鉄屑に変えられていた。

「相変わらず強い…。」

「部隊長ほどの強さがあれば、日本刀でロシア製の合金が斬れるのか…。」

その強さは、彼の戦いぶりを間近で見てきた部隊兵でも信じ難いほどだった。

彼の剣が前方の敵兵の集団に穴を開け、彼は叫んだ。

「全兵士、固まって突破せよ!俺に構うなッ!お前らが逃げる位の時間稼ぎなら出来る!」

 

彼の兵士達は、一瞬動けなかった。いや、動きたくなかった。彼に従うということは、彼を見捨てる、ということと同義だからだ。

そんな部隊を見て、彼は必死の思いで叫ぶ。 

「これは命令だッ!!規律を重んじるのなら俺に従ってくれェェーッ!」

彼の覚悟を受けて、部隊はようやく動き出した。彼が作った道を全速力で突破することに取り掛かった。が、流石の彼も全てを守りきることはできず、何人もの兵士が次々と被弾し、倒れていく。

 

 

 

最後に残されたその男は、屍に見守られながら永い時間を単身戦いぬいた。

だが、ついには光線が彼の片足をぶち抜き、彼は堪らず膝をつく。そして独り呟いた。

「俺もここまでか…。よくわからない、人生だったな…。昔の記憶が無くて、気づいたら日本の為に戦うことになって、もうすぐ死ぬとは…………」

 

 

彼、葉一の出自は軍組織の誰も、それこそ彼自身さえも知らなかった。彼は日本のとある山奥で行き倒れているのを軍に見つけられ、どうせゆく当ても無いからとそのまま日本の為に仕えていたのだ。驚いたことに、彼には軍に保護される前の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。後々、彼の異常な程の強さが露呈し、いつしか彼は、軍内のある友人と共に前線を支える主力となったが、その出処の怪しさから、昇格はかなり控えめに、保留され続けていた。

 

 

彼は覚悟を決め、一斉に囲んで銃口を向けたロボット達のど真ん中で座禅を組んだ。様々な思い出が脳裏によぎる。彼の上司だった人のこと、今も戦い続ける戦友のこと、そして、命を散らしていった部下のこと……。

そして彼は、記憶無くとも今生きている世界が好きだった、ということを自覚した。

「皆……この日本を頼んだぞ………」

 

 

 

 

とその時である。真下に異空間が現れたのだ。

 

 

「なにッ!?」

ぱっくり口を開けたソレは、何故か両端にリボンがついていた。彼は重力に従って真下に落ち、間一髪の所で、レーザーの集中砲火を浴びるのを免れた。

「敵兵の生体反応が消えた…。逃げられたか…。」

「敵兵の殲滅任務完了、撤退する…。」

ロボットの兵士に、今起きた事を理解出来るほどの知能は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

俺はストンと真下に落ちた。

「助かったな……。タイミング良すぎんだろ」

痛む足に応急処置を施していると、突然声がした。

「こんにちは。」

振り向くと、そこに居たのは変な帽子を被り、扇子を持った金髪の女性だった。

「助けてくれたのか?」

「あら、意外にも驚かないのね。」

「噂で知っていたからな。『異界が存在するらしい』ということは。」

彼女はちょっと驚いたようだ。

「あら、そう。後で調べる必要があるわね。まあいいわ。まず、私の名前は紫。八雲紫よ。次に、急なお話で申し訳ないんだけど、貴方を幻想郷に招待するわ。」

葉一は余りに唐突な話題転換に困惑した。

「どういうことだ?やっぱり何か、裏があるのか?」

「裏なんて、そんな人聞きの悪い~」

彼女は扇子を広げ、ホホホと高笑いする。

うさんくさいな。異界の連中はこんな奴ばっかりなのか、と俺は思う。

「私たちの楽園を体験してみないかってことよ」

「なんで僕なんだ。しかもお誘いがちと急すぎやしないかい?」

俺は思ったことをダイレクトにぶつけたが、八雲の表情は変わらない。こういう質問も彼女の想定内であった、ということだろう。

「そうね、貴方であった理由は、この地域がこの世界と幻想郷を繋いでいる地点であったことよ。因みに名前は元マヨヒガね。そこにたまたま貴方が居たってわけ。まあ結果的には、貴方を助けた形になっちゃったけど。私もこのあたりなら多少妖気が強いから、出入り口を開きやすいの。急なのは本当にごめんなさい。でもこっちの事情で今じゃないとダメなの。」

そう言われましても…。戦いの中で友もできた。今更友や日本を見捨て、脱走兵になることはかなり厳しい選択なのだ。

紫は決めあぐねる俺を見て、こう言った。

「悩んでるそんな貴方に、夢の中だけ幻想入りというのは如何かしら。」

「夢の中ァ?」

「そう、1ヶ月間の体験幻想入り。私の能力で境界を弄れば出来るわよ。それで期限が過ぎた時、元の世界に戻りたいと思うなら帰してあげる。外の世界で言うちょっとしたツアーみたいなもんよ。」

ふむ、要するに、日本での生活に支障はきたさないということだな。

「そのぐらいなら協力しよう。元々俺も、異界について興味はあったからな、まあタイミングの問題だな。」

紫は何故かにたにた笑っている。それは例えるならネズミを檻に閉じ込めた猫の様な笑いだった。

「貴方は幻想郷の誘惑にきっと耐えられないでしょうね。一ヶ月たった時が楽しみねぇ。ま、良いわ。貴方が幻想郷に残る事を選択したら、その時貴方には『人里』の里長になって貰う。取り敢えず、これから1ヶ月間宜しくね。そう言えば、名前をまだ聞いてなかったわね。」

「俺の名前は柏根葉一。何とでも呼んでくれ、八雲さん。」

「紫でいいわ。それと、幻想郷の人たちは互いに名前で呼び合う人が多いから、私も貴方のことを葉一と呼ばせて貰うわ。さあ、あちらの光の方に歩いて行きなさい。ナガサキ支部近くに繋がっているはずよ。それと、この事は決して他言しないで欲しいの。」

「判った。助けてくれてありがとう、紫」

彼は歩いて行き、スキマから外に出て行った。

 

 

スキマから出ていく間、葉一は違和感を覚えていた。

(ん、まてよ?いきなりなんで里長?他の住民もいるはずなのに?何故よそ者である俺が選ばれたんだ?おかしいぞ…?それに何だ?微かに懐かしい感覚?というか風格があった…。まさか、以前あいつと会ったなんてことはないだろうが……。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スキマ、同時刻にて…]

 

 

「なぜあんな異例な措置を取ったのですか?幻想郷に夢の中から住み着くなんて、少しリスキーでは?」

「彼は強いわ。そしてもしかしたら、外の戦争を終わらせるのに役立つかもしれないからね。けれど、幻想郷も内部から支えてほしい。」

「信頼できるのですか?」

「私の見込んだ男よ。それに、彼には昔、会ったことがあるような気がするの。私の気のせいかもしれないけど…。」

「そんな理由でよそ者を入れて大丈夫なんですかね……」

「とと、とにかくっ!私の幻想郷再生計画は、遂に動き出した。藍!幻想郷の主要人物に博麗神社に至急集まるよう伝達しなさい!」

「かしこまりました、紫様。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[???、???]

 

ソイツはそこで、知恵の輪を複雑化した様なパズルを弄っていた。ぼさぼさに伸びた髪をものともせず、様々な術式をあてがっている。

「ようやく出来た。これなら解くのに、理論上2万手は必要になるはずだ。さあて、暇潰しは済んだしいつもの練成をするか。」

そして、そのパズルをぐしゃりと握り潰し投げ捨てると、魔法を使って小さな鍵を錬成する。それを摘んで、壁にあてがった。

瞬間、鍵はその壁に弾き飛ばされる。

「こいつも駄目か…。この綻びを見つけてから1498年の時が経った。」

ソイツは立ち上がる。そしてその壁に手を伸ばす。いや、正確にはその壁ではない。その壁の先に手を伸ばした。自分を永遠に閉じ込める、その壁の先へ。

「この忌まわしい壁を破るため、気が狂うほど長い年月を過ごしたが、この恨みを一時たりとも忘れる事は無かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幻想郷に、復讐を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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